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 気絶したミシェリーは自室で目を覚ました。

 手足の感覚が鮮明で、傷や痛みを感じないことを不思議に思いながらも体を起こす。

 格好は寝間着姿に着替えさせられ、自分が何をしたのか思い出す。


 ――ユナは無事なのだろうか?


 一緒に付いてきたユナの事を心配するミシェリーは事の顛末を確かめる為に部屋を出て行った。




 ミシェリーが向かった先は父親であるファラン王の執務室だった。

 扉をノックし、ファラン王の許可を得てから部屋に入る。

 もしかしたらユナ達も居るかと思ったが、部屋にはファラン王の姿だけだった。


 「ユナは無事ですか?」


 「彼女達なら無事だ。こちらでの用事が済んだ様でもうベルディアに帰ったがな」


 「そうですか……」


 助けてくれたお礼を言いそびれてしまった。そう思いながらもミシェリーは続けて話す。


 「今回のことは申し訳ありませんでした。父上……。これからは女として慎ましく暮らしていきたいと思っております」


 そう言ってミシェリーは頭を下げる。そしてその場を去ろうとするとファラン王が声を掛ける。


 「剣の稽古は程々にしなさい。今回の様に危ない目に会うことも在るから自衛の手段は女だとしても必要だ。それと自分の事は『僕』ではなく『私』というように。あとはパーティーでの踊りと女性としての立ち振る舞いも学んでもらう。良いな?」


 「はい。わかっております。父上」


 ミシェリーはそれ以上何も言わなかった。

 勝負から逃げ、聖剣を使ってトロルに挑んでも勝てなかった。

 そんな奴が魔王を討伐する事なんて出来ないと思い知った。




 それから一週間程たったベルディア王国にファラン王が訪問してきた。

 来客用の部屋にベルディア王、ファラン王、そしてアレンの姿が在った。

 三者が小さなテーブルを囲む中、気まずそうにアレンが話を切り出した。


 「あの……何ですか? 俺になんか面倒なことを押し付ける奴ですよねコレ?」


 そういうとファラン王は単刀直入に今回の目的をアレンに告げた。


 「アレン君。私は君と手合わせをしたいと思ってやってきたんだ」


 「手合わせ相手なら国に沢山いるでしょう?」


 「私と手合わせして勝てたなら褒美も出すとしよう? それならやる気はでるだろう?」


 「褒美って何が貰えるんですか?」


 「そうだな。私の裁量で決められるモノなら何でも用意しよう。金・武器・土地好きなモノを何か一つ選びたまえ」


 「ちなみにこちらが負けたらどうなるんですか?」


 「特に無いよ。君が私より弱かったというだけの話だ」


 「……」


 アレンはファラン王の明らかに怪しい提案の真意を確かめる為にベルディア王へと視線を向ける。


 「よいではないかアレンよ。彼の騎士王と模擬戦といえど戦えるのは剣士として、冒険者として名誉ではないか?」


 「名誉なんて要らないですよ」


 「ならば勝って、金貨でも手に入れればよい」


 「そう言う問題じゃないでしょ? 一国の王様負かしたらそれはそれで問題……」


 「それを言うなららば、一国の王の願いを叶えぬ方が問題が在ると思わぬか」


 「つまりまた拒否権がないんですね」


 「なに断っても良いがファラン王は良く思わんだろうな」


 アレンは王族の我儘に付き合うのも仕事のうちだと諦めて「わかりました」と頷いた。




 ベルディア城の庭でファラン王とアレンが木剣を握って立ち会う。

 騎士国家シェルの城でのファラン王とミシェリーの模擬戦では沢山の兵士が集まって居たが、今回の観客はユナ達三人とベルディア王、傍付の使用人や近くで騒ぎを聞きつけた兵士が数人見える。

 両者は木剣を構え、ベルディア王の合図と共に手合わせが始まった。

 手合わせのルールはどちらかが一撃を貰えば終了という単純明快なルールだ。

 アレンは距離を詰めて適当に打ち合いをした後、負けようと思って剣を振るう。

 その一撃をファラン王は全力ではじき返し、アレンの剣は手から離れ宙を舞う。


 「アレン君。手加減は無用だ。本気できたまえ」


 流石騎士王と呼ばれ、金等級並みの実力の騎士様だと噂されることはあるとその一振りでアレンは思い知った。


 「俺の負けで良いじゃないですか?」


 「手加減された相手に勝って何が嬉しい?」


 アレンは困惑しながらも剣を拾い、再度構える。

 本気でやるか、手加減するか、悩みながらもアレンは剣を振るう。

 隙を見つけて、軽い一撃を当てる。それが良い落とし所だろうと思いながらもアレンは剣を振るうが、次の瞬間には懐に会心の一撃を喰らって居た。


 「まだ加減をしているな。もう一度言う。本気でこい」


 アレンはその一撃を喰らい、頭に血が上った。


 「悪いが王様。痛くても文句言わないで下さいよ?」


 「構わん。最初からそのつもりだ」


 次の瞬間にはアレンはファラン王に対して反撃を許さない怒涛の攻めで攻撃した。

 どんな攻撃も、どんな方向からでもファラン王は反応し防ぐ。それでもアレンは攻撃を緩めず、猛攻を続ける。そしてファラン王はアレンの猛攻の中で唯一出来る隙を見つけ、待つ。


 ――そろそろか……。


 防戦一方のファラン王は大きく後ろに距離を取る。それに反応するようにアレンも追従する。

 ファラン王とアレンの距離が離れた分、アレンが距離を詰める分攻撃が遅れ、待ち構えるファラン王はそれに合わせて剣を振るうことが出来た。ファラン王の狙いはアレンの木剣の一点。常にアレンの攻撃はそこで受けた分脆くなっている。ファラン王はそこに向かって木剣を振るう。

 ファラン王の計算された攻防。その結果アレンの木剣は上から半分が吹き飛んだ。

 だがそれでもアレンは前に進む。折れた剣を捨て、勝ちを確信したファラン王の懐に潜り込む。 

 懐に潜り込んだアレンはファラン王が剣を持つ手を抑え、もう片方の素手でファラン王の腹を思いっきり殴りつけるのだった。


 「一撃は一撃だ」


 ファラン王はその場に倒れ、痛みに耐えながらも笑い声を上げて立ち上がる。


 「普通の騎士ならば剣を折られた時点で戸惑い、諦めるのだがね。狙っていたな?」


 「そりゃ、アレだけ雑に扱えば壊れるのはわかってましたからね。そっちもコレを狙ってたんでしょ? それに乗っかっただけですよ」


 「よろしい。君の勝ちだ褒美は何が欲しい?」


 「要らないですよ。この一勝する前に二敗してるんですから、実質俺の負けです」


 「そう言わないでくれ。私としては十回に一回くらい君が勝てば良いと思って居たんだぞ?」


 「十回も戦いたくないんですが?」


 「それで何が欲しい?」


 ファラン王の問い掛けにアレンは悩む。

 ベルディア王との時もそうだが、今現在欲しいモノと言われても特になかった。

 だからアレンはこう答える。


 「今の所、コレと言って欲しいモノは無いので一つ貸しということでどうですか?」


 「貸しか……。君がそれで良いなら、良い。だが、少しばかりの金貨と剣を別に送るとしよう」


 「まあ貰えるならありがたいですけど……」


 「では後日、使いを寄こす。後は君に任せるよ、アレン君」


 「はぁ……?」


 アレンはファラン王の意図が読めず、彼は満足した様子で嵐の様に去って行った。

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