表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/51

41


 日の出前の深夜にベルディア王国を出たアレンは早朝には北の宿場町にやってきていた。

 ここから大体二、三日で魔王城周辺まで到着する見立て、半日も掛からないで瘴気の濃い場所まで到着していた。道中には体躯が人間よりも一回り大きいホブゴブリン、植物のツタを操り生き物を捕食するマンイーター、口から火を吐き群れで行動するヘルドッグ、他にも様々な魔物がお互いに捕食し合って生息している。


 ――これは命が幾つ在っても足りないな……


 そう思いながらもアレンはコンパスを頼りに慎重に北へ進んで居ると、空間の歪みから一人の女が出て来た。胸元の空いた露出の高いドレスを着た妖艶な女と目が在ったアレンは即座に腰の短剣を投擲した。アレンが投擲した短剣は突然現れた女の顔に一直線に向かう。だがその攻撃を防ぐように空間の歪みが発生し、投擲した短剣は吸い込まれ、何処かへと消える。

 

 「ねぇ、私はアナタと話がしたいだけなのだけど。どうかしら?」

 

 女がそんなことを口にするが、アレンはそんな言葉に聞く耳を持つことは無かった。

 凶暴な魔物が蔓延り、人間に毒である瘴気の濃い場所。そんな場所に普通、人は居ない。だが目の前の女は人間の姿をして人の言葉を喋る。人の姿をした人ではない何か……魔族だ。

 勝機は無いと即座に判断したアレンはその場から撤退するため駆け出した。


 ――明らかに偶然では無く、意図的な接触。こちらの位置がバレ、監視されている可能性が高い。武器が見えなかった事を考えると魔法使いの系統だ。ならば何らかの感知魔法を使って居る可能性が高い。それに……。


 周囲を警戒しながらも南へと全力で駆け出すアレン。だが、すぐにその行く手を遮るように魔族の女が空間の歪みから現れる。


 ――この移動方法も厄介だ。


 足を止めたアレンに魔族の女は再度話しかけてくる。


 「ねぇ、お話しましょ?」


 ――敵地のど真ん中で悠長に話なんて御免だね。


 アレンは背負うバックパックを捨て、剣を構えながら魔族の女に向かって突撃する。

 それを見た魔族は後ろへ下がり、空間の歪みの中へと入って姿を消す。

 

 ――逃げたか、様子見か、どちらにせよ退路は確保できた。


 アレンは空いた道を警戒しながら全力で駆け出す。すると上空からカラスが舞い降り、アレンの横に並走するように空を飛ぶ。そのカラスは先程の魔族の女の声を発し、アレンに話掛ける。


 「ねぇ、私ってそんなに魅力的じゃないかしら?」


 ――何言ってんだこのカラスは


 アレンは並走するカラスが自分の事を監視し、先程の魔族に位置を特定されていると判断し、カラスを剣で叩き落そうとするが、それはヒラリと回避される。


 「人間の男なら私がお話しましょ? って言えば二つ返事で聞いてくれるのが普通なのだけど……」


 ――確かにあの見た目で誘われれば誰だって話位は聞くだろうな


 「私とお話ししてくれるなら。私の身体を好きに弄んでもいいけれど……どうかしら?」


 その言葉を聞いたアレンは本能的に足を止めてしまった。

 だがすぐにコレは高度に計算された罠だと気が付き、また走り出そうとする。

 

 「足を止めたってことはお話する気になったのかしら?」


 アレンの行く手を阻む様に魔族の女が視線の先から出てきてそう言う。

 足を止めたアレンは再度彼女の妖艶な見た目と整った顔立ちを見てから首を横に振る。


 「くっ、魔女め……」


 「いや、魔女だけれども」 


 アレンが魔族による高度に計算された精神攻撃に苦戦している最中でも、魔族の女はアレンに話をするよう交渉を続ける。


 「アナタ、迷子って訳じゃないでしょ? その装備にさっきの荷物、真っ直ぐ北に向かってるってことはアナタの目的地は魔王城よね?」


 「ただの迷子なんで見逃して貰えませんかね?」


 「ただの迷子が、話も聞かずにあんな切れの良い投擲する訳ないでしょ?」


 「手が滑ったんですよ。許して貰えませんかね?」


 「別にさっきの攻撃に怒ってる訳じゃないのよ? ただアナタとお話がしたいの」


 「俺はアンタと話すことは何もないから、このまま帰ってもいいですかね?」


 「ダ・メ」


 なんかこんなやり取りを最近したなとアレンが思い出していると、その一瞬の隙をついて魔族の女が歪んだ空間を移動して至近距離まで詰めて来た。

 魔族の美しく整った顔と視線が合う、不意を突かれたアレンはどうにか反応して剣を振ろうとしたが、視線を数秒合わせた魔族の女が不思議そうに首を傾げていた。


 「アナタ、何で魅了が聞かないのかしら?」


 「は?」


 「ちょっと、ごめんなさいね」


 そう言って魔族の女はアレン頭を両手で掴みながら目の中をマジマジと覗く。何が起きているのか理解不能なアレンだったが、殺気の無い魔族の女に毒気が抜かれ、素直な疑問を問い掛ける。


 「何してんの?」


 「ああ、なるほど。アナタ、呪いに掛けれれてるわね」


 そう言って魔族の女はアレンを掴む手を離し淡々とそう説明する。


 「呪いって?」


 「呪いというより、祝福かしら」


 「いや、えっ?」


 「精神に干渉する魔術に対しての対策に一見見えるけど、魅了系統の相手を虜にする魔術を完璧に防ぐようになってるから、アナタの事を誰にも渡さないって意思がコレには感じられるわね」


 アレンの知らないところでそんなことをする神官の顔がすぐに浮かんだ。

 暫く困惑しながらも、アレンは目の前の魔族がしようとしたことに気が付き即座に距離を取る。


 「っていうか、魅了って!! どんなエロいことをするつもりだったんだ!! 内容によっては屈する準備だってこっちには出来てるんだぞ!!」


 「魅了って言っても。相手の言う事を聞かせるだけで、別にアナタが思って居るようなことをするつもりは無いわ。さっきから言ってるように、私はただアナタと話をしたいだけなの」


 「くっ!! なら俺は屈しない!! 話だけなら屈しない!! 絶対にだ!!」


 アレンと魔族の女がそんな話をしていると、周囲には魔物の群れが集まっており、魔物達は一斉にアレンと魔族の女に向かって攻撃を始めた。


 「クソっ!! これだから女に関わるとロクなことが無いんだ!!」


 「こっちよ」

 

 アレンが周囲の魔物に視線を向けた次の瞬間には魔族の女に手を引かれ歪んだ空間の中へと二人は消えて行くのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