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 日が昇る前の真夜中、腰の片側には直剣と短剣の二本をぶら下げ反対側にはランタンをぶら下げる。

 動きやすさを重視した革の軽装鎧に革のブーツ。全身を覆う外套は寒さや暑さを防ぐ為。

 腰の雑嚢には戦闘中に使うであろうポーション類とスクロール等の貴重品が入っており、背負う縦長のバックパックには食料やロープや松明等の長距離の冒険に必要なモノが入って居た。


 「剣にスクロール。マカちゃんに作って貰った魔道具はちゃんと持った?」


 「見ればわかるだろ? ちゃんと持ってるよ。お前は俺のお母さんか?」


 「もう、私はアレンの奥さんよ」


 「そうだった」

 

 アレンとローラはそんなやり取りをしながら再度、手荷物と装備を確認する。そして、確認を終えたアレンはローラと軽く口付けを交わして馬車に乗り込んだ。

 ベルディア兵が荷台にアレンが乗ったことを確認すると馬車の手綱をパシッと音を鳴らして馬を進める。アレンは荷台で目を瞑り、仮眠を取りながら北へと出発した。




 朝日が昇り、ユナ達は寝ぼけ眼で目が覚める。身だしなみを整え、朝食を食べたら、各々やりたいことを始める。ユナとミシェリーは模擬戦を行い、リンは魔法について学び、ミラはお菓子作りに専念する。

 暫くすると、アレンがそれぞれの元を回って声を掛けて体力作りの鬼ごっこが始まるのだが、代わりにローラが声を掛けて回って居た。そしてベルディア城の庭に集まった四人にローラはいつも通りの鬼ごっこを始める様に提案する。


 「ローラ姉も鬼ごっこする?」


 鬼ごっこを提案するローラに対して一緒に遊ぶことをユナは提案するが、ローラは首を横に振った。


 「私は遠慮しておくわ」


 「え~ローラ姉もやろうよ~」


 アレンの時同様に食い下がるユナに対してローラは少し考えてから発言する。


 「ユナちゃん。コレ、あげる」


 そう言ってローラは飴玉を雑嚢から取り出してユナに手渡した。


 「その飴は疲労回復に重宝するモノなの、美味しいでしょ?」


 「うん、ありがとう。ローラ姉!!」


 ローラは飴玉でユナとの話を逸らし、鬼ごっこを始める様に促そうとする。

 だが、その前にリンがローラに問い掛けた。


 「ねぇ、アレンは何処行ったの? いつもはアレンが呼びに来る筈じゃない?」


 「アレンさんは情報収集で外に出てるそうですよ」


 ローラがリンを呼びに行った時にアレンが来なかったことをリンは疑問に思っては居た。ローラのことを良く思って居ないリンはなるべくローラと会話をしたくない為、それについてすぐに質問はせず、質問を先送りにしていた。

 だがミラは同じことが気に掛かり、ここに来る前にリンと同じ内容をローラに質問していた。

 リンの質問にミラが代わりに答えると更にリンは質問を続ける。


 「情報収集ってこれ以上なにが在るのよ? ギルドで依頼を受ける予定は今の所ないんだから、収集する情報なんてないでしょ?」


 その質問にローラは少し考えてから返答する。


 「そうね。魔王に関しての情報収集よ。アナタ達に必要な情報でしょ?」


 「魔王に関する情報収集? どうせ調べたって場所しかわからなかったじゃない」


 「そうね、そこはアレンに任せましょ。今のアナタ達に必要なのは魔王を倒す程の力なんだから、頑張って訓練しましょうね。それじゃあいつも通り、鬼ごっこを始めましょうか」


 そう言ってローラは半ば強引に話を逸らし終わらせようとしたがミラが再度質問する。


 「アレンさんは何処に情報収集に行ったんですか?」


 「北よ」


 「……北の何処に情報収集に行ったんですか? 具体的に場所を教えて下さい」


 「……」


 ミラの質問にローラは言葉を詰まらせる。その様子を見ていた四人はその違和感に気が付く。

 ここでローラが本当の事を話した時、彼女達は一体どういう行動を取るのだろう。たぶん自分と同じようにアレンに無理矢理付いて行くという行動を取るだろうとローラは考えていた。看破の奇跡を持つミラに対して嘘は通じない、ならば黙って沈黙を貫くか。だがローラだけが沈黙を貫いたところで今回の件を知っている者は他にも居る。ベルディア王、魔術師のマカ、数名のベルディア兵、この誰かが口を開けばいずれ真実が彼女達に知らされる。

