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スライム

マスコットキャラのスライム登場回です。

 真っ赤なスライムを見た瞬間、春人の頭にズキリと痛みが走る。


 ククク、見ツケタ――


 脳内に言葉が響く。それは春人の中のもう一人の自分……


「この声は、魔王だった時の残滓……」


 頭を押さえて表情を歪める春人に、七海が心配そうに声を掛ける。


 大丈夫、と言葉を返そうとするのを盗賊の声が塗りつぶす。



「うおらぁぁぁぁあっ!」


 汚い叫び声と共に、盗賊団の一人がスライムに飛びかかり、肉厚の刀を振り下ろしていた。


 しかし、その刀は空を切り地面に突き刺さり、カウンターの様にスライムな体当たりが盗賊の顔面にクリーンヒットする。


 ぽよん


 そんな音が聞こえてきそうな一撃は、盗賊の顔を僅かに跳ね上げただけで、スライム自体も自分の弾力に上空に跳ね返る。

 ゲーム風に説明すると


―――――――――――――――――

> とうぞくAのこうげき!


> スライムはひらりとこうげきをかわした。


> スライムのカウンター!


> とうぞくAはダメージをうけていない!

――――――――――――――――――


 て言う様な感じだ。はっきり言って不毛。こんな最弱モンスターに盗賊団は煮湯を飲まされていたのか疑問に感じる。


「今だ、殺れ!」

 怒号にも似た盗賊頭の命令が飛ぶ。


 ふわりと宙に浮いたスライムに盗賊B・C・Dが襲いかかる。まさに多勢に無勢。

 空中で身動き取れないスライムは攻撃を回避することはできない。


 詰んだな。そう思った瞬間


 ビュッ!


 スライムは体の一部から謎の液体を吹き出して、その推進力で方向転換して見せたのだ。


「ぐぁ」


「ぎゃっ!」


 謎の液体を浴びた盗賊Bは体制を崩し、その推進力で今度は盗賊Cに体当たりをする。


 盗賊Dの攻撃は、想定外の空中での旋回に空を切っていた。


 コロコロン……


 体当たり後、地面に転がるスライムはまるで石の様であった。どうやらエクストラスキル【硬度変化】を使用した様だ。


 春人の魔王眼が、スライムが使用したスキルを見抜く。


[名前]…解析中…

[種族]スライム族

[体力]10(MAX)

[魔力]…解析中…

[筋力]1(MAX)

[攻魔]1(MAX)

[耐久]1(MAX)

[抗魔]1(MAX)

[俊敏]…解析中…

[称号]最弱ノ魔物(全てのテータスは1(体力、魔力は10)が上限値となる)

[加護]…

[ユニークスキル]…解析中…

[エクストラスキル]魔力限界突破、俊敏限界突破、溶解液、…解析中…

[コモンスキル]分解、吸収、軟度変化、硬度変化

[カウンタースキル]鑑定妨害


 解析中の情報が多いが、最弱と言っていいステータスである。


 しかし、スキルによって硬化しカウンター気味に入ったスライムの一撃は強力だった様で、攻撃を受けた盗賊Dは白目を剥いて地面に倒れている。


「あああ……俺の装備がぁ」

 遅れて謎の液体(魔王眼によって【溶解液】と判明)を浴びた盗賊Bが悲痛な声を上げた。

 見ると、液体を浴びた上半身の装備がドロドロに溶けて地面に滴り落ちている。

 幸いにも人体には影響がない様で、装備だけが融解しているのみだ。

 最弱なステータスなのに、スキルを利用してうまく立ち回っているようだ。


 ぷる、ぷるん!


 また柔らかい状態に戻ったスライムが身を震わせて何かを言っているような素振りを見せる。


「やばい、例の攻撃が来るぞ。武器を隠せ!」

 盗賊(かしら)が慌てて叫ぶ。


 ん、何が起きるんだ?


 呑気にそんなことを思っていると、盗賊(かしら)に襟首を掴まれ強引に引き寄せられた。


「うぐっ、なにを!?」

 首が締まり、春人は苦悶の声を上げた。

 と、同時にスライムが掻き消える。


 鑑定情報にエクストラスキル【超加速】が追加られる。


 【超加速】を使用したスライムが目にも留まらぬ速度で移動し、溶解液を吐きかける。


 超高速の動きと、液体を吐き出す時に停止する速度の強弱に、盗賊たちの眼にはスライムが何十匹にも増えたかの様に映る。


 それでも、『魔王眼』を持つ春人だけは、真っ赤なスライムの動きを完璧に捉えていた。


 なので、ギリギリで反応する


「闇魔法[漆黒之盾(ブラックシールド)]」


 魔法を発動すると、足元の影が具現化し闇の盾が出現する。それと同時に「ばしゃり」と液体が弾ける。


 あぶねぇ。

 襟首を引っ張られて反応が遅れたけど、ギリ防御が出来た。ってか盗賊頭、俺のこと盾にしやがったな。


 春人は背に身を隠した盗賊頭に苛つきながら、辺りを見渡す。

 スライムから吐き出された液体を浴びた盗賊達は、装備と衣服が溶かされ半裸状態になっていた。しばらくすれば全裸になるだろう。


 スライムが衣服だけを溶かすってのは、ファンタジーのエロ展開ではお決まりではある。だけど、目の前に広がるのはむっさい盗賊団の裸であった。

 もしかして、ラッキースケベ展開があるか? と思って隣にいる七海に目を向けたが、残念ながらスライムの攻撃は盗賊団のみを狙っていたらしく女性陣には被害がなかった。

 むしろ、七海の方を見た瞬間、七海と目が合い、七海がにこりと笑った。その顔を見て、全身を悪寒が駆け巡った。こういう時の女性の直感は鋭いものがある。あとで七海に土下座して謝ろう、と心に誓った。


