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 アレン達の目の前に突如現れた西洋甲冑の魔族は、目の前のアレン達に視線を向ける。

 人間の子供が四人、男が一人、聖剣を持っているのは赤髪の子供と金髪の鎧姿の子供だと確認した甲冑の魔族はアレン達に問い掛ける。


 「お前達が勇者一行だな?」


 「勇者一行だったらどうするんだ?」


 アレンが甲冑姿の魔族にそう返答しながら、各々が戦闘態勢を取る。

 ユナとミシェリーは前衛で剣を構え、リンとミラは後衛で杖を構える。アレンはリンとミラを守る様に前衛と後衛の間に陣取る。

 アレンの質問に鎧の魔族はこう答える。


 「なに、単純だ。俺はお前達を殺し、己の強さを証明する。ただそれだけだ」


 そう言って鎧の魔族は大剣を構える。


 「我が名は剣豪ツルギ。此度の殺し合い、存分に楽しむとしようか」


 その掛け声と共にツルギはアレン達に向かって飛び掛かって来た。

 それをミシェリーがツルギの前に出て受け止め、その隙を突いてユナがツルギを横から攻撃する。

 ツルギは横からのユナの斬撃を素手で弾き、ミシェリーが受け止める大剣の軌道を即座にユナの方へと変え、切り付ける。空中で攻撃を素手で弾かれたユナはツルギの変則的な攻撃に対して身軽な体を捻り回避する。


 「子供と侮っては居たが、やはり勇者とはこうでなくてはな」


 ツルギはユナの素早い斬撃に反応し、ミシェリーの力強い斬撃も大剣を使って平然と受け止める。

 

 「バインド!!」


 「ホーリーチェイン!!」


 ツルギに対してユナとミシェリーがお互いの息の合った攻撃を繰り出す中、リンとミラは拘束の魔法と奇跡を唱える。それによってツルギの身体は一瞬動きが止まるが、それは本当に一瞬の足止めにしかならなかった。


 「この程度で足止め出来ると思って居るのか?」


 ユナとミシェリーが懸命に戦う中、戦闘の補助が上手く機能しないリンとミラが声を上げる。


 「どうすんのアレ!! 止まらないじゃない!!」


 「アレンさん!! 指示を!!」


 その二人の言葉にアレンは思考する。

 目の前のツルギと名乗る甲冑姿の魔物は明らかに格上の相手だった。

 現にユナとミシェリーの二人が相手でも攻撃を一人で捌き切って居る。身体強化の補助魔法を掛けるにしても。アレだけ激しい戦闘の最中に狙って掛けるのは、今のリンとミラでは難しい。例えアレンが戦闘に加わったところでこの状況が覆ることもないだろう。だからアレンの決断は一つだった。


 「ウィズ!! 撤退する!! 手伝ってくれ!!」


 騒ぎを聞いていつの間にか外に出てきていたウィズはアレンの言葉にこう返す。

 

 「それは無理ね」


 「このまま俺達が死んでもいいのか!? 魔王討伐の話が無くなるぞ!?」


 「私がアナタ達を逃がそうとしたら、真っ先に彼が私の事を殺そうとするから無理よ」


 「お前の空間移動なら、自分自身も逃げられるだろ!?」


 「そうね、私はいつでも逃げられる。だからって命懸けでアナタ達を逃がそうとまでは思わないわ。それに死んだらそれで終わりでしょ?」


 ウィズが当てにならないとすぐに割り切ったアレンはとにかく撤退の算段を考える。


 ――このまま戦闘をしながら移動して奴を撒くか? それは無理だ。聖剣のせいで位置が特定される。ならばあの甲冑を倒すか? ユナとミシェリー、二人係で苦戦しているのだから難しい。それなら……。


