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馬車と監視者

渾身の第2ヒロイン登場回です。

 コンコンとノックの音が響いたと思うと、春人たちが反応する間も無く扉が開け放たれた。


「やぁ、人間諸君。元気してたかな?」

 笑みの仮面を被り、道化のような奇抜な服を纏った魔人が両手を広げて部屋に入ってくる。

 享楽の忌術師と呼ばれるフリューリグだ。


「突然だが、君たちにはここを出て行ってもらうことにした」

 フリューリグが指を鳴らすと、春人たちの両腕が魔法によって拘束される。

 詠唱破棄の更に上位にあたる、鍵言なしのアクションを起因とした魔法の発動である。


「随分と急ね」

 七海がフリューリグに言う。


「ふん。残念ですが、この国には君たちを食わせていくだけの余裕がないのでね。命があるだけありがたいと思うのですね」

 冷たい視線を返して、フリューリグが踵を返すと「ついて来い」と命令する。


「もし逃げるようなそぶりをするなら、指数本程度だったら捥いでしまっても構いませんよ」

 部屋の扉を守っていた魔人にフリューリグが言葉を掛ける。


「はっ。貴様ら、さっさと歩け!」

 その言葉を受けて、扉番をしていた魔人が威嚇しながら近づいてくる。

 もたもたしていたらその魔人に危害を加えられそうであったため、春人は七海に目で合図を送り直ぐに立ち上がり、フリューリグの後を追った。


 案内されたのは、この世界に召喚された時の最初の召喚部屋に似た部屋であった。

 部屋番だった魔人は春人たちが逃げ出さないように監視役としてついていたが、この部屋に入る直前に「監視はここまでで十分です」と告げられ、この部屋にいるのは春人と七海、そしてフリューリグの三名のみである。


 部屋の奥には大きな魔石が輝いており、床には複雑な魔法陣が描かれていた。

 そして、その魔法陣の前には漆黒の巨馬とその馬が引く馬車が用意されていた。


 パチン!


 部屋の扉が閉まったところで、フリューリグが指を鳴らし春人たちの方へ振り返る。

 指を鳴らす動作とともに、部屋が結界で覆われた。


「ふぅ…… これで私たちの話は外の者に聞かれることはありません」

 チラリとフリューリグの視線が春人に送られる。七海が居るために何処まで話して良いか視線で判断を仰いでいる。

 春人はこの魔人、ホントに空気が読めるな。奇抜な格好以外はマジ有能かよ、と感心しながら頷いて一歩前に出る。


「紹介してなかったな。後ろにいるのは同級生の七海だ。先程、我の正体を伝えた。フリュー以外で唯一、我の正体を知っている者だ。なので気を使わなくていい。話を続けろ」

 そう告げると、フリューリグは「はっ」と言って片膝をついた。

 最強の一角たる四魔将が片膝をついている姿を見られれば、他の魔人は目玉が飛び出るほど驚くだろうが、この部屋は魔法によって隔離されている。その光景に七海も驚きの声を出しかけたが、ぐっとそれを呑み込んだ。


「では、報告させていただきます。

 これからの旅に必要であろう物はあちらに用意しております。

 旅人という(てい)を成すために、移動手段たる馬車です。春人様が指定した武器・防具等は積荷に載せています。

 引かせている馬は暗黒大陸で魔獣へと変異した魔馬。恐怖(テラーズ)魔馬(ホース)ディーノスです。私が調教し、きっちり仕付けてありますので、危害を加えなければこちらに攻撃してくることも無いので安心してください。また、装備している馬具には【認識阻害】の補助魔法がかかっており、検疫でもただの大きな馬として認識されるでしょう。

 転移術式についても、魔力は充填済みですので、馬車に乗り込んでいただければすぐにでも出発可能です」

 フリューリグは立ち上がり、優雅な仕草で馬車へ手を向けた。


 完璧な準備状況に言葉を失いつつ、だが一つ気になることがあり春人は口を開く。


「準備は完璧な様だが、監視役の姿が見えないが?」

 そう、監視役としてフリューリグの部下が共に旅をすることとなる筈なのだが、その姿が見えなかった。

 ぶっちゃけ、用意してもらえたはいいが馬車の操作なんかしらないので、馬車の操作なんかはその監視役に丸投げする予定なのである。

 もし、監視役が協力的でなかったら【魔王眼】で洗脳なり恐怖で縛るなりの下準備が必要になる。


 どんな魔人が監視役に付くのであろうと思っていると、フリューリグがら予想外の回答が返ってくる。


「私が監視役としてお供します」

 形の良い唇を笑みの形に歪めて、サラリと言い放つ。


 は? なんて言った?


 想定外の言葉に一瞬フリーズするが、春人は慌てて質問を返す。


「えっ、朝の会議では部下を監視役につけるっていってなかったっけ?」

 慌てていたので、口調が魔王のものではなくなってしまったが、フリューリグは構わず答える。


「ククク…… あれは他の四魔将を納得させるための方便です。

 私が魔王様に付いていくと言えば、魔王様を信奉しているイヴェール辺りが「四魔将がお供につくなら私が」とか言いかねませんでしたからね。

 他の四魔将が異を唱える前に納得できる落とし処を提示したまでです。

 他の四魔将には今まで通り最前線で仕事をしてもらわねばなりませんからね。ククク……」

 仮面を押さえて笑うフリューリグを見て、春人は想像する。


 漆黒でムキムキの巨馬を、カラフルな道化服を着た仮面の魔人が手綱を操る馬車の姿。


 ……悪目立ちし過ぎだよ!


