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命短し、修羅場だチャラ男


 二人の女性の視線が交差した瞬間、俺っちは血尿を覚悟したっす。

 ギラギラと太陽……じゃねーわ、恒星アトムが照りつけるアメフラズ砂漠のど真ん中にあるオアシス。本来ならば、カラッカラに乾いた喉を湧き水で潤す憩いの場。その筈のここは今、世界の命運をかけた修羅場へと変貌しちゃったんす。


「コーシ、この雌は誰だ? 何故お前と共におるのだ? んんん?」


 片や、燃えるような真紅のツリ目と腰くらいまである真紅の髪の毛を持った、スレンダー美女。白いお肌を真っ黒なゴスロリ服で包んでいるこのお方は、なんと外宇宙から飛来したガチもんの邪神、アガトク様。

 炎の化身であり、その気になればこの惑星を丸ごと焼き尽くすことすら可能であるという、怒らせるなんて論外な存在っす。


「コーシさん。この変に貴方に馴れ馴れしい方はどなたでしょうか? 私の知らない方なのですが」


 片や、亜麻色の髪のおさげに糸目、左の目尻には泣きぼくろ。長身のうえに爆乳と呼べるくらいの抜群のスタイル。クリーム色の縦セーターに青いジーンズというラフな恰好をしたこのお方は、なんとこのアンドロメダ銀河のほぼ全てを解析したと噂の超越者、セイカさん。

 科学力は銀河一であるとも言われており、その気になれば見たこともないメカを量産してこの惑星を焦土と化すことすら可能であるという、こちらもまた怒らせるなんて論外な存在っす。


 そして、そのヤベーお二方に挟まれている俺っち。染めた金髪をツンツンに逆立てた低身長三白眼という、天に一物も与えられなかった成人寸前の悲しき男子。命よりも大事なシークレットブーツで身長を五センチ底あげし、スキニーのズボンとVネックのシャツにジャケットを羽織った俺っちは今、この二人と二股してるんす。

 いや待って、お願い。これ聞いただけで判断しねーで、石とか投げないで。俺っちだって望んでこうなった訳じゃねーんすよ。やむにやまれない深ーい事情っつーやつがね、こう、なんか、あって……。


『何エライ状況にしてくれているのだっ!? ここで二柱による戦争が起きるなんて、冗談じゃないぞっ!? わたし達を星ごと吹っ飛ばす気なのかっ!? 今すぐ何とかするのだこのチャラ男ぉぉぉっ!!!』

『うるせぇぇぇッ! 北極と南極にいた筈の二人がかち合うなんて、俺っちだって思ってなかったわァァァッ!!!』


 いや、そもそも俺っちは悪くねーんだよォォォッ! 大学デビューしようと思って美容院でイメチェンして。意気揚々と原チャで帰ってたら、ちょうちょがいたからわき見運転して。

 そのまま崖下に転落して、気が付いたら脳内でうるせーこのマツリとかいうまな板に、邪神と超越者を口説かないと死ぬって契約させられただけなんすよォォォッ!!!


 しかも俺っち純粋なチャラ男じゃねーのッ! 童貞捨てる為に今からチャラ男になろうとしてたチャラ男見習いなのッ! 大学デビューしてそーゆー友達作って、ガチモンのチャラ男にそれなりに合わせつつ、俺っちも女子大生とウハウハ遊びたかっただけなんすよォォォッ!!!

 それがどうして指先一つで世界を滅ぼせる系女子に囲まれて、問い詰められなきゃいけないんすかァッ!? 愛は世界を救うって言われてっけど、古今東西、二股は現実でも物語でも世界を滅ぼした試ししかねーんだよォォォッ!!!


「…………」

「…………」


 俺っちが何も言わない所為か、睨み合いのままで微動だにしていないお二方。アガトク様は敵意を隠しもしないような厳しい視線で、その瞳から真紅の炎すら漏れ出している始末っす。やべーよ、これマジで怒ってるやつだよ、髪の毛に至っては既に燃え始めてない? 気のせい?

