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魔人族の情勢

序盤の鍵を握る「くくく、奴は四天王最弱」さんの登場回です(^^)

 その魔人は機を伺っていた。


 先代の魔王が斃され、一度は敗北を認めた魔族であったが、戦後交渉にて人間族と決裂。魔族の住む暗黒大陸の奥地まで引き下がり徹底抗戦を続けることとなった。

 幸いにも暗黒大陸の中心には人魔戦争にて中立の立場を取っているドラゴン族が支配する険しい山脈があり、優勢であっても人間族がおいそれと侵攻することが出来ないという立地的な好条件が功を奏し15年間戦い続け、滅亡は免れている。


 劣勢を極める魔族はそれでも戦況を変えるために対策を講じる。


 魔王亡き今、魔人族の最高戦力は四魔将と呼ばれる魔人達であった。


 獄炎の戦鬼・ゾンマは軍を率いて暗黒大陸の最前線で戦線を維持。


 冷血の魔女・イヴェールは、北の海に陣を張り、船にて大回りして侵攻する人間族の殲滅を行い。


 死病の王・ヘルヴストは軍事の弱い人間の国を狙い、死病を振り撒き戦力を削ぐ。


 そして四魔将最後の一人、享楽の忌術師・フリューリグ。


 その魔人はスキル【万能変化】にて人間族の国に潜り込み、内部からの破壊工作を行っていた。

 と言っても、直接手を下すことはほぼ無く、[魅了(チャーム)]や[思考誘導(インデュース)]により魔人の仕業と気付かれることなく人間の国の政治や軍事を腐敗させていったのである。


 順調に人間の国力を低下させていったのだが、それでもフリューリグの頭を悩ましていたのが異世界人を擬似勇者として召喚する【大召喚】であった。

 人間族は自らの手を汚すのではなく、異世界の人間を呼び出し、制約で縛り魔族を討伐させていたのだ。

 さらに、異世界人同士、もしくは異世界人とこの世界で最底辺である奴隷の亜人を掛け合わせ、優秀な子を多く産ませることによって、多くの擬似勇者を量産して、勇血の軍勢が大きな戦力となっていたのだ。


 人道的に反する行為だと、どんなに印象操作をしても別の世界の人間に対する意識は変わらなかった。


 そんな中、フリューリグの耳に大量の異世界人を召喚する準備をしている国があるという情報が入ってきたのだ。

 フリューリグは慌てて、それを行おうとしている人間の国、アルダシール王国へ侵入し、内部まで入り込んだ。

 しかし、大召喚に関するセキュリティーが厳しく、それを阻止することは出来なかった。


 その結果、なんと35名の異世界勇者を一度で呼び出すというとんでもない結果を目の当たりにする事となったのだ。

 通常ならば数年かけて魔力を貯め、一度の召喚で1名。運が良いと2〜3名召喚出来るのが関の山であった【大召喚】からすると、歴史が変わるほどの大成功である。

 しかも男女比が半々であるため、戦力とならなかった場合は()()()()勇者として再利用可能であり、この【大召喚】の方法が広まれば、人間族の戦力強化となるのは火を見るより明らかである。


