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異変

「あー、みんな、夏休みを満喫したようだな」

 担当教師である 間林(かんばやし)(いわお) 教諭は独特の長い眉を持ち上げ、焦茶の瞳で教室を見渡した。


 間林は長い眉と、白髪混じりの灰色に見える髪、口髭、顎鬚を蓄えた、遠目から見たらファンタジー系の映画に出てくる魔術師の様な風貌から、生徒からは魔術師のウィザードから文字って「ウィズ先生」と呼ばれている。


 そんな間林教諭の言葉に春人は苦笑する。


 予想以上にイメチェン……いわゆる「二学期デビュー」をしている学友が多かったからだ。


 電車で見た大黒さんほどではないが、髪型を変えていたり、ほんのり髪を染めている者や、体系的に太ったり痩せたりして外見が変わっている生徒がちらほら見受けられた。


「今日は始業式とホームルームのみだから大目にみるが、ちゃんと生徒手帳の校則欄を読んで違反がないことを確認するんだぞ」

 間林教諭が「はぁ」と小さくため息をついて生徒にやんわりと注意する。


「それじゃ、二学期最初の出欠をとるぞ」

 そう言い、間林は手元の名簿に視線を落として、クラス35名の点呼を始める。


 二学期初日は誰一人欠席者や遅刻者はおらず、全員揃っていた。


「うむ。全員いる様じゃな」

 名簿を閉じると、間林教諭は再度教室を見回し、頷いてみせる。


「さて、始業式までまだ少し時間があるようなので、すこし夏休みの間の話でもしようかなと思う」

 振り返り黒板の上に掛けられた時計を確認すると、間林教諭はそう話を切り出した。


 他のクラスは点呼が終わり次第、二学期始業式のため体育館に向かうのだが、その時はクラスの生徒全員何の違和感も感じていなかった。


 間林教諭が時計を確認した時に、同じように見た時計の針は8:58を指していた。

 8:45から朝のホームルームがあり、移動時間を加味して9:30から体育館で始業式が行われる予定であったので、「まだ少し時間がある」という言葉に矛盾はなかった。


「本来ならば、生徒に夏休みの出来事など確認する予定だったんじゃがな、ここは儂の話を聞いてもらおう」

 口髭を歪めてニカリと笑う。


 生徒から「えー、先生の話とか、興味ないからー」とブーイングがでたが、それは賑やかしの類で、本当に嫌がっている生徒は少なかった。


「皆が儂を「ウィズ」と呼んでいるようじゃが、気になって夏休みを利用してVRゲームを始めてみたんじゃ。もちろん、職業は魔術師でな」

 間林教諭は授業で使う指し棒を、あたかも魔法使いの杖のように振り上げてみせた。


 その言葉に何人かの生徒が興味を示し、どのタイトルのゲームなのか、初めて一ヶ月でどれくらい上達したのか、などの質問が飛んだが、間林教諭に「生徒と教師の距離を保つためにその辺の詳細は秘密じゃ」とはぐらかされてしまう。

 では、何でそんな話をしたのか? と抗議の声が上がるが、それを無視して間林教諭の言葉が続く。


「剣と魔法の世界。実に素晴らしい世界だった。まさにあちらの世界を再現しているようだった」

 恍惚とした表情で語りながら、間林教諭は教壇の前に足を運ぶ。


「?」

「ウィズ先生?」


 間林教諭の様子に生徒から、戸惑いに似た疑問の声が上がる。


「おっと、すまん。すまん。ちょっと、興奮してしまったようだ」

 間林教諭はすぐさま表情を戻し、照れ隠しに「ほっほっほ」と笑ってみせる。


 クラスのほとんどの者が、間林教諭を見ている中、春人は視線を感じてそちらに目を向ける。

 すると、不安そうにこちらを見つめる七海と目があった。


 そういえば、七海から「気のせいかと思うんだけど、ウィズ先生がたまに私のこと見てる気がするのよね。なんだかちょっと怖い」と言っていたことを思い出す。


 嫌な予感がする。


「皆はアニメやゲームの様な「剣と魔法の世界」に行ってみたいと思ったことはないか?」

 間林教諭は歩を進め、生徒に問う。


 呆気にとられ、生徒は沈黙する。


 教室の真ん中で、間林教諭が立ち止まると、突然異変が起きる。


 教室の床に光の文字が浮かび上がったのだ。


 この文字、どこかで……


 春人の頭がズキリと痛む。


 剣と魔法の世界。


 繰り返される人間と魔族の争い。


 勇者と魔王。


 魔王ーーヴァルドグランド。


 !!


 春人の脳裏にいくつか場面がフラッシュバックし、唐突に悟る。


 これは、あちらの世界で使用されていた魔法文字であると。


「やばい。みんな、すぐに教室から出るんだ!」

 とっさに立ち上がり叫ぶ。


 カチリ……


 時計の針が9:00を指した瞬間


 皆の視界は光の白に塗りつぶされた。

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