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星を旅する  作者: 魚蒼
1/1

草原の星

はじめまして。

初めて小説を書いてみました。

よろしくお願いします。



宇宙(そら)から見ていて分かっていたが、視界一杯に広がる草原は見る者の心を雄大な気持ちにさせた。

見渡す限りに緑が広がっているが、緑一色ではなく所々にカラフルな花も咲き誇っている。


「スゴイ緑だよねっ! わたし、これまでの旅でここまで広い草原って初めてかも」


「う、うん。これだけの草花に囲まれてると、なんだか圧倒されるね」


「ずっと先まで草原だったよね?」


「ボクが確認できた範囲では、周囲全てが草原だったよ」


どこまでも続く緑の絨毯の中に異物が三つ。

人と、人と、宇宙船。


一人は長めの髪を後ろで一括りにまとめ、背負ったリュックの肩紐を握りしめ跳ねるように頭一つ分小さな相棒に話しかける。

一人は肩で揃えた髪を軽く抑え、背負ったリュックを少し重そうにしながらも興味深げに周囲の様子を見て、相方からの言葉にオドオドと返事をする。

二人がぎりぎり搭乗できる、しかし明らかに小さすぎる宇宙船は、多くの草花を潰しながら二人の傍に着陸していた。たった今二人が降りたのか、降りていたタラップが宇宙船に収納されて入り口が閉じるところだった。

地面を進む二人はどんどん宇宙船から離れていた。膝の高さまで成長している草花を足で軽くかき分け進みながら、二人は会話を続ける。


「緑の匂いだけじゃなくて、花もいい香り。少し移動しただけでも匂いが変わって、面白いね」


足元に気を付けながら、勢いが良すぎて幾つか踏んでしまっているが元気よくはしゃぎながら進む。


「あ、あんまり遠くに行っちゃ危ないよ。船から離れすぎると何かあったときに困るし、ボクも心配だよ」


少しオドオドと、それでも丁寧に足元の草花をどかしながら追いかける。


「えー? でも、ぱっと見は危険がなさそうだし、宇宙船に積んでる水も少なくなってきてるから探さないとでしょ」


「水はそうだけど、まだ数週間はもつよ。危険があるかどうかは、もっとちゃんと時間をかけて調べないと……」


「大丈夫、大丈夫。こんなにのどかな風景なんだから、きっと安全な星だってば。わたしの勘だけど!」


「それは自信をもって言えることじゃないよ……。別の星で、一見安全そうでも危険な星があるっていう噂も聞いたことがあるんだから。できる限り気を付けたほうがいいよぅ」


「その時はわたしが守ってあげるって!」


「うーん……。まあ、なんとかなるかなぁ」


ついに説得することを諦めたのか、二人の歩みは止まらない。辺りをキョロキョロと見回しながらも、目的地を決めているかのように迷いなく真っすぐ進み続ける。



会話をしながら進むこと少し、額に薄っすらと汗が滲み出してきた頃、二人の足が止まった。


「やっぱりあった! 宇宙(そら)で見つけたとこの結構近くに着陸できてたんだね。私の運転技術も日に日に成長しているということですな」


「前の星じゃあ、二日も歩く距離に着陸しちゃって大変だったよね。今回は早めに見つかってよかった。キミの言葉じゃないけど、どれだけ余裕があっても水の確保はしてあったほうがいいし」


視界一面にあったはずの緑が、そこだけ直線を引いたようになくなり、代わりに清廉な水が流れる川が目の前に現れた。


「見た目はキレイな水に見えるけど、一応検査しておくね」


「わたしはいらないと思うけどなあ。もっとこう、川だー! ざっぱーん! うまーいっ! て感じでさあ」


「それはちょっと……。ここにはボクとキミの二人しかいないんだよ。もし有毒性があって倒れたとしても、だれも助けてくれないんから。こういうことはきちんとしないと」


「はーい」


先ほどまでのオドオドした様子とは一変し、右手人差し指をビシッと立てながらクドクドと叱り始める。身長は高いはずなのに、子供のように首をすくめてやり過ごそうとしている今だけは、身長差が逆転して見える。

説教がひと段落したのか、背負っていたリュックサックから小さな試験管を取り出して川の水をくみ取る。その際に、水には直接触れないようにトングのようなもので試験管を挟み気を付ける徹底ぶりだ。

