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ふかふかのベッドの上で目を覚ましたローラは体を起こして周りを見渡す。
綺麗な部屋の寝室。きっと城の客間に入れられたのだろうとローラは予測しながらも、自身が自傷した腹部を手で触る。腹部の痛みが無い事を確認したローラは優しく微笑んだ。
ローラがベットから起き上がり、部屋の外の様子を確認する為にドアを開くと、丁度良く部屋に訪れたアレンと鉢合わせた。
ローラは優しい笑みを浮かべ、アレンは困った表情を浮かべて居た。
「傷は大丈夫か?」
「うん。アレンのお陰で大丈夫みたい」
「とりあえず。座って話そう」
「うん」
ローラとアレンは部屋に入り、ローラはベッドの端に座り、アレンは近くの椅子を動かしてローラの対面へと座った。そしてアレンはローラに問い掛ける。
「それで、なんで自害しようとしたんだ?」
「だってアレンが私とお話してくれないんだもの」
「話を聞かないくらいで自害しようとしないでくれ、死んだらどうするんだ?」
「大丈夫。だってアレンが助けてくれるもの」
ローラの言葉にアレンは呆れてそれ以上の言葉は出なかった。
話を聞いて貰うためだけに自害しようとする女にこれ以上何を言っても無駄だと思いながら話を進める。
「それで今更何を話すことが在るんだ?」
「アレン、私とずっと一緒に居て欲しいの」
「またそれか……」
「もう私達は同じパーティーじゃないし、結婚しても良いと思うの。どうかしら?」
「恋人を通り越して、夫婦になろうとしないでくれ。そもそも、お前みたいな性格の女と結婚したいと思うか?」
「こんなにアレンに対して従順な奥さんなのに、結婚したくない訳が無いじゃない」
「勝手に婚姻関係を結ぶな。俺の事をパーティーから追放するわ、いきなりやってきて自殺しようとするわ、勝手に嫁になろうとするわ、いい加減にしてくれ」
「アレンの方こそ往生際が悪いわよ。ここまで私がアナタの事を思って居るのに無下にするなんて男として最低よ」
「そんな最低な男と結婚しなくて済むんだから良かったろ。さっさとお帰り下さい」
「でも、そんなところも私は好き」
「頭おかしいんじゃねぇの?」
アレンはこのパターンは話が通じ無い奴だと思いながらも溜息を吐く、そしてローラに質問する。
「どうしたら諦めてくれるんだ?」
「なんで私が諦めなきゃいけないの?」
「俺にその気が無いからだ」
「そう、なら私はさっきみたいにアレンの目の前で死のうとしてあげる」
「なんでわざわざそんなことする必要が在るんだ」
「私はアレンと一緒に居たいのに、アレンが嫌だって言うなら私は死ぬしかないでしょ? それにアレンの目の前で死ねば、アレンの傷になって、心に残って、ちゃんと後悔してくれるもの」
「他に男を探すなり、他にも選択肢が在るはずだ」
「それも考えないことはなかったけど、でもやっぱり私はアレンが良いの。ダメ?」
正直な話ここまで言ってくれている女性に対してアレンは断る理由などはなかった。
見た目も良く、優秀な神官で、愛情も深い。だが、ローラの明らかに異常すぎる行動に対してアレンは拒絶反応を示していた。それでもこのままでは話は進まないし、終わらない。何処かに妥協点というモノがないか探ろうとすると寝室の扉が勢い良く開けられた。
「アレンさん!! ここまでローラさんがアナタを慕って居るというのに何が不満なんですか!?」
「おい、まともに話を取り合わない神官増えたって……」
勢い良く開けられた扉からミラが飛び出し、ユナ・リン・ミシェリーもぞろぞろと部屋に入って来る。
「ローラさんの言葉に嘘偽りはありません。それなのにアレンさん、アナタという人は自分に嘘を吐いて居ますね!!」
「なんのことだよ?」
「ではアレンさんに質問です。ローラさんと結婚したいですか?」
「いいえ」
「はい、嘘です。アレンさんはローラさんと結婚したいと思ってます」
「なんでだよ。看破の奇跡、看破できてないぞ」
ミラは一つ溜息を吐いてアレンの耳元で囁く。
「こんなに綺麗な女性の方に言い寄られて悪い気分の男性はいないでしょう? アレンさんも例に漏れず男ということです。ここは諦めてローラさんとお付き合いしてはどうですか?」
「なんでお前はアッチ側なの? 俺達パーティーじゃなかったっけ?」
「見ててじれったいんですよ。それに彼女に嘘偽りはないってことは、ここでアレンさんがローラさんを見捨てると本当に彼女自殺しちゃいますよ?」
「そうならない方法を提案して欲しいもんだ」
「無理ですよ。ローラさんはアレンさんの性格を良く理解しています。彼女はアナタが諦めるまで困らせ続けて、最終的に済崩しで結婚までの算段が出来てますよアレ」
「……」
「彼女を拒絶して殺すか、彼女を認めて二人で幸せになるか。アレンさんの性格上、選ぶのはどうせ後者でしょ? 諦めてください」
ミラのその言葉を聞いたアレンはおもむろに立ち上がり、扉へと走り出す。
――話し合いで解決しようなんてのが甘かったんだ!! 世の中には話が通じない手合いが山の様に居る!! ならば逃げるしかない!!
「ホーリーチェイン」
拘束の上級奇跡 ≪ホーリーチェイン≫。ミラによって唱えられた奇跡。神聖な光属性を込められた聖なる鎖がアレンの手足を拘束する。
「なあ、聖女様。なんでこんなことするんだ?」
「なんでって、アレンさんが全力で逃亡生活を開始したら、探すのは私達なんですよ? 手間で面倒なので諦めて下さい」
ミラはアレンから視線を移し、リンに向かって指示を出す。
「リンちゃん。アレンさんを眠らせてください」
「なんでそこまでする必要が在るのよ?」
「アレンさんがこのままパーティーを抜けて逃げ出しても良いんですか?」
ミラの言葉にリンは数秒考えてから杖をアレンに向けて「スリープ」と唱える。それと同時にアレンの意識は飛び、深い眠りについた。それを確認したミラはホーリーチェインを解除し、ユナとミシェリーにアレンをベットに運ぶように指示を出す。そしてミラはワザとらしい演技を始める。
「ああ、リンちゃんの魔法が間違ってアレンさんに当たってしまいました」
「いや、アンタがやれって言ったんでしょ?」
「コレでは今日は何も出来ませんね。今日は休暇ということで、暇な時間は皆で好きに過ごしましょう」
そう言いながらミラは扉を開けて、皆を部屋から出すように促した。
「それじゃ皆さん、行きましょうか」
ユナとミシェリーは模擬戦でもしようと話しながら部屋を出て行き、リンは二人の後を追うように出て行く。最後にミラは振り返ってローラに告げる。
「ローラさん。アレンさんのお世話をお願いしますね。一、二時間は何をしても起きないと思うので、アレンさんに責任を取ってもらえるように頑張ってくださいね。それでは」
そう言ってミラは扉を閉めて、部屋を出て行った。
ベッドの上で昏睡するアレンに対して不敵な笑みを浮かべたローラは、部屋の戸締りの確認と窓のカーテンを閉めてから服を脱ぎ始めるのだった。




