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ウィズの話によると当代の魔王の戦闘能力は低いらしい。
だが魔物や魔族に名付けを行い、強制的に魔王の支配下に置くことが出来る特別な能力を持っているそうだ。その能力のせいでウィズはやりたくもない魔王の配下になってしまったらしい。
その呪縛から解き放たれる為、ウィズはアレンに情報提供をして協力するのだった。
魔王の強さ、魔王の能力、配下の魔族の戦闘能力、粗方の情報をウィズから得たアレンは椅子に縛られながら一夜を過ごして居た。
欠伸をしながら寝室から出てくるウィズは眠気眼で椅子に縛られるアレンに視線を向ける。
「アナタ、いつまでそこで縛られてるつもり?」
「いや、お前が縛ったんだろうが? さっさと解除してくれない?」
ウィズは少し考えてからアレンの拘束している魔法を解いた。
「朝から襲ってこないでね?」
「しねぇよ」
昨日のウィズからの情報提供時、一時的にアレンの拘束は解かれ普通に会話をしていた。
日が暮れ、夜になり、外へ出るのが危険だと思ったアレンはウィズにここで一夜を過ごして良いか提案し、ウィズはそれを了承した。だが、一つ屋根の下で知らない男に寝込みを襲われるのは面倒だとウィズは言い。即座にアレンを拘束して彼女は寝室へと去って行くのだった。
そんなことを思い出しながらも、アレンは自分の装備を確認してから窓の外の様子を伺う。
「それで、目的の情報収集は終わったならベルディアに一旦帰って勇者達と合流するの?」
「ここから魔王城は近いんだよな?」
「そうだけど。もしかして直接見に行くつもり?」
「お前の話が全部嘘の可能性だって在るからな。そもそも戦闘能力が低い魔王って言われても信じじられないだろ? 確証を得る為に、当初の予定通り作戦は進める」
「そう、じゃあ頑張って」
「手伝ってくれないのか? 協力者になってくれるんだろ?」
「ここから撤退するなら協力してあげてもいいけど。魔王城に近寄るってことなら私は協力しないわよ」
「理由は?」
「アナタの目的は魔王討伐の為の情報収集なのでしょ? 目的は達成されたのだから、ここで死ぬ可能性が高くなる手段に私は手を貸さない。それに私が魔王に見つかった時、私はアナタの明確な敵になるのは理解してる?」
「名付けによる行動の強制か」
「そういうこと。それと一つ質問してもいいかしら?」
「なんだよ?」
「離れた場所に聖剣の力を感じるのだけど、勇者はアナタの行動の意味を知ってるの?」
「冗談だよな?」
「なら一緒に見に行く? と言っても、進行方向が魔王城から少し逸れてる気がするのよね。こっちに向かってきてるのかしら?」
「それが本当なら。アイツ等が来たって事だな……」
後先を考えず、自分達の正しい事を素直に率先していくのがアイツ等だ。だからアレンは何も言わずに単独で魔王城の偵察へとやって来たというのに、全てが台無しだ。
手伝いに来てくれるのは嬉しいが、迷惑、余計なお世話、そんな気持ちが混じりアレンは困惑した表情を浮かべて居た。
「俺を見つけた時の感知魔法みたいなものか?」
「アナタを見つけた時はそれに近いモノだけど。聖剣の力は魔族や魔物にとって危険なモノだから、ある程度近寄ると気が付くのよ。私の様に魔力感知に優れてるとかなり遠くても察知できるわ」
「それって魔王と配下の魔族も出来るのか?」
「まあ出来るんじゃないかしら? 感知出来る範囲は個人の能力次第だけれど」
「それってマズいよな? 魔王に勇者の存在を知られたら……」
「もういいんじゃない? 勇者もこんな所まで来たんだし、魔王退治に行っちゃえば?」
「そんな軽いノリで行けるか。お前からの情報だけで実際に何も確証を持ててない。無謀すぎる」
「でも、かなり近くまで来てるわよ? 凄い速度で」
「は?」
アレンが耳を澄ませば聞きなれた声が外から聞こえてくる。
「なんか建物が在るよ!! たぶん、あそこにアレン兄が居るんだよ!!」
「待ちなさい!! ユナ!! ストップ!! 警戒しながら行くか、私を置いて一人で突撃して!!」
ユナの走る速度は更に増し、背に乗るリンは騒ぎ立てる。
「ここら辺には魔物は居ないんだね」
「途中で見えた魔除けのお陰でしょう。よくこんな安全地帯を見つけることが出来ましたね」
ミシェリーは辺りを警戒しながらもユナに置いて行かれない速度で走り、ミラはその背に乗って移動する。
ウィズの住処であるツリーハウスの中からアレンはその声と彼女達の姿を見て溜息を吐いた。そして、彼女達と合流する為に外へと出て行く。
「アレン兄!!」
ツリーハウスから出て来たアレンの姿を見たユナは走る速度を上げ、アレンの目の前へと即座に到着する。それと同時にリンは安心したのかユナの背中から転がり落ちる。
そんな二人の様子を見たアレンは質問を投げ掛ける。
「ローラに聞いたのか?」
「うん!!」
アレンの質問にユナは短くそう答え、リンが補足するように口を開く。
「言っておくけど、この件に関してローラは悪くないわよ。全部アンタが悪いのよ。私達に相談もせず一人で魔王城に偵察って、死にたい訳? 助けに来た私達に感謝しなさいよね……というか、私が凄い死に掛けてるんですけど? これもアレンのせいだから。絶対に許さないから」