一緒に取り出していた錠剤を試験管内の水に投入すると、サッと錠剤が溶け出すが水には何の変化も起きない。


「うん、大丈夫そうだね。 生活用水の他に、そのまま飲み水としても使えるほどだよ」


「やっぱりわたしが言った通りだったじゃん!」


なぜか胸を張って威張る。

それをあきれた様子で見ながら、先ほどの説教の続きを再開しようとする。


「それでもこれは必要な検査だよ。もしキミが勝手に水を飲んで倒れても、ボクは知らないからね。それに、」


「あーっと、わあー、やっぱりあなたが検査してくれた水はおいしいなあ! そこらの水とは一味も二味も違うや」


「……調子がいいなぁ」


「これで魚がいてくれれば、わたしの火でおいしく食べられるのになあ」


「あー、前の星で大量に買ったやつね……」


半目で睨まれていた視線から逃げるように川に早足で近づき、水を直接手ですくいそのまま飲む。必死にアピールする様子には説教から逃げたい思いが出ていたが、それを見ては苦笑するしかなかった。


一息ついて、改めて周りの様子を確認し思ったことがつい口から出てくる。


「上から見てても思ったけど、ホントに植物以外がないよね、この星」


「不思議な環境だよ。ちゃんと探したわけじゃないけど、動物の姿がない。草食動物がいないのに、ここの草花はどれも一定の高さまでしか成長していない。今まで色々な星を見てきたけど、こんなに特定のものだけが存在する星というのは初めてだ」


「へー、あなたがそんなに興奮するなんて珍しいね」


「う、うん。知らないことを知っていく。不思議な出来事に遭遇できるということは、新しい知識を得られるということでもあるからね。植物や土に何かあるのかもしれないから一度、船に戻って詳しい調査をしたいんだけどいいかな」


「いいよいいよ。移動してもあんまり回りの景色が変わらないし、それなら徒歩より宇宙船でいっきに移動したほうがいいし、戻ろっか」


「ありがとう」


「あはっ」


「?」


「わたしとあなたの仲じゃない。わたしたちがやりたいことをやりたいようにやる。あの時、そう決めたでしょ。だったらお礼は別にいいよ。それがあたなのやりたいことならわたしは手を貸すし、わたしのやりたいことにはあなたの手を借りる。そうでしょ?」


「うん。でも、それでも、ありがとう」


「どういたしましてっ! あ、あははっ」


「ふふふ」


二人、顔を見合わせて笑いあう。

最初のころとは違い、お互いに気を使い結果として何もできなくなるようなことはなくなった。今のこの距離感になるまでは大変だったが、やっとできたこの関係が心地よい。

ひとしきり笑いあい、落ち着いたところで帰還するための準備を始めた。


二人のリュックに入れて持ってきた、リュックのサイズより何周りか大きな容器に水を汲み再び収納する。

ここまで来た道を戻るために振り返ったところで、異変に気付いた。


「あ、あれ? ボクたち、こっちから来たよね?」


「そう、だと思うんだけど。……道、ないね……」


草原をかき分けながら進んだことで生まれた道がなくなっていた。また、大きな勾配がなかったはずなのに、目印になるはずの宇宙船も二人の視界から消えている。

まっすぐ歩いて川に垂直に当たったので、川の反対方向に進めば元の場所には帰れると思うのだが、今の状況ではそれが正解なのかがわからない。


帰るべき道がわからなくなり、混乱気味に両手を振り回す。


「ど、どうしよう!? 道も船もないけど、わたしたちが来た方角に歩けば大丈夫だよねっ、ね?」


「いや、何が起こったのかわからないまま進むのは危険じゃないかな。今、船との通信を行っているんだけど、信号が弱いのか途切れ途切れで正確な位置がわからない」


手には画面が付いた機械が握られていた。普段とは違う真剣な眼差しで画面を見ているが、こめかみに一筋の汗が流れる。


「ご、ごめんね。わたしが川を早く探そうなんて言ったから……。もうちょっと調べてからって言われてたのに、どんどん先に進んじゃって……わたしのせいだ」


力なく項垂れて、今にも泣きそうな表情になる。両手は白くなるほど握りしめられていて、いつもは元気に跳ねている後ろ髪も今はしょんぼりしているように見える。

謝罪の言葉に、慌てて画面から顔を上げてそれは違うと訂正する。


「ちっ、違うよ! 見晴らしがいいし、水の確保は必要だってボクも賛成したんだ。どちらのせいということじゃない。この星は安全だと勝手に思い込んでたボクたちの認識が甘かった。それを今ここで責め合っても何の解決にもならないよ。これからどうするかを考えようよ」


