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泣きゲーRPGの世界に転生した私は廃人レベルのプレイヤー知識を活かし死の運命から推しの女キャラを救うために頑張って足掻こうと思います!十四話:友達

「……エリシア……アンタを離してあげる……」


「……え、えっ?……」


私が間の抜けた声を漏らした瞬間……世界からほんの一瞬、重量が消えた。


自分の体が落ちていく恐怖心に息を詰まらせた瞬間、激痛と共に……世界が逆さまになった。


「あ、ぐぅっ!……」


「……エリシア……怖かった?……死にそうになって怖かった?……」


地面まで残り僅かという距離で……足を巨大な腕に掴まれた私は逆さ吊りになり揺れていた。血が逆上り、頭痛がした……死の恐怖が激しく呼吸を乱していく。


「や、やめて!お願いだから……エリシアだけは、殺さないで!」


「……ティナ……アンタは優等生だから私に嘘なんて吐かないよね?ティナだけは……コイツみたいに嘘吐きなんかじゃ……ないよね?」


……何を……言ってるの!?……。


私、嘘なんて吐いてない!……エルメスに言った事は全部本音だった!。


どうして信じてくれないの!?何で!?……。


「……エリシア……アンタ、本当にひどい奴ね……」


「な、何で!?友達になりたいって私……本当にそう思ってた!……」


「うるさい!黙れ!……私に気色悪い感情を向ける悪魔め!……あれは、あれは何なのよ!?……大勢のアンタが魔物に食われる私に興奮してた……無様に死ぬ私を見て笑ってた!……私が魔物に犯されて、孕まされる絵を見て手を叩いて喜んでた!……」


……そん、な……違う!……違う!……それは、違うの!。


私じゃない!私はそんな事、考えてない!……。


確かに……エルメスと名付けたこの子は元々序盤の態度が気に入らないっていうプレイヤーが多く居て……中には酷いイラストを書いたり罵倒したりする人も多かった。でも、私……私は……本当にあなたを助けたかった!。


私じゃない……そのエリシアは、私じゃない!……。


「信じてよ!……それは私じゃ---あがっ!あ"っ、あ"ぁぁっ!」


「うるさい!!うるさい!!……もう、アンタなんて信じない……どうせアンタも私が苦しむ様を見て気持ちよくなってるんでしょ!?こうして裏切られた私が悲しむのを見て、内心では興奮してるんでしょ!?お前は魔族以上の悪だ、お前は……お前は……」


膝から先を握り込む腕が……万力のように……私の足を、握り潰す……。


メキッ、ミシミシミシッ、パキッ!……ベキッ!。


纏めたベニヤを割るような、乾いた音と同時に……もう、言葉として意味を成していない絶叫を私は上げた。


痛い、痛い、痛い、痛い……足が、私の足が……皆を助ける為に、必要な……私の足が……!。


「あ、ぎゃああああああああああああっ!!ぎ、ひぃっ、あ"っ、ぐ、ぎっ!!え"っ、ゔぅぅぅっ!!……」


「……タダじゃ殺さない……もっと恐怖して、もっと苦しめ……私を辱めた報いを受けろ、この悪魔め……!」


「ぎひぃぃあああああああっ!!える、め、ず、や、め、あ"ぁぁぁぁぁぁあっ!!」


……やがて、両足の至る所をナイフで抉られるような痛みを刻み込まれたまま……私は地面へと放り投げられた。


仰向けに倒れる私は……身を起こせないでいた。


自分の足の状態を見るのが怖かった……どんな悍ましい事になってしまったか、見る勇気がなかった……。


「エ、エリシア!エリシアァァァァァッ!……」


「動かないで!……動いたらコイツを殺す……」


「何で……何でエリシアにこんな事するんですの!?あなたの事、あんなにも信じてたこの子を……どうして……!」


「……あなたには分からない……この悪趣味な世界の中で名前と人生を与えられたあなたには……」


……エル……メス……。


信じて、よ……私のこと……信じてよ……。


ずっと、ずっと……私……友達が、何でも話せる親友が……欲しかった……。


「……さてと、それじゃあ……アンタには地獄を味わってもらうわ……。何度も何度も殺して、精神をぶっ壊してあげる……殺してすぐに蘇生魔術で蘇らせてまた殺す……正気を失うまで何千回も殺してやるわ……エリシア……」


