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アレン達五人はベルディア王都から馬車に揺られ、西の魔法都市へ足を運んでいた。
馬車を引くのは商人の男。彼の護衛依頼をアレン達は受けていた。
門を潜り、都市の中へ入り、無事依頼が完了した。
依頼完了のサインを貰い、途中でバテたリンとミラを荷台から降ろして、商人は何処かへと去って行く。
「やっと着いたわね」
「長い道のりでした」
「お前らはすぐバテたろうが。ユナとミシェリーを少しは見習え」
旅の道中、護衛として馬車を囲むように五人は歩いていたが、後衛職のミラとリンは途中で疲れて馬車に逃げ込んだ。その代わりにアレン・ユナ・ミシェリーが最初から最後まで歩き続けた。
やはり前衛職と後衛職の体力面での差は大きい。などと思いながらも、アレンは魔法都市の冒険者ギルドへ足を運ぼうと歩き出す。その時、見知らぬ少女に声を掛けられた。
「やぁ、よく来たね」
何処からともなく現れたのは身なりのよさそうな少女だった。
白みの掛かった金髪の長い髪を紐で纏め、黒いドレスを着た少女。
アレンは彼女の言葉から察するに、今回の魔法都市へ来た目的に関係する人物だと察しがついた。
「魔法学園のティナ学園長に会いに来たんだけど。その使いか?」
「君達が会いに来たティナは私だよ。よろしく頼むよ、勇者・聖騎士・聖女・賢者。そして護衛の君」
「なんで、この世界はガキばっかり凄い役職に付いてるの? 神様はロリコンなの?」
「そうかも知れないね。当代の勇者様達は何故だか年端のいかない子供ばかりが選ばれている。これは異例の事態だよ。後、私はこう見えて君達よりお姉さんなんだぞ?」
「全然そう見えないだけど? お姉さんって言うより、お子さんなんだけど?」
「年齢だと、三百年生きてるお姉さんだ」
「お姉さん通り越してお婆さんなんだよそれ」
「まあ、そんなどうでもいいことは置いといて。私の部屋でゆっくりと話をするとしよう」
アレンはティナの言葉に困惑しながらも、とりあえず彼女の後ろをついて行き魔法学園へと向かうのだった。
ティナと名乗る少女に連れられてやってきたのは魔法都市に存在する魔法学園。
その応接室らしきところに五人は通された。そして全員が各々席に座ると、周囲の食器やお菓子達が独りでに動き出す。棚に置かれた皿やカップが人数分浮き、各々の前に置かれ、皿の上には宙を舞ったお菓子がゆっくりと着地し、紅茶の入ったティーポットが空のカップを満たす。そしてあっという間に持て成しの準備がされた。
ユナ達は歓喜の声を上げ、大人のアレンもその光景に驚きを隠せなかった。
「それでは話を始めよう。何から聞きたい?」
アレン達がこの場に来た目的は一つ、魔王についての情報収集だった。
「魔王について知ってることを教えて欲しい。強さ、居場所、持ってる能力。何でも良い」
アレンがそう言うとティナは少し考えてから返答する。
「まず、現魔王について私が知っていることは居場所くらいだ」
「北の魔王城ってことか? それは確かなのか?」
「二代・三代の魔王はそこを拠点として活動した。それにちゃんとした理由も在るからね」
「理由? 瘴気が濃いとかそういうことか?」
「今となってはそれも理由の一つだろうね」
そう言いながらティナはアレンに対して逆に質問を投げかける。
「初代の魔王は何処に拠点を作ったと思う?」
「北……じゃないんだよな? だが、北の何処かじゃないのか?」
「正解はベルディア王国だよ」
「訳が分からんな」
