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 「ミシェリー様。ミラ・シャルロット様が参りました」


 扉の向こう側から聞こえる馴染みの使用人の声。

 短い金髪の少女ミシェリーはその名前を聞いて目を輝かせながら扉の方へと駆け寄った。

 

 「ミラが来ているのかい!?」


 嬉々とした表情で扉を開ければそこにはミラと見慣れぬ少女が二人が居た。

 ミシェリーは誰だろうと疑問に思いながらも客人を部屋へと招き入れる。

 

 「ミラ、久しぶりだね? そっちの二人は?」

 

 「ユナちゃんとリンちゃんです」


 そう言ってミラは二人を軽く紹介すると、ミシェリーは二人に手を差し伸べて握手を促す。

 リンは嫌そうな顔をして少し後ずさり、ユナは笑顔でミシェリーと握手を交わす。


 「よろしくね。ミシェリー」


 ユナと握手を交わすミシェリーはユナの腰に携える剣に視線を向け問いかける。


 「ユナは剣士なのかい?」


 「私は勇者だよ」


 「勇者……君が勇者なのかい?」


 ミシェリーはそんな疑問をユナに問い掛ける。だが、その問い掛けにミラが代わりに答えた。


 「ユナちゃんは勇者。私は聖女。そしてリンちゃんは賢者ですよ」


 ミラが簡潔にそう説明するとミシェリーは唖然とした表情を浮かべ、次の瞬間には歓喜した。


 「そうか!! コレが神の導きという奴なんだね!!」


 突然に歓喜するミシェリーに対して、ユナとミラは少し戸惑いの表情を浮かべ、リンはドン引きしていた。


 「僕は聖騎士なんだ!! これから君達と一緒に魔王討伐に尽力し、共に世界を救おう!!」


 一人で盛り上がるミシェリーに対してリンは冷ややかな様子で話を始める。


 「確かに、聖騎士ってのは話を聞いたことあるけど。何でアンタみたいな子供が聖騎士なのよ?」


 「リンちゃん。それを言うとここに居る私達も同じなのでは?」


 リンはミラの反論に言葉を詰まらせる。次に、ミラがミシェリーに問いかけた。


 「その話が真実なら、神の啓示を受けて聖騎士の加護を貰ったってことですよね? 運命石で確認しましたか?」


 勇者・聖女・賢者・聖騎士。神の啓示を受けた人間は神から加護を受け取る。夢の中で、唐突に、直感的にそれを理解する。そして神様の加護を受けたことを証明する手段として、運命石と呼ばれるモノが存在する。神の加護を受けた小さな水晶玉。それを神の加護を持つ者が触れると反応して光る。こうして神に選ばれた者かを判別することが出来る。


 「疑うなら運命石を持って君達の前で証明するよ?」


 ミシェリーの言葉に対してミラのセンスライは反応しない。

 それならばきっと彼女は聖騎士なのだろうと考えたミラは更に疑問を持つことになる。


 「何故ベルディア王国へ向かわないのですか? ファラン王がこのことを知って居ればベルディア王に連絡をするはずですが?」


 その質問にミシェリーは悲しそうな様子で静かに答える。


 「父上は僕に魔王討伐の一端を担うことは無理だと考えているんだよ」


 勇者・聖女・賢者と大事に扱われては居るが、自分達でさえも魔王を討伐出来るのか不安に思って居る。他人ならば尚更信用出来る訳が無い。女の子達が魔王を討伐して世界を救う。それこそ御伽噺だ。


 「ミシェリーちゃんは無理だと思って居ますか?」


 「例え僕が聖騎士だとしても、僕一人の力では決して魔王を討伐することは不可能だと思う。でも、君達と共に切磋琢磨し、苦難を乗り越えれば、きっと魔王を討伐して世界を平和にすることは可能だ!!」


 その発言に感化されたユナはミシェリーの手を力強く握る。


 「一緒に頑張ろう!! ミシェリー!!」


 「嗚呼!! 共に魔王討伐を果たそう勇者ユナ!!」

 

