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 冒険者の等級が上がれば受けられる依頼の質が上がるのは必然だった。

 アレン達は白等級から灰等級へ無事昇給し、冒険者ギルドで灰色の認識票を受け取った。

 元赤等級の冒険者とそれよりも強い才能を持つ勇者達一行ならば順当な昇級では在る。

 アレンはともかく、勇者達は才能は在れど冒険者としてはまだ未熟。

 冒険者としての経験値は灰等級、いや白等級であり、まだ世間を知らない子供だ。

 そんな彼女達のせいでアレンは太陽照り付ける荒野の中、三人を抱え、項垂れながらも前に進む。


 「だから俺は反対だって言ったろがクソガキ共……」


 アレンがそう呟くと暑さと疲労でやられた赤髪の少女ユナが呟く。


 「疲れた……暑い……水……」


 「おい、賢者様。勇者様が水を御所望だ。クリエイトウォーター位使えんのか?」


 アレンはそう言って左手に抱える黒髪の賢者リンに問いかける。


 「アンタ、バカ? そんな魔法使えるならとっくの昔に使ってるわよ」


 「何で賢者様が初級魔法のクリエイトウォーター使えないの? 馬鹿なの? 死ぬの?」


 「うっさいわね。アンタ、ベルディアに戻ったら覚えてなさいよ」


 アレンの左手に抱えられたリンは衰弱しながらも毒を吐く。


 「ユナ、あんまり首に顔を近づけるな。汗が付いてベタベタすんだろが……」

 

 アレンの背中で衰弱するユナはアレンの首元に腕を回し、彼の背中に全身を預け、汗でベタ付いた顔を首元に密着させていた。そんなアレンの言葉を聞いて、右手に抱えられた金髪の少女ミラは口を開く。


 「可愛い女の子から湧き出る汗なのですから、殿方は普通喜ぶモノなのでは?」


 「キャラがブレてるぞ聖女様。お前、そんなキャラじゃなかったろ」


 「私は元々こんなものですよ? そんな事だから女性に騙されるんですよ?」


 「お前は俺の何を知ってるの?」


 「はっ!? コレが本当のクリエイトウォーター?」


 「やかましいわ」


 もう嫌だ。散々だ。そんな事を思いながらもアレンは歩みを止めずひたすらに歩き続ける。



 

 ベルディア王国の南西に存在する荒野、その中心に大きな採掘場が在る。

 アレン達はその周辺に住むコボルト討伐が今回の目的だった。

 荒野の岩肌を掘り進め広がった空間。そこには簡素な布と木材で作られた屋根だけのテントが幾つも並んでいる。つるはしを持ったガタイの良い男達。炭鉱夫で賑わう集落にアレン達は無事到着した。

 

 「ようこそ、コボルト鉱山へ」


 アレン達が冒険者ギルドの看板が掲げられるテントに近寄るとガタイの良い小太りの男が話しかけてきた。アレンは担いでいたユナ達を降ろしてから男の言葉に返答する。


 「水と食料は在るか?」


 「水はジョッキ? 樽?」


 「ジョッキで四人分。食糧も同じ数だけ」


 「あいよ。水がジョッキで銀貨一枚。食料も銀貨一枚。四人分で銀貨八枚だ。ちょっと待ってな」


 小太りの男はそう言って奥の方に見える洞穴に備え付けられた扉を開けて中に入って行く。すると暫くして中から水の入ったジョッキを四つを右手に持ち、左手には包み紙に入った何かを四つ重ねて持ってきた。

 

 「ほらよ。水をジョッキで四つ。コボルトステーキ四つだ」


 そう言って近場の丸樽のテーブルに置いた。受け取った品物を確認したアレンは腰の雑嚢から銀貨を八枚支払った。


 「毎度。で、何でガキ三人も連れてこんなところまで来たんだ?」


 そう言って小太りの男はおかしな奴らが来たから興味本位でアレンに問いかけた。


 「コボルト討伐だ」


 「ガキを連れて?」


 「そうだ」


 「そうか。認識票は?」


 小太りの男がそう問い掛けるとアレンは首元の灰色の認識票を見せる。

 それを確認した男は視線を動かし、水を飲んでほっとしている少女達の首に灰色の認識票がぶら下がっているのが目に入った。


 「まぁ、可愛らしいお嬢様方でも冒険者は冒険者か」


 小太りの男は呆れた様子でそう呟き話を続ける。


 「んじゃ、コボルト討伐について説明するぞ」


 そう言って男は今回の依頼内容について説明を始めた。

 今回の依頼人はコボルト鉱山を運営するベルディア王国からの依頼となっている。

 依頼内容はコボルト鉱山周辺に巣くうコボルトを討伐すること。

 討伐の証明としてコボルトの左耳を持ってくることで討伐の証明となる。

 コボルト討伐の報奨金は一匹銀貨五枚。コボルトの死体を持ってくるれば追加で銀貨十枚貰える契約だそうだ。一通り説明を終えると小太りの男は再度アレン達に問いかける。


 「以上だ。何か質問は?」


 水と食料を飲み込んだユナが元気に手を上げ質問する。


 「はい!! 具体的に、コボルトは何処に居るの?」 


 「詳しい場所を探すものお前達、冒険者の仕事だ。だが、近場のコボルトは狩りつくされてるだろうから西の離れた場所を探すんだな」


 「なんで西なの?」


 「ここから東には王都ベルディアと商業都市デュランを繋ぐ道が在るから人通りが多いってのが理由だ。コボルトはそんなに賢い部類の魔物じゃないが、人通りの多い場所に巣を作る程馬鹿じゃねぇ」


