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 ベルディア王都より北東に位置する騎士国家シェル。

 騎士王ファラン・アルトリウスが主導の元、国を運営している。

 東部最大の都市で在り、北の魔物の進行を食い止める役割を持つ武力国家だ。

 そこから更に北へ向かうと魔族領地に入り、人に有害な瘴気が微かに漂う危険地帯にアレン達は赴いていた。

 薄紫の瘴気が漂う森の中、アレン達四人は草むらで三体のトロルの様子を伺って居た。


 「大きいね」


 「あのサイズでも中型魔物の部類だ」 


 魔物のサイズは主に大型・中型・小型で分けられて居る。

 体が大きい魔物程、力は強く、討伐の難しさの指標になる。

 大型の魔物はドラゴンや一つ目巨人。中型の魔物はトロルやボブゴブリン。小型の魔物はゴブリンやワイルドウルフ。そのように大まかなサイズで区分されている。


 「とりあえず突撃していい?」


 「まあ、少し待て。トロルについて説明する」


 アレンはそう言ってユナを制止し続けて言う。


 「トロルは下手に斬ってもすぐに回復する厄介な魔物だ」


 「でも、倒し方は在るんでしょ?」


 「再生限界まで切り刻むか、魔石を壊すか、火で燃やすかだ」


 「つまり、再生限界まで切り刻めばいいんだね」


 「訓練にはなるだろうが、今回はさっさと終わらせる為に炎魔法で燃やして倒す」


 そう言ってアレンは視線をリンの方へ向ける。何かを察した様子でリンは自信在り気な表情を浮かべて口を開く。


 「なるほどね。この大賢者リン様の出番って訳ね」


 「そういうことだ。リンの習得した魔術の練習相手に丁度良いだろ?」


 「練習相手にすらならないと思うけれど、そういうことなら任せなさい!!」


 リンはそう言って意気揚々とトロルの前へと姿を現し杖を構える。


 「多重詠唱!! フレイムランス!!」


 その掛け声に反応した杖は光り、周囲に複数の魔法陣が構築される。次の瞬間には無数の炎の槍が三体のトロルに向かって一斉に放たれる。放たれた炎の槍はトロルの身体を貫き、その周囲を焼き尽くす。多くの脂肪で構成されているトロルは良く燃え、全身に炎は広がり数秒で火だるまになってその場に倒れた。トロル三体を余裕で屠る賢者様は自身満々な顔を浮かべて振り返る。


 「私に掛かればトロルなんて余裕よ、余裕」


 「少し前まで文字が読めないことがコンプレックスだった子には見えませんね」


 「何か言った!?」


 「アレンさん、ダメじゃないですか人のコンプレックスをあれこれ言うなんて」


 ミラの言葉を軽く流しアレンは燃えたトロルの死体の方へと近寄って行く。


 「なあ、リン」


 「何よ?」


 「お前が強くなったのは理解したが討伐証明はどうするつもりだコレ?」


 「あっ……えっと……クリエイトウォーター!!」


 リンはアレンの言葉で何かを察し、即座に燃え上がるトロルをクリエイトウォーターで鎮火した。


 「ほら、討伐証明に何が必要かは聞いてないけどまだ平気よ。まだ間に合うわよ」


 リンはそう言いながら黒焦げて炭化したトロルの死体を杖で突く。軽く杖で突いただけでトロルの死体はボロボロに崩れてしまった。

 

 「流石は大賢者様ですね」


 「リン、凄い!!」


 その様子を見ていたミラは笑顔で、ユナは好奇心一杯の表情で言う。

 ユナは正当な評価の言葉だが、ミラの言葉は明らかに皮肉交じりだと認識しつつもリンは不機嫌そうに反論を始める。

 

 「アレンが燃やせって言ったから燃やしただけで、私のせいじゃないんだからね!?」


 「誰も消し炭にしろとは言ってないだろ?」


 「でも、アンタが燃やせって言ったんだから。私は悪くないわよ!!」 


 「まあ、次から気を付けろ。強い魔法を沢山覚えてはしゃぐ気持ちはわかるが、討伐証明の在る依頼の時はもう少し魔法を選んだ方が良いぞ?」


 「そんなのわかってるわよ……。それで今回の討伐証明って何?」


 「ああ、それは……」


 アレンは言葉半分にトロルの死体を剣先でかき回す。そして、剣先で何かを探っていると硬い感触に気が付きそれを取り出した。人の拳サイズの半透明で紫色の石。それを拾ってリンに投げて渡す。


 「今回の討伐証明はトロルの魔石だ」


 リンがそれを見て少し考えると不機嫌な口調で口を開く。


 「私、全然悪くないじゃない!! むしろ消し炭にして良かったくらいじゃない!! なんで、私がやらかしたみたいな雰囲気出してるのよ!! このバカ!!」


 「いや、今回は良かったが別の依頼の時は気を付けろって話だよ」


 リンは納得いかない表情を浮かべながらもそれ以上の反論はしなかった。



 

 緑等級になって最高難度の依頼は今回のトロル討伐だった。

 賢者として多数の魔法を習得中のリンの練習相手には丁度良いと思い今回の依頼を選択した訳だが。

 炎魔法が弱点のトロル相手では文字通り楽勝だった。切迫した戦闘訓練という形にはならなかったが、魔法での戦いに自信が付いた様子なので、コレはコレで正解なのだろうとアレンは思って居た。

 騎士国家シェルの冒険者ギルドに討伐証明を提示し、一仕事終えた四人は宿屋の一室に集まって居た。

 

 「それじゃ、明日の朝まで自由行動だ。外に出る時は三人一組で行動しろ。一人だと絶対に面倒事を起こすに決まってるからな」


 そう言って三人に注意を促しながら部屋を出て行ことするアレンをミラが呼び止める。


 「アレンさんは何処へ行くんですか?」


 「少し、北に向かう」


 「何しに行くんですか?」


 アレンはミラの質問に対して、腰の雑嚢から取り出した指輪を見せて説明する。


 「北に行くほど瘴気が濃くなるのは知ってるよな? それをどうにかする魔道具の性能テストに行ってくる」


 瘴気は人間に有害な魔素を持った気体で、北に行くほどその濃度は濃くなっていく。

 つまり、魔王討伐に行くには必然的に瘴気の濃い場所へと向かうことになる。

 その為の対応策の一つである魔道具をマカが作り、その性能テストを行うことも視野に入れた今回の依頼だった。そのことを簡潔に説明するとユナが声を掛ける。


 「私達もついて行こうか? 一人じゃ危ないよ?」


 「危ないには危ないが、別に魔物と戦う訳じゃない、少し馬で散歩しに行くだけだ」


 ユナなりの気遣いなのだろうと思いながらそう返答するとユナは別の事柄に食いついてきた。


 「馬に乗るの? 私も馬に乗ってみたい!!」

 

 「いや、体格的に無理だろ?」


 「じゃあ、後ろに乗っけてアレン兄!!」


 「とにかく大人しくしてろ、すぐに戻って来るから」


 そう言ってアレンは話を切り上げて部屋を出て行く。

 残された三人はお互いに顔を見合わせコレからどうするかと相談を始めた。

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