 その日にフリューリグは武力蜂起を決意する。

 召喚された35名の異世界勇者が力をつける前に、魔族の精鋭によりアルダシール王国を襲撃する計画を立案。

 世界各地に散っている魔族の精鋭に召集をかけ、一気にアルダシール王国の異世界勇者を殲滅させる計画を企てたのだ。


 数日後には精鋭の準備が整い実行に移す予定でいたのだが、()()()()()()()好機が訪れたのである。


 警鐘が鳴り響く城内。


 異世界勇者の数名が制約を解いて脱走したのだ。

 そして、国の最高戦力である王宮騎士団のトップ4名と、大賢者がその脱走者を追って城を離れたのだ。


 城に残っている異世界勇者には、脱走者についての情報は伏せられ、部屋で待機するように指示が出ている。


「これは、またとない好機(チャンス)……」

 人に化け、城勤の老齢な男文官姿のフリューリグが言葉を漏らす。


 城は混乱しており、最大の脅威となる騎士団長と大賢者が城を離れている。さらに、異世界勇者は召喚初日。慣れない魔法の訓練で疲れ果てている。


「これは絶好の機会。

 しかし、こちらの準備も出来ていない。

 私一人で、やれるか?」


 フリューリグは葛藤する。


 この機は逃すが、魔人族の精鋭が揃うのを待つか。


 危険は伴うが、この機会を見逃さず、単騎で強襲を掛けるか。


 しばらくの逡巡の末、ついにフリューリグが覚悟を決める。


「王宮騎士のトップ4。特に騎士団長クリューソスが不在であるアドバンテージを考えると、今この時、行動を起こすべきだ」


 黄金騎士クリューソス。魔力を全く持たない代わりに、鍛えあげられた肉体と剣技、そして卓越した戦略にて人類最強の一角まで上り詰めた男である。

 魔力が無いことを逆手にとり、全身に全ての魔法とスキルを無効化する金色の鎧を纏い、魔法を切り裂く宝剣ヴァルムンクにて魔法障壁や防御系のスキルをも斬り裂いて戦う戦闘スタイルの男。

 魔力に頼った戦い方が多い魔人にとっては天敵とも呼べる男だ。

 いかに四魔将を全て投入してでの強襲作戦だとしても、この男がいるといないとでは、魔族側の被害のリスクが大きく変わる。

 そう、今ならばその魔人の天敵が不在で、かつ最悪でも自分一人の被害で収まるのだ。


 決断するとフリューリグの行動は早かった。


 フリューリグは窓を開くと、外へと身を踊り出させる。


 そして、【万能変化】を解いて魔人の姿を曝け出す。


 それはチェック柄の派手な服に、笑みを象った仮面、そして雲丹(ウニ)のように八方に広がった灰色に紫のメッシュがかかった髪。ド派手なその姿は、まるでサーカスの中であってもその視線を集める道化師の様である。


 トン、トン、トンと、先の尖った靴が空中を蹴り、まるでダンスのステップの様に上空に登って行く。


「レディース、アンド、ジェントルマン!

 これより御覧に入れますのは、享楽の忌術師フリューリグによる華やかなエンターテインメントショー。

 皆々様存分に愉しんで頂ければこれ幸いです」

 誰にも聞かれない、孤独のアナウンス。


 陽気な声。

 笑みの仮面。

 しかし、笑みの形に空いた仮面から覗く赤き瞳は決意の炎が灯っていた。


 今までは気付かれない様に活動していたフリューリグ。

 魔族の最強と呼ばれる四魔将が一人であるが、謀略を図り暗躍する知将的立ち位置である。

 戦闘力で言えば四魔将の中でも最弱。

 そんな魔人が、どんなに状況が有利であろうが敵陣の真ん中で、しかも単機で武力行使を行うのだ。

 相当な覚悟を持って行動を開始したのである。


 フリューリグはタクトの様に指を振り上げると、その先に火球が生まれる。

 魔力を込めると火の球が巨大化する。さながら、小さな太陽だ。

 さらに、パチリと指を鳴らすと、その火球は更に電撃を纏った。

 二つの属性を融合させた高等複合魔法だ。


「まず最初にご覧いただくのは、楽しい炎と雷のワルツ。

 愉しいリズムに合わせてダンスを踊りましょう!」

 指を振るうと、雷を宿した炎の球は幾つもにも分裂し、まるで雷のドレスを纏い、ダンスを踊るかの様に廻り始める。


 空中に無数の炎と雷が現れ、明るくなったことにより、城内の者たちが異変に気づき、窓から空を見上げた。


 その中には異世界人の姿もあった。

 窓を開き、空を見上げた異世界人は呆然と空を見上げている。


 仮面の口部分の隙間から覗くフリューリグの薄い唇が笑みの様に歪む。


「さぁ! 死刑執行の時間(イッツ・ショータイム)だ!」

 フリューリグが指を振り下ろすと、無数にあった魔力で造られた炎雷が一気に降り注ぐ。


「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 複数の悲鳴が城中を響かせる。

 球が直撃した人間は、全身を焼かれながら電撃によって強制的に痙攣というダンスを踊ることとなった。


「まだまだ、お楽しみはこれからですよ!