「くそぉ、せっかく揃えなおした装備が」

 全裸となった盗賊が大事なところを隠して地団駄を踏む。

 そんな仲間に視線を送り、隣の盗賊が声を震わせる。

「お、お前、それどころじゃないぞ。頭、頭」

「はっ? あたま?」

 言われて地団駄を踏んでいた盗賊が、頭に手を伸ばす。その手に触れたのは頭皮の感覚。兜が溶かされたのは自覚があった、だが、本来ある筈だったものが無くなっているのに気付いた盗賊が絶叫を上げる。


「髪が、俺の髪がぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 装備と一緒に頭髪まで溶かされた盗賊は、股間を隠すのも忘れて、両手で頭部の状態を確認して絶望する。


「ってかお前も」

「えっ」

「てことはもしかして俺も……?」

 そして、盗賊団の悲鳴の合唱が響き渡る。


 服だけでなく、装備も体毛すらも溶かす攻撃だったことに、春人は顔を青くした。一瞬防御が遅かったら自分もツルツルスッポンポンになっていたのだ。


 悲鳴を上げる盗賊団の真ん中で、赤いスライムが「どや!」とばかりに全身を震わせていた。


「お前ら、武器ならここに沢山あるぞ!」

 馬車の中にいて無事だった盗賊が、馬車の幌をめくり上げて叫ぶ。中には春人が属性付与した黒い武器防具。

 素っ裸の盗賊達は股間を隠しませずに「おおお!」と唸り声を上げて、馬車に全力で殺到した。

 その光景を目の当たりにした七海が「きゃぁっ!」と悲鳴を上げ、両手で顔を覆って視線を逸らした。


「ふざけんな、俺が必死に属性付与した武器を全裸の盗賊に触らせるものか! 闇魔法[影捕縛(シャドウバインド)]!」

 春人が魔法を発動させると、盗賊達の影から蔦のような魔力が飛び出し盗賊達を縛り上げる。

 目の前に全身の体毛を失った、全身ツルツルの男たちの緊縛された姿の群れが出来上がった。


「貴様の魔法かっ!」

 盗賊頭が春人の襟首を掴み引き寄せると、肉厚の刀を首元に突きつける。


「春人っ!」

 全裸の男たちの群れに顔を背けていた七海が悲痛な声を上げる。

 少し離れた所で赤いスライムが、盗賊頭を非難するように身体を伸び縮みさせている。


「フン! 舐めたことしやがって。動いたら殺すぞ」

 盗賊頭が野太い声で凄む。


 スライムが非難するように身体を震わせる。


「おっと、変な動きするなよ赤スライム。俺は【俊敏】のスキルを持っているからな。貴様が【超加速】を使ったとしてもこの距離だ、このガキの喉を掻っ捌くほうが早いぜ」

 盗賊頭がゲス丸出しの言葉を吐き出す。

 その言葉を受けて、スライムは観念したかのように動きを止めた。


 とんでもなくクズだな。子供を人質にして魔物を脅すなんて、どっちが世界に仇なす存在なのか分かったもんじゃない。


 じわり、じわりと春人の心をドス黒い何かが蝕んでいく。


「おい、クソガキ。仲間を拘束している魔法を解け。貴様の運んでいた武器を使ってあのクソ生意気なスライムを復活できないように八つ裂きにしてくれる」

 盗賊頭が春人に顔を近づけて命令する。


「断る」

 黒い感情に蝕まれつつある春人はキッパリと言い切った。


「ああ゛っ! なら、死ねよ」

 盗賊頭が激昂し、躊躇わずに春人の喉を切り裂こうと刀を喉に押し当て、そして刃を引く。が、刀が動かない。


「な、どうういことだ」

 盗賊頭が驚きの声を上げ、刀を力一杯押したり引いたりするがびくともしない。


「ふん。こんなものか……」


 盗賊頭の刀の刃部分を親指と人差し指で摘んで止めた春人は、必死に刀を動かそうとする盗賊頭を尻目に黙考する。


 残っている盗賊はコイツと馬車の中に残っている2人か。とりあえず、無力化するか。


 春人は刀を摘んだ手を「くんっ」と返すと、筋肉質の盗賊頭の巨体が宙を舞う。


「な、にぃ〜〜っ」

 とてつもない怪力に投げ飛ばされたような感覚に、盗賊頭は声を上げるが、すぐさま自分の状況を把握して絶望する。

 投げ飛ばされた先にいたのは、ぷるぷると身体を震わせているスライム。

 そのスライムは身を膨らませ、溶解液を体内に作り出している。

 得物を離し、さらに宙を舞っている盗賊頭は回避できない。


 ぴゅーーっ


「や、や、やめろーーっ!」


 ばしゃっ!