「……あ"……あ"……や……め……」


「……そうでもしないと……アンタの自我を消し去ってやらないと……私は、アンタと友達にはなれない……」


見上げた先で宙に浮くエリシアは、自身の手を静かに持ち上げた。背後に浮かび上がる巨大な腕が、虚空から取り出したその神々しい武装を彼女へと手渡す。


白銀の長い柄と、一撃で相手の心臓を貫く研ぎ澄まされた突刃を持つソレは……このゲーム中で最高威力を持つ神槍ミスティルテイン……。


神殺しの槍と北欧神話で呼ばれたその槍は、本来はこんな序盤で手に出来るような代物ではない……。


やっぱり……あの女がエルメスに……こんな無茶苦茶が出来る力を……。


「……さあ、死になさいエリシア!アンタの腐りきった欲が消滅するその時まで……心が綺麗になるその瞬間まで!永遠に死に続けなさい!」


……エルメス……もう、こうするしか……ないの?……。


私達……友達に……なれないの?……。



< さあ、選びなさい……人の子よ……選択の時間です……>


そんな声が耳元で聞こえた瞬間、世界が音を立てて割れた。



-------


「もう、やめて!……エルメスにあんな事、させないで!……」


意識を取り戻した瞬間、私はそう叫んでいた。


見ると、グチャグチャに潰れた足は治り立ち上がる事も出来た。


半狂乱になりながら私は涙と鼻水を垂れ流し、姿の見えない相手に向け叫び続ける。


「友達に、なってくれるって……言ったのにぃぃぃぃっ!……どうして、どうしてあの子にあんな力を与えるの!?なんであの子を苦しめるの!?……なんでぇぇっ……」


その時、背後から冷たい腕が私を抱き寄せ……誰かが耳元へと顔を近付けてきた。


私をこの世界に放り込んだその女の顔を……初めて私は目にする事になった。



「それは、人の根幹が悪であると私が気付いたからです……人はどんな言霊を吐こうとも、いずれ悪に染まり堕ちていく……。私は神としてそんな生き様を何度も観測し、そう結論付けました……」


「……あなた、は……」


「初めまして、私の心を掴んで離さない愛おしい人の子……我が名はイヴ、創造の神にして産み落とされた我が子を見守る母親……」


纏わり付く腕を振り払い、背後を睨みつけると……そこにはとても背の高い女の人が私の怒りなど意に介していないかのように笑みを浮かべて立っていた。


真っ白で古めかしさを感じさせる衣装、切り揃えられた前髪の下からこちらを覗き込む睫毛の長い目元の奥からは、好奇心に溢れた赤い瞳が爛々と輝いていた。


その高い背丈と、長い後ろ髪……整った顔立ちはその女が人間ではない更に位の高い者である事を感じさせる。


この人が……この人がエルメスを……!。


「エルメスを止めて!あなたがあんな風にあの子をしたんでしょ!?だったらもうやめて!……こんなの、こんなの……!」


「……何故ですか?あの子は自らの意志で私の与えた力を変質させたに過ぎません……ああなったのはあの子の意志です……」


「違う!……エルメスは、あの子は……私の友達になってくれるって言った!諦めないって、そう言ってくれた!……」


「……それはひどく残酷な言葉であると気付きなさい……あなたはあの子の辿る運命を全て知り、その上で救いの手を差し伸べた。外からこの世界を俯瞰していたあなたはこの世界の全てを知っている。人がどう生きてどう死ぬかまで……まさに私と同じ神と呼べるような存在が今のあなたです 」


「違う!私は……私はそんなのじゃない!……ただ、友達が……欲しくて……エルメスと、友達に……」


「神の友に人はなり得ない。隣人を愛せよと教えを説いても人は隣人を殺す生き物です……私はあなたの想像すら付かない時間、人の愚行を見てきました。人は都合良く私達を利用し縋る、そして思い通りにいかなければ憎む……それが人なのです……」


「だったらあなたはどうして私をこんな世界に放り込んだの!?人間が嫌いなんでしょ!?失望したんでしょ!?……放っておいてよ……それなら、勝手に放っておいてよ!!……」


「いいえ、私は考えを改めたのです!……人の本質が悪であるのなら、闇に染まる運命が避けられないのであれば悪を愛すればいいのだと!かつては人間の善性を私も信じ、彼等の信仰に応えようとした……それでも、千年を超えても人は善を超える悪を世界に散らし続けてきた!戦争という毒を撒き散らし、神の名の下に人々を圧し、神の言葉を勝手に解釈し捻じ曲げる!……ああ、なんと逞しく清々しいほどの身勝手さ!……私はそんなあなた達をもっと知りたくなった、見ていたくなった!」


イヴという壊れきった女神は私の両肩を痛みすら覚えるほどの力で掴むと、歪み切った笑みを浮かべて吐息が掛かるほどの距離まで顔を近付け……その禍々しく輝く瞳で私を見つめる……。


……怖かった……その人が語る言葉も、その狂った笑顔も……全てが、怖い……。


「人間の美しさとは善が悪へと落ちるその瞬間!さあ、エリシア!……選びなさい!。どこまでも善を信じ続けるあなたが自らの信念と善性を測りに掛け、選ぶのです!」


顎を掴まれた私の視線の先には……また、あの天秤がキィキィと音を立てて揺れている。


それは、このゲーム中で行われる選択の象徴である金色の天秤……。


揺れる皿の上には自身が下すべき選択が、文字となって浮き上がる……。


……おかしかった……全てがおかしい、選択肢だった……。



「……なによ……これ……」


「さあ、選びなさい……決断までの時間はそう長くはない。選ばなければ、より最悪な未来があなたを待っている……」


小皿の上には……こう書かれた文字が浮き上がっている……。



” 魔女を殺す ”


" 魔女を殺して大切な人を守る "







 

 

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