30 魔族側
北の辺境の土地。聳え立つ崖に周囲は木々で囲まれた森の中。
一体の西洋甲冑姿の魔族が胡坐を掻いて精神を集中させていた。
そんな西洋甲冑の肩に一羽のカラスが泊まる。
「剣豪、魔王が降臨したわよ。戦いたいなら魔王城に来なさい」
カラスの口からウィズの声色が発せられる。
カラスはその言葉を告げた後、役目を終えたようにその場から飛び去る。
剣豪と呼ばれた西洋甲冑はゆっくりと立ち上がり、傍に突き刺した大剣を手に取って、崖に向かって構える。そして一振り、剣を横に振るえば、崖には大きな傷跡が残る。
「魔王……相手にとって不足無し……」
剣豪と呼ばれた魔族はそう呟いて歩き出す。
早朝の魔王城。玉座の間にて魔王に対し、メイからの嘆願が在った。
「魔王様、この女の殺害許可を頂けないでしょうか?」
物騒な言葉を発するメイの横には眠そうなウィズが不機嫌そうな顔をして立って居た。
「あのね。こんな朝早くから私を殺すとか殺さないとかで呼ばないでくれる?」
「黙れ、貴様の行動は魔王様の配下として実に愚かだということを死を持って償え」
魔王は二人の会話を聞きつつ、何が原因なのか詳細をメイに尋ねた。
「一応聞きますが、ウィズを殺したい理由とは何ですか?」
「魔王様。この女が部屋に住んでから一日足らずで部屋をゴミまみれにしたのです。魔王様の城を汚した罪。万死に値します」
「もう、アレはゴミじゃなくて魔導書とか魔道具とか書留とか色々必要なモノなのよ」
その言葉を聞いて魔王は呆れた溜息を吐いてメイに言葉を返す。
「ウィズの部屋なのだから、自由に使って構いません。そんなことで殺そうとしないで下さい」
「ですが魔王様!! それだけでは無いのです!! この女、私を使用人の様にこき使おうとするのですよ!!」
「えっと……メイは使用人なのでは?」
「私は魔王様の使用人です!! それなのにこの女は、食事を持ってこいだの、お風呂用意してだの、私の分身を常に一体傍に仕えさせろだの。私は決してこの女の使用人ではないのです!!」
メイは更に続けて言う。
「魔王様の命令は何でも喜んで受け入れます!! アトラ様の指示も魔王様の為の行動ですのでそれも聞きましょう!! ですがこの女には魔王様に対する尊敬も忠誠心も感じられません!! きっとこの女は魔王様を自分の良いように利用したり、平気な顔で裏切ったりするような外道です!! ですので、今すぐにでもこの女の殺害許可を頂けないでしょうか!!」
メイの怒涛の嘆願に魔王は呆れた溜息を吐いてから返答する。
「考えすぎですよ、メイ。そうですよね、ウィズ?」
「そうよ、私は魔王ちゃんを利用しようとはするけれど。裏切ったりはしないわよ」
「あれ?」
魔王がウィズの返答に疑問を抱くと同時に、玉座の間の扉が大きな音を上げて吹き飛んだ。
吹き飛んだ扉と同じ様に吹き飛ばされて中に入って来たのは背中に黒い翼を生やし、体中が傷ついたアトラだった。
「魔王様!! 敵襲です!! お逃げ下さい!!」
魔王はアトラのそんな言葉を聞いて、勇者がやってきたのかと視線を破壊された扉の方へ向ける。
扉を破壊した土煙の中から金属音の足音が聞こえ、やがて大きな剣を担いだ甲冑姿の何者かが現れた。その姿を見たウィズは呑気に欠伸を一つ掻いてから口を開く。
「遅かったじゃない、剣豪」
「貴様と違って瞬間移動は出来ないからな。それで、魔王はアレか?」
「そうよ、アレが当代の魔王様。ちなみに相性最悪だと思うから……」
「相性など関係無い。強者が勝ち、敗者が負けるそれだけだ」
ウィズと少し会話をした剣豪と呼ばれる甲冑は魔王の方へと歩き出す。
その動きを止める為にアトラとメイが剣豪に襲い掛かる。
だが、たった一振りで薙ぎ払われ、数秒の足止めも叶わなかった。
そして剣豪は魔王の方へと近寄り剣先を向けて言う。
「魔王、この俺と一騎打ちをして貰おうか?」