 次の演目は高速で生み出される魔力弾の行進。ほらほら、どんどん行きますよ!」

 フリューリグは両手を翳し、魔力弾を速射砲の様に打ち出す。


 狙いは異世界勇者が居るとされる部屋である。


 純粋な破壊力の塊である魔力弾は、窓を破壊し火達磨になって感電した男と、そこに駆け寄った男の2人を諸々に飲み込んだ。


 異世界勇者が滞在しているのは、男3女3の計6部屋。フリューリグは一つの部屋を破壊し尽くすと、次の部屋へと狙いを変え、次々と魔力弾を撃ち込んでいく。


 破壊し尽くされた部屋からは悲鳴と怒号と号泣の入り混じった声が聞こえて来る。


「ははははは! 悲鳴の喝采、恐れ入る、っと」

 大仰に一礼して見せるフリューリグだが、衛兵が放ったと思われる火炎魔法が襲い、それを手を払う様な仕草で軌道を変化させて防御する。


「会場に物を投げ入れるのはマナー違反ですよ。

 まぁ、エンターテインメントは静かに観る様な物でないから、仕方ないですがね。

 では、もっと盛り上がる様な演出をして差し上げましょう」


 戯けた仕草でそう言うと、道化姿のフリューリグの背からもう1人の道化師が現れ、更にその背からももう1人現れ、倍々ゲームの様に増えていき16名の道化師が空に並んだ。


 それは術者のフリューリグと瓜二つの姿をしているが、泣き顔、怒り顔など、全て仮面のデザインが異なっていた。


「どれが本物の私でしょう?

 え、仮面のデザインが違うから、簡単すぎるって?

 ははは。当然ですね。これは私のスキル【木偶人形】による分身体です。戦闘能力は本体である私に及びませんが、貴方達が開発した【デゴイ】と似ているかもしれませんね。これは、私の魔力が生み出した自律的に踊り続ける可愛い人形達です。さぁ、輪舞(ワルツ)お楽しみ下さい」


 様々な感情の仮面を着けた道化が、衛兵に襲い掛かる。


 本体の戦闘能力に及ばないと言っても、フリューリグは搦め手、不意打ちを得意とする魔人である。真正面から斬り合う様な正攻法の攻撃は一切せず、能力低下魔法・状態異常魔法・幻惑魔法などを駆使してジワジワ苦しめる戦法で衛兵達を相手取っていた。


「スキル【絶対切断】発動。秘技・時空烈断!!」


 異世界勇者の滞在する部屋から声が響く。

 と、共にフリューリグの身体が空間ごと唐竹割りのごとく真っ二つに切り裂かれる。


「なっ、バカな…… これほどまでに強力な遠距離攻撃が使える使い手が居るとはっ」


 真ん中から二つに裂かれたフリューリグが驚愕の声を上げる。


「やったか⁉︎」

 見下ろすと異世界勇者が滞在する部屋の一つ。壁が破壊され尽くしたその部屋の最前に淡く輝く刀を持った少年が立っていた。


「まだだ。[多重(マルチ)捕縛(バインド)結界(ジェイル)]!」

 その少年の隣に歩み出た眼鏡の少年が無詠唱で捕縛魔法を発動させ、積層型の魔法陣が二つに裂かれた魔人の体を束縛する。


「「ふむ。私の折角の演技が見破られてしまいましたか…… しかし、これは困りましたね。捕まってしまいました」」

 左右の半身が同時に声を漏らす。


「世界の根源たる原子の力よ。その力を結集せし力にて我に仇なす敵を討て!」

 そんなフリューリグの言葉を無視して、眼鏡の少年が最強魔法を詠唱する。

 詠唱破棄ですぐさま発動も出来るのはずだが、念には念を入れて、最大出力で魔法を発動させようとしているのであろう。


「[原子融合(ニュークリア)熱覇(ブラスト)]!!」

 

 超高熱の波動がフリューリグを襲う。


「「これはさすがにマズイですね」」


 熱波が近づき、その光にフリューリグの表情が白く塗り潰される。

 そして――


「えっ、やめ、う、うわぁっ――」

 最後の断末魔は、超高熱に飲み込まれ、ジュッと短く灼かれる音にかき消された。


「手応えはあった。これで、魔人は消滅した筈だ」

 極大魔法に息を切らせながら、ゆっくりと眼鏡を押し上げて少年が呟く。


「くそっ。不意打ちで、鍵谷と田民(たたみ)がっ」

 刀の少年が悔しさを噛み締めて言葉を吐き捨てる。

 不意打ちでクラスメイトが重傷を負ってしまった(まだ、死んだとは思いたくない)のだ。


 ぱち、ぱち、ぱち……


 部屋に乾いた拍手の音が響く。


「いやいや、拍手喝采。素晴らしい魔法でしたね。あんな魔法が直撃したら魔人も()()()ひとたまりも無いですね」

 その言葉に、異世界勇者達が一斉に振り返る。


 そこには先ほどまで別の生徒が立っていた位置で拍手をするフリューリグの姿があった。


「な、な……」

 部屋の奥に避難していた異世界人は、すぐ隣に魔人が現れたことに驚愕のあまり言葉を失っている。


「ふふふ、驚きましたかな?

