表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/40

第8話 妻が襲撃しにきたのかもしれない

 火ノ車亭はマリーシャが引き連れてきた黒いローブの一団に占拠されていた。

 シアと常連の冒険者が対応しているが、若干気おされ気味だ。


「転生者を出せ! さもないと我々アイフィリア教団はビシャシャビ様の名のもとに武力を以てこの店に制裁を与える!」


 ローブの男たちが叫び剣を構える。扱いはさほど慣れていないようで、構えに乱れが見えるが店内に6人、入口も4人、争いになってしまえば怪我人が出ることは火を見るより明らかだった。


「何をやっているんだ!」


 罵詈雑言が飛び交う剣呑な空気の中、パーシルは彼らの中に飛び出した。

 家族だった人物の暴挙に、彼はいてもたってもいられなかった。


「パーシル、あの子はどこ! どこにいるの!! 早く! 早く出して!!」


 パーシルが見た彼女は、何かを焦るような、期待を募らせているような、そんな焦燥感に瞳を揺らしていた。

 彼女の異常性を感じたパーシルは心を落ち着かせ、首を横に振った。


「君にヴェインは会わせられない」

「どうして! あなたはあいつをかばうというの!」


 マリーシャから殺意に近い気迫を感じとり、パーシルは彼女が恐ろしくなった。

 少なくても一緒に暮らしている時はケンカこそしたが、殺意を向けられることはなかった。


――いったい何が彼女を変えてしまったのか。後ろのローブの集団が関係しているのか? 


「あっ――」


 マリーシャが何かに気が付いたように、パーシルの後ろに視線を送る。

 つられてパーシルも彼女の視線を追い、彼と目があった。


「ぱーしる……これF?」


 騒ぎが大きくなり、気になったのだろうか、ヴェインが壁に手を付きながら店の奥から姿を現していた。


「転生者ァ!」


 マリーシャはヴェインを見つけるや否や飛び出した。

 懐に隠し持っていたナイフを抜きヴェインに狙いを定めているようだ。

 パーシルはとっさに二人の間に割って入り、マリーシャを抱きしめるように押さえつけた。


「離して。どいて、どきなさい! パーシル!」


 しかし、体格差はパーシルの方が上だ。

 それでもなお彼女はものすごい力で、もがき前に出ようとする。


「マリーシャ、やめるんだ! なんで!」


 パーシルは一歩、一歩下がりつつも、なんとか彼女を抑え込む。

 あたかも魔物のような剛力にパーシルは内心たじろいだ。


「私の、私が命を懸けて産んだ子を、ヴェインを、よその他人に渡すものか……! あの子の生きるべき人生を、それをお前が奪ったんだ転生者!」


 振り回されるマリーシャの腕、彼女はパーシルが抑えようがかまうことく前へ進もうとしてくる。

 パーシルはこれ以上マリーシャを抑えるのは難しいと判断し、彼女からナイフを奪い取るべく、足をかけ、彼女を床に倒した。

 しかしマリーシャは獣のごとき、身のこなしで転倒を回避し、彼女は腕を振りかぶり、手にしたナイフをパーシルめがけて投げつけてきた。

 パーシルはそのナイフを避けようとし、だが、足を止めた。彼の後ろにはヴェインがいたからだ。


「――――ッ!」


 左肩に激痛が走り、パーシルは思わず膝をついた。

 何かの毒が塗ってあったのか、呼吸が苦しくなり、パーシルは立ち上がることができず、肩で息をつくのがやっとの状況に追い込まれしまった。


――おそらく、俺がが避けると踏んでナイフを投げたのだろうが……。毒か、ヴェインにあたらなくてよかった。


 マリーシャはパーシルの行動に動揺したのか、一歩、彼から距離を取った。


「そんな、ちが、違うの……!」

「何をためらうことがある。このナイフで転生児を殺せば、転生者は死に、その体はあなたの息子のモノになるのですよ」

「わ、私は……」


 マリーシャに寄り添うローブ姿の男が再び彼女にナイフを差し出す。

 彼女はそれを受け取り、決意を固めたのか、表情を硬くしヴェインをにらみつけた。


「ふざけるな!!」


 パーシルは激怒した。

 毒が原因か視界はまわりはじめ、息が苦しい。それでも彼は叫んだ。


 人は暴力の前では死ぬのだ。冒険者であった彼はそれがよく理解できていた。

 魔物の牙で死んだ者、盗賊のナイフで死んだ者、矢で撃たれ死んだ者、ゴブリンの棍棒で殴られ続け死んだ者。

 それをまして生まれて二年もたたない子供に、何をしようというのだと!


「ふざけているのはあなたの方だ! 異世界転生者を、ごぶはぁ――――」


 ごいん、とコミカルな音とともに男が銀のトレイを顔面に受け倒れた。

 トレイを投げたシアはものすごく怒っていた。

 ナイフはまずかった。

 彼らは火ノ車亭の冒険者すべてを敵に回してしまったのだ。


「あんたたち、ウチの稼ぎ頭に何してくれてんのよ!! 全員けり出してやるわ!!」

「おう、やってやろうぜシア」

「いい加減酒がまずかったんだ」

「けが人は赤ん坊と店奥に行ってな。こっからは大人の時間よ!」


 シアは大きく息を吸い込み……。


「仲間がやられたらやり返す! それが火ノ車亭よ!!」


 彼女の号令を皮切りに酒場、火ノ車亭では大乱戦が始まった。


これにて、第一章は完了となります。

異世界転生者とはわが子なのか、それとも他人なのか。

そういう問題定義ができればいいなと思いつつ、ここまで書いてみました。

まだまだ、続きますのでこの後もお付き合いいただけると幸いです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