05.パパ
ジークの魔王軍キメラ開発成功の噂は瞬く間に広がった。
「キメラ実験が成功したらしいぞ!」
「マジか!凄いな」
「ジークが成功させたらしい。ネコ耳巨乳美人キメラだって」
「さすがジークだぜ!」
男性たちはジークに賛辞を送った。見た目までこだわるとはさすがジークは分かってるな、という肯定的な意見ばかりだった。
しかし、その一方。
女性たちは全く逆の反応を示していた。
「あのジークがキメラを作ったらしいわよ」
「聞いた!ネコ耳巨乳だって!」
「ネコ耳巨乳!?喧嘩売ってるのかしら」
「何から何まで気持ち悪いヤツ」
ネコ耳巨乳という単語ばかりが伝わり、ジークが自分好みのキメラを作り出した変態だと噂されていた。そして「やっぱり変態」「救いようのない変態」と称されるのであった。
そんな噂が広がる中、アルギュロスの出撃準備は着々と進められていた。ジークが簡易的な防具と武具を作り出し、アルギュロスに合うよう調整していく。
「ふむ。やはり胸が大きいと防具も大変だな」
「はぁ?貧乳は大変じゃないってですか?それ喧嘩売ってますよね?買いますよ」
「ちょっと待ってくれ!シシリア君!誤解だ!あ……あっ。あーーー!!!」
なんてやり取りもあった。
戦闘服でもメイド要素は外したくないジークと、動きやすさ重視メイド服反対派のシシリアは幾つもの攻防を繰り広げ、ようやくアルギュロスの戦闘準備は整ったのだった。
結局、メイド服型の軍服におさまった。しかし動きやすさ重視でフリフリも控えめだ。今のところ腕力しか戦う術がないので魔道具であるグローブ以外の武器はない。
そして出発当日。
ネコ耳巨乳キメラを一目見ようと多くの魔王軍が集まっていた。
「アルギュロス。無理はするなよ」
「はい。ジークさん」
「それからカルティア様のいうことは聞くように」
「はぁい」
それからそれから、とジークは次々と注意事項を述べていく。まるで過保護な父親のような様子を、シシリアとカルティアは微笑ましく見守っていた。
「やだわ。ジークちゃん可愛いじゃない」
「本当は優しい人ですよね、ジークさんって。なのに何であんなに気持ち悪いんでしょうね」
「そぉねぇ」
そんな二人の温かいの視線なんて気にもせず、ジークはまだまだアルギュロスにあれもこれもと注意していく。
「それから最後に」
「まだあるのぉ?」
さすがのアルギュロスもうんざりした表情をしている。
「アルギュロス、俺の娘。どうか元気で帰ってきてくれ」
真剣な表情で心配そうに言われるとアルギュロスも頬が赤くなる。照れくさそうに笑って大きく頷いた。
「はいパパ!絶対帰ってきます!」
アルギュロスはジークに抱きついた。
本当はまだ生まれたばかりのキメラなのだ。子供っぽいところもたくさんある。しかし見た目を成人女性にしてしまったがために、どうしても微笑ましい場面には見えない。
アルギュロスの「パパ」発言は集まった群衆たちにしっかりと聞こえていた。
「パパ!?」
「パパなんて呼ばせてるの!?」
「気持ち悪い!」
「最低」
女性たちからは非難轟々で、しっかりとジークの耳に届くようなヒソヒソ話をしてくる。
ーー嗚呼、アルギュロス。絶対戻ってきてくれ。俺に無条件で優しい女性は君くらいだよ。
無邪気に抱きしめてくれるアルギュロスを、ジークも優しく抱きしめ返した。