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泣きゲーRPGの世界に転生した私は廃人レベルのプレイヤー知識を活かし死の運命から推しの女キャラを救うために頑張って足掻こうと思います!十話:イヴ

……いよいよ、明日にはコルセアの王城へと出向き国王様と接見する。


そう思うと、緊張して眠れなくなった。


コルセアはこのゲームの世界における人類側で最大規模を誇る国家だ。人類の精神的な支柱にして人類に残された最後の希望……この魔族と人間との戦争において重要な役割を果たす国家。


国王である若き皇帝、ルドルフ・フォン・コルセアは一見すれば燃えるような赤髪に整った顔立ちを持つ美丈夫なんだけど、実は彼にはとんでもない秘密が……。


まあ、それに関しては他の人に話す必要はないし黙っておいても問題はない……。


今はとにかくティナと二人で今後はどう世界を作り上げていくかだ……。


私は部屋の向かい側のベッドで眠るティナへと声を掛けた。


「……ティナ、起きてる?……」


「……ええ、どうしたんですの?エリシア……?」


「……二人で立派な家を復興させて、この国で偉くなったらティナはどうしたいの?……」


「……私は戦争を止めたいと願っていますわ……。人間と魔族はもう充分過ぎる程にお互いに血を流してきた……どちらかが滅びるまで戦争を続けていたら本当に世界が終わってしまいますもの……」


「……良かったよ、私も同じ考えだったから……この前、あのドラゴンと戦った時に思ったんだ。誰かが死んでしまうより、誰かが生き続ける世界の方が絶対に平和になるって……。魔族だって大事な人を奪われたから私達を憎んでるんだと思うの、その気持ちはお母さんを失った私も分かっちゃうんだ……」


「……憎むのではなく、無益な争いを止める為に剣を振るう……それこそが今の世界で私達のような騎士が真に志すべき生き様なんですわ……。これから先、二人で頑張りましょう……エリシア……」


