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鬼ごっこ。それは血で血を洗う英雄たちの訓練に昇華していた。
鬼という役割の者がそれ以外の者に触れ、鬼役を移す。そして制限時間終了に鬼役だった者の負け。
そんなシンプルな子供の遊び。遊びながら運動する、ちょっとした体力作りのつもりでアレンは彼女達に勧めた。だが、実際にしていることは戦争さながらのモノになっていた。
攻撃魔法が飛び交い、ベルディアの兵士達が宙を舞い、斬撃と爆音が鳴り響く。
「コレは鬼ごっこじゃないな」
だが、コレはコレで実戦に近い訓練になると思い。依頼等を受けない暇な時は一日一回やらせるようにしている。最終的に体力の少ないミラかリンが負けて、筋トレの罰ゲームを受けるのがお決まりのパターンだった。
西の魔法都市での収穫として過去の魔王や現魔王についての情報に、リンとミラが特別な魔法と奇跡を授かった。それなりの収穫だ。
だがそれでも魔王討伐の為に足りないモノがまだまだ多い。
北の瘴気対策、後衛職の体力問題、長期野営の経験不足、魔王と周辺の情報。
更に魔王がいつ人類を滅ぼしに来るのかという、いつか分からない制限時間。
問題は山積み、それを一つずつ解消していかなくてはならない。
そんなことを考えながら歩き出そうとするとアレンは使用人に声を掛けられる。
「アレン様。ベル・マリーと名乗る冒険者がお会いしたいそうです」
ベル・マリー。赤等級冒険者、竜の爪の魔法使い。アレンの元パーティーメンバーの一人だった。
懐かしい名前を聞いて、追放されたあの日の事を思い出し、それと同時にあれから時間がかなり立ったモノだと思いながらも、アレンはベル・マリーが今更何をしにきたのか尋ねる為に歩き出す。
ベルディア城の城門前に歩いてくと柵の向こうに人影が見えた。
二人の衛兵と柵扉の中心に立つ人影。そして近寄ってよくよく目にすればベル・マリーではなかった。近づいてくるアレンに気が付いた金髪の神官は優しい笑みを浮かべていた。
「アレン。本当にここに居たんだね。久しぶり」
「ローラ……」
赤等級冒険者竜の爪の神官ローラ。アレンがパーティーを追放された原因であり、意図的に関わり合いたくない人物だった。だからアレンは彼女と目が在っても何も言わず、来た道を帰ろうとする。
だが、ローラは声を荒げてアレンを呼び止める。
「アレン!! 待って!!」
ローラの言葉にアレンは足を止めてしまう。
「きっとアレンは何を言っても許してくれないと思う。でも、一度だけこっちを向いて欲しいの。最後にたった一度だけ私の事を見て欲しいの……お願い」
たった一度だけローラの姿を見る。それだけのことだ。そう思いながら、アレンは何も言わずにローラの方へと視線を移す。
「ありがとうアレン。それとごめんなさい」
そう言いながらローラは腰の雑嚢から短剣を取り出し、刃先を自分の腹に向けて、間を置かずに刺した。その場に倒れたローラの腹部からは血が垂れ、門番の衛兵達とアレンは一体何が起こったのか理解できない様子で立ち尽くしていた。だが数秒でアレンは現実に引き戻される。
「何してんだ!!」
アレンは倒れたローラの元へ駆け寄り、衛兵に対してミラを連れて来るように指示を出す。
慌てながらも、必死に考え、ローラの雑嚢から治癒ポーションや包帯等の治療に役立つ道具を取り出し応急手当を始めた。




