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 アレンから逃げ切ったリンは自室で魔導書を眺めていた。

 初級・中級・上級の攻撃魔法・補助魔法は一通り使える様になったが、効果と呪文の名称が使い慣れていない為曖昧なままだった。その確認の為の読書をしていた。

 お昼までここで時間を潰そうと考えていると部屋の扉が叩かれる。

 アレンが追っかけて来たのかと警戒して息を潜めるが聞こえてきたのはユナの声だった。


 「リン居る?」

 

 アレンではないなら大丈夫だと思いリンは「居るわよ」と返した。

 すると扉が開きユナが部屋へと入って来る。


 「何してるの?」


 そう言ってユナはリンの方へと近づくとリンは手に持った本を見せる。


 「見てわかるでしょ? 勉強よ勉強」


 「そっか、鬼ごっこは?」


 「鬼から隠れて本を読んでたって問題ないでしょ?」


 「そうだね」


 そう言ってユナはリンに近寄って肩にポンと手を置いた。


 「何?」


 ユナの不自然な行動にリンは首を傾げて質問するとユナは笑顔で答えた。


 「はい、タッチ。リンが鬼ね」


 「……は?」


 そう告げたユナは呆然とした顔をするリンを置いて部屋から逃げ出した。

 リンは慌ててユナを追いかけようと部屋を飛び出すが、ユナの姿はかなり遠くの方まで逃げてしまっていた。


 「やられた……」


 リンはユナの事を無暗に追わず、その場で思考を始めた。

 そして何かの結論に達した彼女はゆっくりと歩き出す。




 ベルディア城の調理場には数人の使用人達と共にお菓子作りに励むミラの姿が在った。


 「コレは絶対に美味しいですよ」


 たっぷりの砂糖・蜂蜜・バターを生地に混ぜ込み、掻き混ぜるミラ。

 その混ぜ込んだ生地を焼き菓子の型に入れ、それを使用人達が火にかける。

 ミラは嬉しそうにお菓子を作り、それを手伝う使用人達も甘くて美味しいお菓子が出来ることに歓喜していた。

 

 「何でアンタは料理をしてるのよ……」


 ミラと使用人が嬉しそうにお菓子作りをしている厨房に呆れた様子でリンが入って来た。


 「マドレーヌという焼き菓子なのですが、リンちゃんも食べます?」


 「どのくらいで出来るの?」


 「焼きたてはすぐに出来ますよ。火にかけたばかりなのでもう少しってところですね」


 生地を型に居れ、火にかけたマドレーヌの甘い香りが厨房に広がる。


 「美味しそうな、良い匂いね」


 「絶対に美味しいですよ!!」


 リンは歓喜するミラに近寄り肩を叩く。ミラはそれを不思議そうな顔でリンに問いかける。


 「どうしたんですか、リンちゃん?」


 「アンタが鬼ってことよ」


 その瞬間。ミラは全てを察知して、リンの身体に触れようとする。だが、運動能力・反射神経共に同じくらいの彼女達では行動の予測をしていたリンに軍配が上がり、ミラはリンに触れることは出来なかった。

 その場から即座に撤退しようとするリンの後ろ姿を見ても、ミラは諦めず、近くに置いた聖杖を手に取り奇跡を唱える。


 「プロテクション!!」

 

 光の障壁がリンの進行方向を遮る様に厨房の出入り口に出現する。

 

 「甘いですよリンちゃん!!」


 入り口を光の障壁で塞がれたリンは呆れた顔をミラに浮かべながら返答する。


 「甘いのはアンタの方よ、ミラ」


 そう言ってリンは杖を構えて詠唱する。


 「エンチャント・ダークネス」


 リンの詠唱によって手に持った杖は黒い瘴気を纏い始めた。

 その杖の先端に触れるだけで、光の障壁は溶けて消えていく。


 「どんな属性も使える賢者様と光の奇跡しか使えない聖女様じゃ相性が悪かったってところね」


 「卑怯ですよ、リンちゃん」


 「アンタにだけは言われたくないわよ」


 リンはそう言って悠々とその場を去った。

 ミラは悔しそうな表情を浮かべながらも現状の打開に思考を巡らせる。


 ――アレンさんを探す? いや鬼が交代した時点であの人は仕事を理由に城の外へ出ているはず。それならユナちゃん? それだと何かする前に奇跡の範囲外まで簡単に逃げられてしまう。それならば、やはりリンちゃんしか居ませんね。


