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アレンの目の前には西洋甲冑の魔族ツルギが立ちはだかる。
ユナとミシェリーは立つことがやっとのほど疲弊し、リンとミラも長期の戦闘で疲弊している。これ以上、彼女達が勝ち目の無い戦いを続けることはないと思いながらアレンはツルギと対峙する為に前に歩き出そうとする。だが、リンが服の端を掴んでアレンを止める。
「待って。エアフォースを掛けなおすからアンタだけでも逃げなさい」
「アレから逃げ切るのは難しいだろ」
「難しいってことは不可能じゃないってことよ」
リンの言葉に続けてミラが更に提案する。
「アクセラレートも使って更に速度を上げます。それで何とか……」
「補助魔法は一種類しか掛けられないから意味が無い」
「魔法では無く奇跡なので大丈夫なのでは?」
「奇跡も魔力を消費して使うんだ。補助魔法や奇跡は最後に掛けたモノが上書きされるだけで……」
「それはおかしいですよ。じゃあなんでユナちゃんは身体強化の補助魔法と補助奇跡を併用で来てるんですか?」
「……」
アレンはユナが身体強化の補助魔法と補助奇跡を併用していたことを思い出す。
それは聖女と賢者が特別だからなのかと思いアレンはリンとミラに補助魔法と補助奇跡を順番に掛ける様に指示を出す。
「リンはエアフォース。数秒したらミラはブレイブリーを唱えてくれ」
リンはアレンの指示通りに身体強化の補助魔法 ≪エアフォース≫を唱える。
それによってアレンの身体は軽くなるのが感じ取れる。
そして数秒間が開いてからミラは身体強化の補助奇跡 ≪ブレイブリー≫を唱える。
それと同時に身体の身軽さは無くなり、その代わりに手に持った剣が軽くなり、握る力も強化されていることに気が付く。
このことからやはり身体強化の補助魔法と補助奇跡は最後に掛けたモノが優先され上書きされる。これはアレン等の冒険者達の間では当たり前の話だった。
ならばユナは何故、身体強化の補助魔法と補助奇跡の併用が出来るのか。それがもしも真実だとしたら……。
そんなことを考えているとツルギがアレンに声を掛ける。
「何をしている? さっさと掛かって来い。余り待たせるようなら即座に斬り殺すぞ?」
「少し待ってくれ、もしかしたらお前を倒せるかもしれない」
アレンが真顔でそう返答するとツルギは馬鹿にした様子で返答する。
「時間稼ぎの戯言だな。もういい、死ね」
ツルギはアレンに近寄り大剣を振り上げる。
「落ち着けよ最強。たった数分待つだけのことだろ?」
「諄い」
「ああ、そうか。負けるのが怖いのか」
その言葉に反応したツルギは振り上げた大剣を勢い良く振り下ろした。怒りに満ちた斬撃はアレンの身体を避け、地面に大きな衝撃音と共に振り下ろされる。
「そこまで言うのだ。最後の足掻き、見せてみろ人間」
ツルギの言葉を流し、アレンはすぐにユナ達に指示を出した。
「ユナ、ミシェリーこっちに来い。作戦会議だ」
疲弊した身体でユナとミシェリーはアレンの指示に従い歩き出す。
その様子をツルギは黙って見守り、少し離れた場所で五人は作戦会議を始めた。
「それでどうやって倒すのよ?」
リンの問い掛けにアレンは自分の考えを口にする。
「ユナに対して、リンとミラが使える身体強化の補助魔法と補助奇跡を全て付与してアイツを倒す」
「勝算は?」
「そんなの知るかよ。そもそも、それが出来るかどうかわからない一か八かの賭けだ」
アレンのそんな提案に対してユナは乗り気で答える。
「それでもこのまま何もしないよりはずっといい」
ユナの発言に皆は頷き、話を進める。
「速さ、耐久、筋力、反射神経の順番で掛けるからミラもそれに合わせて」
「武器にエンチャントはします?」
「聖剣に意味が在るかわからないけど、ダメ押しでやれることは全部やるわよ」
リンとミラが使用する魔法と奇跡の順番と種類を取り決める中、ミシェリーはユナに剣を受け渡す。
「ユナの聖剣じゃ重さが足りないだろ? 僕の聖剣も使ってくれ、ブレイブリーを使うならユナにも武器自体は扱えるはずだ」
「でも、ミシェリーは聖剣がなくても大丈夫?」
「僕は師匠に守って貰うよ。だからユナ、僕の代わりにアイツを倒してくれ」
「うん。任せて」
各々が打ち合わせが完了し五人はツルギと対峙する。
「リン!! ミラ!! お願い!!」
ユナの掛け声と共にリンとミラは詠唱を始める。
「エアフォース!!」
「アクセラレート!!」
≪エアフォース≫・≪アクセラレート≫は身体を身軽にし、移動速度と攻撃速度が増す。
「アースプロテクト!!」
「ヘブンリーウォール!!」
≪アースプロテクト≫・≪ヘブンリーウォール≫は身体に魔力の障壁を生成し防御力が増す。
「ドラゴンソウル!!」
「ブレイブリー!!」
≪ドラゴンソウル≫・≪ブレイブリー≫は全身の筋力を増加させる。
「メイキョウシスイ!!」
「エンハンス!!」
≪メイキョウシスイ≫・≪エンハンス≫は集中力が増し、思考が加速する。
「エンチャント・プロミネンス!!」
「ホーリープライズ!!」
≪エンチャント・プロミネンス≫・≪ホーリープライズ≫はそれぞれ武器に炎属性と光属性を付与する。
リンとミラは全ての身体強化の補助魔法と補助奇跡をユナに付与することが出来た。
ユナの右手には聖剣キャリバーン、左手には聖剣エクスカリバーを持ち、光と炎が混ざった青白い炎が二本の聖剣を包む。ユナの身体は八種類の補助魔法と補助奇跡の魔力が同調し、膨大な魔力量となって溢れ出す。
その姿を見たツルギは高らかに笑い声を上げて大剣を構える。
「良いぞ!! 勇者!! 相手にとって不足無し!!」
ツルギが戦闘態勢を取って待ち構える姿を見たユナは足に力を入れて飛び出した。
凄まじい加速、それでもツルギはユナの動きをハッキリと視界に捉え斬撃を防ごうとする。だが、ツルギが纏う魔力は光の力によって貫かれ、ツルギの本体である鉄は炎の力によって溶かされる。
防御不能の攻撃をツルギが防ごうとした時点で勝敗は決まっていた。
ツルギの身体はユナの斬撃を防いだ大剣を貫通し、右肩から斜めに胴体を二つに切断されるのだった。
勝敗は一瞬で決し、アレン達は歓喜した。だがユナは加速した思考で更に考える。
――これなら、きっと魔王だって殺せる。
そう思ったユナは魔王城の方向へと大きく跳躍するのだった。




