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 ファラン王との模擬戦から逃げ出したミシェリーは北門を通り街の外へと出て行った。

 ミシェリーを追いかけていた兵士達は体力などを考えず全力で走る彼女に追いつくことは出来ず見失ってしまった。だが、彼女と同じ境遇のユナだけがミシェリーの後に追いつくことが出来た。


 「このままベルディア王国に逃げる?」


 ユナはミシェリーにそんな提案をした。

 だがミシェリーは何も言葉を返すことが出来なかった。

 聖騎士としてあの場で何もできない自分が果たして彼女達と共に歩んで良いのだろうか。

 無抵抗の父親を傷つける覚悟も無く、自分の中の正しさに従った。その結果、何かを得られたのだろうか? そんな風に疑問に思って居ると近くから大きな足音が聞こえてくる。


 「ミシェリー!! 逃げるよ!!」 


 ユナはその音に勘付き、ミシェリーの腕を引っ張ってこの場から立ち去ろうとする。

 だがミシェリーは微動だにせず、足音の主に視線を向ける。

 人の大人の二倍程在る体躯に緑色の肌に肥えた身体。≪トロル≫が姿を現した。


 「何してるのミシェリー!? 逃げるよ!!」


 ユナはミシェリーに大声を上げて逃げる様に促すがミシェリーはその声を無視してユナの手を振り払う。そしてトロルの目の前に立って剣を構え、戦闘態勢を取る。

 模擬戦から逃げ、父上から逃げ、化け物からも逃げるなら、それはきっと騎士ではない。そう思いながらも彼女は覚悟を決めて剣を振る。

 彼女の渾身の一撃は大柄なトロルの身体を上下に別れさせる程の切れ味と威力だった。


 ――やった!! 


 ミシェリーは初めての実戦で魔物を討伐出来たと歓喜する。だがそんなことでトロルは死にはしない。切り離されたトロルの上半身はミシェリーの身体を掴む。


 「えっ?」

 

 仕留めたと思ったトロルの予想外の行動にミシェリーは驚きの声を漏らした。

 そして次の瞬間にはトロルに捕まったミシェリーは遠慮の無い力で地面に叩きつけられる。

 防御力の高いフルプレートメイルを装備していたとしても、衝撃までは防ぐことは出来ない。

 訓練や模擬戦での痛みである程度は慣れていたと思って居たが、加減を知らない暴力の痛みを初めて受けたミシェリーはそのまま気絶した。


 「ミシェリー!!」

 

 地面に倒れ、聖剣を手放し、鎧が消え去ったミシェリーにユナは叫び声を上げ動き出す。

 まずは上半身だけのトロルの視界を剣で潰し時間を稼ぐ。ユナが気絶するミシェリーに近寄り、とにかくこの場から離そうと身体を引きずろうとする。そんな中、周囲から大きな足音が複数聞こえてくる。きっと近くに居たトロルが騒ぎを聞きつけてやって来たんだと感じたユナは大声を上げる。


 「アレン兄!! ミシェリーがトロルにやられた!! 助けて!!」


 叫び声を上げるユナに対して返答は無い。それでも状況は常に悪い方へと動き出している。

 上半身と目を潰したトロルは徐々に再生を始めていた。周囲から聞こえる大きな足音も徐々に近づいている。そしてユナは思い出す。トロルの殺し方を。


 「再生限界まで切り刻む」


 ユナはそう呟いて前に出る。再生の完了したトロルの頭を飛ばし視界を奪う。次に足を飛ばし、手を飛ばす。後は胴体を細切れにすれば良いと思い剣を振るうが、胴回りが大きく、ユナが持つ直剣でミシェリーの様に胴体を切断することは困難だった。それでも今現状で出来る手段は取っている。

 そう思った矢先に近くで音がする。ユナが振り返ればそこにはトロルが居た。

 周囲を見渡せば囲まれている。目の前で切り伏せたトロルも未だに動き、再生を続けている。

 ミシェリーに声を掛けても目を覚まさない。ミシェリーを引きずって逃げても追いつかれる。

 そんな劣勢の状況でもユナは諦めないで剣を構える。きっと皆が助けに来てくれると信じているから。


 「こんな所まで逃げるんじゃねぇよ」


 そう言ってアレンは燃える剣でユナ達の周りを囲むトロルの頭を吹き飛ばす。

 切れた断面は焼けて再生が止まり、頭の無いトロルは無差別に暴れだす。

 

 「アレン兄!! 遅い!!」


 「俺はお前らと違って一般人なんだよ!! さっさと逃げるぞ!!」


 アレンはユナの傍で倒れるミシェリーを肩に担ぎ来た道を戻る。

 ユナとアレンの二人がその場から離れようとすると、残った二体のトロルが後ろから追いかけてくる足音が聞こえてくる。


 「リンとミラは?」


 ユナはリンの魔法で後ろから追いかけてくるトロルを討伐して貰おうと考えたが、二人の姿が見えないことに気が付いてそんな質問をアレンに投げかける。


 「叫び声が聞こえたから俺だけ先に来たんだよ。もうすぐ合流できるはずだ」


 そんな話をしているうちに視線の先に二人の姿が見えてくる。

 

 「リン!! トロル二体だ!! 任せた!!」 


 アレンの言葉にリンは何も返事をしなかった。

 何事かと思いながらもユナとアレンが近づくとミラとリンが息を荒くしてその場で足を止めて休んでいた。


 「私達は……アンタ達と違って……そこまで元気じゃないのよ……帰っていい?」


 「そうです……私も……できれば走りたくないんですよ……帰っていいですか?」


 「帰る前に仕事しろ!! 仕事!!」


 アレンがそう言うとリンは視線をユナに向けて、手招きする。

 ユナは不思議そうな顔で近寄るとリンはユナに向かって杖を構え唱える。


 「エンチャント・プロミネンス」


 その言葉をリンが唱えるとユナの手に持つ聖剣に炎が纏わり付いた。

 そんな出来事にユナは驚きの声を漏らす。


 「これなら、ユナでもアレに対抗できるでしょ? 私は疲れたから、後は任せるわ」


 「ありがとう、リン!! 行ってくるね!!」


 そう言ってユナは元気一杯な声で後方から追いかけてくるトロルに向かって走り出す。

 二体のトロルは頭と両手両足を切り捨てられ、腹に燃えた聖剣を突き刺され、あっという間に消し炭になった。

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