そして少し遅れてミシェリーとミラがやって来る。
「師匠、無事で何よりです」
「アレンさん、偵察は終わりましたか?」
当初の予定ではアレン一人の偵察だったが、こうしていつもの五人が揃ってしまった。
だが、それはそれで問題が在る。先程のウィズの発言から、彼女達四人がこんな所まで来ていることが魔王にバレて居る可能性が在る。
魔王自体に戦闘力が無くても、魔王に仕える配下がこちらに刺客を放つ可能性も在った。
ウィズの情報では常に二人の配下が魔王の護衛に付いて居る。その実力さえわかれば、俺達が勝つ為の確実性が増す。
「ここまで来て貰って悪いがお前達はすぐに帰れ」
「駄目だよアレン兄。私達はパーティーなんだから、偵察も一緒に行くよ」
「聖剣を持ってるお前達じゃ隠密性を保てないんだ。魔王城の近くまで行ったら確実に存在がバレて戦闘になる」
「戦闘になったらなったで、魔王を倒せば良いんだよ」
「倒せると思うか?」
「わからないけど、頑張る!!」
相変わらずの行き当たりバッタリ理論のユナに困惑しながらもアレンは続ける。
「魔王城は間近だ。リン、エアフォースを俺に使ってくれ。ティナを召喚するスクロールを使ってすぐに戻って来る。後から追いつくから先に帰っててくれ」
「それなら、ここで私がティナを呼ぶ?」
アレンの作戦に疲れて居たリンが起き上がり、そう提案した。
「距離が遠すぎる。出来るだけ魔王城の近くで召喚しないと分身体が霧散する」
西の魔法学園の学園長ティナから貰ったスクロールは彼女の分身を召喚することが出来る。このスクロールはアレン達がわざわざ西に赴かなくても良い様にと連絡用に数枚貰ったうちの一つ。スクロールを開けばティナの分身が魔力によって一定時間生成され、視界と会話の共有が可能だ。
それをアレンは偵察に使うことにした。魔力によって生成された分身ならば、生身の人間がリスクを冒してまで偵察する必要が無い。これほどまでに偵察に適したモノは無かった。
「偵察はまだ終わってないんですね。それならさっさと行ってきてください。それまで私達はここで待ってますから」
そう言ってミラはツリーハウスで休もうと入り口から中を覗き込む。
するとそこには妖艶な見た目の大人の女性が座り、ミラに気が付くと笑みを浮かべて手を振るのだった。ミラは目をパチクリさせてアレンに向かって問い掛ける。
「アレンさん。中に居るエッチな女性は誰ですか?」
「魔族のウィズだ。一応、協力者だが信用と期待はするな。警戒しておけ」
「協力者って何ですか? 夜のお供って意味ですか? ローラさんが居るのに最低ですね」
「魔族も色々居るんだろうよ。ウィズの目的は俺達と同じ魔王の討伐だ。魔王についての情報も粗方、ウィズが教えてくれた」
「なら再度情報提供して貰えば良いじゃないですか? 私のセンスライで嘘か判断出来ますよ?」
「それも手だろうけど、魔族にセンスライが聞くのか? それに薬や魔法に長けた奴なら欺ける方法も在るだろ。不確定要素が多すぎる」
アレンがそういうとミラはウィズに質問した。
「すみません。アレンさんと昨晩エッチなことしましたか?」
「ええ、アレンが無理矢理私のベッドに潜り込んで来たわ」
「そうですか」
そんな二人の会話を聞いていたリンがミシェリー向かって指示を出した。
「ミシェリー、今すぐそこの馬鹿を戦闘不能になるまで殴りなさい」
「なんでそんなこと……」
「アンタはムカつかないの!? こんな所まで私達が命懸けで来たって言うのに、このバカは女と楽しんでたのよ!?」
「師匠はそんなことをする人じゃないよ。だってローラさんが居るじゃないか」
「男って言うのは……」
リンが続けようとする言葉を遮りミラが口を開く。
「リンちゃん落ち着いてください。あの魔族の人の言葉は嘘ですよ。センスライが正常に発動しました。つまり魔族にもセンスライは効力を発揮するということです」
そんなミラの言葉を聞いたリンはミシェリーに言う。
「話が変わったわね。ミシェリー落ち着きなさい」
「僕は最初から落ち着いてるよ……」
魔族にも看破の奇跡 ≪センスライ≫は効果が在ることが証明された。だからといって、このままウィズに再度情報を聞き真偽を確かめるのも時間が掛かる。だからアレンはリンに急かすように指示を出す。
「リン、俺にエアフォースを掛けてくれ。そしたら全員で南へ移動だ」
「エアフォースは掛けてあげるけど、アンタが戻ってくるまでここで待っててあげるわ。さっさと行ってきなさい」
「頼むから……なるべく魔王城から離れてくれ。お前達が感知されたら戦闘の始まりなんだから」
「私の体力がもう無理。二度とユナの背中には乗らない、帰りはアンタが私を背負ってベルディアまで帰るの良いわね?」
「えぇ……」
「それじゃ、エア……」
リンがアレンに向かって補助魔法のエアフォースを詠唱しようとした。その時、何処からか何かがアレン達の前に勢い良く降下してきた。
激しい衝撃音と土煙を空き散らし、それは次第に姿を現す。
銀色の西洋甲冑に大剣を背負った正体不明の魔族がアレン達の前に姿を現した。




