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プロローグ   「出会いは最悪だ」

 ――瀟瀟しょうしょう

 雨風が窓を叩くそんな日のこと。

 

 「最悪だ……」

 

 俺は宿題をやっていなかったため学校に放課後まで居残りをさせられていた。

 自分が宿題をしていなかったことに喟然きぜんと嘆きながら、俺はシャーペンをプリントに走らせる。

 黒鉛がプリントにある程度付着すると、俺は教卓の上にプリントに置き、足早に席に戻った。席に戻ると紺色のかばんに教科書類をまとめてぶち込み、鞄のチャックを閉めてからった。

 ふと、俺は隣の席の奴が机の上に筆箱を置き忘れているのが目に入った。

 

 「まだ帰ってはいないみたいだな」

 

 鞄は教室の後ろのロッカーに存在していた。

 俺は気に留めず教室から去った。

 湿度の高い廊下を歩き、湿気で蒸し暑い階段を下り、人気のない靴棚へと到着して靴を履き、豪雨が降りしきる校門から傘を差して進んだ。学校の近くにある住宅街を右折し、川沿いを歩き、大路に着いて信号が青になるのを待つ。すると、後ろから誰かの足音が聞こえた。

 

 ――荒い息遣いに、水溜まりを踏んで水が弾ける音。

 

 そして足音は俺の隣で止まった。

 俺は不意に隣を見た。

 長い黒髪を雨で濡らした少女がいた。

 制服もこの大雨と暴風のせいで一面が水に侵され、鞄は水滴を浮かばせて踊らせている。

 すると、信号が青になった。

 少女は目の前を走り去っていく。

 俺は少女の背を目で追った。

 

 「まあ、気にしないでおくか……」

 

 俺は歩きながら呟く。

 俺が路地裏に差しかかった時だった。

 路地裏の奥の方で先程の少女が人を殺していたのだ。

 

 「は!?」

 

 俺は愕然がくぜんとする。

 それもそうだ。目の前で人が殺されている現場を目撃したら、誰しもが驚いて恐怖し、立ち竦むことだろう。

 少女は俺の視線に気づくと、不意に微笑んだ。

 

 「死体処理、手伝ってくれる?」

 「死体処理……って、そんなの俺に頼むなよ!」

 

 俺は少女に背を向けて走った。

 逃げながら俺はスマホを開く。そして110番に通報を……。

  

 「通報したら承知しないから」

 

 俺は足を少女に引っ掛けられ、顔から地面へと倒れた。

 余計に雨が降って地面が濡れていたため、泥水が口の中へと入ってきて気持ちが悪かった。

 すると、少女は俺からスマホを取り上げた。

 

 「へぇ、警察に通報しようとしてたんだね。じゃ、えいっ」

 

 少女は何の躊躇ためらいもなく俺のスマホを壊した。

 あぁ、バイト代を貯めに貯めて買ったスマホが無残な姿に……。

 

 「これでもう誰とも連絡は取らせないわ。さて、死体処理を手伝ってくれるかしら」

 

 ここは死体処理を手伝いながら隙を見て逃げるという作戦でいこう。

 

 「よし、手伝ってやるからスマホは弁償しろよな」

 「ええ。勿論」

 

 俺は汚れた制服を叩いて土砂を払う。

 一通り汚れが落ちると、少女の行く先に着いていく。

 そして少女と共に先程の裏路地へと着いた。

 

 「うっ……」

 

 俺は込み上げてくる嘔吐感を必死に堪えながら、死体処理を手伝う。

 血でまみれた男性の死体をばらばらに切り刻んで黒い袋の中へと入れ、そして少女に袋を渡した。

 男性が持っていた傘はどうするのだろうか。

 

 「よし、これで一件落着わね」

 「そんなわけないだろ」

 

 俺は溜め息を吐きながら、少女に言った。

 

 「で、何で男性を殺したんだ? お前に喧嘩でも売ってきたのか?」

 「いいえ。私は傘が欲しかっただけ」

 「うわぁ……」

 

 傘が欲しいからって人を殺して奪うとは、何ともおかしな思考をしている。

 普通にコンビニに売っているビニール傘を買えばよかったのに。

 よし、もうそろそろ作戦通り逃げることにするか。

 すると、少女が男性の傘を見て、

 

 「これ壊れてるわ……じゃあ、あなたの傘に入ることにするわね」

 「え……」

 

 そう、少女が俺の傘の中に入ってきたのだ。

 隣を歩く少女に、俺が驚きを隠せなかった。

 しかしながら、本心では殺されなかったことを喜んでいた。

 

 「ふふ、あなたって意外と身長高いわね」

 「そ、そうなのか……あはは」

 

 苦笑して少女の話を聞き流す。

 まずい、どうしよう俺。殺人犯と相合傘をするなど、あまりにも無謀じゃないのか?

 だが、俺の良心はそれだけじゃ崩れなかった。

 たとえ、殺人犯だろうと少しは心配してしまうものだった。

 

 「風邪引くかもしれないから、家に来るか?」

 

 何を言っているんだ俺は!?

 これではまるで思考を放棄したみたいじゃないか。

 少女は考える素振りを見せる。

 すると、微笑んで、

 

 「ええ、ありがたく上がらせてもらうわ」

 

 嬉しそうに言った。

 殺人犯を家に上がらせてしまう後悔と、少女に喜んでもらえた嬉しさが脳内を反芻する。

 俺、これからどうなってしまうんだ……。

 喟然と嘆き、俺は家の鍵を開けた。

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