 私の得意とする人体切断と危機脱出マジック。ハラハラしていただけたならば、エンターテイナーとしてとても喜ばしいことです」

 大仰に両手を広げて一回転して見せる。


「どうやって移動したか分からねぇが、接近戦だったら、このユニークスキル【必殺ノ拳】で!!」

 筋肉質の少年が殴りかかってくる。ただ殴りかかっている様に見えるが、スキルによってその拳には圧倒的な破壊力が宿っている。


「分からないなら、特別にタネを教えて差し上げます」

 フリューリグが余裕を持って告げる。


 その態度が、自分のスキルを甘く見ているのだと判断した筋肉質の少年はその怒りも拳に込めて振り抜く。


 ドガガッ!


 完璧な一撃。相手の頬骨が砕ける感触に、筋肉質の少年がニヤリと笑う。致命傷! と、筋肉質の少年が笑みを見せるが――


「脱出マジックの種明かしは簡単。空間魔法[互位置(シフタ)置換(チェンジ)]です。

 これは、対象とした物質と自分の位置を入れ替える魔法です。

 基本的には質量の近い物体を対象にするのですが、魔力の扱いが拙い魔力抵抗すらできない()()()()()()()()()()()()()()()()()だったら簡単に対象にできますね」

 淡々とした口調で種明かしをする。


 その内容に、自分の殴りつけた相手が友人と入れ替わった事に気付いた筋肉質の少年が、友人の名を叫んで絶叫する。


「ははははは! どんな気分ですか?

 入れ替わった友人を極大魔法で消し飛ばしたり、強力なスキルで顔面を粉砕したりした感想は?」

 相手を煽る様に言い放つ。


「では、サービスで人体切断のタネも教えて差し上げますよ。

 こちらは単純に[空間転移(ワープゲート)]の応用です。

 二つの空間を繋げたゲートに身体の一部のみを通過させると、あたかも体が切断された様に見えるんですよ」

 フリューリグが手を伸ばすと、ある一定の場所からその姿が消え、数メートル先にその腕が現れた。


「これを応用すれば、こんな事もできます、よ! っと」

 転移門からゆっくりと腕を引き抜くと、今度は勢い良く突き出す。

 すると筋肉質の少年が「ごふっ」と苦悶の声を漏らして床に蹲った。その少年の立ってた位置にはフリューリグの拳が浮いていた。


「まさか、戦いの最中なのに、身体強化すらしていないなんて、これならば簡単に皆殺しにできますね」

 くくく、と嗤いながら歩みを進める。


 いつでも殺せるぞ、というアピール。


 召喚されたばかりの異世界勇者と、魔人の中で四指に入るフリューリグでは圧倒的な実力差があるのだ。

 だが、それでも全員で捨て身の攻撃を仕掛けられたら厄介である。

 フリューリグはそれをさせない様に、言葉によって相手の心を折りに行く。


「ほら、早く逃げないと死んじゃいますよ」

 蹲る筋肉質の少年の目の前まで歩み寄り、フリューリグは足を振り上げる。


「……かっ、かはっ、や、やめろ」

 筋肉質の少年は鳩尾への強力な一撃の影響で動けない。


「やめるわけないだろ?

 これは殺し合い、戦争なんだーー闇魔法[重力(グラビティ)纏装(カウル)]!」

 冷たく言い放ち、魔法にて超重力が付与された足が振り下ろされる。


 グワシャッ!!


 筋肉質の少年の頭が床にめり込み、血と謎の液体が床に飛び散る。


「スキルも魔法も人殺しの手段。それがこの世界の真実だ。

 貴様ら勇者は、これから戦争に駆り出され多くの魔人族を殺すことを強要されるのだろう?

 殺るなら、殺られる覚悟を持たなければな。くくく、仲間の死を目の前にすれば覚悟できるだろう?

 ほら、ほら、ほら!

 くくく、ははははは!!」

 フリューリグが少年の頭を踏み続ける。


「くっ、やめろーー!」


 刀の少年が斬りかかってくる。


 やれやれ、学習しないのですね、と肩を竦めて無防備状態で迎えうつ。


 そして、ギリギリの所で[互位置(シフタ)置換(チェンジ)]を発動する。

 が――


「ひぃっ」

 入れ替わった異世界人の手前で刀が止まる。


「ほぅ、寸止めですか。頭は回る様ですね。でも、そんな戦い方でこの私に勝てますか?」

 入れ替わった位置でフリューリグが言う。


 そんなフリューリグに刀の少年は視線を向け、仲間に指示を飛ばす。


「魔法に対する抵抗スキルが使えない奴は、此奴の入れ替え魔法の餌食になるだけだ。すぐにここから離れろ。

 海斗、惚けているな! お前の【森羅万象】で空間魔法を封じる魔法を調べるんだ!

