泣きゲーRPGの世界に転生した私は廃人レベルのプレイヤー知識を活かし死の運命から推しの女キャラを救うために頑張って足掻こうと思います!十五話:選択
「でぎないぃぃぃぃぃっ!!でぎないっ!!むり、むりぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!……」
「それでもあなたは選ばなければならないのです!さあ、選びなさい!……それが、全てを知り死ぬべき人間を救ったあなたの責任です!」
「そんなの、できる訳がないじゃない!!ティナもエルメスも、大事なの!!大切なの!!なんでっ、なんでこんなのしかないの!?もっとあるでしょ!?助けるとか、生き延びさせるとか、気絶させるとか!!……なんで、私が……エルメスを……友達をぉぉぉぉぉぉぉっ!!?……う”、あ”ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ!!」
……ゲームなんでしょ……これ……。
なら、もっと……都合良く、選ばせてよ……もっと、皆が救われる結末を……選ばせてよ……。
「エリシア……いえ、明日香?……あなたはそういった都合の良い選択を選んで、この虚構の世界でどれだけの屍を積み上げて来たのですか?」
「……えっ?……」
「選べば助かる命を敢えて選ばずに見殺しにした……。見捨てたくないと思いながらもあなたは選択した、命を選別した……」
「……あ……ちが、う……ちがうの……わたし、ちがう……」
「違わない、あなたは選びました……泣きながら、後悔しながら生かすべき命を選びました。選択によって大勢を殺した、虐殺した、死に絶えさせた!私もそうだった!……神でありながら、熱心に神を信仰する人の子達が殺し合う中で彼等の命を選別した!……。それは、とても胸が苦しくて……気が触れてしまいそうな程に悲しく……そして……」
ガクガクと膝を震わせながら頭を抱える私の顎を撫でながら、唇を寄せる女は……同じ苦悩と絶望に浸食されつつある私の姿を見て心の底から安堵しているのか……まるで聖母の様に穏やかな笑みを浮かべながら囁いた。
「……やがて、全てを諦める……ありのままの人間の姿を受け入れられるようになる……。どれだけ醜悪なエゴも、悍ましい殺戮欲求も、神を人殺しの大義に利用する浅ましさも……全てが愛おしいと思えるようになる……」
「い”や”ぁぁぁぁぁぁぁあっ!……やだっ、やだっ、やだぁぁぁぁっ……やめて、おねがい、やめて、もうっ!やめ---お”ぁ”っ!?」
その時、胸に……凄まじい激痛と異物感が襲い、私は池で人間から餌を放り込まれる瞬間を待つ鯉のように口をパクパクと開閉し……苦悶の声を上げる。
とうとう、恐怖心が限界点に達した私は……言葉として声にならない悲鳴を上げながら、履いていたズボンの中に全てを失禁した……。
おしっこが股へ広がり、生暖かい液体で濡れていくお尻へ指を這わせながら……彼女は愛おしそうに目を細め言った。
「時間切れです……エリシア……。あなたは選べなかった、どちらも選ぶ事が出来なかった……しかし、私はそんなあなただからこそ興味を持ったのです……自身の決断を恐れ、こうしてズボンを尿で濡らしながら怯えてしまうあなただから愛おしいのです……」
「お”、う”っ……ぎ、ひっ!……」
「……私はあなたが擦り切れるその瞬間が見たい……そして、私と同じ結論に達するあなたを見ていたい……」
視界が……真っ暗に染まっていく……。
また、私……死ぬの?……おしっこ漏らしながら、こんなみっともない姿で……何も出来ずに……死ぬの……?。
必死に何かを言おうと動かした唇から血を吐き出しながら……私の視界は完全にブラックアウトした。
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「……エリ……シ……ア……」
……あ……あ……ティ……ナ……。
わた、し……あなたが……あなたの事が、好きで……助けて、あげたかった……。
この世界にいきなり放り込まれて、訳も分からずがむしゃらに走り続ける私にとって……強くて美しいあなたは……心の拠り所になっていた……。
真っ先にあなたを……助けたかった……。
「……よか……た……あなたが、無事……で……」
目の前には……血を吐き出しながら、少しずつ光を消していく瞳で私を見つめるエリシアの……綺麗な笑顔が広がっている。