「うん、……うん。ありがとう。それじゃ、これからどうしようか。来た方向は覚えてるんだから、そっちの方向へ移動してみる?」


「うーん。よくわかっていない状況で下手に動くのは危険だけど、何もしないのもね。他に案があるわけじゃないし。……一応、現在位置とこれから移動した距離を記録するようにしておくね」


「そういうのはあなたに任せてるし、よろしくね」


持っていた機械を少し操作した後、二人は川とは反対方向に歩き始めた。

今のところ、周りには何の異常も確認できない。不自然なほどに。



ーー


宇宙船から川まで移動するのと同じくらいの時間を歩いたが、未だに宇宙船は二人の視界には入らない。

戻る途中から薄々気づいてはいたが、言葉にしてしまっては後戻りできなさそうで、黙々と歩いてきた。

しかし、流石にここまで来てしまっては何も言わないわけにはいかない。


「あーー、どう思う? わたしはこの辺りに着陸したと思ってたんだけど……」


「うん。ボクも、歩いた時間から考えるとこの辺りだと思う……んだけど、何もないね」


視界に映るのは、この星に最初からあった植物のみ。

どこまでも拓けた視界の先には、二人よりは大きな宇宙船が影も形も見えない。それはおかしい。

おかしいはずなのに、それが現実だ。いつまでも現実逃避はしていられない。

星々を二人で巡り、時には危険なことにも巻き込まれたが、どんな時でも二人で力を合わせてここまで来たのだ。

慌てるだけでは何も解決しないことを知っている。


「戻っている途中に何度か確認していたんだけど、船からの信号はちょっとずつ強くなってはいるんだ。ここへも、信号が強くなる方向へ移動したから道も間違ってはいないと思う。ただ、何かに妨害されているみたいにハッキリとはしないんだ。近づいてはいるはずなんだけど……」


「わたしたちの宇宙船、本当にどこに行ったんだろうねぇ。もしかして! わたしたちに愛想を尽くして飛び去ったりとか……はないよね」


「ははは、それはないよ。この星に来るときには何ともなかったんだから。それに、船からの信号は途切れ途切れだけどちゃんと受信できている。これは、この近くに船があるということでもあるんだよ。ボクたちが戻る道を間違えたとい可能性もなくはないけど、現状から一番怪しいのはこの星やこの草原だね。あと考えられるとしたら、誰かが持ち去ったというのもあるけど、こんなに見晴らしのいい場所で気づかなかったってことは、本当にボクたち以外はいないと思うんだけど……」


川で混乱していた時とは違い、冗談も交わせるくらいには二人とも落ち着いたようで、現在の状況と今後の予定を話し合っていた。

ただ、何が起こっているのかわからない現状では、どこに気を付ければいいのかが不明なので、お互いの四角をカバーするように向き合い、それぞれの後方を監視しながら認識の擦り合わせを行う。


「星? わたしたちが宇宙からこの星を見たときは、ただの緑色した星だと思ってたんだけど、それに何かあるの?」


「詳しいことは調べてみないとなんとも言えないんだけど、ここには植物しかない。いや、逆に言えば植物以外が存在しない星なんだ。これは異常だよ。もしかしたら、ボクたちがただの植物だと思っているこれらが、全くの勘違いで何か普通の植物とは違うのかもしれない……」


「違うって……じゃあなんのなのよ?」


「それは……、ごめん。今の時点だと分からないとしか」


「わあー! わたしこそごめん! 責めてるんじゃなくて、ただの疑問だから気にしないで」


「ふふ、キミがそんなことで怒らないことはわかってるよ。」


「あっ、もう!」


からかわれたと気づき、頬を膨らませる。それを見て、さらにおかしそうに口元を手で隠しながら笑っていた。

ひとしきり怒り、笑い、一息ついた。

二人の空気は明るくなったが、大変な状況には変わりないので、改めて今後の方針を話し合う。


「できればこの植物を調査したいんだけど、機材は全部船の中に置いてたから……。ボクの手持ちだけだと詳しく調べられないんだよね」


「機械がなくてもできることをすればいいんじゃない?」


「それはそうなんだけど……。だからって、何もわかっていない状態で不用意な行動を起こすのも危険だよ。例えば無理やり植物を引き抜いたり……」


ずぽっ!