「四魔将の仕事といえば、フリューもあるのではないか?」

 やんわりとお前も仕事があるのだから、他の魔人を手配してね、と断ろうとしたのだが


「ククク…… 安心してください」

 言うと、フリューリグの輪郭がブレてもう一人のフリューリグが出現する。新たに出現したフリューリグは悲しみの仮面を被っていた。


「私のユニークスキル【木偶人形】により生成された分身体です。

 この分身体は通常のスキルで作られたものと違い熟練度は落ちますが全てのスキルと魔法が使えます。さらに私の仕事は最前線で戦うものではなく、潜入工作なのでこの分身体で代役可能です。

 そして仕上げとして、スキルでは複製不可能であるこの『魔笑の仮面』を被せれば本物の私でないと疑う者はいないでしょう」

 そう言うと、フリューリグは自らが被っていた笑みを象った仮面を外し、分身体にその仮面を手渡した。

 仮面を受け取った分身体は、今被っている悲しみの仮面の上からその仮面を重ねると、元の仮面が消滅して笑みの仮面が装着される。


「これで、私が魔王様のお供についている事を悟れる者はいません」

 素顔となったフリューリグがニヤリと笑う。


 仮面を取ったフリューリグの素顔は、予想以上に綺麗なものであった。

 切れ長の眉に、全てを見下すかの様な冷徹さを持った真紅の瞳と整った鼻梁。そして、薄い唇には不適な笑みがとても似合っていた。

 相当な美男子、いや――


 全てを見通す【魔王眼】の【万能感知】が春人の疑問に応える様に情報を開示する。


 性別:女性


 と。


 マジかよ。あの奇抜ピエロ、女だったのか!


「あとは私が人間に擬態すれば問題ないはずです」

 フリューリグは【擬態】を発動する。


 ウニの様に八方に広がっていたツンツン髪は、重力に従いふぁさりと落ち、肩にかかったセミロングの髪型に変わる。さらに魔族特有の角が消え、真紅の瞳は緑色に変化した。

 そして、奇抜であった道化服も魔力によって作り替えられ、使用人が来るお仕着せ――つまりはメイド服へと変貌した。


「人間の国に潜入する時は中枢に入り込むため年配の壮年男性に化けることが多いが、魔王様に付き従える者として、魔力消費の少ない元の姿に近いものとしました。いかがでしょう?」

 緑色に変化した瞳が春人を捉える。どう見ても貴族に使える使用人にしか見えない。


 怪しさ全開の仮面道化師はちょっと勘弁して欲しい、と思っていたのだが、その不満点を全て解消した今の姿に春人は「うむ。問題ない」と答えるしかなかった。


「では、魔王様。七海様。馬車の方にお乗りください」

 そう促されて、春人たちは馬車に乗り込もうとする。

 同じ人物なのに、格好が違うだけで随分印象が変わる者だと感心する。元々見た目以外は優秀だったので、見た目が変わると出来るメイドにしか見えなくなる。

 そんなこと思っていると、七海に二の腕をつねられた。


「相手がメイド姿になったからって、春人、視線がイヤらしい」

 小声で注意される。

「違っ、そんなんじゃないから」

 慌てて否定する。そりゃ、元の世界で専属のメイドがつくなんて経験、ありえないシチュエーションだけど……


「どうしましたか?」

 急に立ち止まった春人に、フリューリグが問いかける。


「いや、何でもない。

 あ、そうだ。フリュー、結界が解けたら魔王様っていう呼び方はやめてくれ。春人でいい」

「はっ。では、次からは春人様とお呼びします。

 それと私からも、他の魔人の手前、私のことはフリューリグではなく、そうですね、エアルとでも呼んでください」

「ああ、そうか。了解した。では、旅の先導任せたぞ。エアル」

「ははっ」

 フリューリグ改めエアルが、頭を下げる。


「分身体である私については今まで通りフリューとお呼びいただければと思います」

 ピエロ服姿の分身体が慇懃に頭を下げた。


 うわぁ、同一人物なのに何でこんなに印象が変わるんだろう、と思いながら春人たちは馬車に乗り込んだ。


 その後を追う様に、エアルが御者台へと乗り込む。そして、分身体へ合図を送ると、転移術式が発動され、春人たちを乗せた馬車はエアルという新たな仲間と共に人間の住む中央大陸へ転移するのであった。

くくく、奴は四天王の中で最弱さんは、実は隠れヒロインでした。


ということで、書き溜めた話が尽きましたので、一旦ここまでで更新が止まります。

続きを鋭意制作中なので、再開をお待ち下さい。

↓にある⭐︎に色をつけてくれたり、感想を頂ければ再開が早まります(^^)

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