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泣きゲーRPGの世界に転生した私は廃人レベルのプレイヤー知識を活かし死の運命から推しの女キャラを救うために頑張って足掻こうと思います!十二話:アーセナル・ウィッチ

息を切らしながら階段を駆け上がる私達はその場所を目指していた。


寮の中も、校舎内も……死体と血と、臓物で溢れていた。


みんな……みんな、死んでいた……。


レオナ教官も、衛兵達も……生徒のみんなも……。


全員、死んだ……。



「では、あの子が皆を殺したって言うんですの!?」


「……たぶん、そう……」


「それにしたって、いったい何をどうすれば……あんな風に人の体を……」


「分かんないよ!!……分かんないけど……」


……私は、あの子を……エルメスを……。



「助けてあげたいの!!あの子、きっと自分の力がまったく制御できていない……さっきも扉を開けようとしてたのに……無意識の内に私を守ろうとして扉に結界を張ってた……」


「どうなってるんですの!?……まるで訳が分かりませんわ!!」


「何か、とんでもない力をあの子は与えられてしまった……そして、誰かに止めて欲しいってそう願ってるんだよ!!」


「……エリシア……」


やがて、育成学校の屋上の前の扉の前で私達は足を止める。


どうしてなのか、彼女が其処に居るのだと分かった。分厚い木張りの二枚扉の向こうから、冷たい空気と溢れ出る魔力の高まりを感じる。


エルメスはこの先に居る……。


目線を合わせた私達は……首を大きく頷け合うと、その扉を開いた。



悍ましい地獄絵図が広がる校舎を駆け抜けたその先に居た彼女は……雲一つない美しい星空の下で、あまりに悲しそうに……あまりにも儚げに微笑んでいた……。



「……来ないでって……言ったのに……」


「エルメス!!……」


「どうして……どうしてあなたは、そんなに……」


「もうやめてよ、エルメス!……何で、何でこんな事をするの!?言ってくれたじゃない!……この学校を辞めない、私の友達になりたいって……そう言ってくれたのに!」


「ふ、ふふっ……あははははははははっ!……エリシア……あなたって本当に、本当に……ひどい子ね……」


ゆっくりと振り向いた彼女は……全身を真っ赤な血で汚しながら、赤い涙を溢し微笑んだ。


真っ黒な胸元まで開いたドレスを着込み、肘までを覆う薄い手袋を嵌めた彼女は……ゆっくりとこちらへ歩き出す。



「……ぜんぶ、知ってたクセに……私はグリーン・ディクテイターに食われて終わるだけの命だった……。名前すら、付けられてはいなかった……」


「な、なっ……なんで、それを……」


「あの女が色々と教えてくれた……この世界は全てが偽物、作られた虚構!すべてが嘘、すべてが紛い物、何もかもが悪意を持った人間の手で作られた偽り!……私達は死んで物語を盛り上げる背景に過ぎないのよ!」


……あの女?……。


エルメスの言うその女の正体に、私はすぐに勘付いた……。


私をこの世界に放り込んだ、あの……ワケの分からない女の事だ。


アイツがエルメスに、この世界の事を何もかも喋った。本来なら死ぬ運命にあった事、この世界が作られたゲームの世界である事……そして……そして……。



「……気色悪い声が散々聞こえたの……『可哀想で可愛い』だとか『食い殺される時の声に興奮する』だとか『報われない恋心が尊い』だとか!……勝手な事ばかり押し付けて、私の死に興奮する気持ち悪い声がたくさん聞こえた!……わたし、わたしは……わたしはただ……」


エルメスを狂気に追いやったのは、他でもない私達プレイヤーの悪意だった。


悲劇を俯瞰し、物語として消費する……私達の、悪意……。


それが彼女を……壊してしまった……。



「……私、ただ……あなた達の友達になりたかった……。この気持ちが報われなくてもいいから……大好きなあなた達を……傍で見ていたかった……」


「今からでも遅くない!まだ、まだ引き返せるよ!……」


「もう、遅いのよ……何人殺したところで私はもう……何も感じない……」


「やめて!やめてよ、エルメス!……」


「……私に……近寄るなぁぁぁぁぁぁっ!!」


赤黒い閃光が迸り、突き飛ばすような衝撃波が私達を襲う。


呻きつつ必死に足腰に力を入れ、解放されたエルメスの力に耐える。


「な、何て……強力な魔力……!この子、いつの間にこんな力を……!?」


「気を付けて、ティナ!今のエルメスは普通じゃないよ!」


「何が何だか分かりませんが、これ以上犠牲者を出すわけには参りませんわ!」


私達は腰に刺さるサーベルを引き抜くと、髪を揺らしながら正面を睨みつけた。



エルメスは、宙に浮き上がりながら静かに手を掲げる。


彼女の背後で眩い金色の術式陣が輝き展開した。三つ並ぶ巨大な光からは人間のものではない人外の腕が突き出され、まるで翼のように揺れる三本の腕は拳を握り込むと……勢いよく射出される。


