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「それじゃ、どうしようか?」
騎士国家シェルの宿屋の一室。アレンに置いて行かれたユナ・ミラ・リンの三人は残りの時間をどう過ごすか話し合いを始めた。ユナの言葉にリンが提案する。
「アレンが帰って来るまで部屋でゆっくりしてればいいんじゃない?」
「そうですね。でも、その前に少し街で買い物でもしませんか?」
「買い物って何買うのよ?」
「あ・ま・い・も・の」
ミラは可愛らしく二人に向かってそう言うとリンは若干引いたテンションで返答する。
「食べてばっかりで太るわよ?」
「心配いりません、成長期ですので。リンちゃんは食べたくないんですか?」
「……食べる」
「じゃあ、決まりですね。買い物に行きましょうか」
そんなリンとミラの会話にユナも割って入る。
「買い物だけ? その後は暇になるよ?」
「何も甘いモノを買うだけの買い物ではないですよ? 他にも色々街中を散策しましょ?」
「剣の稽古がしたい……」
ユナのそんな言葉にリンとミラは困惑した表情を浮かべる。
ユナにとって剣を振り回して体を動かすことはとても楽しい事なのだが、後衛職である二人はそれを好き好んでやろうとは思って居ない。ミラの場合はなるべくなら危ない事はしたくないと考え。リンは面倒な事はしたくないと考えている。
「私達は剣の稽古には付き合えないわよ? アレンが帰ってくるまで大人しく待ってなさい」
「そうですね。そんなに時間が掛かりそうな用事? ではなさそうですし、すぐに帰って来るんじゃないですか?」
そう言って二人はユナに返答すると、ミラが何かに気が付いた様子で声を上げる。
「あっ。もしかしたら剣の稽古に付き合ってくれるかもしれない方に心当たりが在りますよ?」
そう言ってミラはユナに提案するのだった。
騎士国家シェルの中央に建てられた城の入り口に三人はやってきていた。
門の左右には見張りの衛兵が立っており、近寄って来る三人の少女に不思議そうな顔を浮かべながらも声を掛けた。
「お嬢ちゃん達、何か用かい?」
そんな衛兵の質問に対してミラは前に出て小さく会釈をしてから返答する。
「教会の使いで南方の国デュランから参りました、ミラ・シャルロットと申します。騎士王ファラン・アルトリウス様にお取次ぎをお願いいたします」
子供とは思えぬ悠然とした口調と立ち振る舞う姿から、ミラの事を地位の高い人物の娘だろうと認識した衛兵は「少々お待ちください」と畏まった様子でその場を後にした。
後ろで彼女の言葉を聞いていたリンは困惑した表情を浮かべていた。
「何でシャルロット家の令嬢がこんなところに居るのよ?」
「令嬢といっても何番目かわからない愛人の子供ですよ?」
「尚更おかしいじゃない。何番目かわからない妾の子が、なんでこの国の王様と面識在るのよ?」
「ファラン王には私と同い年の子が居るんですよ。その子と友好関係を深めるのが私の役目だったんです」
「王族の子のご機嫌伺いって訳?」
「そういうことですね」
そんな話をしているうちに立ち去った衛兵が使用人を連れて戻ってきた。
三人は衛兵に紹介された使用人と共に場内へ案内される。
部屋の扉を叩き、使用人が「お客様をお連れしました」と言って返事を待つ。
すぐに「入れ」と男の声が聞こえてくる。使用人は扉を開き、後ろに付いてきた三人を部屋に入ったことを確認すると一礼してから扉を静かに閉めた。
執務室、客間、どちらとも取れる部屋の奥には身なりの良い年配の男性が座って居た。
その男性と目が在ったミラはすぐに一礼して謝辞を述べる。
「急な来訪を許可して頂き感謝いたします。ファラン王様」
「久しいな、ミラ・シャルロット。それで、用件はなんだ?」
「はい。この度は、こちらの勇者ユナ様に剣の稽古をつけていただけないかと思いこちらに参りました」
「勇者か……」
そう言ってファラン王はミラに紹介されたユナに視線を向ける。
「残念だが、勇者に稽古を付けるほど私の剣は優れていないよ」
「勇者様は金等級冒険者並みの剣術がどれほどのモノか確かめたいだけなのです」
「それを知ってどうなる?」
「ファラン王に勝てないようでは魔王討伐など夢のまた夢ではないでしょうか?」
「実力を確かめたいなら北に行って魔物や魔族と戦えば済むことだ」
「それでは危険が伴います。腕の立つ剣士との戦闘訓練ならば、殺す気が無い限りお互いに死ぬことも在りません。それに致命傷を負ったとしても聖女である私が回復の奇跡を使いますのでご安心ください」
そんなミラの言葉にファラン王は少し考えてから返答する
「正直な話、私に金等級並みの剣術が在るかというとそうではない。剣術だけならば良くて銅等級程度だろう。そんな剣士と戦った所で得られるモノは何も無いと思うが?」
「そうなんですね。では、この城の騎士様達全員との訓練試合はどうでしょうか? それならば騎士様の訓練になりますし、ユナちゃん……。勇者様の良い訓練相手になると思いますが?」
「騎士全員? まあ、良い。騎士達にとっても勇者の力量を知る良い機会になるか。他に用事が無ければ下がれ、使用人には客間で待つようにと言え」
「畏まりました。ファラン王様」
そう言ってミラは二人の背中を押して部屋から退出するように促す。だが、不意に何かを思い出した様子でファラン王に振り返り尋ねる。
「そう言えば、ミシェリーちゃんは元気ですか?」
「ああ……ミシェリーは少し体調がすぐれないので面会はまたの機会にしてくれ」
「そうですか」
歯切れの悪いファラン王の言葉に嘘が在ると気が付くミラはそう言って部屋を出て行った。




