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「アレンさん。少しよろしいですか?」
ユナとの木剣での稽古中、マカがアレンに困った口調で話しかけてきた。
アレンは「なんだ?」と短く返しながらも、木剣を振り回すユナの攻撃を受け止めながら話を続ける。
「リン様が魔法の勉強を拒絶されてるのですが?」
「なんで?」
「それがわからないので、こういうことはアレンさんに聞いた方が良いとミラ様に言われましたので、こうしてアレンさんを尋ねに来ました」
「と言われてもな」
この一週間を通してアレンがリンに対して疑問に思うところは何カ所か在った。
まず賢者だというのに《ファイアボール》と《バインド》しか覚えていない点。
戦闘中の察しも良いし、ユナの様に考えなしに行動を起こす訳でもなく、それなりに理に適った動きをしていた。そんな彼女が何故新しい魔法を覚えられないのか疑問に感じては居た。後衛職のミラは初級から上級の奇跡を使えるのに、何故リンは初級の魔法、それも二種類しか使えないのだろうかと。
何かしら理由が在るのは明白だが、アレンは魔法に対しての知識は明るくない。なので全て魔法学園主席のマカに丸投げしようと考えて居た。
「俺は剣士で魔法については素人だからそっちに任せるよ」
「そうですか。では仕方が在りませんね実力行使に移るとします」
「待て待て。実力行使って何するつもりだ?」
アレンは慌てながら質問するとマカは淡々と自分が行おうとする実力行使の内容を説明する。
「まず部屋に立てこもるリン様の扉を破壊。次にバインドで拘束。後に椅子に縛り付けて強制的に授業を開始します」
「わかった俺が行く。なのでユナとの戦闘訓練を任せる」
アレンは溜息を吐いて、マカにこの場を任せて歩き出す。
まともな人間が増えて少しは楽になると思って居たが、何故かアレンの負担が増えている様な気がした。
ベルディア城に在る一室、リンの部屋の前まで来たアレンは扉をノックする。
「魔法の勉強なら自分でやるから放っといて」
今まではアレン自身魔法について教えれることは何もなかったので放っといておいたが、今はマカという優秀な講師が居る。だがリンはプライドが高いせいで教えて貰うことを嫌がっているのかとアレンは考えていた。
「人に教えて貰うのがそんなに嫌なのか?」
アレンがそう尋ねるとリンは少し間を置いて答える。
「別にアンタには関係ないでしょ?」
今回の件がアレンに関係が無いかと言えば、関係在る。
パーティーの魔法使いが魔術を多く覚えればその分色々なことが出来る。更に最終目標は魔王退治ときてるのだから、使える手札は多い事に越したことがない。
だからまともに話し合いが出来ないのならマカが言っていた実力行使も仕方が無いと考えた。
「一度だけ言うぞ。俺はお前が何で魔法を教えて貰うのが嫌なのかその理由が知りたいだけだ。何も話したくないなら話さなくも良いが、この件はマカに全て丸投げする。ちなみにマカはこの扉を壊して、無理矢理魔法の授業を始めるつもりだからな」
「何でそんなことになるのよ!! 私はただ一人で勉強したいってだけだって言ってるでしょ!!」
「別にそれで魔法が増えてれば問題は無い。でもこの一週間で使える魔法は増えたのか?」
「それは……」
「一人じゃ解決できない何かが在るんだろ? 魔法の事ならマカに聞けば教えてくれるはずだ」
「使える魔法が増えればいいのよね?」
「まあ、そうだな」
使える魔法の種類が増えるならば独学だろうが、教えて貰おうがアレンにはどっちでも良かった。
そんな事を思って居るとリンの部屋の扉が開く。リンは「入って」と不機嫌そうな表情で短く一言告げる。アレンは言われた通りリンの部屋へと入る。
リンは部屋に入ったアレンに一冊の本を手渡した。アレンが受け取った本の表紙を確認すると、≪初級魔術経典≫と書かれた書物を手渡された。
アレンは受け取った本の中身を確認すると、魔法発動に必要な詠唱の言葉・魔法陣・魔法の効果などが各ページに載っている。剣士のアレンには縁が無い物珍しいモノだった。
「魔法って詠唱すれば発動できるんだよな?」
「そうね。試しにやってみれば?」
アレンは本を捲り、《クリエイトウォーター》のページを見つけ本に書かれた内容を詠唱する。
「水の聖霊よ、集い、集まれ、クリエイトウォーター」
アレンは詠唱をしたが何も起きなかった。
そんな姿を見ていたリンは杖を手に取り詠唱する。
「水の聖霊よ、集い、集まれ、クリエイトウォーター」
アレンと同じ詠唱。それでも彼女の杖の先端には水の玉が生成される。
初級魔法 《クリエイトウォーター》。魔法使いの冒険者の殆どが良く使う魔法だ。
リンは生成した水の塊を窓の外へ放ちアレンに視線を向ける。
「新しい魔法は覚えたんだからもういいでしょ? 一人にして」
「今ので覚えたのか?」
「覚えたわよ。クリエイトウォーター」
リンは詠唱をせずに魔法を唱え、先程と同じように杖の先に水の塊が集まり、それを窓の外へと放つ。
「もういいでしょ?」
確かにこの程度ので覚えられるならば一人でも問題無いし、わざわざ他人に教えて貰うような事では無いのは確かだ。だが、何かがおかしいとアレンは引っかかっていた。
初級魔法。数単語を詠唱するだけで魔法を使うことが出来る。それなのに何故彼女は二つしか呪文を覚えていなかったのか。本を読むだけで魔法が使えるのなら……。そこでアレンは気が付いた。
もしも彼女が当たり前のことが出来ないのだったら、プライドの高い彼女はどういう反応をするか、容易に想像でき、辻褄が在ってしまう。
「なあ、リン。この魔法を使ってくれないか?」
アレンは本を捲り、とある魔法について書かれたページをリンに見せる。
リンはそのページを少し見てからアレンに答える。
「何で私がアンタの言う事聞かなきゃいけない訳? 私は一人で勉強するって言ってるでしょ?」
「本に書かれた詠唱を読み上げるだけだろ? そんなことも出来ないのか?」
「は? アンタ私の事、馬鹿にしてるの?」
アレンは大きく溜息を吐いて開いたページに書かれている内容をリンに教える。
「ここに書かれてるのはクリエイトウォーターのページだ」
リンはその言葉を聞いた途端、顔が真っ赤に茹で上がる。そして俯き小さく呟く。
「殺す……」
その瞬間、リンは顔を真っ赤にしながらアレンを睨みつけ杖を構える。
「ファイアボール!!」
「マジか!! このガキ!!」
リンが杖から放ったのは最大出力の《ファイアボール》。コボルト討伐の際、一撃で複数のコボルトを爆散させた魔法だ。アレンはリンの詠唱と同時に懐へと飛び込んだ。リンの手から即座に杖を奪い取り、投げ捨て動きを封じる。
「退きなさいよ変態!! 触んないでよ変態!! 死ね変態!!」
「どうすんだコレ……」
アレンが後ろを振り返ると部屋は酷い有り様だ。
テーブル、椅子、絨毯、壁、焼け焦げ燃えている。そして爆音に釣られて沢山の兵士達がやって来る。部屋は燃え上がり大惨事、男が少女に馬乗りになって押さえつけている大惨事。その光景を見た兵士達はすぐさま携帯する武器をアレンに向けて構える。
「どうすんだコレ」
アレンはリンから両手を上げて離れ、速やかに兵士達によって拘束された。