 アレンは何かを決意したようにリンに指示を出す。


 「リン、エアフォース」


 アレンの言葉に反応するようにリンは補助魔法 ≪エアフォース≫をアレンに向けて唱えた。


 「で、次はどうするの?」


 「お前たち四人は俺無しでここまで来れた。それならお前達四人で帰ることも出来るよな?」


 「それって……」


 今のユナ達ではツルギには勝てないと判断した。なのでアレンは撤退を決意する。

 だがツルギの戦闘能力を目の当たりにし、ツルギから無事に逃げ切ることは難しい。だからアレンは自分が殿を務め、四人を逃がすことにした。アレンとツルギの戦闘力は雲泥の差。決してアレンが勝つことは無いが、回避に徹し時間を稼ぐことは可能だと考えた。

 その考えを彼女達が知った時の反応も理解していた。それでも、ここで彼女達が死ぬ訳にはいかない。だからアレンはリンとミラに納得して貰う様に説得する。


 「今のお前達じゃ勝てない。だから俺が時間を稼ぐからユナとミシェリーを連れて逃げろ」


 「ふざけんな!! アンタを助けに来たっての忘れたの!!」


 「だが、このままだと全滅だ。わかるだろ!!」


 「そんなのわかってるわよ……けど、何か方法が在るはずよ……」


 ――ああ、やっぱりこうなるのか。


 ユナも、ミシェリーも、リンも、ミラも、アレンの様に割り切ることは出来なかった。それが最良の判断だとわかっていても、彼女達はそれを選ぶことはしない。それは子供で、素直で、優しくて、純粋な心の持ち主だからだ。そんなことは最初からわかっていた。だからアレンは何も話さずにここまで来たのだ。だからローラも無理やりにでも彼女達を止めようとしたのだ。

 それでも彼女達はこの場に来て命を賭けて戦って居る。ローラの時の様に話をして、ユナ達にも納得して貰うべきだったとアレンは今更になって後悔していた。

 

 「あの……アレンさん。たぶん敵ですよね。アレ……」


 ミラがそんなことを問い掛ける視線の先には一人のメイドが立って居た。

 メイドは視線を合わせたアレン達の方へと近寄りメイド服のスカートの先を摘まんで軽く会釈をする。


 「初めまして、人間。私は魔王様の配下が一人の者です」

 