 ミラは少し考えた後、小さく手を上げて質問する。


 「討伐依頼というモノは危険な魔物が近くに存在するからその危険を排除する為の依頼のはずですよね? 近場のコボルトが狩りつくされているなら、わざわざ遠出してまで狩る必要が在るのですか?」


 「ならコボルトを狩らずにそのまま放置するとしよう。何が起こると思う?」


 「世界が少し平和になります」


 「残念。奴らは数を増やして真っ先にここを襲いに来る。コボルトと戦争の始まりだ」


 水と食料を口にし元気を取り戻したリンが話に加わる。


 「ならコボルトを根絶やしにすればいいじゃない?」


 「それが出来れば苦労しないさ。でも魔族と人間がいまだにどちらも滅びない様に、コボルトって奴も必死こいて生き延びてるんだよ」


 「ふ~ん。なるほどね」


 「他に何か聞きたいことは在るか? ないならさっさと狩りに行って来い」


 そう言って小太りの男はその場を立ち去って行く。

 アレンは三人に視線を向けてこれからの行動方針について話始める。


 「で、どうする。ここから西に向かってコボルト狩りをするか? それとも今日はこの辺で休んで明日に備えるか?」


 そんな提案をアレンがするとリンが怒った口調で返答する。


 「こんな場所で寝泊まり出来る訳ないでしょ!? 馬鹿なの!?」


 コボルト鉱山には宿屋の様な宿泊施設は無かった。何故ならここに来るのは冒険者や炭鉱夫が殆どだ。炭鉱夫なら掘った洞穴に家具を置いて住居にし、冒険者は簡易のテントや寝袋を使って一日二日を過ごす。近くにはベルディア王国や商業都市が在るのだからわざわざこんな場所で泊る物好きは居ない。そして王城での贅沢な食事、綺麗で快適な寝室、風呂まで完備された生活が日常だったのでリン達が否定的な態度を取ることもアレンは理解していた。だからこそ彼は今回の依頼について反対の意を示していた。


 「だから俺は反対だって言ったんだ」

 

 呆れた口調でアレンは言うが、リンの怒りは収まらない。


 「なら最初から言いなさいよ!! まともな宿が無いって!!」


 「色々含めてお前達にはまだ早いって言ったらお前ら何て言ったか覚えているか?」


 灰等級に昇格した彼女達に対してアレンはゴブリン討伐やワイルドウルフ討伐、薬草採取等の白等級の依頼を受ける様に勧めた。だが彼女達は灰等級で一番難しいコボルト狩りの依頼を受けることにした。その理由は簡単だ。白等級の依頼では物足りないと三人が判断し、リーダーのユナが決断した。

 その際にアレンはしっかりと忠告したのだが返ってきた言葉は……。


 「私達なら大丈夫!! コボルトってそんなに強くないんでしょ?」


 戦闘に自信在りの赤髪の少女。


 「何よまだ早いって? 灰等級の依頼くらい簡単にこなせないでどうすんの? 私達の目的わかってる?」


 アレンと今回の依頼を舐めてかかる黒髪の少女。


 「何か在ってもアレンさんが居れば大丈夫ですよね? もしも何か問題が起きたら全部王様に報告しますから頑張ってくださいね」


 他人事に人任せに加えて脅迫する金髪の少女。

 そう、誰もアレンの意見などまともに取り合わなかった結果が今回の事の始まりだった。

 アレンはこれも経験だ。こいつらには辛い思いを味わって貰おう。そう思いながら渋々了承したのだった。最終的に衰弱した三人を抱え苦労する羽目になったが。

 アレンの言葉で三人はこんなことになった経緯を思い出し、彼が今回の依頼に反対したことには正当な理由が在るのだと知り、黙り込んでしまった。

 お互い黙ってしまってもしょうがない。だからアレンは彼女達との会話を始める為に口を開く。


 「ここまで来たもんはしょうがないだろ。ならこれからどうするかを考えよう」

 

 そう言ってアレンは三人に自分の考えを提案する。


 「野営をしたくないって言うなら今すぐ帰れば日暮れ前にはベルディアに着く。その代わり、特に成果は無く手ぶらで帰る羽目になる」


 王都ベルディアとコボルト鉱山を往復し、良い汗掻いて、風呂に入り、旨い飯を食べ、ふかふかのベッドで寝る。それはそれで在りだとアレンも思って居た。


 「それかコボルト討伐を今日中に済ませて、一泊野営して明日の朝一でベルディアに戻るか。三人で決めろ」


 アレンがそう告げると三人の少女達は顔を見合わせる。

 そして各々が自分の考えをまとめている中でユナが一番最初に声を上げた。


 「アレン兄はどうすれば一番良いと思う?」


 そう言ってユナはアレンに助言を求めるのだった。

 ここでお前達三人で考えろと言っただろと突き放すこともできるが、彼女達はまだ子供なのだ。なら少しばかり大人が助言しても良いだろう。そんな事を思いながらアレンは口を開く。


 「俺なら今すぐコボルトを狩って、一泊野営して、さっさと帰って風呂に入る」


 冒険者としてわざわざこんな場所まで足を運んだのだからアレンにはこの選択肢以外にはなかった。


 「そっか、そうだよね」


 ユナはそう呟く。ミラとリンは諦めた様子で溜息を一つ吐いてから口を開く。


 「行きましょうか」


 「さっさと殺して、さっさと帰るわよ!!」


 彼女達は何かを決断するとユナを先頭にして三人は歩き出した。

 アレンは溜息を吐きながら彼女達の後ろに付いて行き、声を掛ける。


 「西はこっちだぞ」


 こうしてアレン達はコボルト狩りをする為に西へと向かった。

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