泣きゲーRPGの世界に転生した私は廃人レベルのプレイヤー知識を活かし死の運命から推しの女キャラを救うために頑張って足掻こうと思います!二十二話:ピュアニスト
「……諸君、いよいよ我々の本格的な決起の瞬間が訪れようとしている。長き拷問の如き時間を耐え、屈辱の時を過ごした我らはいよいよ拳を振り上げるのだ!偉大なる指導者の指揮の下、我らは純粋無垢な世界へとこの地を導く!さあ、刮目せよ!我らが愛し、我らが心からの忠誠を誓う主の言葉をしかと聞き届けよ!」
大声を張り上げたのは豪奢な衣装に身を包む初老の男だった。
彼はコルセア共和国における国防大臣を務める男であり、野太い声と日焼けした肌が闘争を好む心からの戦士である事を感じさせた。
そんな彼が深々と敬意と忠誠を示すかのように頭を下げ、その男を最も視線の集まる位置へと導いていく。
そこは、コルセア共和国と魔族の領域との中間地点に位置する洞窟だった。松明が照らし出す洞窟の中で、男は滾る熱気と渇望を一身に浴びながら岩の上に立ちその身を晒す。
高い身長と、引き締まった肉体を持つ力強さを感じさせる胸筋と腹筋を露わにし……男は純粋無垢な彼等を鼓舞すべく演説を行う。
「明日は私にとっても、諸君らにとっても特別な一日になるだろう……戦争という行為を通して繋がる我等の絆を腐敗したコルセア、そして人類へと刻む記念すべき一日となるだろう!人間という種はどこまでも純粋であらなければならない!そして、その純潔を証明するべく削ぎ落とすべき汚れは魔族ではないのだ!……それは、我等人間の内に潜む国家の腐敗だ!」
その男の風貌はまるで仙人の如く手入れの行き届かない野性的な物だった。だが、その瞳と顔がその場に集まる数百人の同胞達を性別問わずに惹きつけて離さない。まるで抜き身のサーベルのような殺気と力強い言葉が純粋無垢な彼等を奮い立たせていく。
「我等は純粋なる者、ピュアニストだ!戦争を嫌悪し、戦争に奪われ、戦争に苦しんだ者達の代弁者である!……故に、我等は戦争を利用する!より正しい世界の為に、より正しいな秩序の為に……我等はこの戦争を完全に燃やし尽くす!そして、人間と魔族の両者が崩壊するその時まで戦い続けるのだ!」
高々と拳を掲げ男は両種族の根絶を宣言した。
その熱気に満ちた言葉が、髪を振り乱し向けられる顔が集まった者達の心を圧倒的なカリスマによって支配する。日差しの届かない洞窟の中、硬い岩盤すら砕かんとする程の歓喜の絶叫が木霊する。
戦争を完全燃焼させるべく大きな一歩を踏み出したコルセア共和国の暗部、様々な組織間で共通の目的を持ち繋がった彼等は喉が叫んばかりの声で彼の名を称える。
マスター・オブ・コマンダンテ、至高の司令官と。
------
「ピュア……ニスト……?」
その単語を聞いた瞬間、私は今回の世界がどういったルートを辿るのかを理解する。
ピュアニスト……その組織はこのコルセアの国家に巣食う闇、魔族との戦争によって急激に勢力を拡大した戦争に関わる組織の間で結成された秘密結社だ。傭兵、剣や防具の製造企業、軍の高官で構成された戦争を煽る悪の組織……。
という事は、このルートは……。
「奴等が大規模なクーデターを計画しているという噂は以前から囁かれていた……。国王陛下を魔族の襲撃に見せかけて暗殺し、それを合図に再び大規模な衝突を起こそうとしている……」
「こ、国王陛下を……暗殺……!?」
「あいつらならやりかねない……戦争によって莫大な富と力を得た自分達こそがより人類を正しい方向に導けると自惚れている連中だ。首都でも奴等の行動を探るべく何人も組織の調査に向かったが……誰一人として帰っては来なかった……」
「全員、殺されたんですの?……」
息を飲むエリシアへ、レオナ教官は静かに首を振ると表情を歪めつつ言った。
「……全員、あいつに誑かされて……取り込まれてしまった……」
「……取り込まれた……とは?」
「現在あの組織の頂点に立つのはかつて魔族との戦争で名を馳せた傭兵ギルドのリーダーだった男だ……本名は不明だがその鬼神の如き活躍と優れた統率能力で戦神と崇められこう呼ばれた……" マスター・オブ・コマンダンテ "、至高の司令官と……」
