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日常の朝

ここからが本編です。

 最期の勇者の声は格別であったな。


 ククク……はーっはっ


 全身を包む浮遊感


 は?


 嗤い声は疑問符付きに変わり、そして鈍い衝撃。


「あだっ」


 思わず声を上げて、意識が覚醒する。


「痛たたたた」

 床にぶつけた腰を摩りつつ、ゆっくりと立ち上がる。

 寝ぼけてベッドから落ちたようだ。


「久々にあの夢を見たな……」

 身体と一緒に落ちた掛け布団をベッドに戻して、ふぅと息を吐き出す。


 俺の名前は『倉戸 春人』


 健全な高校1年、15歳だ。

 魔法など使えないし、ましてや人類滅亡を望んだりしていない。


 机の上に広がっている終わらなかった夏休みの宿題を見て「あーどうしよう。今日は始業式だけだから、終わらなかった宿題は明日までに未来の自分がやってくれるはずだ。あははー」と現実逃避するくらい普通な高校生である。


 そして、チラリと机の引き出しに視線を向ける。

 そこには春人にとっての黒歴史が刻まれたノートが封じられている。


 春人は大概の男子が患う厨二病を、それはまぁ盛大に患ったのだ。


 ある時期に毎日の様に見た夢があまりにも具体的過ぎて、自分はその夢の登場人物の生まれ変わりだのだ、と思ってしまったのだ。

 今思えば当時ハマっていたアニメや漫画がそんな設定が多かったので、影響されていたのだと思う。


「はーっはっは! 我は魔王ヴァルドグランド。魔を統べ、人類を滅ぼす者!」

 と、愛用だった黒い雨合羽を翻し、折り畳み傘を振り回して近所を駆け回っていた。


「あー、なんで今頃、またあの夢を見たのか。思い出すだけでも恥ずかしい!」

 春人は頭を抱えて悶絶する。


 机の一番上の引き出し、鍵のかかるその場所には夢で見た具体的すぎる世界の設定を書き留めたノートが仕舞われている。

 今となっては恥ずかしさしかないのだが、夢を見るたびにその内容を書き出したのだ。

 夢の内容は鮮明で事細かな部分までも具体的であったため、ノートはその設定(せかいかん)だけで字が埋め尽くされている。

 一度年末の大掃除の時に処分しようと思ったことがあるのだが、捨てる前にそのノートに目を通してその設定の細かさに驚き、幼いながらに必死にペンを走らせた過去の自分の努力を思い返し踏みとどまった。


 ぶっちゃけ、この設定に物語を乗せて小説にしたら売り出せるんじゃね? なんて夢見たいな事を思いついたってのも、捨てなかった要因の一つでもある。

 厨二病は卒業したが、物語や戦略を考えるのは得意なのだ。

 中学の時に所属していたボードゲーム部ではエースとして活躍しており、賞金の出る世界的な領地取りゲームなどは世界大会にまで出たことがあるのだ。

 まぁ、日本では競技としてのボードゲームの知名度は低く人気もないため、春人の活躍は一部の限られた人にしか知られていないのだけど。


 コンコン……


 ノックの音が響く。


「はるくん。起きてる? 朝ごはん出来たよ」

 母親の声だ。


「いま起きたとこ。着替えたらすぐすぐ行くよ」

 そう答えて、夏休みにクリーニングに出していた制服を手に取る。


 一ヶ月ぶりの学校だ。

 長かった夏休みももう終わり、また学校へ通う規則正しい生活が始まるのだ。


 素早く制服に着替えると、洗面所へ行き寝癖を直す。

 これでも年頃の男子。容姿にも気を配っている。


 居間に行くと先に食事を澄まし、新聞を広げていた父親と目が合う。


「おう。そうか、春人がまた学校ってことは、今日からもう9月か……」

 夏休みなど無いサラリーマンの父親が、制服姿の息子の姿を見て今日から9月なのだと再認識したようた。


「近頃、謎の失踪事件、行方不明事件が多いみたいだな。

 物騒な世の中になったもんだ」


 父親は新聞紙のページをめくり、新たな記事に目を落として呟く。


「あら、まあ、ホントね……」


 父の言葉に相槌をうちながら、母親は春人の前にご飯と味噌汁を置く。


「いただきます」

 そんな両親の会話をよそに、春人は朝食に手をつける。


 倉戸家の朝食は和食だ。

 鮭を箸でほぐして、ご飯と一緒に口に運ぶ。

 三角食べで鮭と目玉焼きとお浸しを順に少しずつ食べていく。

 そうこうしているうちに父親が時計を見て立ち上がった。


「さて、私はそろそろ会社に向かうかな……

ほら、お前もちゃっちゃと飯を食っちまえ。早くしないと彼女が来ちまうぞ」

 手に持った新聞を小さく畳みながら、父親が余計な一言を言う。


「うるせぇな。余計なお世話だよ」

 春人はぶっきらぼうに言葉を返す。


「あらあら、もう少し早く声をかけたほうがよかったかしら?」

 父親の仕事鞄を運んできた母親が、慌てたように呟く。


「大丈夫だよ、母さん。ちゃんと待ち合わせの時間決めてるから、心配しなくていいよ」

 母親に答えながら、味噌汁の最後の一口を啜る。


「夏休みに何度か会ってたみたいだが、キスはもう済ませたか?」


 ぶはっ


 不意な父親の言葉に、春人は啜っていた味噌汁を吹き出しかける。


「な、なにを言ってるんだよ、父さん。俺らはそんな関係じゃねぇよ。たまたま同じ高校だからたまに一緒に通学してるだけだってーの」

 残りの朝食を掻き込みながら、答える。

 耳まで熱くなっているので、多分赤面していて両親には嘘はバレバレであろう。


 そう。春人には高校に上がってから、いや厳密には中学卒業と共に彼女が出来ていた。


 それは斜向かいに住む幼馴染である桜庭(さくらば) 七海(ななみ)である。

 幼馴染ってことは、両親も相手を家族ぐるみで知っているわけで、いつかはバレる、いやもうバレているのは薄々気づいているのだが、ここまで直球で言われると応対に困るのだ。


 ほーう、とか言っている父親を無視して「ごっそーさん。行ってくるわ」と席を立った。

 少し待ち合わせの時間には早いが、居心地が悪くなったので玄関の前で待っていようと思ったのだ。


 ガチャリと玄関のドアを開く。


 すると、そこにはすでに彼女の姿があった。

圧倒的に名付けセンスがないのでここで名付けの小噺。


魔王の名前について

やっぱ『ヴ』が付く長い名前が魔王っぽいよねということで


『ヴ』ァルドグランド


としました。


ちな、主人公の名前はヴァルドグランドから文字って


ヴァルドグランド → ばるど、ぐらんど → はると=くらと → 倉戸春人


としました。


主人公が倉戸なので、これから出てくるキャラの名前は建物シリーズにしていく予定です。

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