おうちに帰して!!!
学校帰り。
僕はゲームのつづきがしたくて、早くおうちに帰りたくて。ランドセルをガチャガチャとならしながら、おうちに向かって走る。
いつもの横断歩道のところに来ると、赤で。僕は「まだかなまだかな?」と横断歩道の前で足をパタパタとさせて落ち着きなくしながら、青になるのを待つ。
すると、パッと信号が赤から青に変わった。
「よっしゃ!いそげー!」
僕は信号が青になったのと同時に、横断歩道を走った。いつもなら右左を確認して、手を上げて渡るけど、その日僕はそれをしなかった。
横断歩道の真ん中くらいまで走った時だった。
「そこの男の子!戻って!危ない!」
そんな声が後ろから聞こえてきて、えっ?と後ろを振り向こうとした、時。
「ウワアアアアアアア!!!」
猛スピードで僕に向かってくるおっきいトラックと、そのトラックを運転するおじさんが大声で叫んでいた。
と。
ドンッ!!!
と、大きな音が僕の体の中で響いたのと同時に、目の前が真っ暗になった。
「…ん?」
気づくと、僕は道路の真ん中で倒れていた。道路には、車が一台もないし、人も一人もいない。信号からは『通りゃんせ』が流れてるけど、音はそれだけ。
「?まあいいか!そんなことより、早くおうちに帰って昨日のゲームの続きをやるぞー!」
と、僕は横断歩道を渡った。
が。
「─…あれ?」
今まさに、横断歩道を渡ったはずなのに、僕はまた横断歩道の前に立っていた。
僕はまた、信号が青になるのを待つ。そして、信号が赤から青に変わると、また右左を確認しないで走って渡る。
横断歩道を渡ると。
「─…え?」
また、僕は渡る前のところに戻っている。
「え…何で?僕今…渡ったよね?」
チカチカと信号が点滅し、赤から青に変わる。
~♪
青になると、いつもの『通りゃんせ』の曲が流れ始める。
「何だろう?夢でも見てるのかな?」
僕はそんなことを思いながら、横断歩道を走って渡る。けど…
「また…」
僕はまた、横断歩道の前に戻っていた。
「何で?今僕渡ったよね?何でまたここにいるの?」
また、青になって通りゃんせが流れる。
「早く…早くおうちに帰りたいのに!なんで帰れないの?」
僕はランドセルのひもの部分をぎゅっと握りながら横断歩道を走る。
けど…
「はぁ、はぁ、はぁ…なんで?なんでまたここにいるの!」
僕はまた、横断歩道の前にいる。また、青になって通りゃんせが流れ始める。
「なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんでなの?」
僕は怖くて泣きながら、横断歩道を走る。
でも、気づいたらやっぱりまた、横断歩道の前に立っている。
「やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだおうちにかえるおうちにかえるおうちにかえるおうちにかえるおうちにかえるおうちにかえるおうちにかえる!!!!」
なんどもなんども、横断歩道を渡る。けど、僕はおんなじ横断歩道を渡りつづける。
「なんで?おうちに帰れないの?早くおうちに帰りたいよ!ママ!パパ!誰か助けてよ!」
白髪交じりの男が、花束を横断歩道傍の信号機の下に置き、手を合わせた。
「…お前が亡くなって、もう13年か。生きてたら20才くらいだな。あの忌々しい酒酔い運転のトラックがお前のことを轢いてなかったら…お前はどんな大人になってたのかな?…お前は今頃、天国で何してるのかな?ゲームが好きだったし、あっちでもゲームしてるのかな?…お母さんとは会えたかな?父さんは…───」
男はそう独り言を話しながら、涙を溢していた。
その頃────…
~♪
パタパタパタ!
~♪
パタパタパタ!
~♪
パタパタパタ!
「はぁ、はぁ、はぁっ!誰か…誰かここから出して!」
おうちに帰して!!!