「そ、その名は私も聞いた事がありますわ!数十年前の戦闘では限られた少数の兵のみでドラゴンすらも討ち取ったという伝説的な英雄だと、お父様から聞かされておりました……」
「理由は分からんが、伝説的な英雄は今や国家転覆を謀る危険分子を率いている……そして、戦士として名高い彼の言葉に唆され調査に向かった騎士達ですら彼の組織の一員として取り込まれてしまった……」
それはある意味で皆殺しにされる事よりもよっぽど恐ろしい事実だった。調査に向かうべく組織に潜入した騎士達を一人残らず反逆者にしてしまう程の圧倒的なカリスマと魅力を持った男……。
このルートは恐らく……コルセア共和国内部の不正を正し魔族との停戦を目的にした所謂クーデター阻止ルート……。
数々の選択肢が張り巡らされ、綱渡りのような決断が必要とされる……一番難しいルートだ……。
ついさっきまで、頭の中で煮え滾っていた怒りが急速に引いていく。
このルートは感情的になったら判断を見誤る。
冷静に考えて、行動する必要がある……。
大きく息を吐きながら怒りを沈め、表情を引き締める私を見るとレオナ教官は安堵した様に笑みを浮かべ口を開いた。
「国王陛下はそういった連中に狙われる身だ……だから、明日はお前達二人が視察を終え王城へと戻るまでの間に彼を護衛してほしい……」
「わ、私達が……陛下の護衛を……!?」
「そうだ、私はお前達なら相応しいと判断した……それにティナ、お前の悲願だったガードナー家の復興という目的も陛下の前で実力を示せば叶いやすくなるだろう……」
「……レオナ教官……!」
私達の実力を信用し、そして私達の将来すらもこの人は考えていてくれている。
レオナ教官は今回のルートでは重要な役割を果たすのと同時に……最も死亡率の高い要注意人物だ。
そして、この銀色の髪を持った美しい女性騎士は……私の推しでもある……。
守ろう……今度こそは絶対に……!。
無意識の内に、私はそんな覚悟を声に出していた。
「私が守ります!……」
「エリシア……大変な事が起きたばかりだというのに、こんな重い責務を押し付けてすまないな……陛下の護衛任務に関しては私も最大限の---」
「一番守りたいのは貴女です!貴女が一番危ないですから!……」
「……へっ?……」
私は呆然とする彼女の手を取ると、顔を近付け守るべき人の顔を守って見つめた。
……前の世界では、とても酷い状態になってしまった……。
人間の形すらしていない、肉と内臓をぶち撒けた塊のようになってしまっていた……。
今度は、絶対にそんな事はさせない……!。
「あ、う……エ、エリシア……そ、その……気持ちは、ありがたいが……私よりも陛下を……」
「ダメッ!貴女はどうせ自分なんて皆を守る為の捨て駒だとか言って色々と無茶して一人で突っ走るつもりなんでしょ!?そんな事はさせないから!私が絶対に守るから!……」
「……エ、エリシア……」
陛下も守りつつ、戦いの最前線に立つこの人へも最大限の注意を払い敵を打ち負かす……もう、無茶苦茶だ。初見の時には散々な目に遭った。
それでも、私はそれを可能にするだけの経験と知識がある……!。
耳まで赤くなりながら瞳を震わせるレオナ教官の手を握ったまま暫く見つめ合っていると、背後から呆れたような声が掛かった。
「エリシア……そこまでレオナ教官の事を愛していらっしゃったのですわね……」
「はいっ!大好きです!……」
「な、なっ……」
私は自分の感情を素直に出す事にした。即答する私に若干ショックを受けている様子でティナが口を半開きにしていた。
「は、はひゃ……ひ……」
目の前では、顔を真っ赤にしながらグルグルと目を回したレオナ教官がへたり込んでいる。
そう、私はこの人達が大好きだ……前の世界で心から私を愛してくれたティナも、毅然としながらも中身はとっても乙女で可愛いレオナ教官も……そして、助ける事が出来なかったあの子も……皆が大好きだ……。
だから今度こそは……私は皆を守りたい……!。