「私のモノになれ!!みぃんな私のモノになれ!!私のモノになれ!!私は、私は、私はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


駆け出した私達は屋上の淵へと足を掛け、飛び出した。


エルメス……私達はあなたを必ず止める……!。


------


その腕は人間の肉体を引き裂き、握り潰す魔女の武装だった。


騎士育成学校の衛兵や生徒のほぼ全てを葬ったその腕が三階の屋上から飛び出し剣を大きく振り上げた二人の体を掴み上げる。


「がはっ!ぐっ!……」


「あぐぅぅっ!」


二人を拘束した腕は少しずつ握り込む力を強め、華奢な少女達の肉体を小人の指輪で締め上げるかのように圧迫した。


「アハハハハハハッ!!とぉってもいい顔!!……遠くに行ってしまったアンタ達が今やこの私の前で手も足も出せずに呻くばかりで何も出来ないなんて……」


「ぐっ、うぅぅ……エルメス……!」


「ねえ、エリシア?……それにティナ?私は出来れば貴女達は殺したくないと思ってるの……だから二人でこの世界の何もかもをぶっ壊してやりましょうよ!この下らない悪趣味で下卑た欲によって作られた世界を全て破壊して、私達三人で世界の王になりましょう!?」


「……そんな事をして……何になるって……言うんですの!?……」


「私という存在の記憶を世界に残せる!私はどう足掻いても死ぬだけの無価値な存在だった……誰かが操る立場にあるエリシアや名前を与えられたティナとは違う!エリシアに名前を与えられるまで何の価値もない、ただの背景だった!……だから、私が壊すの……そしてあの下品で身勝手な欲望をぶつけてきたあいつらに思い知らせてやる!私は生きてる、生きてこの世界の全てを破壊すると!」


血の涙を流しながら、彼女は片手を掲げた。


その背後では巨大な術式陣から伸びる腕が掌を掲げ、ある方向へとその殺意と呪詛を向けている。どうにか身を捩り後ろへと振り向いたエリシアは息を呑む。


「エ、エルメス!まさか!……」


「……ふひひ……まずは、街の連中から先に纏めて消えてもらおうかしら……何も知らずにのうのうと暮らし、この虚構の世界に甘んじる愚かで無価値で愚民共を……」


「やめて、やめてエルメス!あそこには……!」


しかし、悲痛なエリシアの懇願は狂気と呪いに染まった魔女には届かない。


拘束した二人の目の前で、育成学校の周囲に並ぶ街並みを睥睨する魔女は唇を舐めると絶叫する。


全てを焼き払い、破滅へと導くゲーム中最高火力を誇る攻撃魔術の名を口にした。



「ボルケーノ・オメガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」


地鳴りのような音が大気を震わせ、大きく地面が割れた。地面そのものをマグマを変化させるその強大な術は本来であればゲーム終盤にのみ使用できる最強の攻撃魔術だ。あらゆる強大な敵を一撃で葬る死の泥沼と化した溶岩の地面が街全体を飲み込んでいく。


世界が滾るマグマによって赤く染まり、無機物と有機物を無慈悲に飲み込むその光景は魔女を更に昂らせていく。


「あひゃはははははは!!今の私は世界の支配者、あらゆる魔術と武器を備えたアーセナル・ウィッチ(兵器庫の魔女)!!人間も魔族も平等に殺す!!何もかもを消し去って……何も無くなった世界で……」


宙に浮かぶ魔女は、ゆっくりと巨腕に拘束された二人の元へ舞い寄ると紅潮した顔を向けながら囁いた。



「何もない虚空の世界で……三人仲良く永遠に暮らしましょう?大丈夫よ、死んでも私が何度でも蘇らせてあげる……今の私に扱えない力なんてない、理解の及ばぬ理などない……。最強の兵士へ貴女達を至らせてあげる……」





















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