「えっ?」


「へ?」


話を最後まで聞かないうちに、足元に生えていた植物を片手で勢いよく引き抜いていた。

思わず呆けた様子で二人とも顔を見合わせるが、そのうち片方の顔色が青く、嫌な汗がダラダラと流れてくる。

対照的に、抜いた方は暢気な顔で手にした植物を観察する。


「うーん、どこからどう見てもただの草……だと思うんだけど、あなたはどう思う?」


「…………。はあ。いつも思うけど、キミのそれは勇気と無謀が紙一重だよね……。ボクの心臓がもたないよ」


「あっはっは。そんなに褒めないでよ」


「苦言だよ……」


しばらく待ってみても何も起きない。

安心して、やっと再起動したのか目をしばたたかせながら、手に持つ植物を観察する。

確かに、根と茎と葉がある普通の植物だ。星によっては、顔があったり動きだしたりする植物もあるが、この星の植物はどうやら一般的な植物のようだった。


「えいっ」


軽い調子で茎を手折る。


「え、ちょ」


慌てて止めようとするが、当然のごとく間に合わなかった。

折れても植物は動くことはないし、内部構造にもおかしなところは観えない。


「はあぁぁ。キミはホントに……。でも、一般的な植物と違いがないね。川へ移動したときに、キミが何本も植物を踏みつぶしていたのに、気が付いたら何もなかったようになっていたのは植物に何かがあって、潰しても立ち直っていたんじゃないかとボクは考えていたんだけど、これだと違いそうだね」


「植物が特別なわけじゃないのか……な!? ちょ、ちょっと! 地面っ、地面を見て!」


「うん? 地面がどうし……」


地面から植物が生えていた。

植物自体は二人の周りにいくらでも生えているので何もおかしいことではないのだが、おかしいのだ。

抜いたはずの(・・・・・・)植物が生えていたのだ。手に持っている物とまったく同じ植物が引き抜いた場所に生えているように見える。


「ここって、キミが手に持っているのを抜いた場所だよね……」


震える声で、新しく生えていた植物を指さしながら確認する。


「う、うん。わたしは動いていないから、そのはずだよ。でも、抜いたはずの場所にいつの間にか生えてる」


「……でもこれで、川からの帰り道がわからなくなっていた原因が分かったね。ボクたちが川を調べているうちに新しく生えたりして道がなくなっていたんだね」


「道が消えた謎はわかった。じゃあ次は、わたしたちの宇宙船が消えた謎だね!」


「船が勝手に動いたんじゃないなら、この辺りにあるはずだ」


「でも何もないよね。草だけ」


「草だけ。そう、草しかないんだ。逆に言えば、草がある。これは重要だよ」


「重要なの?」


「重要だよ。船はなくなるのに、草はなくならない。抜いてしまっても直ぐに生えてくる。もしかしたらだけど、キミ、地面を軽く掘ってみて」


「地面? わかった」


リュックから折りたたみ式のスコップを取り出し、二、三回地面を掘り返す。

掘った直後は何も変化がなかったが、気が付いたら掘った跡が消えていた。穴が消え、掘る前と同じ状態に戻っていた。


「え? わたし、ちゃんと掘ったよね? あれ、でもいつの間にか戻ってる……」


「うん。キミは掘れてるよ。その証拠にほら、掘り出した土が残っている。これは植物と同じ現象かな。再生、というよりは復元? 星自体を1つの身体と考えて、傷がついたら傷を治そうとしている……のかも。ちょっと想像が飛躍している気もするけど、一面の草原のどこでも同じように元に戻るのなら、草や土はそれぞれ個別の物ではなくて、全てで一個体なのかもしれない。それはこの辺りの草原と地面だけなのかもしれないし、宇宙(そら)で見たときに一面が草原のようだったことから星全体がそうなのかもしれない」


