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 紆余曲折在りながらも勇者パーティーの護衛として雇われる形になったアレンはベルディア城の客間の一つを割り当てられることになった。

 ふかふかのベッド、鏡付きのドレッサー、艶の在る木製のテーブルに椅子。部屋の家具はどれも貴族様の品々だ。

 駆け出しの冒険者には似つかわしくない部屋だが、似つかわしくないからといって居心地が悪い訳では無い。むしろ永住したいくらいに居心地が良かった。

 広い風呂場・旨い料理・清潔で広い寝室、しかも七日で金貨百枚のぼろい仕事。

 今日を過ごせば後六日で後任に引き継ぐことが出来る。

 極楽・幸せ・至福。アレンは冒険者になってここまで快適に過ごしたことはなかったと過去を振り返る。


 「悪い事も在れば、良い事も在るんだな」


 王城での好待遇を噛み締めていると出入口の扉が叩かれる。


 「アレン様。ユナ様達がお見えです」


 今日一日、傍付としてアレンの共に行動してくれた使用人の声がする。

 ユナ様達。つまり勇者様達が俺の部屋にやってきたのだ。

 だが食事をし、風呂に入り、後は寝るだけ。今日の仕事は終わりだと思いながら声に返答する。


 「悪いが明日にしてくれ」


 アレンがそう言った次の瞬間に出入口の扉は開かれ寝間着姿の三人の少女が入室してきた。


 「やっほー、アレン兄」


 ユナは軽く手を振りながら部屋に入り、椅子に座る。


 「失礼します」


 ミラは礼儀正しく一礼してから部屋に入り、ユナの隣の席へと座る。

 最後にリンが部屋に入り、アレンを警戒した様子で一瞥しながら入ってすぐの壁に背を預ける。

 三人が入ったことを確認した使用人は一礼してから部屋を閉めた。

 アレンはこの状況に溜息を吐きながらもベッドの端に座って話始める。


 「こんな遅くに何の用だ? 用が在るにしても明日の朝で良いだろ?」


 アレンがそう言うとユナは元気な声で発言する。


 「それでは勇者パーティー作戦会議を開始します!!」


 なんか唐突に始まった。と思いながらアレンはユナに反論する。


 「作戦会議なら明日にしろ」


 「ダメです!! いつも寝る前に三人で明日の行動について話すからアレン兄も今日から参加!!」


 「作戦会議なら三人で良いだろ? 俺はお前達の護衛。行動方針はお前らの好きに決めてくれ」


 「アレン兄もパーティーメンバーなので参加して!!」


 アレンはきっと言う事は聞いてくれないだろうと思い諦めた様子で話を続けるように促す。


 「わかった。参加するから続けてくれ」


 ユナはアレン言葉に頷いて話を続ける。


 「それでは明日はゴブリン討伐に行きたいと思います!! 何か意見の有る人は居ますか!?」


 ユナの言葉に二人の少女は特に反論は無い様子だった。だがアレンは困惑しながらも発言する。


 「お前ら、今日の出来事を忘れたのか?」


 アレンは今日の出来事を思い出す。勇者パーティーである彼女達三人は薬草採取中にゴブリンに襲われ為す術が無く襲われて居た。最悪の場合、殺される可能性だって十分に在った出来事だ。

 このことからアレンは彼女達にゴブリン討伐は実力不足だと感じた。


 「ゴブリン三体に何も出来なかった奴らが、訓練もせずゴブリン討伐が出来るとは思わないんだが?」


 「大丈夫!! 次は油断しないから!!」


 「油断って、そういう問題じゃないだろ? 実力が無いなら訓練するべきだ」


 アレンがそう言うと扉の近くの壁に背を預けるリンが口を開く。


 「実力なら在るわよ。ゴブリンくらい簡単に殺せるわ」


 「じゃあ何であの時、あんなに苦戦してたんだよ?」


 「私は魔法使い。あの状況で攻撃魔法を使えばユナが巻き込まれちゃうでしょ?」


 「じゃあ、そっちは何で助けなかったんだ?」


 アレンは視線をミラに向けて質問する。


 「私は回復系の奇跡と防御系の奇跡しか覚えていませんのであの時はお役に立てませんでした」


 「じゃあ、そっちの勇者様は? 油断しなきゃゴブリン程度問題無いくらいの実力を持ってるのに苦戦したのか?」


 「ユナちゃんは聖剣に触れている時に勇者としての加護を受けることが出来るんです」


 加護・神の贈り物。そんな言葉をアレンは聞いたことが在った。

 神に選ばれた者には特別な力が宿る。勇者・聖女・賢者。彼女達もまたそんな神に選ばれた特別な存在なのだろう。冒険者でも神官の嘘を看破する≪センスライ≫や魔法を使うことが出来る才能なども神様の恩恵だと言われている。


 「つまり聖剣さえ手にしていればゴブリン相手にも負けない実力はあるということなのか?」


 「はい。現に彼女は勇者としての証明に聖剣を使いベルディア王国の兵士百人を模擬戦で打ち負かしました」


 「なるほど。それが本当なら凄い実力だな」


 兵士百人相手にどのような模擬戦を行ったかは知らないが、一体百を制するのは並大抵の実力者でも難しい。子供と大人の体格差、圧倒的な数の有利、それを覆す程の力が勇者には在るのだろう。

 それが本当ならば問題無い。だがアレンはミラの言葉を鵜吞みにはしなかった。


 「だが俺は実際には見ていない。まずは実力を見てからだゴブリン討伐をするにしても」


 「じゃあ、アレン兄と朝一模擬戦してもいい? その後、ゴブリン討伐に行こう!!」


 「それなら問題無い。無理だと思えば訓練に時間を割り当てるって約束できるか?」


 「うん、わかった!!」


 「じゃあ、作戦会議は終わりだな。さっさと部屋に戻って寝ろ」


 「うん、おやすみ!!」


 そう言ってユナは元気に部屋を出て行く、残りの二人も彼女の後を追うように出て行った。

 アレンは面倒事がやっと去ったと思い、安堵の溜息を吐いてベッドへ横たわる。

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