 一方のセイカさんに至っては、身体の様子こそいつもと特段変わりはねーんすが、普段見えてんのかと疑いたくなるくらいの糸目がバッチリと開かれてるっす。ああ、この人碧眼だったんすねーキレーだなーって思ってたら、いつの間にか周囲にはこの人お得意の【DIY(ニチヨウダイク)】で作られた円盤型のドローン兵隊の方々が集まり始めてて……。


「あ、あー、えーっとっすね……そうッ! まずは紹介するっすッ! こちら外宇宙から来られた神様のアガトク様ッ! 炎の化身らしくて、真紅の髪の毛が綺麗っすよね。俺っちずっと思ってるっすッ! んで、こっちがセイカさんッ! 超越者なんて呼ばれるくらい頭が良くって、しかも発明の達人ッ! 色んなメカが作れるんすよ、凄いっすよねーッ!」

「…………」

「…………」


 とりあえずは互いを紹介するところから、と思って声を上げた俺っちだったんすけど、お二方は静かに互いを睨み合っているばかり。

 ヤッベー、俺っちもしかして選択肢間違えた感じっすか?


「もし、だ。コーシ。我は今から、もしもの話をするぞ?」

「コーシさん。私も仮に、のお話をさせていただきますね。あなたに限ってそんなことはないと思いますが、可能性を考慮しない訳にはいきませんから」


 と思ったら、お二方が口を開いてくれたっす。良かったー、やっぱ挨拶って大事っすよねッ!


「もしこの超越者を名乗るクソ女が、我以外のお前の彼女とでも言おうものなら……」

「もしこの邪なる穢れた神が、私以外のあなたの彼女とでも言おうものなら……」

「お前を殺して世界を滅ぼすぞ?」

「あなたを殺して世界を滅ぼしますよ?」

「    」


 何も良くねーわ。状況が一ミリも改善してねーわこれ。いつの間にか互いに向いていた筈の視線が、ギロリと俺っちの方に向いてんじゃん。目線だけで殺されそうなんすけど。

 胸の高鳴りが治まらねー、全身から冷や汗がぶわっと来てる。歯はかみ合わねーし、足はガクガクきてるし、何よりも。


(俺っちの膀胱が軋みを上げ始めてるゥゥゥッ!!!)


 二柱から追及を受けているこの状況で、俺っちのストレスがマッハ。無粋な親指で柔らかいマイハートを十六連射されているかのような心地で、ちんちんの先から出ちゃイケナイ類の液体が漏れそう、赤いやつが。

 えっ、マジでこれなんて答えたら良いの? 素直に「俺っち実はお二人と二股してまーす」なんて言おうもんなら即刻、最終戦争勃発でラグナロクがこんにちはしそうなんすけど。


『ッ! そうだッ! こんな時の為のオメーなんじゃねーっすかッ! 女の子の気持ちなら任せておくのだ、とか言ってたっすよねッ!?』


 窮地から脱する為に俺っちの拙い脳みそがフル回転した結果、過去のとあるやり取りを思い出すことに成功したっす。

 俺っちをこの世界に連れてきて二股を強制させてきた張本人、マツリ。首からぶら下がってる要石キーストーン経由で直接脳内に声を送ってくるコイツなら、何か状況を打開する為のウルトラCを授けてくれる筈ッ!


 胸が真っ平なコイツも、一応は同じ女の子っつーカテゴリに属してるッ! ここで彼女らが欲しい言葉とか、そーゆーのを教えてくれるに決まってるっすッ!

 そんな俺っちの淡い期待に対してマツリは、


『ガンバなのだっ!』

『おい待て切るんじゃねェェェエエエエエエエエエエエエエエエッ!!!』


 ガチャン、とかいう固定電話に受話器が下ろされた時みてーな音と共に、通話を切りやがったっす。


「おい。聞いておるのか、コーシ?」

「コーシさん。お話、してくださるんですよね?」


 ヤベーわ、あのまな板呪ってる暇すらねーわ。ずいっとこっちに一歩近づいてきた彼女達に対して、俺っちは一歩下がる。無理、これ以上距離詰められたら爆発しそう、膀胱が。

 マジでどうしよう、この状況? とりあえずここで言葉を選び間違えたら、俺っちとこの世界に明日がないことは確定っす。誰か嘘だと言って、お願いだから。


 もう一回うねりを上げ始めた脳内には、この状況になるまでの光景が蘇ってきたっす。願わくは、これが俺っちの走馬灯でないことを祈りながら。

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