 アレンはウィズから提供された魔王の側近の二人の内の一人だとすぐに理解した。


 「ドッペルゲンガーのメイドだ。気を付けろ……」


 「何故、私の正体を……? ああ、そこの売女が喋ったのですね」


 そう言って何かを察したメイドはウィズを蔑んだ瞳で睨みつける。それに対してウィズはにこやかに手を振るのだった。

 ここに来てのダメ押し。アレンの手には余る絶望的な状況に陥ってしまった。

 だがどうにもならないからと言って、諦めて潔く死ぬかと言えば違う。

 アレンは不意に感じ取った背後の違和感に気が付き反応する。

 リンとミラの背後には正面に立つメイドと同じ姿をしたメイドが二人、手に持った短剣でリンとミラを殺そうとしていた。

 アレンはそれに即座に反応して一太刀で二体のメイドを切り伏せる。アレンに斬られたメイドは形を崩し、黒い靄になってその場から消える。


 「背中合わせで円陣を組め」


 アレンの掛け声に反応したリンとミラは背中合わせになり円陣を組む。そして不意打ちに失敗したメイドは驚いた表情を浮かべながらも口を開く。


 「確実に殺したと思ったのですが、そう上手くはいかないものですね」


 そう言いながらメイドはアレン達の目の前で大量に自身の分身を生成して見せた。

 一人、二人、四人と分身が増える度、その分身が更に分身を作り出す。そしてその数はアレン達三人を囲む程の数へと増えた。


 「アレンさん。この状況をなんていうか知ってますか?」


 「絶対絶命」


 「違います。メイドハーレムです」


 ミラの答えにアレンは困惑した表情を浮かべて居るとリンが声を荒げて攻撃し始める。


 「ふざけたこと言ってないで攻撃!! 多重詠唱!! フレイムランス!!」


 リンの詠唱と共に出現した複数の魔法陣から炎の槍が周囲を取り囲むメイド達に降り注ぐ。

 だがメイド達は炎の槍など気にせずにアレン達に襲い掛かる。何人かはリンのフレイムランスが命中し姿を消すが、攻撃の合間を縫って距離を詰めるメイドも複数居た。

 リンの攻撃を掻い潜り襲い掛かって来るメイドをアレンは手前から順番に処理するが、明らかに手が足りなかった。そんな中でミラが奇跡を唱える。


 「サンクチュアリ!!」


 上級奇跡 ≪サンクチュアリ≫。使用者から一定範囲を光の聖域に指定し浄化する。

 ミラを中心として広がった聖域に踏み込んだメイドは浄化されて霧散する。メイドの数は先程よりも大きく減ったが、それでもまだ聖域の範囲外へと逃げ延びたメイドがアレン達を囲む。


 「ミラ!! ナイス!! あとは私に任せなさい!!」


 そう言ってリンは再度フレイムランスを詠唱し、聖域の範囲外に陣取るメイド達を焼き尽くそうとする。これ以上は不利と判断したのか、メイドは距離を取って何処かへと消えて行った。


 「なんとかなりましたね……」


 ミラがそんな安堵の声を漏らすがアレンは周囲を警戒していた。


 「サンクチュアリは解くなよ」


 「これ魔力の消費が結構激しいんですけど……」


 「不意打ちでお前達二人を狙ってくる奴だ。サンクチュアリを解いた瞬間、お前を一番に狙ってくるぞ。それに対処出来るなら解いていいが」


 「マナポーションがあるので少しの間は大丈夫ですが。早くどうにかしてください……」


 どうにかしろと言われても、依然状況はどうにもならないことをアレンは理解していた。

 この状況をどうにかするには、あの甲冑をどうにかしなくてはならない。

 

 「剣速は速いが一撃が軽すぎる。剣速は遅いが一撃が重い。どちらも未熟と言った所か。もう十分だ」


 ユナとミシェリーの二人を同時に相手取るツルギはそう言って勝負を決めに来た。

 まずはミシェリーの斬撃に対して弾くようにツルギは大剣を振るう。聖剣を大きく弾かれた隙を突いてツルギは踏み込んで拳を叩きこむ。ミシェリーを守るためにユナはツルギに対して剣を振り、命中するが、ユナの軽い一撃はツルギに対しての致命傷にはならなかった。


 「なんで……」


 「未熟だな」


 聖剣で傷一つ付かないツルギの鎧の硬さに驚愕するユナ。その一瞬の心の揺らぎを見切りツルギはユナの腕を捕まえる。そしてツルギは捕まえたユナに対して拳を放つ。その一撃は重く、ユナにとって初めての致命傷だった。内臓が破れ、口から血液が溢れ出す。痛く、辛く、寂しく、怖い、そんな感情がユナに溢れる。

 

 「ユナを離せ!!」

 

 ユナを捕まえるツルギに対してミシェリーは声を荒げて剣を振るう。だが、ダメージの蓄積した身体で放たれる斬撃はツルギの大剣によって軽くあしらわれ、反撃され、吹き飛ばされる。