「初代魔王が降臨した時、ベルディア王国以外の大きな国は存在しなかったんだよ。西の魔法都市、東の騎士国家、南の商業都市。その全ての国は初代魔王を討伐した後に出来た国なんだ。だから魔族側は現ベルディア王国を落とせば終わる。そう考えていたんだろうけど、東西南北の四方に散らばった人類が手を取って総攻撃を仕掛けることによって、初代魔王は討伐されたんだ」
「人類の総攻撃? 勇者達が倒したんじゃないのか?」
「魔王に直接手を下したのは勇者だよ。神の力を宿した聖剣を扱えるのは彼だけだったからね。でも、そこに辿り着くまでには沢山の犠牲の上に成り立った勝利なんだ。勇者達だけの勝利ではない。人類が一丸となって勝ち取った勝利なんだよ」
「それで、二代目からは何で北の魔王城になったんだ?」
「敵陣のど真ん中に拠点を作るのは馬鹿な行為だと思わないかい?」
「それで北の最果てか」
「そう初代勇者が出生した場所を潰して、次代の勇者誕生を阻むのも目的だったけど。まあ血筋で勇者が決まっている訳ではなかったから二代目魔王の無駄骨だったけどね」
「昔は北に人が住んでたのか?」
「昔は瘴気なんて余り見ない代物だったんだよ。たまに魔物の死骸が溜まって発生するくらいでね」
「じゃあ、何で今は瘴気が発生してるんだ?」
「北の魔王城を発生源とした瘴気、その原因が三代目魔王なんだよ。初代、二代目の魔王は純粋な武力で人類に勝てなかった。だから人類に有害な毒で世界を汚染しようと考えた訳だ」
「なら今回もその手の魔王なのか? 純粋な武力では無く、そういう能力に特化した?」
「最初に言ったけど居場所以外は全て不明だ。それでも魔王の力は年月を経て変化しているのもまた事実。初期は純粋に暴力で人間を殺すだけの悪魔だったのに、徐々にやり口を変えて進化してるよ。まったく」
「なあ、さっきから気になっていたんだが。随分と歴代の魔王に詳しいな。むしろ詳しすぎるくらいだ」
「ああ、私は初代の賢者だからね。戦ったことが在る魔王は初代のみだけど。二代目・三代目の魔王についてはその代の勇者達の事後報告とユグドラシルの杖を通しての視野共有といったところかな」
「その杖、視野共有なんてことが出来るのか? ということは今までの出来事を全て見て来たって事か?」
「こう見えて私も暇では無いからね。向こうから呼びかけられれば出向くが、こちらから顔を出すことは基本的にしないよ。でも、一度だけ今回の賢者がどんな者か見に行った時には文字が読めないと嘆いていたことには恐れ入ったよ。文字は読める用意なったかい? 当代の賢者?」
ティナがリンにそう言葉を投げかけるとお菓子を食べる手が止まり、不機嫌そうな顔で返答する。
「文字位もう読めるようになってるわよ。初代賢者だかなんだか知らないけど、私、コイツ嫌い」
「まあ、そう捻るな当代の賢者。お詫びに後で私の持つ最高位の攻撃魔法をプレゼントしよう」
ティナがそう言うがリンはそれ以上何も言わず、紅茶を飲んで話を聞く。
「では他に聞きたいことはあるかね? 三百年生きたこの私が答えられる範囲の質問なら答えてあげよう」
そう言うとユナが「はい!!」と手を上げて質問する。
「今の私達と昔の魔王達だとどっちが強いの?」
「五分の戦いになるだろうね。能力として聖剣と聖杖は三百年の歳月の研鑽を積まれてきた武器。だが使用者の経験値が余りにも少なすぎる。もっと経験を積んで戦えば、確実に歴代の魔王達よりも強くなれるよ」
「なるほど、もっと強くなればいいってことだね」
「そうだね。もっと強くなって世界を守れる最強の勇者になるといい」
「うん、わかった」
次にミラが手を上げて質問する。
「私には何か最高位の攻撃魔法のようなモノはないのでしょうか?」
「聖女なら……サンクチュアリは覚えているかい? 北ではかなり使い勝手の良い奇跡だ使える様になっていた方が良い」
