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「アレン。お前を追放する」
早朝、いつもの様に冒険者仲間が顔を合わせる宿屋の食堂でそんなことを言われた。
アレン・クロウ。二五歳。冒険者パーティー『竜の爪』の前衛職・剣士。
彼は目をパチクリさせながらパーティーメンバーのそのんな言葉に返す。
「何言ってるんだ? 俺が追放? 俺が何したって言うんだよ?」
その言葉を聞いて暗い顔をしていたパーティーメンバーの一人が涙を流し始めた。
修道服の様な紺色の服を着た金髪の女性。アレンの冒険者パーティーの後衛職・神官。
名前はローラという。彼女の涙を見た周りの人間はアレンを追求し始める。
「お前、昨晩ローラに手を出したんだろ?」
「は? 昨晩? 俺がローラに手を出した? そんなことする訳が無いだろ!!」
「嘘つくなよ、アレン!! 昨日の夜、人気の無い路地裏から泣いて出てきたローラを見たって奴も居るんだ!!」
「それは違う!! 誤解だ!! そうだろうローラ!!」
アレンはそう言ってローラに視線を向けた。
だがローラは涙ながらに首を横に振る。それはアレンの言葉を否定する素振り。
誰が見てもそう見えた。アレンもまたありえないという表情を浮かべる。
「なんでそんなくだらない嘘を吐くんだ!! 俺達はパーティーメンバーだろ!!」
アレンの怒声が宿屋中に響き渡る。そんな彼に周囲の人達は侮蔑の眼差しを向けていた。
誰もアレンの言葉に反応しない沈黙が数秒続き、パーティーメンバーの一人が口を開く。
「とっとと出てけクソ野郎」
だがアレンは到底納得できなかった。理由は簡単だ。
自分は何も悪いことはしていない。後ろめたい事はしていない。
全てローラのくだらない嘘が原因だとわかっているのだから。
「ローラ!! 何でそんなくだらない嘘を吐くんだ!! そんなにお前は俺に振られたのが気に食わなかったのか!! 何とか言ったらどうなんだ!!」
次の瞬間、パーティーメンバーの一人がアレンを殴る。
「出て行けって言ってんだろう。嘘つきクソ野郎」
「なあ、俺達はそれなりに長い付き合いだろ? 何で俺の言う事じゃなくて、ローラの言う事を信じるんだよ? ローラの言葉が嘘だと思わないのか?」
「泣いてる女と性欲まみれのクソ野郎。お前ならどっちを信じるよ?」
「だが、証拠も無いだろ?」
「お前、昔言ったよな? ローラみたいな女を抱いてみたいって」
「それは酒の席の他愛無い世間話だろ?」
「それが本音で、手を出した。そしたら終わりだろ?」
そう終わりだ。本当に手を出せば終わることなんて誰でもわかっている。
だからこそアレンはローラに手を出そうとしない。例えどんなに綺麗で好みの女だとしても、その代償が大きいことぐらいわかっている。アレンも、ローラも、冒険者の色恋は悪い方向にしか行かないということを。
「これ以上何を言っても無駄だな」
「ああ、さっさと出てけ」
アレンは深い溜息を吐きながらその場を去った。