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泣きゲーRPGの世界に転生した私は廃人レベルのプレイヤー知識を活かし死の運命から推しの女キャラを救うために頑張って足掻こうと思います! 一話:NEW WORLD


真っ暗な世界の中で、その音は響き続けていた。


何かの金属が軋むような……キィキィという静かな音色……。


その音には聞き覚えがある……それは、あのゲームで辛い選択を迫られた時に聞いた音だ。


……私、死んでも……あのゲームの事を考えてる……。


あはは、ほんとうに……ほんとうに……しょうもない……。



「さあ、選びなさい……あなた自身の胸に手を当て、己の思い描く最善の未来へと手を伸ばしなさい……」


……選択する時の声まで一緒だ。


どれだけあのゲームにのめり込んでたんだろ……私……。


選ぶまでもない……私は死んだ、私はこの世を去った。


だったら、もう何も選ばない……何も必要ない……。



「現世のあなたは誰にも看取られる事無く、悪臭を放つ腐乱死体となってひと月が経った後に見つかる事となるでしょう。羽虫の苗床となり全身から赤黒い体液を溢すあなたの亡骸を見て人々はこう思うのです……『こんな風に死にたくない』『こうはなりたくない』と……」


「……えっ?……」


……え、えっ?……は?……。


今、なんて……なんて、言ったの?……。


なんで、ゲームの中で……私の最期の様子なんて……。


恐る恐る目を開けると、私は……思わず言葉を失った。



……悍ましい姿形になった私が……目の前に横たわっている……。


先ほどの言葉通り、体中から赤く濁った液体やら何やらを垂らし着たままだったスーツが変色している。顔は土気色に変わり果て、あちこちにウジ虫が這っていた。髪はパサパサになり手入れを怠った空き地に生える雑草を思い起こさせる。


……あは、あはは……私、こんな風に……こんなのに、なっちゃったんだ……。


なんて……なんて……



なんて、滑稽なんだろう



「ひ、いいぃぃぃぃいあああああああぁぁぁぁぁぁああああっ!!ん、ん”ん”っ!!ぐふっ、お”、え”ぇぇぇぇえっ!!」


吐いた……あまりにも醜く汚らしい私の亡骸を前に……私は絶望と共に胃の中身を全て吐き出した。


悲しい……あまりにも悲しくて、惨めで……。



「……う、う”ぅぅぅっ!……はやぐ、ごろじで……ごろじでよぉぉぉぉっ!……」


「それは出来ません、もうあなたは死んでいるのですから……」


「なんで、なんで……どうしてこんなの見せるのよ!?死んだんだからそれでいいじゃない!私、悪い事なんて何もしてない!地獄みたいなブラック会社でも皆を助けようと頑張った!嫌な上司のセクハラにも耐えた!同じ部署の子の陰口だって笑ってやり過ごしてた!……あのゲームだって、好きになった子達を助けようと色々頑張って……それこそ、体壊しちゃうぐらいやり込んだ!生理がキツい時だってプレイしてた!……」


「ええ、知っています……」


「……だったら、なんで……楽にさせてくれないのよ!……誰も助けられないし、自分も救われないなんて……そんなの嫌ぁぁぁぁあっ!!嫌、嫌、嫌、嫌ぁぁぁぁああああっ!!」


頭を抱え泣きじゃくり、絶望のままに叫んだ。


自分が嫌な思いをする事によって人間関係が円滑に進むのならそれでよかった、それだけで私の心は救われた。


自分が辛いゲームストーリーを先んじて体験する事によって、SNSで繋がった他のプレイヤーのショックが和らぐのならそれで良かった。



それが、今までの私の生き方だ。


そうすれば死んでいったお母さんも喜ぶと、そう思ったから……。



「そう、あなたはどこまでも献身的で自分の心と体を削り他者へと尽くしてきた……その行いと生き方は聖人には及ばずとも、私の心を震わせました……」


泣いていた私の体を、背後から誰かが抱き締める。


強く、強く抱き締められて……そのまま立たされた私の耳元に、誰かの吐息が吹きかかる。



「……だから、私はあなたに恋をしたのです……。もっと見たくなり、もっと知りたくなった……あなたがどんな選択して、どんな行動をするか……どんな感情を抱くのか……少しずつ、ボタンを一つ一つ外していくように……見たくなったのです……」


背後の相手がどんな顔をしているのか、分からない……でも、脳が蕩けるような甘い声から女性である事が分かる。背中越しに伝わる豊かな膨らみと、クスクスと笑みが零れる唇の位置から……とても背の高く、スタイルの良い女性なんだと理解した。


何が何だか……分からない……。


でも、心地良くて……強く私を抱き寄せる腕が自分を必要としてくれるようで、嬉しかった。


「これからあなたを異なる世界へと送ります……あなたが心の底から夢中になっていた……この私が嫉妬するほどに惹かれていたあの世界へ……」


「……夢中に、なった……世界?……」


「……さあ、あの時と同じように……天秤の上に自身の選択を載せ、選びなさい……。多くの命と世界の命運を全て知るあなたが計りに掛ける……」


……あ……これ、ひょっとして……。


最近、アニメとかで流行ってる……異世界転生っていうやつ?……。


あんまり好みじゃないから見てなかったけど、こんな事が……本当に……。


あれ?……えっと……そういえば、当たり前のように私を抱き締めてるこの人……誰?……。


そんな疑問が頭に浮かんだ瞬間……私の意識は闇に飲まれていった。



------


……さあ、お行きなさい……愛らしい、そして愛すべき人の子よ……。


その奉仕の精神は確かに私の心を射止め、刮目に値させた。


人間とは身勝手な生命体だ。


都合の良い時にだけ我らに縋り、都合の良い時にだけ我らを頼り……そして利用する。


ならば我らも……神と呼ばれる現世の支配者も愛でるべき彼等を都合良く動かしてもいいではないか。


私は縋りつかれるだけの生に疲れた。


疲労を癒すだけのとびきりの娯楽を……人の子が織り成す悲鳴と苦悩に満ちた悲劇にして喜劇を私は感激するとしよう。





さあ滑稽に踊り、血と涙に彩られた旅路へと漕いでゆきなさい


神であるこの私はあなたの物語をどこまでも見つめ続けている








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