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第23話 笑えないかもしれない

 共和国軍が貸し切っている宿に戻ったパーシルは、今日あったことをアーランド、レインに話した。

 町を騒がせている影の魔物、そしてそれがパーシルの妻マリーシャに酷似していること、自分がその捜索に参加すること。


「それで、手配書に描かれていたがパーシルの奥さんだったってわけ?」

「ああ、あの日……最後にあった彼女とうり二つだったよ。こいつがマリーシャなのか、きちんと確かめたい」

「おっけー。サンドイッチの稼ぎもらい過ぎてたしね。あたしはやるわよ」

「私もだ。さすがに一人で宿にいるのは退屈だしな」


 そうして、パーシルとヴェインはレイン、アーランドと協力を取り付けた。


 次の日、四人が調査に出ようとしたところ、テステが監視役として再びついてくることになり、パーシル達は5人で影の魔物の調査に乗り出した。


――しかし、町に出てみたもののとっかかりが全くないな。


 現状、わかっているのは姿と、影にもぐるという能力、人を襲うことのみ。

 動機やそれに基づく行動パターンが分からなければ、しらみつぶしに探すほかない。

 さすがに5人いるとはいえ、広い王国の中をしらみつぶしに歩きまわっていては時間がかかりすぎるだろう。

 

 そこでパーシルは改めて火ノ車亭に協力をお願いすることにした。

 シア達は快くパーシル達をむかえ、パーシルたちはこれまで彼らが集めていた情報を手に入れることができた。

 

 いわく、影の魔物は単独もしくは少数の人がいるところに表れる。

 いわく、行動に昼夜を問わないが、影のある薄暗い路地などに出没することが多い。

 いわく、ターゲットは幼児が多く、次いで成人した男性、最後に成人した女性


 さらに彼らは、王国内でいつどこで影の魔物が現れたのか地図に書き込んでいた。

 ペンで書きこまれ位置は50か所以上、これがすべて単一の魔物で行われたのかと思うとパーシルはぞっとした。


――本当に恐れているのはそこか? いや、おそらくはマリーシャがこれを行ったんじゃないかと恐れているんだ。


 自分の気持ちを一度整理し、パーシルは地図と向き合った。

 だが、誰がどう見てもその犯行場所はランダムで、出現位置に規則性が見いだせなかった。


「ここが変だ」


 ヴェインが地図の一点を示す。

 それはパーシル達が以前住んでいた家のあたりだった。

 パーシルもヴェインの指を追ってみるが、そこは影の魔物が出現したという記録は書かれていない。


「何が変なんだヴェイン?」

「まったく影の魔物が出てきていない」


 ふと、パーシルにひらめきが舞い降りた。


――この魔物、人並の知性が高いとみるべきなのか。


 普通、魔物というのは、人を見たら襲う、食べ物を見つけたら食い散らかす、敵と認識したら本能のまま闘争を続ける存在だ。

 それなので知性が低いものが多く、だれかれ構わず襲い掛かってくる。


 だが、今回の魔物はこれまでの犯行を考えてみると『襲う相手を選んでいる』可能性がある。


――もしその知性が襲う相手を選ぶ以外の状況でも発揮されているとしたら……。


「なるほど、事件現場には必ず調査する人間が来る。それを避けるためにか。そうなると――」


 犯行がバレてはいけないとなると、なるべく自分の家とは関係のないところまで移動し、襲うのが、心情だろうとパーシルはあたりを付け、これまで影の魔物が全く出現していない箇所を地図から八か所見つけ出した。


 北の大森林そばに2か所、パーシルのうちのそばに1か所、国営冒険者ギルドのそばに2か所、南の比較的大きな建物周囲に3か所だ。


「ここの八か所のどれかに、影の魔物が潜んでいると可能性が高いと推察できるな」

「パーシル、この二か所は違う可能性が高いと思うぞ」


 アーランドが示したのは南の建物2つだった。


「どうしてだ?」

「例の教団支部がこのあたりなのだ。さすがの奴らも人間、魔物と一緒に暮らしているわけがない」

「確かにその通りだな。みんな、ほかには気が付いたことはあるか?」


 一同、首を横に振る。

 それならばとパーシルはこの後の方針をまとめた。


「そうしたら一度、実際にこの6か所に足を運んでみよう」

「うむ、心得た」

「オッケー、いきましょうかー」

「うぇぇ、もう少し休んでいきません?」

「わかった。行こう」


 テステはしぶったが、レイン、アーランド、ヴェインはうなずき、店を出ようと席を立った。


「出たぞ!! 影の魔物だぁぁ!!」


 突如、大きな声が火ノ車亭の外から聞こえてきた。


 パーシルはとっさに剣を手に取り、駆けだした。

 店を出ると少ないながらも人の流れができている。


「ぎゃぁぁぁ!」


 もう一度、今度は悲鳴だ。


――こっちか!


 パーシルは人の流れに逆らい声の方向へ駆け抜けた。


 パーシルがたどりついたのは、建物の間にできた人が二人分通れる程度の空間だった。

 見れば、腹を抑え、出血した男が一人、倒れている。


 そしてもう一人、その男のそばには『人影』が立っていた。

 赤黒いドレスのようなものを身にまとい、黒い髪は腰まで伸びている。

 だがそれと同じか、同じ以上に腕が伸び、ゆらゆらと体と共に揺れ、それは『彼女』が異形の存在であることを示していた。


 影が手を振り上げる。

 その手は形を変え、鋭利な剣のような形に変わり、男を殺そうと振り下ろされた。


「やめろ!」


 パーシルは思わず叫んだ。

 その言葉に反応したのか、影は動きを止め、パーシルにへと振り向く。


「……」


 その顔を見て、パーシルは前に進めなかった。

 

――どうして。本当に人が魔物になるというのか……。


「おい、こっちだぞ! 全員で囲め!」


 他の冒険者たちも集まりはじめ『彼女』は自らの状況が不利と判断したのか、建物の壁の影に溶けるように消えていく。


 パーシルは立ち尽くしていた。

 消えてゆく影の魔物は、マリーシャの顔で、パーシルが見たこともないゆがんだ笑みを浮かべていた。

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