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第17話 この人は大統領かもしれない

 そうして半年が過ぎた。

 無事、冬を越し、ヴェインは二歳半、足腰もしっかりし、だいぶ安定して一人で歩けるようになってきた。

 そして、ついにおむつを卒業し、一人でトイレに行けるようになった。

 ヴェインいわく「おむつ、ダメ、絶対、人間として」なのだそうで、パーシルはヴェインの人並ならぬモチベーションに苦笑いした。


 だが、そんなヴェインの成長とはうらはらに、パーシルの店は経営難に陥っていた。


「おにいちゃん。また、一本もらうよー」

「ありがとうございますー」


 ここ半年で馴染みになってきたお客にパーシルはピクルスの入った小瓶を渡す。

 一本、銀貨1枚。調味料、容器代、アーランドとレインに支払う分を差し引くと利益として銅貨5枚の売り上げだ。

 食費のことと家賃のことも考えると月最低20本は売らないと生きていけない状況だ。

 だが思うように売れない。

 月10本売れれば良い方で、パーシルは自身の食費を削り、何とか店を回していた。


――このままじゃ、まずいな……。食事が悪いとヴェインの成長にも悪いかもしれない。


 そこでパーシルはよくよく客を観察し、時折話をしてみることにした。


 情報収集は冒険者の必須スキルだ。

 現状どのような人物がピクルスを買っていくのか、観察してみることにした。


――なるほど、先月と同じ人が多いな。


 パーシルが気が付いたのはリピーターの存在だった。

 どうもピクルスは珍しい木の実や、珍しい肉を好む、珍味好きの購入が多いようだ。

 時折、彼らから話を聞くと、酒のつまみ等で扱われている様で、「きゅうりも捨てたもんじゃないね」と評判も悪いものではない。


 だがそのセリフはパーシルに違和感を与えた。


 パーシルはほかに競争相手が少ないと見込んできゅうりを利用すること選択したのだ。

 だが、世間から見ればきゅうりは『わずかなエグみのある瓜』であった、どうやってもそれ以上のイメージにはならないのだ。

 それこそが売れない要因だったのだとパーシルは理解するにいたった。


――このままじゃゲテモノ屋として人が寄り付かないな……。


 この現状を何かもうひとアイディア必要だった。

 ヴェインの知識を借りるのも手だと思ったが、ヴェインはこの半年、ピクルスが売れなかったことに自責の念を感じているのか、眉間にしわを寄せるばかりだ。


 いくら異世界転生者だったとしても、そんなヴェインにおんぶにだっこはパーシルとしては避けたいところだった。


――ヴェインの作ったものが売れないから、知恵を貸してくれ。とはさすがに言えないしな……。


 何かアイディアをと、パーシルは売れ残りのピクルスをかじりった。

 パーシルの隣では難しい顔をし足の高い椅子に座っているヴェインがすわっている。

 

「ちょっと邪魔をするよ!」

「いらっしゃ……ん?」


 突然の店の戸が開けられ、店にあわただしく背の高い赤みのある茶髪の男が入ってきた。

 身なりこそ一般的な商人風だが、パーシルはどことなく違和感に気が付いた。

 彼の服がシワと汚れが少ないのだ。


「ちょうどいい、ちょっと隠れさせてくれ。追われているんだ」


 何者だろうと、警戒するパーシルをよそに男はヴェインとパーシルの間に割り込む位置でカウンターを飛び越してきた。

 そして、入口を警戒しつつ、男はそこから来る誰かから見つからないように、身を隠すように小さくなった。


「ちょ、ちょっとなんだあんたは!」

「いいから、頼む!――ああ、D@Q@E*@Gみたいにはいかないな……」


 パーシルとヴェインは目を瞬かせた。

 パーシルにはその意味不明の言葉に馴染みがあった。


――もしかして、異世界転生者か?


 だとしたら追われているのも理解できると、パーシルは納得した。

 この国では異世界転生者は、特別な施設に集められ、管理されているのだ。

 大方、その施設から逃げ出してきたのかもしれない。


――見れば、かなり慌てているようだ。トラブルを抱えるリスクはあるが……。


 パーシルはヴェインを見る。


――異世界転生者であるヴェインの目の前で、異世界転生者を突き出すようなマネはできないな。


 仲間を裏切り、売り飛ばす冒険者はすぐに孤独となり、のたれ死ぬ。

 冒険者であるパーシルはそのことを知っていた。


 そこで、パーシルは一芝居打つことにした。

 

「ヴェイン、裏口まで扉を開けてきてくれ」


 ヴェインはうなずくと、パーシルの指示通り、裏口まで扉を開けにいく。


「すみません! ここに代表がきてませんか!」


 身なりの良い、メガネをかけた女性が店に駆け込んできた。


――代表? 代表だって!? まさか――


 パーシルは冷や汗を背中に感じつつ、ちらりと男を目だけで見た。

 赤みのある茶髪の男は首を横に振り、ジェスチャーでバツの字を作った。 

 よほど、会いたくないのだろうか、その形相は必死であった。


「……あ、ああ、その人なら、慌てて、あ、あっちからでてきましたヨ」


 あまりの事態にしどろもどろになりながら、パーシルは裏口を指さした。


「本当ですか! ありがとうございます!!」


 ものすごい勢いで裏口から店を飛び出していくメガネの女性を見送りつつ、パーシルはカウンターの陰に潜んでいた男を見た。


「……ところで、あなたはどちら様ですか?」

「俺の名前はフロム。しがない貴族の三男坊、もしくは遊び人だ」

「パーシル、こいつ、嘘ついてる」


 店の奥から戻ってきたヴェインが、カウンターの出口をふさぐ位置に立ちフロムの逃げ場をつぶした。

 フロムは観念したように息を吐いた。


「ばれてしまっては仕方ない。私はフロムロイ、実はこの国の代表、C4LQ@ED@Yもしくは大統領だ」

「えー……」


 なにゆえこんなところに代表がとパーシルは頭を抱えた。

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