 スライムは【溶解液】を吐き出して、飛び退く。それはまるで小便を散らして飛び去る夏の蝉の様であった。

 溶解液をモロに浴びた盗賊頭は、地面に転がり、装備と頭髪が溶けるのを絶望した表情で確認するのであった。


 そんな盗賊頭を横目に、春人は馬車内に残った最後の一人に目を向ける。


「汚い手で俺の商品に触れてくれるな」

 右手を馬車に向けて翳す。


「な、なんだ、なんだこりゃっ!」

 その右手をぐっと握ると、馬車の中の闇が蠢き、残った盗賊を拘束した。


 さらに、拳を返し、人差し指を「くんっ」と返すと、縛られた闇に引っ張られるように馬車の中から飛び出してきて地面に転がった。


「くっ、くそっ。離せ! くそぉ!」

 最後の盗賊は必死に抵抗しているが闇の拘束は外れない。


「煩い。抵抗するなら、他の盗賊と同じく、身包み剥いで、髪を切り刻んでもいいんだぞ?」

 そう言って、闇で具現化した拘束具の一部をハサミの形に変形させて見せると「すみません。大人しく拘束されます」と言い残して大人しくなった。


「さて、これでひと段落だな」

 ふぅ、と一息入れると、七海とエアルが駆け寄ってくる。


「さすが春人様です。殆ど魔力も使わずに相手を無力化するお手前、お見事としか言いようがありません」


「春人、す、すごいんだね……」


 エアルと七海が口々に感想を述べる。

 春人も自分自身こんなに簡単に盗賊団を制圧できると思っていなかった。

 心に蟠る黒い感情を抑え込みながら「まぁね」と言葉を返す。


 やはり王国を脱出するときに戦ったあの騎士たちの強さが異常だっただけなんだな。流石に唯の盗賊レベルだったら簡単に対処可能なのか……


 春人は闇魔法を発動させて、全裸の盗賊団を一纏めにして道の端に拘束した。


「街に着いたら警備兵に伝えていてやる。しばらく全裸で反省するんだな」

 全裸で一纏めにした盗賊団にそう言い放ち、チラリと距離を置いて佇む真っ赤なスライムに目を向ける。


 やはり、か……


 魔王眼による鑑定が完了し、目の前に表示された情報を見た瞬間、春人の心は大量に溢れ出した黒い感情の波に飲み込まれた。


「あのスライム、何者なのでしょうか。あのような個体を我ら魔族は把握しておりませんし、私の【鑑定】でも全ステータスを読み取ることは出来ません」

 小声でエアルが春人に確認を取る。


 未だにエアルですら春人の変化に気づいていない。


「ああ、アイツに【鑑定妨害】のスキルを与えたのは多分俺だからな……」

 春人が口にした言葉に、エアルは疑問符を浮かべる。


 目の前で赤いスライムは軽く数回跳ねると、クルリと踵を返し森の中へ帰ろうとする。


「スライムちゃん、助けてくれてありがとうね」

 七海が手を振る。


 世界には人間に害をなさない魔物がいる。もしあのスライムが話しができたなら「ぷるぷる。ぼくはわるいスライムじゃないよ」と言うだろう。


 人目にも触れず、人助けをする心優しい魔物。

 感謝の言葉を述べて、森に帰すのが正しい行動だと思うのだが


 心が闇に塗り潰された春人は、スライムに向けて手を翳す。


「……逃すわけ、ないだろう?」


 獰猛に笑い、春人は森に帰ろうとするスライムに翳した手をぐっと手を握りしめる。


 すると、スライムの影が春人の意思に従い具現化してその身を縛り付けた。


 !?


 ぷるるん、ぶるん!


 不意の拘束にスライムは必死に抵抗するが影で出来た拘束具は伸縮し逃さない。


「えっ、何してんの、春人!」

 春人の行動に、七海が非難の声を上げる。


「煩い。黙っていろ……」

 春人のその言葉に春人の変化に気づく。


「は、春人……?」


 七海の声を無視して、魔力で拘束したスライムを引き寄せる。


 ぷ、ぷるるん……


 何をするんだ! とスライムがゆれる。


 引き寄せられたスライムを手に取り、春人は獰猛な笑みを浮かべて凄む。


ーーよう、久しぶりだなーー


 心の中の声と、口から発せられる声が重なる。



 魔王眼にて鑑定された相手の名はーー




[名前]アーバイン=クライシス



 それは、因縁の相手の名。




「よう、久しぶりだな……




 ()()アーバイン」


 春人はスライムにむけて、前世に自分を殺した相手の名を呼ぶのであった。

実はスライムは一度没にしたキャラだったりします。

敗者復活戦登場のスライムちゃんを応援してあげてください(^^)

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