「んー? よく分かんなかったんだけど、結局宇宙船がなくなった原因は?」


「つまり、星を1つの生命体としてみた場合、草や地面が元に戻っているのは私たち生物が怪我を治すのと同じ現象が発生したんじゃあないかということ。動かないはずの船が突然消える。それでも、船からの信号は微弱だけれど受信できている。このことから、船が消えたのはこの星の食事、または、身体からばい菌を排除しようとする免疫作用が働いているんじゃないかな」


「えーっと、つまり、わたしたちの宇宙船がこの星に食べられちゃったってこと? そうしたら、今宇宙船はどこにあるの?」


「そりゃあ、食事ということは体内に取り込むということで、この星の体内と言ったら……地面の下……に、ある、のかな……」


未知の現象に遭遇し、始めは興奮気味みだったが現状を確認すればするほど絶望的な状況に思えてきて、勢いがなくなっていく。

最後には、下を向いてぼそぼそと話すだけになった。


「それじゃあ見つけられなくない? 地面を掘っても元に戻っちゃうし」


「うん、……うん。どうしよう」


二人の顔が真っ青になった。

後ろ髪をぴょんぴょん跳ねさせながら、相棒に詰め寄る。その様子は、今までの能天気さがどこかに行ってしまっていた。


「え、いや、うそ。ホントに何もないの? わたしたち、このままじゃこの星から出られないよ」


「ん……、それだけじゃないよ。この星自体が食事をするというのなら、植物以外の動物や昆虫が見つからない理由も分かる。食べられたんだ、地面に。それは、このまま脱出できないとボクたちもそうなるということで……」


最悪の想像をしてしまったのか相棒の目に涙が溜まる。

助けを求めるように顔を上げるが、食べられる宣言でそちらも冷静にはいられなかったようだ。両手を振り回してわたわたしている。


「食べられる。わたしたち、ここで死んじゃうってこと、だよね……。なら! どうにかして宇宙船を探し出さないと!」


悪い想像を働かせたせいで、先程までの興奮モードから普段のオドオドとした気弱な状態に戻ってしまった相棒とは異なり、最悪を回避するための行動を起そうとしていた。


「あなたは宇宙船を回収する方法や、食べられなくする方法を考えて! わたしは一応、自力で宇宙船を掘り出せないかを試してみるから!」


「で、でも。船が着陸していた形跡がないと正確な位置がわからないし、食べられたっていうのもボクの予想でしかないから全く違う現象なのかもしれないし……」


「あー、もう! あなたと約束したでしょ! わたしが身体を動かす。あなたが頭を動かす。どんな時も、二人で力を合わせるって!」


「うん、……うん! ごめん。冷静じゃなかった。こんな状況だからこそ、ボクたち二人で力を合わせるんだよね。大丈夫!」


気合を入れるように頬をたたき、涙を拭う。今ある道具で何ができるかをしるために、リュックを地面に下して中身の確認を始めた。

相棒がやる気を出したことを確認してから、手に持っていたスコップで目につく場所から掘り進める。



ーー


「まずは、何パターンか船を見つける方法を考えてみた。ただし、星や草原自体が1つの生命だという予想が正しかった場合、怒らせてボクたちが危険になるかもしれない方法もあるんだ。これはキミと相談して、最終的にどうするかを決めたい」


