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第二話④ 血が滴る初めてのあ~ん


「起きたかコーシ。おはよう」

「うおわァァァッ!?」


 俺っちが目を開けると、そこには元のサイズに戻った大人アガトク様の顔がドアップであったっす。思わず飛び退いてしまった俺っち。


「人間は目覚めと共にこう挨拶するのだろう? 彼女のおはようで目覚めるのが何よりも良いと、少女絵巻にあったからな。そら、返事はどうした?」

(邪神様が着々と恋愛を覚えていっていらっしゃる件について)


 朝からびっくりしたっすけど、それでも確かに女の子(邪神)に起こされるなんて経験はなかったっすね。変な汗も出てきそうっすけど、それでも挨拶をされたのなら、返すしかねーっすね。


「おはようっす、アガトク様」

「うむ、それで良い」


 微笑んだアガトク様の顔が綺麗すぎて、思わず俺っちの胸がキュンって鳴ったっす。

 いやね。この方、人を平気で取り込む邪神なのは間違いねーんすけど、それでも美人さんなんすよ。そんな方におはようなんて笑顔で声かけられてときめかねー男の子とかいんの? いたら多分、そいつはインポっす。


「そら、さっさと来い。お前の為に朝食とやらまで用意したぞ?」

「えっ?」


 驚きが止まらない。惑星を滅ぼせる邪神が、俺っちの為に朝食を作ってくれた? 嘘やん。


「少女絵巻では、人間の雄は胃袋で掴めとあったからな。最初は寝ているコーシを我の胃袋で掴んでみたんだが、どうも何も感じなくてな」

「待って、俺っちを胃袋で掴んだって何?」


 寝てる間に俺っち、一体何されちゃったんすか? 穢されたとかいうレベルじゃねー、超上級者プレイ?


「まあそんなことは良い。さっさと来い、料理は冷めんがな」


 溢れ出る疑問と横に置いて、俺っちは炎で固められた椅子に座り、アガトク様が作ったとされる朝食を頂くことになったっす。


「食え」

「なぁにこれぇ?」


 そして身体が凍りついたっす。目の間のテーブルに出されたのは、どう見ても燃え盛っている炎そのもの。あの、これ、燃えてんすけど。


「何とはなんだ。お前の朝食だ」

「朝食が燃えてるんすけど?」

「当たり前だろう、我の一部だぞ?」

「待って」


 俺っち何を食わされようとしてんの?


「い、いいい一部ってッ!?」

「言葉の通りだ。我を構成する炎の精の一体を圧縮して、お前の口に入るサイズにまとめた」


 嘘やん、これ炎の精? 昨日哀れな男性が人間から強制的に種族変更されたあれ?


「少女絵巻にも、自分の血液を食事に混ぜて愛とやらを伝えるという話があったからな。これも我の愛だな」

(あのまな板なんつー少女漫画渡してくれちゃってんすかゴルァァァッ!!!)


 真犯人は解ったっす。次会えたらしばき倒してやる。つーかあのまな板、なんで初心者にそーゆー変化球投げてんの? 王道ドストレートなヤツだってあっただろコンチクショォォォッ!!!


「さあコーシ、あーんだ」


 目の前で嬉しそうに指に宿した紅の炎を差し出してくるアガトク様。うん、あーんも少女絵巻でやったんすね。初あーんが箸でもスプーンでもねーのはまあ、このお方が食事にそーゆーもの使うって発想がねーからっすよね。

 決して最初から高度な指舐めプレイまでしようとしてる訳じゃ、ねーんすよね? こーゆースキンシップは恋愛において大切だと思うっすよ、俺っち童貞だけど。


(でも指に持ってんのが炎の塊とか、食ったら最後、俺っちの臓器が燃えてなくなるわァァァッ!!!)


 うん、無理。燃え盛る炎を食うとかマジ無理。作ってくれたアガトク様に申し訳ないとか、相手がかけた手間隙に敬意を払えとか、そーゆー問題じゃねーっす。

 人間は炎を生物学的に食えねえ。これは俺っちが人間である以上、種族的にできることとできねーことがあるんすよ。


「どうしたコーシ? 口を開けろ」

「あ、あのーっす、アガトク様。そもそも、そもそもなんすけど。俺っちみたいな人間がアガトク様の一部とか食って。大丈夫、なんすか?」

「さあ?」


 即答しちゃったよ邪神様ッ!


「人間に我を食させたことなどないから知らん。言われてみれば、これも初めてのことかもしれんな。ふふふっ、お前と居ると初めてのことばかりだな。嬉しいぞ、コーシ。我の初めてを、もらってくれ」

(受け取りたくぬェェェッ!!!)


 こんなにもココロオドラナイ女の子の初めてこそ、俺っち初めてッ! 駄目、イケナイお汁が漏れちゃいそう、ちんちんの先っぽから。


「隙ありだ」

「ングググ……マッ!?」


 そして油断したその一瞬で、俺っちの口の中に紅の炎が突っ込まれたっす。口内を焼き尽くしながら食道を伝っていき、俺っちの胃袋で胃液を蒸発させそうな感覚が痛すぎて何も考えられないのォォォッ!!!


「血尿ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」


 いくら固有能力(パーソナルスキル)で治るとは言え、痛みはモノホン。ついでにストレスもマッハになった俺っちの叫び声が、焦土と化した北極に響き渡ったっす。

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