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第4話 それは悪魔との契約なのかもしれない

「――息子の乳母になってほしいって話だったんだが……すまない」

「そ、それならそうとちゃんといってよね! 変なことされると思って殴っちゃったじゃない」


 パーシルは食事のテーブルにつき、シアが用意してくれたパンと野菜くずを山羊のミルクで煮込んだパン粥をすすっていた。

 8時間ほど気絶するように眠り続けたパーシルはだいぶ回復し、パン粥の甘く優しい味ととじんわりと広がるぬくもりを味わう余裕が生まれていた。


「それで乳母……というか、俺が依頼をこなしている間ヴェインの面倒を見ていてほしいんだ。もちろん必要な金は依頼料から引いてかまわない」

「ふぅん、まあ、いいけど」

「本当か!」


 シアはニヤリとあくどい笑みを浮かべた。

 パーシルは察した。自分は悪魔と契約をしてしまったのだと。


「ええ、そのかわりキリキリ働いてもらうわよ」


 悪魔とは古来より約束事を順守する存在である。

 正しき対価を支払えばそれにに見合う働きをする。

 だが、対価を払えないのであれば契約者の命を持って帳尻を合わせる存在だ。


 生活資金と基盤がないパーシルはもはや選択肢は残されていなかった。


 その後、パーシルはシアと契約内容をまとめ、明日から一年間、火ノ車亭の専属冒険者として働くことで話がまとまった。


 契約内容は以下の通りとなった。

 ・火ノ車亭は朝7時からヴェインを預かり、食事など彼の生活の世話を行う。

 ・パーシルは仮眠の後、午後から火ノ車亭が提示する依頼をこなす。

 ・依頼内容は日中に完了できるものに限る。

 ・依頼報告後ヴェインの預かりを終了とする。

 ・依頼料の9割は火ノ車亭のものとする。ただし、この中にはヴェインの生活に必要な費用、ならびパーシルの食事代も含む。

 ・この契約内容はパーシルの存命を条件に一年間継続する。


 最後の条件が思いのほか物騒に感じたが、パーシルはこの条件を呑むことにした。


「ところでシア、火ノ車亭には日中だけで終わる依頼がそんなにきているのか?」

「来てる来てる。それこそ山ほどね。まあ、悪いようにはしないわよ」


 シアはカラカラと笑うと、席を立ち、空いた食器を片づけ始めた。

 ほどなく食器はきれいに洗われ、シアは店に戻るとパーシルに告げた。

 窓の外を見れば夜もそこそこ深まっていた。


「夜道、大丈夫か?」

「大丈夫よ、それよりあんたはヴェインくんにミルク飲ませないとでしょ」

「ああ、ありがとう助かるよ。 今日の恩は必ず返すよ」

「なに言ってんの。こちらとしては確かな労働力を一年間好き放題させてもらえるからね。それで十分。安い投資よ。それじゃあ、明日待っているわ」


 そういいシアはランプを片手に足取り軽く店へと戻っていった。

 パーシルも家に戻り、ミルクの支度をしてヴェインの下へと向かった・


「……<}+UE」


 寝室では先ほどまで眠っていたはずのヴェインが目を覚まし、意味の解らない言葉をつぶやきながら天井を見ていた。

 まだまだ小さいが、この二か月で少し大きくなったようにも感じる。


「なあ、ヴェイン。明日から俺は仕事をしなければならない。その間のお前のの世話は今日お前を抱いてくれた、シアがしてくれる事になった」


 パーシルはヴェインが自分の言葉を理解するとは思っていなかった。

 だがなにも話をしないで事を進めてしまうのは、なにかフェアではないとパーシルは感じていた。


「#YQKUJ%Fあーいる……#zWE>T」


 パーシルは一瞬、自分の耳を疑った。

 ヴェインの言葉の中に、確かにその言葉が入っていた。


「パーシルといったのか……? ヴェイン、いま、俺の名前を呼んだのか?」

「うえいん……&+KBSQ@_あーいる」


 更にヴェインは自分の名前をも口にする。


――親の気持ちとはこういうものなのだろうか、この子の成長が確かにうれしい。


 パーシルは自分のやってきたことが少なくとも間違えではなかったことを実感しつつ、ヴェインの頭を軽く撫でた。


――まったく、どういう表情を自分はしているだろうか。


 今の自分の表情を思うとパーシルは少し照れくさくなった。


「ああ……ああ、そうだ。俺はパーシルで、お前はヴェインだ」


 その日パーシルは久しぶりに肩の力を抜いて優しく笑えた。

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