「鎧風情が!! 調子に乗るな!!」
そう怒声を上げながらアトラは自身の腕を肥大化した黒い鎧の様な腕に変形させて、剣豪を殴りつける。剣豪はアトラの拳を大剣で受け止め、剣と拳がぶつかり合い強い衝撃を放つ。
そしてメイは一瞬の隙をついて剣豪の背後を取り、影で生成した短剣を使い、胴体と兜の間に出来る小さな隙間に突き刺した。勝利を確信したメイだが、手応えの無い違和感に気が付き即座に退避した。
「貴様!! リビングメイルか!!」
怒声を上げるメイに対してウィズが答える。
「正解。魂を付与した鎧 ≪リビングメイル≫。彼を殺すには本体である鎧を壊す必要が在るのだけれど、メイのその短剣じゃ役不足ね。それにアトラでも鎧は破壊できないでしょうね。破壊するには光属性か鉄を溶かす炎属性の攻撃かしら」
ウィズのその返答に何も言わずメイは殺意の視線を向け、短剣を構える。アトラと剣豪は激しい攻防を行い、その荒れた様子を目の当たりにした魔王は大きく声を荒げて言葉を発する。
「全員!! そこまで!!」
その号令に剣豪を攻撃していたアトラは下がり魔王の横へ付く。メイも同じように魔王の傍へ近寄った。剣豪とウィズは視線を魔王の方へと向ける。
「まず、アナタの目的は何ですか?」
そう言って魔王は視線を剣豪へ向けて問いかける。
「最初に言っただろう。魔王、俺と一騎打ちをしろと」
「では何故、私とアナタが一騎打ちをしなくてはならないのですか?」
「俺が勝てば魔王という最強の存在を超えた証明になる。俺が負ければそれまでの強さだったと死ぬだけだ」
「私はアナタと戦いたくないですし、アナタを殺したいとも思って居ません」
「まるで、お前が俺を殺せるみたいに言うじゃないか?」
「ええ、たぶん。私はアナタを殺すことが出来ますよ。」
「なら、俺を殺してみろ。俺より強い事を証明してみろ。魔王」
剣豪のここまでの行動と会話を聞いて、彼との対話は不可能なのだろうと魔王は悟った。
対話が不可能ならば実力行使しかなくなる。魔王は一つ溜息を吐いて剣豪に告げる。
「アナタにツルギの名を与えます」
「名付けか、だがそれはお互いに合意が無ければ無意味なモノだ。そんなことも知らないとはな」
「それではツルギ。命令です。その場から永遠に動かないで下さい」
「……」
ツルギは魔王の戯言をくだらないと思いながら体を動かそうとした。だが、魔王の命令を遵守するように微動だに動くことが出来なくなっていた。
だからツルギはウィズに問いかけた。
「どういうことだ?」
「名付けの強制。たぶん、魔族や魔物は彼女に逆らうことは出来ないでしょうね」
「ありえん」
「でも、現に私もアナタも名付けを強制されてる」
「お前もか、解除方法は?」
「魔王ちゃんを殺すこと。でも、私達じゃもう無理ね」
ツルギは諦めた様子で魔王に話しかける。
「それでいつまでこうしているつもりだ? さっさと止めを刺せ」
「だから、私はアナタを殺す気は無いとさっきから言ってますよね? 私の配下の者を傷つけるのは止めてください。それと私を殺そうとするのもダメです。いいですね?」
「俺に拒否権はないだろう?」
「ありません。命令です」
「そうか」
「じゃあ、自由に動いていいですよ」
魔王のその言葉と同時にツルギは動くことが出来るようになった。
これが魔王の力と感心しながら、ツルギは出口へ向かって歩き出す。
「何処に行くんですか?」
「お前に与えられた名付けを克服する。そしてお前を殺す」
魔王はまだ諦めてないのかと困惑しつつも去って行くツルギを見送った。
そして魔王はウィズに視線を合わせ、今回の件についての詳細を命令して吐かせた。
話は聞かないが忠誠心の厚いアトラとメイ。利用し、裏切り、殺そうとするウィズとツルギ。
魔王は自分が名付けを行った配下に頭を抱えるの日々が始まった。




