02.追放された理由
ジークはいたって真面目な錬金術師であった。
幼い頃から勇者アンディーと共に世界平和のために共に力を合わせていこうと語り合うほど真面目な人物であった。勇者である幼馴染の力になれるように日々錬金術の腕を磨いたものである。
そうして勇者の長く険しい魔王討伐の旅にも、最初からついて行った。
始めは二人だけのパーティーで、苦労も多かった。しかし次第に多くの優秀な人材が仲間になってくれ、最終的に六人くらいになった。男性四人、女性二人である。
そうして魔王幹部とも渡り合えるようになった頃。ジークは勇者から呼び出しを受けた。
「ジーク、すまないちょっと話がある」
「何かな、アンディー」
アンディーは素直な男だった。幼い頃から知っているジークに隠し事なんてできるはずもない。よそよそしい様子から、重大な事を言うつもりなのだろうとジークはすぐに察しがついた。
「俺は君がいい奴だって知ってるけどさ。けどね。その。女子達から色々要望があってね」
皆の前では言いにくい女性たちの要望に、ジークの勘が働いた。
「え?なんか新しい武具とかかな?オッケー!ちょっと巨乳に見える防具とか作るよ。大丈夫。みんな平等にFカップに見えるよう調整しておくから」
錬金術師のジークは魔法での戦闘は勿論、仲間の道具作りも担っていた。回復薬の作成や防具、剣など様々な道具を生み出して仲間を支援していた。
戦闘では後方支援が多いものの、近距離戦だってできないわけではない。
それなりにパーティーの中では欠かせない存在だと自負していた。
「ごめん。違うんだ」
「え?そうなの?」
アンディー首を横に振っては俯いてしまった。しかしアンディーが言いたい事が見当もつかないジークは、黙ってアンディーの言葉を待った。
「その……ちょっと下ネタが多いみたいで」
ようやくアンディーが口を開いてくれたと思ったら全く予想外の事を言われた。ジークには思い当たる節がない。
「俺下ネタとか言ったかなぁ?」
「う、うん……。息を吐くように言ってるよ」
「マジか」
立派な無自覚だった。息を吐くように下ネタを言っていたなんて、ジークにはそんなつもり全く無かったのだ。
「すまない。これからは気をつけよう」
「いや、ジーク。それでね、女子達が『生理的に無理』て」
「おぅ。辛辣」
アンディーは素直な男だ。婉曲な言い回しなんてできない。だからこそ『生理的に無理』とは女性達の言葉そのままであるはずだ。
それはなかなかに堪えるものがある。
アンディーはものすごい勢いで頭を下げた。
「すまない!俺が力不足なばかりに!」
ジークはどう言っていいのか悩んだ。
アンディーが気に止む事はない。確かにもう少し婉曲的に言ってくれてもいいのだが、素直なのはアンディーのいいところでもあるのだ。
むしろ女性たちを不快にさせ、アンディーに気を遣わせたジークに問題があったのだ。
無自覚だったとは言え、嫌がる女性たちに気が付かないなんて配慮に欠けていた。思い出せば確かに女性二人と喋る時嫌な表情をされていた。
ジークはアンディーを心配させまいと笑顔を作った。
「いいって事よ。確かに最近女子の目が鋭いなぁて思ってたからさ」
「ジーク……っ!」
「俺は少しこのパーティーから抜けた方が良さそうなのだな」
「ああ……。本当にすまない。でも俺はいつまでも友達だ!ジークに何かあったらすぐに駆けつける!」
「ありがとう、アンディー」
そうして二人は固く握手を交わした。
「ジーク、これから当てはあるのかい?」
「ああ。俺も陰ながらアンディーを応援したいからな。魔王軍に潜入しようかと考えている」
「なっ!正気か?!危なすぎるぞ!」
「大丈夫さ。戦闘員じゃなくて開発員として潜入するのさ。そうして魔王軍に弱い防具とかを作って弱体化を図るつもりだ」
「ジーク……。僕は君を誇りに思うよ」
「ありがとう」
「本当、なんで君の魅力は女性に伝わらないんだろうね」
それはジークにも不思議だ。しかし昔から女性には勘違いされる事が多く、もう慣れっこになってしまった。しかもラッキースケベにあう事も多いので勘違いにさらに拍車をかけることになってしまうのだ。
いたって真面目で友人思いで優秀な錬金術師なのに。
そうして慣れすぎたせいかジークの鈍感力に磨きがかかり、女性たちに何を言われようと気にしなくなっていった。さらに上手く解釈して前向きに捉えるというスキルまで身につけたのだ。
色々あったものの、ジークはアンディーの勇者一行と別れ、現在魔王軍のキメラ開発部局で仕事しているというわけである。
ーーアンディー、俺、陰ながら応援してるぜ!
真面目に開発に取り組みつつ、ジークは密かに魔王軍の弱体化を図っている。
しかしそれを気付かれてはいけない。
慎重に行動しているつもりだが、魔王軍に来ても女性から嫌われるのは健在で、何かと注目を集めてしまうのだった。
このあたりでしっかりと成果を残さなければ潜入出来なくなってしまう。
このキメラはジークにとっても大切な存在であった。
「ん」
美人キメラはゆっくりと目を開いた。灰色の瞳はまだ眠そうにとろんとしている。それがまた色っぽい。
「あ。目を覚ましましたよ!」
「やったぞ!シシリア君!」
これまでキメラが出来ても、動かないことがほとんどであった。何かが融合しただけの物体では使い物にならない。まだぼんやりした様子だが、正常に動いているだけでも大きな一歩なのである。
魔王軍が長年かけても成功しなかったキメラ開発が、こうも上手くいくとはシシリアは思ってもいなかった。
それも全て最近入ってきたこのジークのおかげである。
「本当錬金術師としての腕は確かなんですね」
「そうか?まあ人間の中ではできる方だがな」
キメラは楽しげに話す二人をじっと見つめた。そしてこてんと首を傾げた。
「ここは?私はだぁれ?」
「おはよう。君は魔王軍の剣となるネコ耳美人巨乳キメラだ」
「え。言い方キモ……」
特徴を並べただけでそれ以上の意図はないのに、シシリアの視線が痛い。間違っても栄えある功績を出した錬金術師に向ける視線ではない。
キメラはまだ何を言われているのかわかっていない様子だった。ゆっくりとジークを指差し、また首を傾げた。
「じゃあ貴方が私のパパ?」
ジークはちょっとイケナイ気分になった。まだそんなに歳をとっていないし、若すぎると思うが「パパ」という言葉にはなんとなく威力がある。
「うっわぁ」
気が付いたら時にはシシリアが虫ケラを見るかのような目をしていた。
言わせたわけじゃないのに。
ジークは虚しい気持ちになったのだった。
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