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第六話③ ただただ、レボリューションしたかった


 俺っちには一人の幼馴染がいたっす。チャラチャラしててカッコ良くて、引っ込み思案だった俺っちとは違ってみんなから好かれていたアイツ、ナオキ。


「遊ぶっすよコーシッ!」

「う、うん……」


 背が高く、クォーターで地毛が金髪だったナオキは、周囲と上手く馴染めずに浮いてた俺っちを引っ張ってくれて、みんなのとこへ連れてってくれたっす。アイツの周りにはいっつも誰かがいて、みんな笑ってて、いつ見てもめっちゃ楽しそうだなって、思ってたっす。

 俺っちもそこに混ざらせてもらって、一緒になって遊んでた。誘われるまま、言われるがままにやってれば楽しい。全部ナオキが考えてくれるから、言われた通りにしてれば何も問題はねー。アイツのお陰で、俺っちは幼稚園、小学校、中学校を楽しく過ごせたんすよ。いつの間にか、アイツの口癖がうつってるくらい、ナオキと仲良くしてたんす。


「コーシ。俺っち、県外の進学校に行くことにしたっす」

「へ?」


 んで、別れは唐突に訪れたんす。一緒になって遊んでた癖にナオキは頭が良く、いつもテストで満点近くを取ってた。そんなナオキの成績ならもっと上が狙えるということで、先生方が推薦したらしいんす。

 そうしてナオキとは高校で別れることになった。アイツだけ地元から離れるっつーことでお別れ会も盛大にやったんすけど、みんなナオキとの別れを惜しんでたっす。もちろん、俺っちも。


「あ、あれ?」


 ナオキと別れてからの俺っちは、そこでふと思ったんす。俺っちにナオキ以外の友達っていたっけって。もちろん、ナオキと遊んでた仲間内の連中と完全に切れた訳じゃなかったっすけど、馬鹿だった俺っちが進学した場所には、ほとんどいなかったんすよ。

 しかも、アイツらが求めてたのは、必要としてたのは俺っちじゃなくて、ナオキの方だったんす。だから、すぐに疎遠になっちまって……気づいたら、俺っちは一人ぼっちだったんす。


「え、えーっと。どう、したら良いんすか?」


 何も考えずにナオキにくっついてた俺っちには、友達を作るスキルなんてなかったんす。どうやって話しかけにいったら良いのか、どうやって友達になったら良いのか。わかんねーことだらけでまごまごしてて、スタートダッシュに遅れた結果。ボッチの高校生活が始まったんす。

 いや、まあ。クラスメイトと全然話せなかった訳じゃねーんすよ。クラスの集まりの時とかはそれなりに話したり、それこそ体育祭とかのイベントん時は女子とも話したりできたんすよ。


「……お袋の弁当、うめーっすね」


 ただ、昼飯を一緒に食べたり、授業の合間にどーでもいーこと喋ったり、チャットアプリで宿題のこと聞いたり、休日に遊びに出かけたり。そーゆー何気ないことを一緒にできる奴が、友達がいなかったんすよ。昼飯は一人で食ってたし、授業の合間は寝てるフリしてたし、チャットアプリの通知は鳴らねーし、休日は一人でゲームする。

 何気ない時に一緒にいる奴がいなくて、一人でいる時間が多い日々。しかもそれに気づいたのが、もうしばらく経った後で。周囲の友達付き合いも固まってきてて、今さら突撃する勇気もなかった俺っちは、楽しそうなみんなの片隅でひっそりと高校生をすることになったんす。


「こんなにいんのに……誰も、いないんすね」


 人はたくさん居るのに、俺っちのことを必要としてくれる人が一人もいないという事実。風邪引いて学校を休んでも、誰も見舞いに来てなんかくれねーし。次の日に復帰しても、大丈夫だったか、なんて声をかけてくれる奴もいねー。それは俺っちにとっての、灰色の日々っした。

 俺っちはその時、心底寂しかったんす。居ても居なくても何も変わんねー日々。まるで自分なんていなくてもいーんじゃねーかって思えてきて、すごく、すごく辛かったんす。


「このままなんて、嫌っすッ!!!」


 やがて辛い高校生活にも、終わりが見えてきたんす。卒業して就職するのか、それとも大学に行くのか。クラスメイト達が半々くらいで進路希望を出す中、俺っちは迷わずに進学を選んだっす。

 ぶっちゃけ、入れるならどこの大学でも良かったんす。自分のことを知らない、遠いとこならどこだって。誰も俺っちのことを知らない新天地で、今の自分を変えて、レボリューションして。上手くいかなかった高校生活のリベンジしようって。


「キンキンの金髪にしてくださいっすッ!!!」


 んで、イメチェンすることにしたんす。俺っちがどうなりたいかと言われたら、間違いなくナオキみてーになりたい。

 だから、アイツになろうとした。まずは見た目から近づこうと髪の毛を金色に染めて、アイツみてーに背を高く見せようと、後に俺っちの魂の相方となる履くだけで五センチアップのシークレットブーツを買って。アイツがよく買ってた雑誌を見て服も買って、俺っちは生まれ変わることにしたんす。


「これで、俺っちは必要とされる……ッ!」


 そうやって意気揚々と帰ってた時に事故って、異世界に飛ぶことになったんすけど。


「……俺っちはここでも、必要とされてなかったんす」


 回想から帰ってきた俺っちは一人、ジャスティンが用意してくれた部屋で、そう呟いたっす。


「最初は俺っちにしか頼めねーって言われて、俺っちのことを必要としてくれてる人がいるんだって思ったら、嬉しくて。二股なんかを引き受けた訳なんすけど……実は、使い捨てる前提でのことで。数多いる中から俺っちがたまたま選ばれただけで、別に俺っちじゃなくても良かった。しかも前任者が死んでたことまで隠されてて……最悪。死んじまっても良いって、思われてて」


 それを知った時、俺っちはホントに、ホントに悲しかった。俺っちだけにしかできねーって言われてたから、俺っちだから必要なんだって思ってたから、あんなに必死こいて頑張ってたのに。やっと、俺っちが必要とされてるんだって、思えたのに。

 でも実際は、口先でそう言ってただけで。裏では、俺っちのことなんてどーでも良いと思われてて。


「結局。誰も彼もが俺っちのことなんて、どーでも良かったんす」


 みんなみーんな、俺っちのことなんかどーでも良くて、自分のことばっかで。そんな奴らに大人しく利用されるなんて、真っ平ごめんっす。そっちがそのつもりなら、俺っちだってこうして当然。それは、何も間違ったことなんかじゃねーんすよ。

 だけど。


『お前は、幸せな世界に生きていたのだな。目に見えた脅威なんかなく、普通にしてたら平穏に生きられるなんて、本当に恵まれていたんだな。羨ましいくらいに……妬ましいくらいにっ!』


 必死の剣幕だった、マツリのあの表情が。


『そんなお前なんかに、明日をも生きられないかもしれないわたし達の気持ちなんて、解ってたまるかっ!!!』


 叫んでいたあの言葉が。胸に刺さって抜けねーんす。

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