泣きゲーRPGの世界に転生した私は廃人レベルのプレイヤー知識を活かし死の運命から推しの女キャラを救うために頑張って足掻こうと思います! プロローグ
新しい話を書き始めました、よろしくお願いします!
それは、あなたの選択が物語を左右するRPG……。
人間と魔族、二つの種族が戦争を続ける世界であなたはどちらの陣営を選ぶのか……。
『あなたは、いつまでも我々コルセアの民にとっての希望です……』
『救世主様!どうか、どうか我らの一族をお救いください!』
異なる種族の間に芽生える異なる正義、そして変わらぬ絆……。
『邪悪な魔族を討ち滅ぼす為に----』
『悪しき人間共から世界を解放する為に---』
あなたは、その選択が齎す結果に耐えられますか?。
『信じてたのに……裏切り者ォッ!!』
『やはりあなたは……人間だったのですね……』
あなたの選択が世界の命運を決める……。
ティアーズ・オブ・リーブラ、好評発売中。
初期の冒険をサポートするビギナーズパックも現在ダウンロード配信中!。
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「くっはー!……やっと、やっと全キャラシナリオのコンプ終わったぁ……!」
ああ……しんどい……なんてしんどい話書くんだろうこのライターは……。
佐渡明日香というくたびれた三十路前の女の疲弊しきった体は限界を迎えていた。
猛烈な疲労感と達成感を覚え床に倒れ込んだ私はそのままコントローラーを放り投げ大の字になる。
家庭用ゲーム機、『ティアーズ・オブ・リーブラ』はその前評判に相応しい重厚かつ胸が痛くなるゲームだった。アクションRPGの名作を多数世に放ってきた名門メーカーの手で磨きの掛かった戦闘や戦略に富んだバトルシステム、物語を盛り上げる数々のBGM、そして……。
「あの鬱作品に定評のあるライターさんだけあって容赦ないわ……あんな可愛い子やイケメンでもバンバン殺しちゃうんだもん……。こんなの普通のRPGファンがプレイしてたら色々と拗れちゃうよ……」
とにかくストーリーが凄まじかった。
その世界では長年人間と魔族の間で戦争が続き対立が続いていた。プレイヤーはそんな世界の中で両者の陣営のどちらかを選び戦う事となるのだが……その両者の懐に潜り込み敵対者を懐柔させる事により、戦争をより有利に進める事ができる。
つまり、仲良くした相手を裏切るのだ。
裏切った際の台詞やグラフィックは様々で、怒ったり泣いたり……諦めたように笑ったり……とにかくこちらの罪悪感を掻き立てる。
ネット上では早くも悲鳴に近い感想がSNS上で飛び交い大きな盛り上がりを見せている。
そんな中、私はスマホを手に取り自身のSNSアカウントで全てのルートをクリアした旨を報告する。
話題作だけあり、すぐに膨大な数の反応が返ってきた。
『え?もうクリアしたの!?すご!……』
『さすがSADOさん!一ヶ月であの鬱ゲーの全てをクリアとかハイペース過ぎ!』
『曇らせ耐性ありすぎでしょwこっちはまだ推しの死から立ち直れてないのにw』
うんうん、まぁそうだよね……普通の人はそうだよね。
戦闘のコツ自体は掴むのは安易であり、慣れれば一週間ほどで完全に敵無しの状態になれる。パーティーメンバーの体力やサポートを行いつつタイミング良く指示を出せば誰も死なせずに全てを戦闘を攻略できる。
しかし、このゲームが意地悪なのはそうして戦いに勝ってもハッピーエンドには至らない点だ。
どちらかを選び、どちらかを……裏切る……。
「……は、はは……ちょっとさすがに……しんど過ぎ……」
大きく溜息を吐くと、その無慈悲なシナリオで軋んだメンタルの影響なのか激しい頭痛に襲われ暫くの間呻いた。
より良い結末を迎える為には誰かを切り捨てる必要があり、その陣営へ確実な勝利を齎すにはより深く相手の懐へ忍び込む必要がある。
本当に……とんでもないゲームだった……。
それでも、私は何故かこうした陰惨なゲームが好きでソーシャルゲームから果てはアダルトゲームまでジャンルを問わず手を出してはその過酷なシナリオに打ちのめされながらも必死に救いを見出そうとしている。
用意された結末以外の、何かを探そうとして……そして、やっぱりそんな物はなかったと突き付けられ鬱々とした気分になるのがいつもの私だ。
ヨロヨロと立ち上がった私は狭いアパートの室内の片隅で優しく私を見守る視線に気付くと、その視線の主の元へ足を進めフローリングの床に膝を下ろした。
安物のテーブルの上に、お線香とお菓子が置かれ……その奥には大切な人が微笑みながら写真の中で私を見つめていた。
「……母さんも呆れちゃうよね……ゲームの中でも私、やっぱり大事な人を助けられない……。ほんとに、どうしてなんだろうね……」
力無く笑うと、静かに愛おしいその人の写真が納まる額縁へキスをして机の上に戻した。
母さんは私が中学の頃に無理が祟って体を壊し、そのまま帰らぬ人となった。女手一つで育ててくれて、大変な状況でも私を愛してくれた大好きなお母さんだった……。
私がこうして救いのないゲームに救いを求めだしたのはやっぱり……母さんの死が大きく影響しているのかもしれない。
あの時の悲しみに、目の前が真っ暗になるような絶望に負けたくなくて……せめて、ゲー厶の中では死の運命にある人を救いたかったのかもしれない。
でも、そんなのは……所詮は歪な自己満足に過ぎない……。
現実の私は都内で苛烈なブラック企業の小間使いに甘んじるOLで、人を救う力なんて持ってはいない。
私はどこまでも……無力で……。
「ッ!……」
その時、猛烈な胸の痛みに襲われて……私は思わず声を漏らしながら床に倒れ込む。
「か、は!……あ……や、ば……!」
……健康診断なんて、受けてなかった。
例え悪い所が見つかり報告しても、上司にグチグチと文句を言われるだけで無駄だったから。パワハラもセクハラも何でもありの、あの地獄みたいな職場で何を訴えても無駄だったから。
まるで、ハンマーで何度も殴打されるような胸の痛みが少しずつ意識を遠退かせていく。激しい痛みにより全身が痙攣し、漏れ出したおしっこがストッキングとスカートを濡らしていった……。
救急車……救急車、呼ばなきゃ……!。
でも……でも……呼んで、呼んでどうなるの?……。
呼んだ所で……また、いつもと変わらない日々が始まるだけ……。仕事で身も心も削り尽くされて、大嫌いな連中に体を触られて……家に帰っても、安息なんてない……。
……あ……。
……私……このままのが、いいかも……。
……このまま、お母さんの……所へ……。
全身から力が抜けて……やがて、痛みすら感じなくなっていった。
死ぬんだ……私……このまま……死ぬ……。
あはは、さすがにカップ麺啜ってエナジードリンクを飲みまくって明け方までゲームしてるこんな生活じゃ……長生きは出来ないよね……。
バカみたいな死に方だけど……それで、いっか……。
着替えすらせずゲームに熱中し、その果てに体を壊して……おしっこ漏らして死ぬなんて……お母さんが知ったら怒るかもしれない……。
でも……これでようやく私……楽になれるんだ……。