 ミラは一緒にお菓子作りをしていた使用人に後の事は任せ、リンを追いかける。

 厨房を出て、すぐの見える場所にリンの姿が在った。すかさずミラはリンの動きを止める為に聖杖を前に構え唱える。 


 「多重詠唱、プロテクション!!」


 ミラの唱えた奇跡はリンを中心に正方形の結界が五重重ねて張られる。

 リンはそれに気が付き、追いかけて来たミラの方へと視線を向ける。


 「どれだけプロテクションを重ねたって私の前にでは無意味なのはアンタだって理解してるでしょ?」


 「そんなことはわかってますよ。少し動きを止めてくれるだけで良いんです」


 リンはミラが何を考えているのかと気になりながらも、先程の闇属性の力を付与した杖で光の障壁を破ろうとした。その瞬間、ミラは大きな声を上げる。


 「皆さん大変です!! リンちゃんが魔族の精神攻撃を受けて操られています!! 兵士の皆さん!! リンちゃんを今すぐ捕まえてください!! 私が聖女として彼女の呪いを必ずや解いて見せます!!」


 聖女様の言葉に周囲に居た兵士達はどよめきだす。だが唐突に魔族の精神攻撃と言われても、兵士達には実感がわかなかった。だがそれを説得する理由もミラはしっかりと用意していた。


 「見てください!! あの禍々しい闇属性の瘴気を!! アレが魔族に操られている証拠です!!」


 その言葉を聞いた兵士達は頷きながら、声を上げ、周囲に知らせ始める。

 魔族の襲撃、賢者様が魔族に憑かれた、全兵警戒態勢、などと事が次第に大きくなり始めて来た。

 不味い事になっていることに気が付くリンはミラの行動に声を荒げる。


 「ちょっと!! ミラ!! そこまでする必要ないでしょ!?」


 「ありますよ……ここまで追い詰めたリンちゃんが全部悪いんです……」


 「どう考えたって、私のせいじゃないでしょ!? 」


 「なら、私の代わりに鬼を交代してください!!」


 「嫌よ!!」


 「なら仕方が無いじゃないですか!! 私だって筋トレなんてしたくないんですよ!!」


 「そこは大人しく諦めるか、頑張って誰か捕まえなさいよ!!」


 「日頃、取り繕って居るのでリンちゃんは知らないでしょうけど……私って結構我儘なんですよ?」


 「日頃から隠しきれてないわよ!!」


 そんな二人のやり取りをしていると兵士達がぞろぞろと集まり、リンを中心に兵士達が囲む。

 その様子を見たミラは大声で兵士達に指示を出す。


 「リンちゃんは魔族に操られているだけです!! 傷つけないように捕獲してください!! 後は私が何とかします!! 確保!!!」


 ミラの号令と共に兵士達はリンを確保しようと素手で襲い掛かるが、リンはその前に杖を構えて詠唱する。


 「エアフォース!!」


 ≪エアフォース≫風属性の補助魔法。風の聖霊の力によって身体が軽くなり、移動速度や跳躍力が増幅する身体強化の補助魔法をリンは使い、その場から大きく跳躍した。

 身体強化の魔法や攻撃魔法を使って兵士から逃げるリン。兵士達を扇動し身体強化の奇跡を施しながら追いかけるミラ。そしてリンに襲い掛かろうとする兵士達をユナが守る様に聖剣で薙ぎ払う。

 昼頃にアレンが戻るとそこには悲惨な光景が映り、ベルディア王から呼び出しを受けることになった。

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