 後悔や懺悔なら後でいくらでも出来る。今は生き残ることを最優先に考えるんだ。このままだと俺たちは全滅、いや()()()()()()()()!」

 刀の少年が指示を飛ばす。


「チィッ、この世界に来たばかりだというのに、的確な指示を出す輩がいますね!

 ですが、させませんよ!」

 空間収納から猛毒の塗られた短刀を取り出す。

 真理を垣間見ることのできる【森羅万象】。それを発動させた眼鏡の少年に、手にした短刀を投げつける。

 その短刀は[空間転移(ワープゲート)]の門を潜って眼鏡の少年に突き刺さる想定であったが、転移門ごと短刀が真っ二つにされた。


「させないのは、こっちの台詞だ!」

 刀を構えた少年が言う。


 スキルにて転移門こと両断された様だ。


「ちぃっ!」

 フリューリグは舌打ちする。


「該当の魔法を、見つけた! 発動させる。

 この空間に満ちる魔力の流れよ。我が意志に従い、この場を不可侵の領域とせよ。[空間支配(エリアドミネイト)]!」

 すぐさま眼鏡の少年が魔法を発動させる。


 部屋に魔力が満ち、空間魔法が制限される。


「今なら全力で行ける!」


 刀の少年が全力で距離を縮める。


【絶対切断】により、空間ごと切り裂く斬撃がフリューリグを襲う。


「くっ、猪口才な!」

 先ほどまでの余裕はもはや無く、悪辣な言葉とともにその斬撃をヒラリヒラリと躱す。


「はぁぁぁぁぁっ!!」

 気合の声とともに斬撃の速度が上がる。ここで仕留めると渾身のラッシュを仕掛けたのだ。


「くっ!」

 徐々に押し込まれ、フリューリグが破壊された窓際まで後退する。

 魔力の込められた短刀で少年の斬撃を捌いたりもしているが、【絶対切断】の効果の方が上で、短刀の刃に傷が走り、数回剣閃を逸らしただけて刃が砕けてしまう。


「[麻痺付与(パラライズ)]!」

 堪らず状態異常の魔法を放ち、距離を取る。


「くっ」

 抵抗に失敗し、刀の少年の動きが鈍るが、すかさず眼鏡の少年から[状態異常完全回復(パーフェクトキュア)]の魔法がかけられ復活する。


 さらに残った数名の少年達が魔法によって追撃してくるが、フリューリグが炎の壁を出現させて防御する。


 !!


 ズバン!!


 第六感が告げた悪寒に、フリューリグが横に飛び退くと、炎の壁ごと空間が割れた。


「時空烈断……今度こそ、やったか?」

 刀の少年が視線を向けてくる。


 くっ、こちらの空間魔法は封じられ、理不尽な相手の時空断裂は有効とは。

 心を折る予定が、一気に形勢逆転されてしまった。

 城に放った木偶人形も、その半数が破壊されている。


 ここが引き時か……


 フリューリグはそう判断すると、破壊されている壁から外に身を躍らせる。そして、空中を蹴って上空へと退避する。


「名残惜しいですが、今日の公演はここまでとしましょう」

 フリューリグは【木偶人形】を解除すると、分身が斃した人間の魂が本体に還元される。


 自らが斃した人間の魂と合わせると、合計82。内、異世界人の魂が6。

 こちらは単騎での戦いだったので十分な成果ではあるのだが、自らの判断にて強行した作戦であるためフリューリグとしては納得いかない数であるが、ここは引き下がることとした。


「くそっ、外に逃げたか!」

 部屋の縁まで来て外を見上げて刀の少年が言う。


 眼鏡の少年もその横に並ぶが、魔法を発動させる事はなかった。

 先程までの魔法の連続で魔力が尽きかけていたことが原因である。


「今回は不覚を取りましたが、次は最優先で貴様らを殺すこととしよう。

 食事や睡眠時も気を抜かぬことですね。

 くくく、ははははは!!」

 そう言葉を残して、フリューリグは身を翻し城から飛び去るのであった。

名付けの小噺


四魔将について。四つの名前なので季節の外国語から文字って付けました(^^)


春 フリューリング【独】Frühling

夏 ゾンマー【独】Sommer

秋 ヘルプスト【独】Herbst

冬 イヴェール【仏】hiver


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