ティナ……ティナ……ティナァァッ……!。
何かを叫びたくて、ティナへ自分の気持ちの全てを吐き出したくて……声を出そうとしたけど……上手く、出ない……。
ああ……そう、か……そう、なんだ……。
「アンタ達に自我なんて要らない……死体を操って兵士にすればいい!そうすれば余計な事なんて考えずに私の友達で居てくれる!二人とも、私の事だけを考える親友で居てくれる!……ひ、ひひっ!あひゃははははっ!!ひゃひひひひひひひひひひひひひぃぃぃぃぃあああああああああああっ!!」
……ティナの背後から突き出された神槍が私達の胸を貫いていた。力無く私へと凭れ掛かる後ろでは、血の涙を流しながら天を見上げたエルメスが……とっても悲しい声で笑っていた。
……光を失った目でこちらを見ながら、脱力したティナの額が……私の額にぶつかる……。
ゴツンという鈍いその音を聞いた瞬間、私は泣きながら破れて膨らまない肺を懸命に膨らませようとして……叫ぼうとしていた……。
ティナが……死んだ……。
死んだ
死んだ
私が、殺した
選ばなかったから、選択する事が出来なかったから、決断できなかったから
私のせいで、死んだ
あ、は……あは、あはははっ!……
私の人生って……いつも、いつもこう!……。
どれだけ大切に思ってたって、どれだけ好きであったって……選べない。
そうする事で嫌われたり、失望されたりするのが怖くて……自分の気持ちに素直になれない……。
だから、失う……だから目の前から消えていく……。
何も掴めない、何も手にする事ができない……。
何も……守れない……。
「ひゃはははははははぁぁぁぁあっ!!この世界を壊してやる!!もう私は死に続けるだけの背景なんかじゃない!!何もかもを手にする事が出来る!!魔女、魔女、魔女ぉぉぉぉぉおおおおおおっ!!世界も、命も、愛さえも……何でも私のモノだぁぁぁぁああああああああああああっ!!」
……エルメス……私はあなたを生かした責任がある……。
あなたに歪な生を与えてしまった責任がある……。
私は今でもあなたの事だって好き……もっと、色んな事を二人でしたかった……。
学校の帰りにおしゃべりしながらお店に行きたかった、カラオケなんかにも行きたかった、分からない勉強を教え合ったりしたかった、夕焼けを見ながら将来の不安なんかを語り合いたかった。
もっと、もっと……友達になりたかった……。
でも、それはもう……叶わない……。
あなたは壊れた……私が壊した、私達が壊してしまった……。
だったら、私は……。
「さあ……それじゃあ二人とも、死体の兵隊としてこれからも私の役に----」
だったら私は選ぶ……自分のすべき事を……選択する……。
私は、魔女を殺す
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世界への憎悪と支配の悦楽に取り憑かれた魔女が見上げていた天から血の海に沈む二人へと視線を動かした僅かな時間、彼女は意識を覚醒させた。
そして、愛した者の躯を抱えたままその肉体を再構築させる。
魔女の禍々しい黒い霧とは違う、その精神を表すかのような温もりすら感じさせる白い光がエリシア・スタンズの生まれ変わった肉体を包み込む。
纏っていた士官服が消失し、その柔肌を包み込むのは発光する数式や文字列によって形作られた神々しい彼女の衣だった。胸を包み腰を覆うデータの戦闘服が揺れる中、彼女は動きを止めて硬直する魔女の背中を物言わずに見つめていた。
「……エリシア……あんた……」
其処にある筈だった死体が消え、そして背後から感じる気配に全てを察しゆっくりと魔女は振り向く。
そして、何もかもが変質したエリシア・スタンズだった少女の姿を見て言葉を失った。
「……もう、誰も……殺させない……ティナも私も、あなたの思う通りにはならない……」
「……アンタは……アンタは……」
「……私は選んだ……エルメス、私はあなたを……」
「何なのよ……アンタ……?」
栗色だった髪は薄く青い光を帯び、ユラユラと揺れていた。
常に必死さを感じさせていたその顔は、目の前の相手の運命を暗示するかのように虚ろな表情を浮かべ……エリシアという少女が異なる次元に至った事を感じさせる。
抱きかかえていた大切な少女の亡骸を地面へと横たえると、膝を突いたままエリシアは声を振り絞る。
「……あなたを殺す……エルメス……」




