07.女の本気
「アンディー、どいてください」
「え?」
「ここはあたいらがヤルよ」
「え?え?ちょ?」
この世の全てを憎んでいるかのような表情の二人に、アンディーは戸惑った。何が彼女たちをそこまでさせるのか。
普段魔族と戦っている彼女たちからは考えられないほど怒りや憎しみに満ちた表情をしている。
腕力を武器に接近戦を行うアルギュロスと違い、二人は遠距離攻撃系の魔法使いと、回復魔法を使う後方支援型の魔法使いだ。上手く遠距離戦に持って行ければ勝機もあるかもしれない。
「覚悟しなさい!」
「あんたに恨みはないけど、あんたのパパには嫌気がさしてんだよ!」
アルギュロスが距離を詰める前に二人が攻撃を仕掛けた。
「『火球』」
「『魔法威力上昇』!」
「きゃあ!」
見事威力が増した火球がアルギュロスにヒットした。アルギュロスは服の裾が燃えたことに目を丸くした。
「ひゃあ!ジークパパが作ってくれた服がぁっ!」
しかし泣き言を言っている場合ではなかった。間髪入れずに攻撃魔法が威力を増して降りかかってくる。アルギュロスはこれ以上服を汚してはいけないと必死になって避けた。
「貴方たち!パパになんの恨みがあるの!パパを悪く言うのはやめてよ!」
アルギュロスは避けながら二人に接近して行く。そして確実に少しずつ彼女たちの体力を削っていった。
「あんたのパパはねぇ!裸をのぞいたり!下着を盗んだり!」
「うっ」
恨みごとを言いながら女性たちも反撃していく。
「一番嫌だったのは私たちの下着を履いた事です!」
「っ!?」
本当に日頃の鬱憤を晴らすかのように女性たちの反撃は勢いを増していく。アルギュロスは二人がかりの攻撃に押され始めていた。
「反撃する隙がない……!?」
次第に劣勢に転じてしまい、アルギュロスも動揺した。なんせ戦闘はまだまだ初心者である。
「あらあら」
見かねたカルティアが高みの見物から舞い降りてきた。そして、いとも簡単に二人を吹き飛ばした。
「きゃ!」
「くっ!」
そして二人が倒れている隙に、アルギュロスを守るように抱きしめて、ふわりと宙に浮かんだ。
「ここまでみたいね。アルギュロスちゃんを殺されたら困るの。今日はこれで退却させてもらうわ」
「はぁ!?」
「お待ちなさい!」
カルティアはそのままアルギュロスと共に姿を消した。
しかし女子二人の感情は高まったまま、おさまる様子がない。
「ちょっと!二人とも落ち着いて!」
「アンディー!離しなさい!」
「許すまじ!ジーク!!」
ジークは今にも魔王軍の本部に乗り込んで行きそうな二人を必死に抑えた。
ーージーク。元気そうでよかった。
キィキィと叫ぶ二人を宥めながら、アンディーはひっそりとそう思った。
魔王軍に上手く潜入し、今のところ無事なのようである。弱体化どころかかなり強化されていたようだが、それにもまだ何か理由があるのだろう。
ーーいつかまた、君と一緒に戦える日が楽しみだよ。
同じ空の下、道は違えど目的地は同じ。アンディーは遠くで頑張っている友人に思いを馳せるのだった。