 ツルギは歩き出し、捕まえたユナをサンクチュアリの中へと放り込んだ。

 そして負傷したミシェリーも同じように乱暴に運ぶ。

 その姿を見て、アレンはツルギに声を掛けた。


 「なにしてるんだ?」


 「勇者と聖騎士がこの程度で死んで貰ってはつまらん」


 アレンはツルギが何を言って居るのか理解が出来なかった。

 だがそれは魔族側も同様で、先程姿を消したメイドがツルギの傍へとやってきて口調を荒げて話しかける。


 「ツルギ様!! 何故、止めを刺さないのですか!?」


 「まだ子供。コレから年月を掛けて鍛えて行けばもっと強くなる事だろう。いま殺してしまうのは惜しい」


 「馬鹿なことを仰らないで下さい!! いま殺せば魔王様の敵は居なくなるのですよ!!」


 「不満ならば俺を殺し、コイツ等も殺せばいいだけの話だ。文句が在るなら掛かって来い」


 「コレだから忠誠心の無い奴は駄目なのです」


 ツルギの言葉に気圧され、メイドはそれ以上何かをする様子はなかった。

 アレンは困惑しながらも再度ツルギに対して問い掛ける。


 「見逃してくれるってことで良いんだよな?」


 「ああ、先程からそう言って居る」


 アレンはツルギの言葉に困惑しながらも負傷したユナとミシェリーの元へと駆け寄り容態を確認する。ユナは息が在るが口から血を吐いて居る。内臓系が損傷している可能性が在る。アレンはすぐに雑嚢から治癒ポーションを取り出して無理矢理飲ませる。次にミシェリーを診ると目立った外傷は見当たらない、ユナと違って聖剣の鎧がダメージの殆どを負担してくれたらしい。なのでスタミナポーションをミシェリーに飲ませる。アレンが飲ませたポーションとサンクチュアリの聖域の効果でユナとミシェリーは目を覚ます。


 「師匠……僕はまた足手纏いだ。ごめんなさい……」


 「余り喋るな、とにかく助かるから大人しくしてろ」


 ミシェリーはアレンの言葉に頷き、その場に座り込む。

 

 「凄い痛い……けど、まだやれる……」


 そう言いながらユナは聖剣をツルギに向かって構える。それをアレンは止める。


 「ユナ、お前も大人しくしてろ。これ以上は無駄だ」


 「何言ってるのアレン兄……このままじゃ皆、やられちゃうよ」


 「大丈夫だ、アイツが本気で俺達を殺す気ならもう死んでる。何故か知らないが見逃してくれるらしい」


 「……」


 アレンの言葉にユナはそれ以上何も口にはしなかった。

 戦闘が終わったと思い、ミラは聖域を解除して負傷したユナとミシェリーの元へと駆け寄り治癒の奇跡を唱える。

 アレンは視線をウィズへと向け問い掛ける。


 「そいつが逃げても良いって言ってるんだから手伝ってくれるよな?」


 「ええ、彼がそれでいいならね」


 「なら気分が変わらない内に今すぐ逃がしてくれ」


 アレンがウィズにそう急かすとツルギが二人の会話に口を挟む。


 「俺が見逃すのは子供だけだ。男、お前はここで死ね」


 「なんでそうなるんだよ……俺がお前に何かしたか?」


 「俺と戦う価値は無いが、死ぬ価値位は在るだろう」


 ツルギの言葉に反応したユナ・ミシェリー・リン・ミラの四人はアレンを庇う様にツルギの前に立ち、それぞれが武器を構える。それを見たツルギは確信する。


 「お前はその子供達にとって大切な何かなのだろう? ならばお前を殺すことで俺を憎み、復讐心が生まれ、それを糧に強くなる。それは五年後、十年後に身を結び、強者となって俺を殺しに来ることだろう。強者として立ちはだかるお前達を殺すことで、俺はまた強くなることが出来る」


 ツルギは更に言葉を続ける。


 「それが俺の生きる意味だ。だからお前にはここで死んで貰う」


 その言葉を聞いた瞬間、ユナとミシェリーは一心不乱にツルギに向かって攻撃を叩きこむ。

 だがツルギはそれを物ともせずに大剣でいなす。


 「そう!! コレだ!! 憎しみ、恨み、俺に殺意を向けろ!! かつてこの俺を殺した勇者の様に!!」


 ツルギとの戦闘によって蓄積された疲労によって、ユナとミシェリーの動きはすぐに衰えて行く。

 それでも二人は懸命にツルギに向かって立ち向かう。アレンを殺させないために、アレンを守るために、彼女達は自分の正義を貫こうとする。それでも超えられない壁は在る。

 ユナとミシェリーは限界だった。これ以上、力を込めて剣を振るうことは難しい。それを見たツルギは「そんなものか」と呟き、それ以上は相手にしなかった。


 「さて、もういいだろう? 剣を抜け。剣士ならせめて戦って死ぬといい」

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