 だからミラは諦めた。彼女達を平和的にここに留めておくことは難しいと判断し行動を開始する。


 「神よ、躍動する生命力を我に与え給え、ブレイブリー」


 腕力を上げる上級奇跡 ≪ブレイブリー≫をローラは唱えた。

 突然、奇跡を唱えたローラにミラとリンは警戒するが、ユナとミシェリーは首を傾げるだけだった。

 ローラはゆっくりとミシェリーとユナに近寄り聖剣に手を掛ける。


 「ちょっとだけ聖剣を貸してくれるかしら、二人共?」


 そう言いながらローラはユナの聖剣を腰から引き抜き、ミシェリーの大剣を背中から取り上げた。

 ユナはローラが何をするのかと不思議そうな顔をし、ミシェリーはローラが華奢な細腕で大剣を軽々と持ち上げることに驚愕していた。そしてその様子を見ていたリンは声を荒げる。


 「アンタ達!! 何ボケっとしてんの!? さっさと武器を奪い返しなさい!!」


 「なんで?」


 「なんでって……」

 

 ユナとミシェリーは武器を少し貸すぐらいなんてことないと思って居た。だがリンとミラはローラの不可解な行動に何かしらの意図が在ることを感じて杖を構える。ローラは奪い取った二本の聖剣を離れた場所に投げ飛ばしならが次の詠唱を始める。


 「光よ、集え、ホーリーライト」


 初級奇跡 ≪ホーリーライト≫を唱えユナ達の視界を塞ぎ、その一瞬の隙をついてローラはリンとミラの杖を叩き落として奪い取る。奪い取った二本の杖をローラは聖剣を投げ飛ばした場所へ放り投げ、聖剣と聖杖を守る様に陣取った。

 

 「幾ら隙を突かれたからって、私一人にこれじゃ魔王討伐なんて難しいと思わない?」

 

 ローラがそう言うとユナが質問を投げ掛ける。


 「それで、ローラ姉はなんでこんなことしてるの?」


 「たぶん、師匠とは違ったローラさんなりの訓練なんじゃないかな?」


 ユナとミシェリーは呑気にそんな会話をし、リンとミラが苛立った声を上げる。


 「そこの脳筋コンビ、いい加減にしなさいよ?」


 「流石の私でも怒りますよ? 二人共」


 ユナとミシェリーはなんで二人が怒って居るのかと困惑した表情を浮かべて顔を見合わせる。

 そしてミラは自分の考えを口にしてローラに話しかける。


 「アレンさんは北に魔王の情報収集に行ったんですよね? じゃあ北の何処に魔王の情報なんて在るんでしょうか? ベルディア王国から北には大きな街はないですよね? 在るとしても北の瘴気に汚染されていない冒険者が泊まる宿場街くらいなモノです。そんなところに魔王の情報は在りません。なら更にその先の……」


 ミラがそこまで口にするとリンは大きく溜息を吐いてその言葉の先を続ける。


 「あのバカ、魔王城に一人で偵察に行ったってこと?」


 そんなリンの言葉を聞いたユナは唖然とした表情をしながらローラに問い掛ける。


 「えっ……ローラ姉。それ、本当?」


 「ええ、正解よ」


 ユナの質問にローラは短く答えた。その言葉を聞いたユナはローラに向けて掌を前に出して言う。


 「そっか、じゃあ聖剣返してローラ姉」


 「ごめんなさい。アナタ達にはここに残って貰うわ、それがアレンの意思だから」


 「それはダメだよ、ローラ姉。アレン兄が死んだら私達は凄く悲しくて泣いちゃうし、ここでアレン兄についていかなきゃ絶対に後悔する。だから聖剣を返して、ローラ姉」


 「……」


 ユナの言葉にローラはそれ以上何も返事を返さなかった。

 仕方が無いと思いながらもユナは聖剣の方へ向かってゆっくりと歩き出す。

 ユナは特に警戒もせずにローラの横を通り過ぎようとするが、それをローラは許さなかった。

 ローラはユナの無防備な胴体に向かって杖を振りぬき、吹き飛ばす。


 「ユナ!!」


 空中に吹き飛ばされたユナをミシェリーは受け止め、声を上げる。


 「ローラさん!! なんでこんなことをするんですか!? ローラさんだって師匠には死んで欲しくないはずだ!? こんなことに何の意味が在るんですか!?」


 その問い掛けにローラは淡々とした口調で答える。


 「私はアレンを信じてるの、アレンは死なないし、アレンは無事に帰って来るって約束してくれた。それならアレンは絶対に帰って来るんだから、アナタ達が余計なことをする必要はないの」


 それに対してミラは呆れた口調で返答する。


 「アレンさんを信じているのは本当ですけど、アレンさんが死なないって所は半信半疑ですね。ローラさんにとって大事なのはアレンさんなんですから、私達が助けに行ってどうなろうと関係ないのでは?」