「私の受け取った本の中にはその奇跡は書いてなかったはずです。なので教えて頂けると幸いです」
「私が知っている奇跡を教えることは可能だ。だが歴代聖女の文献なら南の商業都市に足を運ぶと良い。そこには歴代聖女の手記が収められている筈……」
「それなら、もう無いですよ」
「そんな筈はないだろう。歴代聖女の手記は魔王に対抗する為の手掛かりで、厳重に保管され、管理されているはずだ」
「はい。ありがたいモノなので、教皇様がご利益が在ると偽物を売りつけている内にいつの間にか本物が偽物にすり替わって居たそうですよ。本物は行方知れずです」
「なんて愚かなことを……あの男、人類の敵と見なして即刻始末するべきだな……」
「それはよろしくないです賢者様」
「だが聖女の手記の偽物を作り、あまつさえ原本を無くしたなどと聖職者としてあるまじき行為。これは万死に値する行為だ」
「それは理解しています賢者様。ですので……死にたいと懇願するほどの苦痛を寿命が尽きるまで与え、飼い殺しにするというのはどうでしょうか?」
「えっ、怖い、怖い、怖い。君は本当に当代の聖女なのか!? 歴代の聖女でもそこまで闇を抱えては無かったよ」
そんなティナの反応を見てアレンは「歴代の聖女、闇抱えてるのかよ」と呟き、リンが「闇を抱えているから、聖女に選ばれるのよきっと」などと意味不明な返答を返していた。
そんなことを気にせずにミラが続けて言う。
「賢者様。私が魔王討伐に一役買い無事に凱旋出来た暁には、教皇が行った数多くの不正を追及し、神聖で正しい教会として導くことをお約束いたします。ですので、その時はお力添えお願いいたしますね」
「う、うん……。ほ、他に質問が在る者はいるかな?」
ティナは困惑しながらもミラの提案に了承し、話を元に戻す。
するとミシェリーが恥ずかしそうに手を上げていた。それに気が付いたティナは視線を向けて問いかける。
「当代の聖騎士は、私に何が聞きたいのかな?」
「どうすれば立派な淑女になれるのでしょうか?」
「えっ……?」
「僕……私は、立派な淑女になるようにと父上と約束したのですが。どうにも立派な淑女というモノが良くわかって居ないのです。ですので、賢者様!! 僕に、いえ私に立派な淑女というモノを教えてください!!」
「あの……えっと……」
ティナは懇願と期待の眼差しを向けるミシェリーに困惑しながらも、視線を一番話が通じそうなアレンに向ける。
「この質問は別に私じゃなくても答えられないかい?」
「まあ、答えてやってくれよ賢者様。三百年生きてきたその知識を生かす時が来たぞ」
「この程度のお悩み相談の為に私は三百年生きて来た訳じゃないぞ」
そんなことをティナは言うが年長者としてしっかりと質問には答えようと咳ばらいを一つしてからミシェリーに返す。
「まず男の子が淑女になるという時点で無理難題なのはわかってくれるかな?」
「あの……僕は一応女の子です」
「なんで、女の子が自分の事を僕って言ってるの!?」
「最初は立派な男性の騎士を目指してたんですが、最近、父上と約束したもので。立派な淑女を目指しています!!」
「訳が分からない……」
「それで……その……質問の答えは……?」
「あ~、とりあえず見た目から入れば良いのでは? 私のようなドレスを着たり、女性らしいモノを身に着けてみるのが早いと思う。というか、なんでこんな質問に答えているんだろう……」
ティナはそう呟きながらも仕切りなおす。
「まあ、お菓子と紅茶を食べながらもう少し雑談をするとしよう。その後に当代の賢者には魔法を、当代の聖女には奇跡を教えよう」
ミシェリーの質問に対してティナはそう言って文字通りお茶を濁した。




