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王都ベルディアの北門を抜けて少し進むと森が見える。
ギルドの情報によればその森に薬草が生息しているらしい。
比較的安全だがたまにモンスターも出てくるそうだ。
仮にゴブリンやワイルドウルフが出てきたところで元赤等級のアレンには問題にはならなかった。
「薬草採取なんて何年振りなんだろうな……」
駆け出しの冒険者の依頼は決まって採取依頼ばかりだ。
傷を癒す効能の薬草や毒に効く薬草など、一口に薬草と言っても色々と在る。
大抵は傷を癒す為の薬草採取が主だ。
アレンは森の中を警戒しながら進み、少し懐かしみながらも薬草を採取する。
「ねぇ、コレって薬草?」
「それは違いますね」
「何で私達、薬草採取なんて地味なことしてるのよ?」
少し離れた所から三人組の少女の声が聞こえた。
アレンは面倒事を避ける為、聞こえてくる声とは遠ざかる方の道へ歩き出そうとした。
「いや!! なに!! やめて!!」
「早く魔法で攻撃して下さい!!」
「無理よ!! アレじゃ巻き込んじゃう!!」
アレンは悲鳴が聞こえる方へと駆け出した。
木々を抜けると背丈の低い少女が三人居た。一人は素手のゴブリンに襲われているが必死に抵抗している。それをどうにか助けようと困惑する神官に魔法使いの二人。
女の冒険者ってだけでも珍しいが、子供の冒険者というのも珍しいと思いながらもアレンは腰の剣を抜いて戦闘態勢に入る。
まずは少女に覆いかぶさるゴブリンを思いっきり蹴り上げる。そして宙に浮いたゴブリンの頭に剣を突き刺し殺す。周囲に居た二匹のゴブリンがアレンに襲い掛かるが、隙だらけのゴブリンの飛びつき攻撃。アレンは二体のゴブリンの胴体を一振りで切り捨てる。
そして周囲の音や様子を確認しこれ以上襲い掛かって来る敵は居ないことを確認し一息吐く。
「大丈夫か?」
振り返りゴブリンに襲われていた少女に声を掛ける。
「うん。ありがとう」
「どういたしまして」
ゴブリンに襲われていたのは赤髪のショートヘアーの少女。胸元には白色の認識票。
全身は軽装の皮鎧。腰には高そうな剣をぶら下げている。駆け出しにしては良く装備が整って居た。
他の二人の胸元にも白色の認識票が見える。そして同じく良いモノを装備している。
その姿からアレンは貴族階級のお遊び程度の冒険者ごっこの様なモノだと認識した。
冒険者の美談を聞いた若者が夢を求めて冒険に出る。その好奇心に貴族も平民も関係無い。
子供なら誰もが一度は夢見る冒険譚。だが現実はさっきの様に血生臭いモノだ。
現実を知り、好奇心よりも恐怖が勝る。それでいい、無事に家路に付ければそれだけで儲けものだ。
そんな事を考えながらアレンはその場を立ち去ろうとする。
余り長居はしたくないし、関わり合いにはならない方がいい。アレンが歩き出そうとすると助けた赤髪の少女がアレンの服を掴む。
「ねぇ、お兄さんも薬草採取?」
「ん? ああそうだ。もう採取は終わったから帰るんだ。手、放してくれる?」
「私、どれが薬草なのかわからないからお兄さん教えて?」
「とりあえず、適当にそれっぽいの持って帰ればいいんじゃないか?」
「それじゃ駄目だから教えて」
「知るか、さっさと手を離せ」
「え~いいじゃん。お兄さんだって駆け出しでしょ冒険者は助け合いが大事なんだよ」
「ゴブリンから助けたんだから勘弁してくれ」
アレンは少女の言葉を無視して進みだそうとするが、それを阻むように少女は全体重を掛けながら両手でアレンの服を引っ張る。
「おい、マジ勘弁してくれよ」
アレンはイラついた表情を浮かべながら視線を他の二人へ向ける。
「おい、そこの二人。お前らの友達をどうにかしろ」
そう言ってアレンは駄々をこねる赤毛の少女に指を指す。
「まあ、そう言わずに。これも神のお導きという奴ですよ」
神官の少女はにこやかにそう言い。
「アンタが採取した薬草を私にくれるなら説得してあげてもいいわよ?」
魔法使いの少女は高圧的な態度でそう言う。
――あっダメだコイツら。まともに取り合わないタイプの人間だ。
アレンは今までの人生経験からこういう奴らにはまともな対話は望めないと思い腹を括った。
「仕方が無い。薬草採取の秘訣を教えてやろう」
「本当に!?」
「その代わり、まずは服から手を離せ」
「うん」
赤毛の少女はアレンの言う通りに手を離す。それと同時にアレンは全速力で王都に向かって走り出す。その後ろ姿を見た赤毛の少女は数秒目をパチクリさせて気が付いた。彼は自分に嘘を吐いて逃げたのだと。
「逃げた!? リンちゃんあの人捕まえて!!」
赤毛の少女は大きな声で指示を出し、腰にぶら下げた剣を引き抜き走り出す。
「任せなさい!!」
魔法使いの少女は杖の先端をアレンに向けて高らかに「バインド!!」と叫び声を上げる。
すると王都へ向かって逃げるアレンの足元から植物の根が体中に纏わりつき移動を阻害した。
「バインド!?」
初級の拘束魔法に動きを絡めとられたアレンは驚きながらも、即座に拘束を解こうと力一杯抵抗する。そして背後から高速で近づく何かの気配も察知していた。
「捕まえたぁぁぁ!!」
バインドで拘束中のアレンの背中に向かって赤毛の少女は勢い良く飛びついた。
少女の叫び声と同時に背中に衝撃が走る。そして鈍い音と激痛と共にアレンの意識はブラックアウトした。