 そんな盛り上がる二人を呆れた様子で窺う二人の後衛職。


 「ねぇ、この流れってあの暑苦しいのがパーティーに加わるの? 嫌なんだけど?」


 「暑苦しいのは否定しませんが、何で嫌なんですか?」


 「暑苦しい・嘘くさい正義感の塊・一人称が『僕』。生理的に無理」


 「酷い言われ様ですね。ユナちゃんと私は良いんですか?」


 「ユナは無邪気で素直で可愛げが在るわ。アンタは腹黒いけど距離感守るから楽なのよ」


 「ミシェリーちゃんも良い子ですよ?」


 「まぁ、良い子なのかも知れないけど……」


 ミシェリーの部屋でそんなことをしていると前触れも無く扉が開かれた。


 「ミシェリーとの面会はまたの機会にといったはずだが?」


 開かれた扉から不機嫌な様子のファラン王が部屋に入って来た。


 「ええ、体調が良くないと言われ心配になって見に来たんです」


 不機嫌なファラン王にミラは笑みを浮かべて返す。


 「それならば、もう良いだろう? ミシェリーに用事があるので関係無い者は出て行って貰えるかな?」


 ファラン王はそう言って入って来た扉からミシェリー以外を追い出そうと促すが、ミシェリーが前に出て声を上げる。


 「父上!! 僕はミラ達と共に魔王討伐に向かいます!! その許可を下さい!!」


 ミシェリーの言葉にファラン王は深く溜息を吐く、そして呆れた顔で短く返答する。


 「ダメだ」


 「何故ですか!?」


 「お前のような奴が魔王を本気で倒せると思って居るのか?」


 「僕一人では無理です!! ですが仲間が居れば可能です!!」


 「騎士の真似事をしているだけで実戦経験の無いお前に何が出来る?」


 「ならばこれから経験を積みます!!」


 「そういう問題ではない」


 「では、何が問題なのですか!?」


 ミシェリーの言葉にファラン王は少し間を置いてから答える。


 「お前は女だ。女なら女らしく生きろ」


 ファラン王がそう言うとミシェリーは拳を握りしめ、歯を食いしばり、怒りをあらわにする。


 「またそれですか? 女だから騎士にはなれない? 女だから剣を振るな? 女なら言葉使いを改めろ? 何故、僕が女性だというだけで否定されなくてはならないんですか!?」


 「お前が私の子供だからだ。親は子供を正しく導く義務が在る」


 「ならば聖騎士の加護を受けた者が勇者達と共に魔王を討伐することは正しい事ではないのですか!?」


 「それは正しさ以前の問題だ。お前にはそれを成し遂げる力が無い」


 その言葉にミシェリーの反論は途切れてしまった。

 ファラン王は俯き涙を流すミシェリーから視線をユナ達三人に向ける。


 「見苦しい所を見せた。悪いが早急に出て行ってくれるか? そして二度とミシェリーには関わらないで貰いたい」


 俯き涙を流すミシェリーの握りこぶしにユナの手が差し伸べられる。

 ミシェリーが顔を上げれば赤髪の少女が笑顔を向ける。

 

 「それじゃ、行こっか」


 「えっ?」


 ユナはミシェリーの手を握り腰に携えた聖剣を引き抜く。剣の切っ先はファラン王へ向けられ、ユナは言葉を放つ。


 「皆、帰るよ!!」


 その言葉にリンは呆れた表情を浮かべながら杖を構え、ミラはニコニコと笑顔を浮かべ聖杖を構える。


 「絶対、コレ、アレンが騒ぎ出すわよ?」


 「仕方が無いですよ。責任はアレンさんに丸投げしましょう」


 各々が武器を構える様子を見たファラン王は剣を抜く。

 勇者・聖女・賢者。魔王を討伐する為に神に選ばれた者達。だが、所詮は子供。

 まずは彼女達が行動を起こす前に武器を叩き落として終わりだと一歩踏み込む。

 だがその前にミラが奇跡を唱える。


 「プロテクション!!」


 《プロテクション》光の障壁を作り出す初級防御の奇跡。

 ミラが唱えたプロテクションの奇跡はユナ達とファラン王の間を遮り障壁となった。

 ファラン王は障壁を破壊する為に剣を振るうがそう簡単には壊れる代物ではなかった。


 「略式詠唱、魔法障壁の強度、子供と言っても、流石は神に認められた聖女といったところか」


 光の魔法障壁に一旦足止めされるファラン王に対してリンが《バインド》を唱え、更に拘束する。


 「動きは封じたけど、どうするの!?」 


 「窓から出ましょう!!」


 「ここから地面までかなり距離在るわよ!?」


 「大丈夫です!!」


 そう言ってミラは窓の外へ向かってプロテクションを唱える。

 光の障壁は窓の外から城壁の外まで続く道が出来た。

 

 「道は作りました!!」


 それと同時にファラン王は力尽くでバインド魔法の拘束退け、部屋を遮る光の障壁を破壊する。

 それに気が付いたミラは即座に反応する。


 「多重詠唱!! プロテクション!!」


 そう唱えると部屋を遮って居た光の障壁が五枚重なった状態で出現した。

 ファラン王の全力の一振りで障壁は破壊できるが、それを五回行わなければ彼女達には追い付けない。そんなことをしている間に、部屋の外へ出て何処かへと逃げてしまうだろう。そう思ったファラン王は労力の無駄だと思い剣を収める。

 一心不乱にミシェリーを連れて逃げ出す少女達の後ろ姿を黙って見過ごし、ファラン王は部屋の外で待機していた兵士に命令する。「ミシェリーを取り戻せ」と。

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