08.アルギュロスの方針
カルティアに連れられて、アルギュロスは無事魔王軍に帰ってきた。
カルティアは勿論無傷だが、アルギュロスも攻撃を受けたものの大した傷ではなかった。無事な様子を確認したジークは両手を広げ、アルギュロスを出迎えた。
「アルギュロス!よかった!」
ジークの声を聞いて安心したのか、アルギュロスはダムが崩壊したかのように大粒の涙をこぼし始めた。
「みにゃーー!!やられちゃったにゃー!!」
女性に免疫がないジークは、女性の涙にはめっぽう弱い。両手を広げたまま、固まってしまった。しかしアルギュロスはまだ幼い子どものように吸い込まれるようにジークに抱きついた。
そして人目もはばからずわんわんと泣き叫んだ。
美女に抱きつかれて固まるジークにシシリアは頬を膨らませたが、アルギュロスのあまりの泣きっぷりに目を丸くした。そして自然とカルティアの方に視線が集まった。
「仕方ないわ。なんか勇者たち……というか女性陣の目の色が途中で変わったもの。親の仇みたいな顔してたわ」
カルティアもあの変わりようは想定外だったようで、困った笑顔を浮かべている。あの気迫で迫られたら泣きたくもなる。
女性って怖い。
「でもね、勇者を追い詰めていって、アルギュロスちゃんってば凄かったのよ?」
そう言ってアルギュロスの頭を優しく撫でた。アルギュロスは涙と鼻水でべしょべしょに汚れた顔を上げた。
「ふぐぅっ。私、ちゃんと、勇者を、追い詰めたもん」
「え!?アルギュロスが勇者を!?」
ジークはギョッとした。まさか家事能力しか与えていないはずのキメラにそこまでの力があるなんて、想像もしていなかった。
泣きじゃくるアルギュロスの頭を撫でながら、ジークは自分がとんでもないものを生み出してしまったと感じていた。
「ま。アルギュロスちゃんは戦闘においてはまだまだ素人だもの。仕方ないわ」
アルギュロスはじっとジークを見上げた。まるで親であるジークに褒めてもらうのを待っているかのような目である。
「うんうん。アルギュロスはよくやった。さすが俺の作ったキメラだ!」
「へへっ!」
ジークの褒め言葉に満足したアルギュロスは満面の笑みを見せた。
「さぁてアルギュロスちゃん」
「はい?」
「貴方のこれからの方針が決まったわ」
アルギュロスは少し怖がって縋るようにジークの服を掴んだ。
「アルギュロスちゃんに足りないのは経験よ。それと接近戦なら今でも充分だけど、遠距離戦でも戦えるようにならなきゃね」
それはアルギュロスも感じていた。アンディーとの接近戦では怖い物なんてなかったが、女性二人と戦った時、どうやって戦ったら良いのか全くわからなかった。
「はい。私も、そう思います」
なによりも幾度も戦いを乗り越えてきたあの女性たちの気迫には圧倒された。
そしてあの時二人が言っていた事ーージークが変態のような事をしていたなんてアルギュロスには信じられなかった。なんとかあの二人を負かして、発言を撤回してもらいたい。
「私も、ジークさんを守れるようにもっと強くなりたい!」
生みの親であるジークのため、アルギュロスは強くなることを決意したのだった。
しかし、それはジークが望むところではなかった。
「あ、あのね。アルギュロス。無茶はいけないよ?」
「全然!」
「そ、そうか」
しかしやる気に満ちているアルギュロスを止めるなんて不自然な事出来るわけもない。
「あれ?ジークさんったら、もしかして寂しいんですか?」
シシリアの指摘にジークは首を横に振った。
「そ、そうじゃないけど」
「あらあら。素直じゃないわねえ」
カルティアが楽しそうにニヤニヤしている。
「ジークさん!私、大丈夫だよ!」
そしてアルギュロスもやる気に満ちている。
退路をたたれたジークはただ肩を落とすしかできなかった。
「いいんだ。俺はアルギュロスが元気ならそれで」
まだ一つ目だ。これから魔王軍弱体化に向けたキメラ計画が本格的に始まるのだ。
そう思う事にした。