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 魔王城の玉座の間。玉座には長い黒髪の幼い魔王が座り、その横に側近の執事服を着た魔族とメイド服を着た魔族がアレン達を敵視する様な視線を向けていた。

 何が何だかわからないアレンはとりあえず問い掛けることにした。


 「で、どういう状況だよ。これ……」


 アレンがそう呟くと玉座に座る魔王は話を始める。


 「アナタがアレン兄様ですか?」


 「兄様は余計じゃない? 俺の妹みたいになっちゃうよ、それ?」


 そう軽い冗談で返すと魔王の横で警戒する側近二人が口を開く。


 「人間風情が魔王様の兄を名乗るなど実に不敬!!」


 「魔王様!! 今すぐこの人間の殺害許可を!!」


 「口を閉じなさい二人共、命令です」


 魔王がそう命じると配下の二人はそれ以上は口を開くことは無かった。

 気を取り直して魔王が再度会話を続ける。


 「ではアレン様。先程、勇者様にもお話ししましたが、私の命と引き換えに配下の者を見逃して頂けないでしょうか?」


 そんな魔王の提案に対してユナが口を挟む。


 「アレン兄!! この子は魔王だけど人間を滅ぼす気は無いんだって!! だからどうにかならない?」


 「どうにかって、何をどうしろと……」


 「魔族と人間がお互い平和に暮らせるようにして!!」


 「えぇ……」


 アレンはユナの提案に困惑しながらも魔王に幾つかの質問をする。


 「その人間を滅ぼす気は無いんだよな?」


 「はい」


 「じゃあ、人間と和平を結ぶって言ったらどうする?」


 「勿論、結びます」


 などと言われても、じゃあ和平を結んで人間と魔族は手を取り合って仲良くしましょうねとはならない。他種族との和平交渉など一介の冒険者が勝手に取り決められることではないことをアレンは重々承知している。更に魔族と人間の和平がそう簡単に実現できることではないことも理解していた。


 「まず、俺はお前の事を信用した訳では無い。だが魔族と人間の和平には賛成だ。人類を滅ぼす魔王が無害なら、俺もコイツ等もわざわざこんな所まで苦労して来なくてもいいからな」


 アレン達の最終目標は魔王討伐。だがその魔王が人類に危害を加えないとなれば、魔王討伐自体が不要になる。そうすれば必然的にアレン達はそれぞれの道を歩み始める。神の信託に従うのではなく、自分自身のやりたいことの為に歩むことが出来る。


 「でも、俺達はただの冒険者で魔族の王様と和平を結ぶことは出来ない。だから一度、王都ベルディアに戻ってこの事を報告する。和平交渉に応じるかは人間の王様が判断する。だから実際に和平交渉が行われるかわからないし、もしかしたらお前を殺せと命じられるかもしれない。そこは俺にもわからない」


 「大丈夫!! もしも魔王を殺せって言われても嫌だって言うから!!」

 

 魔王を安心させる為かユナはそんなことを堂々と言うのだった。

 実際の所、ユナ達以外に魔王を殺せる者が居ないのは事実では在る。

 北に蔓延る瘴気、戦闘能力不明の魔族達、強力な北の魔物。これらを超えて魔王を討伐しようと考える者は居ないだろう。普通はそんなことは無理だと諦め、冒険者なら自殺行為だと行動には移さない、だがそれでも魔王を討伐するという心意気の者が現れるかもしれないが、そんな気の持ちようでどうにかなるモノではない。

 人間と魔族の和平交渉は一度持ち帰ることで話が纏まる。なのでアレンは話題を変えた。


 「それで話は変わるんですが魔王様。我々との友好関係の証として三日分の水と食料を分けて貰えませんかね?」

 

 「水と食料ですか? いいですけど……私達が食べているモノは人が食べて良いモノなのでしょうか?」


 「ああ、そうか……瘴気に汚染されてるのか……」


 「そうですね。多分、食べたら死んじゃいますけど……それでも要りますか?」


 「そうなると三日飲まず食わずか……いや落とした食料を……駄目か魔物に食べられてるよな……」


 「あの、お腹が減っているのですか?」


 「いや、ここから帰るのに二、三日掛かるからその為の食料を用意して貰おうと思ったんだけど……瘴気の影響が食料問題にまで影響するのは考慮して無かった」


 「帰り道の食料ですか……」


 魔王は少し考えてから口を開く。


 「ウィズ、居るのでしょ? 出てきて下さい、命令です」


 魔王がそう発すると、空間の歪みから落ち込んだ表情のウィズが出てくるのだった。


 「なぁに、魔王ちゃん……?」


 「勇者様達に瘴気に汚染されていない食料を分けてあげてください。アナタなら少しくらい持って居るでしょ?」


 「お菓子と野菜とお肉が少しだけならあるけど……別に食料なんて分ける必要はないでしょ? 私が出来る範囲で送ってあげればいいんじゃない?」


 「それもそうですね。アレン様、ウィズがアナタ達を南に送りますので、そこからは食料が在る場所までなんとかなりませんかね?」


 そう魔王が提案し、アレンはウィズに問い掛ける。


 「王都ベルディアまで行けないのか?」


 「それは無理よ、私の空間移動は瘴気を利用したモノだから、アナタ達を送れる限界は瘴気が在る所まで」


 「そうか、なら任せる」


 アレンがそう言うと魔王は再度ウィズに命令する。


 「ではウィズ、アレン様達を南へ送り届けてくてくださいね。命令です」


 「はいはい。わかってるわよ」


 不満そうにウィズは返答しながら、空間に歪みを発生させる。


 「それじゃあ、入って」


 「一応聞くが大丈夫だよな?」


 「大丈夫よ、アナタ達をここで殺したって私には何の得も無いんだから」


 「一応、安全確認の為に先に入れ」


 「もう、疑い過ぎよアレン」

 

 そんなことを言うウィズに対して魔王が命令する。


 「ウィズ、安全確認の為に先に行きなさい。命令です」


 「はぁ……」


 ウィズは大きく溜息を吐きながらも大人しく空間の歪みへと入って行くのだった。

 それを見たアレンはユナ達に入る様に促した。


 「それじゃあ帰るぞ、誰から行く?」


 その質問にミラとリンは「アレン」と口を揃えて答え、腑に落ちない顔をしながらもアレンは空間の歪みへと消えて行く。


 「本当にコレ、大丈夫なんでしょうね……」


 「大丈夫ですよ。それじゃあ次はリンちゃんが行きましょうか?」


 「何で私が先なのよ!! アンタがたまには頑張って行きなさいよ!!」


 そんな口論をする二人の肩を掴みながらミシェリーが言う。


 「ほら、師匠が待ってるんだから。二人共、早く行くよ」


 「ちょ!! 待って!! 心の準備!!」


 「強引なのは良くないですよ!! ミシェリーちゃん!!」


 騒ぎながら三人は空間の歪みへと入って行く。

 そして残ったユナは魔王に向けて口を開く。


 「それじゃ、またね」


 「ええ、またお会いしましょう」


 ユナは魔王に向かって手を振り、魔王もそれに答える様に笑みを浮かべながら手を振り、勇者一行を見送るのだった。

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