「はぁ、はぁ、はぁ、……わかった。聞かせてちょうだい」


折りたたみスコップでずっと地面を掘り続けていたが、やはり気が付いたら最初の状態に戻ってしまっていた。

土の小山ができている脇で膝に手を置いて息を整えているのを尻目に、長考して考え付いた方法を話し始める。


「まず一つ目は、船があった痕跡を探して、そこをボクたちで頑張って掘る」


「え゛っ」


「まあ、でもこの方法は現実的ではないね。キミが一生懸命掘ってもすぐに元に戻っていたし。船の痕跡も探し出せるかがわかっていない」


「よかった。これ以上は腕が上がんなくなっちゃうよ」


「二つ目は、船自体に頑張って出てきてもらう」


「端末から指示を出すってこと?」


「そう。ボクたちの持つ端末に、微弱だけど信号が届いているということは、こちらからの指示も船に届くはず……なんだけど、何度か試しても変化がないんだよね」


「ちゃんと宇宙船に信号が届いていないということかな?」


「うん。船からの信号の方が強力だけどこっちにはほとんど届いていない。端末からの弱い信号だと船で受信できていないのかも。もしくは、自力では動けない状態か」


「うーん」


「最後に、これが一番効果的だと思う。ただし、一番危険でもある方法なんだけど、……この草原を燃やすんだ」


「燃やす? それだけだと宇宙船は見つからないんじゃないの?」


「例えば、キミが食事中に大きな怪我をした場合、食事を優先するかい? 食事どころではなくなってしまうんじゃないかな。それは、この星も同じだと思うんだよ」


「その大きな怪我が、草原を燃やすってこと?」


「うん。船を食べる余裕がなくなって、吐き出してくれるんじゃないかなって。まあ、ただの予想、っていうよりは都合のいいボクの願望でしかないんだけどね……。一応、この星のことかはわからないけど、似たような噂があったんだよ」


「噂? そういえば、この星に来てすぐにそんなこと言ってたね」


「星や環境が擬態して、宇宙からの旅人を安心させたところで捕食するっていう噂をいくつか前の星で聞いたんだ」


「捕食……」


「その噂の中で、爆弾を使ったり攻撃を加えたりして危機を脱出したっていう話もあったから、今のボクたちの手持ちでできることが燃やす、なんだ」


「予想でも願望でも、何もやらないよりは試したほうがいいよ、絶対に」


「ありがとう。でも、この方法だとボクたちも危険かもしれないんだ。大怪我をさせると、場合によっては外敵、今回はボクたちだね。ボクたちを排除しようとして、襲ってくるかもしれない」


「襲われるって……、周りの植物に?」


「植物だけじゃなく、地面や空間なんかももしかしたら襲ってくるかもしれない。そうなった場合、船がないボクたちは逃げる手段がないからどうしようもないんだ。食べられるか、潰されるか、まあとにかく殺されるかも、ということだね」


「えぇぇ……」


「ちょっと他にいいアイデアがないけど、キミが嫌ならもっと考えてみるよ」


「いや、ううん。大丈夫。それでいこう!」


少しの間悩んでいたが、最終的には頭を横に振ってから賛成する。

ただの空元気ではなく、相棒のことを信頼しているのか目には力がある。


「ありがとう。それなら、さっそく準備を始めよう」


「わかった! わたしは何をすればいい?」



ーー


「いくよ。心の準備は大丈夫? わたしはあまりよくはない」


「ボクもよくはないけど、大丈夫。……大丈夫」


二人のリュックサックから取り出した大量の着火材を周囲にばらまき、バーナーで着火した。

リュックの中に入っていたとは思えないほど大量の着火材は、二人が野宿する場合の備えとして用意していたものだ。それにしては多すぎるが……。


「こんなにいっぱいの着火材は、わたしのお手柄だよね!」


「はあ、キミが毎回火起こしが面倒だからって、大量の着火材を使って火起こししてるんじゃないか。今回はお手柄だったけど、毎回こんな量をリュックに入れてると、他の物を入れるスペースがなくなるんだから……」


「へへ、結果おーらい!」


初めに、小さな範囲を円形状に燃やした。燃え尽きて延焼しなくなった場所に移動して、次は円の外側に向かって燃やし始める。風向きに気を付けていたので、煙で咽るというようなこともなく、一先ずはある程度の範囲を燃やすことができた。

あとは結果を待つだけだ。


「……ねえ」


「何?」


「これって、どれくらい燃やすと怪我って認識されるのかな? これ以上はわたしたちが持っている着火剤だけだと難しいと思うんだ」


「そうだね。今燃えている範囲だと、この星全体でみると1%もないけど、問題ないとボクは思うよ」


「その心は?」


「確かに怪我の大きさと痛みは関係するけど、そのまま大きさがイコール痛みなわけじゃなくて、怪我の種類で痛みも変わってくるよね。その点、表面だけとはいえ火傷は結構な重症だと思うんだよね。これもただのボクの願望でしかないんだけどね」


「まあ、火傷は小さくてもヒリヒリして痛いよね。わたしはあなたのことを信じてるから、願望でも一緒に祈るよ」


「ッ! も、もう!」


変化がないとボーっと燃える様子を眺めていると、突然地面が揺れだした。二人は立っていられずに、バランスを崩して片手を地面につける。片方にいたってはお尻から転んでしまっていた。