天井を眺めティナの言葉を聞いていると、私が仰向けに寝転んでいるベッドのスプリングが軋んだ。


ふと目線を向けると、ネグリジェを着たティナが窓際から差し込む月明かりに照らされ妖しく微笑んでいた。


とっても色っぽい笑顔で、潤んだ瞳から目が離せなくなる……。


……ティナ……ティナ……。



「……長い戦いには支えてくれる大切な人が必要なの……私を支えてくれる?エリシア……」


「……うん……ティナと一緒なら……私、何だって……出来るよ……」


「……エリシア……私も、あなたと一緒なら何でも出来る……どんな事だってする……。だから、エリシア……もっと、もっと……あなたに触れたいの……」


伸ばされた腕が髪を撫で、やがて頬へと降り……首筋を撫でていく……。温かくて、心地良い指が……私を求めて這い回る……。


顔を寄せてきたティナの美しい髪が鼻先をくすぐって……心から求められている事が嬉しくなった。


唇同士が吸い付いて、体温を感じさせる舌と水気が口を満たしていく。


ピチャピチャ、クチュ……。


そんな、激しく求めてくるティナからの深い口吻が私の思考を麻痺させた。


現実の世界でこんな風に私を好きになってくれる人なんて居なかった、お尻を触られたりいやらしい目で見られたり……ただ、それだけだった。


体のあちこちを撫でながら夢中になってキスをしてくるティナが愛おしくて、離したくなくて……私はその背中に手を回しながら息を荒らげ声を出した。



「……ティナ……離さ、ないで……私のこと……」


「……離すもんですか……一生離しませんわ、エリシア……」


耳元で囁かれた愛が、私の全身を震わせた。


身も心も彼女へと溺れいく……。



私達は……熱が籠もり汗ばんだ肌を重ねた……まるで溶け合って一つになるかのように……。



--------



「……ここは……いったい……」


その少女は、目の前に現れた空間を前に呆然とした。


真っ暗な暗闇の中に、まるでその一点にのみだけスポットライトが当てられているかのように白いテーブルと椅子が輝いていた。


訳も分からぬままにその空間に放り込まれた少女は、エリシアによりエルメスという名を与えられた名も無きプログラムの一つだった。


その世界の中で自我を持ち始め行動を始めたプログラムは人間の姿形をしたままその空間へと招かれた。


他ならぬ、その作られた虚構の物語を利用し人間という生命体への見識を深めようとする神の手によって。



「ようこそ、エルメス……私はあなたを歓迎します……」


気が付けば、その少女は椅子に座り目の前の相手と顔を突き合わせていた。


その女は切り揃えられた前髪を揺らしながら微笑むと、薄く口紅が光れた唇を開いた。


「あなたは名も無き存在だった……そもそも、生きているべきではない存在だった……」


「……は?……」


「死んでいた筈の命だった……全ては、エリシア・スタンズに正しい絶望を与える為の布石に過ぎない存在だった……」


「エ、エリシア!?今、エリシアと言った!?……それに正しい絶望って……」


「あなたの死がエリシアの心を砕く筈だった。あの子をより深い絶望へと誘う筈だった……」


組んだ手の甲へ顎を乗せた女は怪しく唇を歪めながら微笑むばかりでエルメスの理解の及ばない次元から彼女を見下していた。目線は正面を向き合っていても、彼女の物言いは人間という業の深い生命体を観察し愛でる上位者の視点からの言葉だった。


そんな彼女への怒りと戸惑い……そして何よりも恐怖を抱いたエルメスはテーブルへ自身の両手を叩きつけると叫んだ。



「い、いったい何なのよ!?アンタ!?……エリシアをどうするの!?あの子に何をするつもり!?」


「そう、その件に関してあなたに頼みたい事があるのです……どうか、聞いてくれませんか?……」


「ふざけないで!何なのよ!?此処はどこ!?アンタはいったい!?……」



硬く目を瞑り叫んだエルメスが再び目を開いた瞬間……目の前に居た女の姿が影も形もなく消失していた。それどころか、先ほどまで座っていた椅子や手を叩きつけたテーブルすらも……消え去っていた。


この空間が夢なのか、それとも現実なのか……息を荒らげながらエルメスは肩を揺らし背後へと振り返ろうとする。



その首へ……鈍い音を立てながら、刃が突き立てられたのは歪み切った笑顔を浮かべる相手が自身の背後へといつの間にか転移したと認識した瞬間だった。


「さあ、人間の悪意を浴びなさい……エルメスという名を与えられた哀れな背景よ……」


「ご、ほっ!……お”、う”……」


「あなたはこれで、魔女になる……世界の理を歪める力を手にした悪意になる……。魔女となったあなたは大勢殺す……殺して、憎まれて、殺される……」


「え”、あ”、あぁぁぁぁぁぁぁっ!!ぎ、ひゅ、え”っ、あ”、お”ォォォォおあああああああああああああああああああああああっ!!……」


「さあ、お行きなさい……愛おしい人の子の心を軋ませる悪意と欲で、人を汚しなさい……」


胸元を真っ赤な鮮血で濡らしながら、彼女は崩れ落ちた。


痙攣を繰り返すその少女へ愛に満ちた目を向けながら、女は上擦った声を上げる。


自身が侵食すべき虚構の世界を支配する女神は己の名を体を震わせ鮮血を吐き出す少女へと告げる。



「我が名はEVE(イヴ)……人間を愛する女神、人間の愛そのもの!創造と誕生の神にして、人の子を愛を愛で鑑賞する観察者なり!」



------


エリシア……エリシア……。


エリシア、私の……私に……この意味のない存在に名前と、価値を与えてくれた私の全て……。


私、私はきっと……あなたが、好きだった。


エルメスという名前……すごく、気に入ってた……。


……こうして、自分の存在に気が付いてしまうと……あなたが名前を付けてくれた意味が……その重さが、とてもよく分かる……。


私は……単に死ぬだけの存在だった。思い返してみれば、名前も家の事も……あの戦闘試験の前の記憶すら私にはない……。


私は死んで、あの怪物に食い殺されて……意味を成す人生だった……。



でも、あなたは……私に……死ぬしか無かった私に……。



存在する理由を……与えてしまった……。



「……えり……しあ……えり……し……あ……」



ああ、なんて……なんて……愛おしい……


私はあなたのことが、大好き……愛しています


だから……わたし……




「……すき……すき……すき、だから……」



好きだから……愛しているから……


だから……




「……あい、じでぇぇっ……ごろ、じで……えりし、あ……ひ、ひひひっ!いひひひっひひひぃぃっ!あひゃひはははははははははひはははぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」  










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