 「正直、私はアナタ達がどうなろうと知った事では無いわ。でもアレンはアナタ達に死んで欲しくないと思ってる。なら私はアナタ達を死なないようにしないといけないの」


 「アレンさん以外どうでもいいのが本当って……この人、本当に神官ですか? 神様ちゃんと仕事してくださいよ」


 ローラの発言にミラは困惑しながら呟き、リンは苛立った表情を浮かべて口を開く。


 「アンタにとって私達の存在がどうでもいいなら丁度良いじゃない。私達もアンタの言う事を聞く義理なんてないもの。好きにやらせて貰うわ」


 そう言いながらリンは右手の掌を前に出す。


 「ユナ!! ミシェリー!! いつまでボケっとしてんの!? 戦闘準備!!」


 リンの掛け声にユナは立ち上がる。だがミシェリーはローラとの戦闘準備に困惑しながら声を出す。


 「リン!! 戦う必要は無いだろう!? 話し合いで何とか解決を……」


 「ミシェリー、手伝って、ローラ姉から私達の武器を一本取り返せばいいだけだから」


 「……わかった」


 戦闘といってもローラを傷つけるのではなく、武器を取り返し、現状を覆すのが目的だと理解したミシェリーは頷く。そしてユナとミシェリーの準備が出来たことを確認するとリンが詠唱を始める。


 「火の聖霊よ、集い、燃やせ!! ファイアボール!!」


 「見えざる光の障壁よ、守りの奇跡をここに、プロテクション」


 詠唱を始めたリンに反応しローラは初級奇跡の≪プロテクション≫を唱える。ローラの奇跡によって出現した光の障壁は自身と武器に触れられぬよう、遮るように展開した。

 リンの掌から打ち出された火の玉は光の障壁に遮られ爆発する。その光景を近くで見ていたミラは驚いた表情を浮かべて居た。

 

 「リンちゃん、杖無しでも魔法が使えるんですね」

 

 「当たり前でしょ。杖が無くても最低限戦えるようにしろってあのバカが言ってたでしょうが」


 「ちなみに私は略式詠唱になれちゃって、杖無しだと何もできないので後は皆さんにお任せします」


 「この役立たずのポンコツ聖女!!」


 リンとミラがそんなやり取りをしている中、ユナとミシェリーは近くの衛兵から剣を借りてローラの方へと突撃した。ユナとミシェリーはプロテクションで囲われた障壁の左右に別れ、剣を振るおうとする。だが子供の振り下ろす剣ではローラのプロテクションを破ることは敵わなかった。

 リンの魔法、ユナとミシェリーの剣、彼女達の攻撃手段ではプロテクションを破る決定打はないことを確認してローラは魔力を回復する為にマナポーションを雑嚢から取り出して飲み始める。

 

 「ユナ!! 僕が障壁を壊すから聖剣を回収してくれ!!」


 ローラはミシェリーのその言葉を聞いて視線を向けると、ミシェリーが両手で剣を構え集中していた。聖剣を所持した時の強さはユナとミシェリーでは互角の実力だが、木剣の模擬戦では子供の頃から騎士としての鍛錬を積んでいたミシェリーの方が大きく実力を上回って居た。

 例え子供の剣だが、現状でミシェリーが集中して放つ斬撃はローラのプロテクションを破る可能性が一番高かった。だからローラはミシェリーを止めよと動き出す。


 「光よ、集え、ホーリーライト」


 呟くようにミラが詠唱した初級奇跡 ≪ホーリーライト≫は宙を浮遊しローラの目の前で強く発光した。ローラは視界を奪われ一瞬の隙ができ、集中していたミシェリーは剣を勢い良く振るう。

 ミシェリーの渾身の斬撃に障壁は壊れ、ユナが聖剣の元へ走り、掴む。

 聖剣を掴んだユナは勇者の力を得て、残りの聖剣と杖をそれぞれの持ち主の方へと投げ飛ばした。

 一瞬の視界を奪われたローラは周囲の音で全てを察しながらも、ゆっくりと目を開ける。


 「わかってたけど、アンタだって杖無しでも奇跡の一つくらい使えるじゃない」


 「当たり前じゃないですか、神官にとってホーリーライトやヒールは初歩の初歩です。忘れる方が難しいですよ」


 リンとユナがそんな話をしているところにユナとミシェリーが合流する。


 「とりあえず、アレン兄を追いかける為に北に行こう」

 

 「ベルディア王に荷馬車の用意を頼みますね。あと魔王城に行くならある程度の物資も用意しないと」


 「じゃあ、僕が食料や必要そうなモノを用意しておくよ」


 「私は経路の確認とバカの居場所を見つける方法聞いてくるわ」


 そんな相談をして彼女達はそれぞれ動き始める。

 そんな様子を見ていたローラにユナは近寄ってきて話しかけて来た。


 「アレン兄はちゃんと助けてくるし、私達も死なないから安心して待っててね。ローラ姉」


 ユナはそう言ってにこやかな笑みを浮かべてその場を去って行くのだった。

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