「これは、もしかしなくても!」


「ボクの願望が当たったかな!」


揺れが幾らか続いているうちに、燃えている範囲の地面が盛り上がり始めた。どんどん丘のサイズが大きくなり、何時の間にか丘だと思っていた盛り上がりが二人の宇宙船に代わっていた。ずっと見ていたはずなのに突然現れた宇宙船に、二人は口を大きく開けて呆けてしまう。


「今の見えた? わたしには突然宇宙船が現れたようにしか見えなかったんだけど……」


「う、うん。ボクも地面の盛り上がりがいつの間にか船になったとしか……」


信号が強くなったのか、今更ながら手に持つ端末から大きな音が鳴る。

出現した宇宙船は、何事もなかったかのように入り口を開けてタラップを地面に下す。


「と、とりあえず乗り込もう! またいつボクたちが危険になるかわからないんだし!」


「わかったから、押さないで。自分で走れるよ。そういえば、宇宙船の燃料は大丈夫なの? 脱出できても途中で漂流とか、わたしは嫌だからね」


「問題ないよ。もともと、数週間分の燃料は残っていたから。ここで補給できなくても次の星までは持つはずだよ」


「ならさっさと脱出しようか」


「うん」


このままここにいると危険だと気が付いて、少し大きな背中を押しながら宇宙船に乗り込んだ。

宇宙船の中の様子は、この星に到着したときと変わっていないように見える。


「ふぅ、よし! 到着っと……なっ!?」


「どうしたの? そんな間抜けな顔して、ってえ!?」


入り口が閉まる前に外の様子を確認したとき、景色が変わっていたのに気が付き思わず声を漏らした。

辺り一面を焼いたことで地面に黒い煤と残り火があるだけだったのに、いつの間にか初めに目にした草原に戻っていたのだ。二人は扉が完全にしまっても唖然としていたが、自動操縦なのか、宇宙船はこの星を旅立つ(脱出する)準備をはじめ、間もなく宇宙へと飛び出していた。



ーー


「は、あはは、あはははははは!」


「ふふ、ふふふふッ!」


「あはははっ、今回も大変だったね」


「ふふ、うん。ボクたちの旅で、大変じゃない旅はあまりなかったけどね。ボクはもっと楽しい旅にしたいんだけどねえ」


「次の星に期待しようか」


『吾輩のことも、少しは気にしてくれると嬉しいのだが。お前たちのせいで危うくこのプリティボディが食べられるところだったんだぞ』


二人の周りから突然、怒ったような女性の声が聞こえた。どこから発声されているのかは不明だが、二人は気にすることなく会話を続ける。


「いや、心配はしてたんだけど、ボクたちが必死にきみを助けようとしてるときもずっと意味不明な信号をだしてたから、余裕あるんだなって思ってたよ。だいたいなんだよ、人生初の砂風呂って。まあ、信号が弱くて他はうまく受信できてなかったけど、この砂風呂のおかげで、なんとなく地面の下にいるのかなっては想像できたんだけどさあ」


「まあまあ、わたしたちも大変で余裕がなかったんだよ。それより、次の星への航路はわかるの?」


『それよりってなんだよ……、大事なことだぞ。まあ、まかせな。ちゃんと次の目的地は設定済みだ。到着したら洗浄してくれよな。吾輩の身体が土まみれで気持ち悪いんだよ』


「わかったよ。わたしが隅々まで洗うよ!」


「ボクはちょっと調べものするから……」


「あなたも手伝ってよぉ」


一人と一人と一隻、暢気な会話がいつまでも続く。

宇宙船の窓からは、緑に包まれたキレイな星が見えるだけだった。




◆草原の星

この星には草原が存在する。

どこまでも続く緑の水平線。

横になれば身体を柔らかく包み込んでくれる草花。

そこは一面緑のカーペット。

この星には草原が存在する。


この星には草原が存在する。

どこまでも、どもまでも続く緑の絨毯。

周りを見渡せば、色とりどりの草花が目と、鼻と、耳を楽しませる。

いつまでも、いつまでもここで過ごしたくなるだろう。

大丈夫、ここは命のベッド。

人も、獣も、虫も、金属も、全て分け隔てなく受け入れてくれる。

ああ、全ての命は緑を運び、育むことだろう。

この星には草原しか存在しない。


ただ一つ、長時間の滞在はおすすめしない。


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