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想定外の結末

多分皆さんが想定していない展開になると思いますが、2話後にちゃんと軌道修正されますので、辛抱強くお付き合いいただければと思います。

※この話にも七海との接触シーンがいくつかありましたので、念の為、髪を梳く程度に表現を改稿致しました(2020/04/29改稿)

「ふングにャガフばァァァアッーー!!」

 声にならない叫び声を上げてマーリンはベッドを転げ、そして床に落ちる。


 衝撃、激痛、鼻の骨が折れる不快感……


 何だ! 何が起きた⁉︎


 マーリンは混乱する。


 転生を繰り返し永き研鑽を積み重ねたマーリンにダメージを与えられる者などこの世界には一握りしかいないはず、しかも【聖刻】の制約がある異世界人には絶対に不可能なはずである。


 床を這いつくばり、不意の一撃でひしゃげ、激痛を生み出す鼻を押さえて、何とか立ち上がる。


 ベッドの上では、泣きながら男子生徒に縋り付く七海。その男子生徒は、服を破かれた七海に上着を掛けていた。


 やはり、乱入者はマーリンの生徒。倉戸 春人であった。


「ぐぬぬ……」

 唸りながら2人に視線を向けると、怒りに表情を歪めた春人と目が合う。


 ゾワリ……


 全身が粟立つ。まるで空腹の猛禽類の前に裸で放り出されたかのような感覚。全身の細胞が警鐘を鳴らし、危機感と恐怖が綯交ぜになったかのような感情にぐにゃりと視界が歪む。


「くうっ」


 マーリンは頭を振り、ベッドの上の2人を睨みつける。ただそれだけで恐怖は振り払われていた。


「先生、アンタは犯罪を犯した! この世界に警察があるか分からないけど、罪は償ってもらうぞ」

 まるで人助けをしたヒーローが、悪人に告げるような言葉。


「なん、じゃと?」

 マーリンが倉戸を鋭く睨み返す。


 どうやって儂に一撃を入れたか分からないが、この世界に来たばかりのひよっこに何もできることはないのだ。


「ダメ、春人。逃げよう。さっきは先生、()()()ベッドから落ちたけど、私達には呪いがかけられているの! 私達はこの世界の人間に逆らうことができないの」

 七海が倉戸にしがみついて訴える。その言葉に倉戸が驚いた表情になる。

 だが、マーリンは自分に危害を加えることができた倉戸はなんらかの方法で呪いを解除したのではないかと疑っている。いや、まてよ。今、七海が「驚いてベッドから落ちただけ」と言ったか、ならこの鼻の痛みは……


 マーリンは自らの鼻に手を触れると何ともなっていなかった。痛みすらない。ベッドから落ちて動転していただけか?


「分かった。七海、俺に捕まっていてくれ、スキル【影移動】でこの部屋から脱出する」

 その言葉にマーリンが驚愕する。


 倉戸の奴、転移系のスキルを習得していたのか!?


 魔法にて隔離していたはずのこの部屋に侵入できた理由に辿り着く。


 しかし、まずい。このまま逃げられるのはまずいぞ!


 マーリンは慌てて【聖刻】の権能である【懲罰】を強制発動する。


「ぐあぁあぁあーーーー!!」

 倉戸の絶叫が響く。


 間一髪、倉戸の【影移動】より先に【懲罰】が発動したようだ。


 倉戸が激痛に身を仰け反らせている。


「くくく…… 危なかったわい。まさか、倉戸がレアスキルである転移系のスキルを習得していたとは」

 ベッドに登り近づくと、激痛に身を震わせていた倉戸を蹴り飛ばした。倉戸はそのままなす術なくベッドの外にはじき飛ばされ、床に墜落する。


「春人!」

「おっと、お主はこっちじゃ」

 倉戸の側に向かおうとする七海をマーリンが強引に引き寄せる。

「まだまだ儂らの愛の営みは終わっとらんぞ」

 きゃあ、と悲鳴を上げた七海の耳元に囁くと、肩を抱いて引き寄せる。

「いやぁ、やめて……」

 七海が必死に拒絶するが無駄である。


「間林、貴様ぁ……」

 床に転げた倉戸が、苦悶の表情で立ち上がり睨みつけてくる。


「そんな目でこっちを見るなよ。興奮しちゃうだろ。なぁ、七海?」

「いや、いやぁ。やめて。見ないで」

 下卑た笑みを浮かべてマーリンが言う言葉に、七海は涙ながらに拒絶する。


「貴様、止めろぉぉぉーー!」

 憤怒の形相で倉戸がベッドに向かって駆け出す。


「絶対命令『このベッド内に侵入する事を禁ずる』」

 マーリンは【聖刻】の権能の一つ、絶対命令を発動させる。

 倉戸がベッドに侵入しようと試みるが、見えない壁のような物に侵入を阻まれる。

「くそっ、くそぉ! ならばっ」

「無駄じゃよ。高等魔法[空間支配]」

 倉戸がスキル【影移動】を発動させるのを見越して、マーリンが空間干渉を妨げる魔法をベッドに施す。


「スキルが発動しない。くそぉ!!」

 倉戸が悔しそうに見えない障壁を叩く。


「大人しく儂らの愛の営みを傍観していろ。くくく、興奮したなら自慰行為をするくらいは許してやるぞ」

 相手の行動を完封したマーリンが挑発的な言葉を投げつける。


「間林、貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 倉戸の怒号が部屋を震わせる。

「ぶっ殺してやる!!」

 そう宣言すると、背に装備していた杖を抜き放った。


「ほぅ、魔法での攻撃か? 大賢者と呼ばれる儂に通用するかな」

 マーリンは七海の髪を梳きながら、挑発的な言葉を放つ。


「深淵なる漆黒の闇よ。その無慈悲なる御手にて、愚かなるものの魂を輪廻より外れし無限の闇へと誘えーー」

 倉戸の詠唱を聞いて、マーリンは「ほぉ」と感嘆の声を上げる。この世界に来たばかりとは思えない高等な言霊が練り込まれた呪言であった。


「魂に働きかける即死系の魔法か、じゃが」

 マーリンは七海の耳元に口を近づけ、倉戸には聞こえないような小声で呟く。


「【聖刻】の権能の一つに【攻撃反射】があるからのう。どんなに凄い魔法であろうと、儂を狙った異世界人の魔法は全て術者に跳ね返る。自らの放った即死系の魔法で想い人が自滅する姿をよーく見とくが良い」

 くくく、と喉を鳴らしながら七海にだけ聞こえるように宣言する。

「春ーーっ!!」

 魔法を止めようと言葉を発しようとした七海の口をマーリンの手が塞ぐ。


「闇魔法[魂滅死(デッドエンド)霊墜(フォールン)]‼︎」

 ついに詠唱が完了する。そして発動する魔法。マーリンの知らない闇属性の魔法であったが、呪言の構成から相当高度な魔法であることは理解できていた。そんな魔法が反射され不意に自らの身に襲い掛かれば耐性があろうが抵抗は不可能。


「ハーッハッハ! 馬鹿め! 【聖刻】の加護により儂に異世界人の魔法は効かぬのだよ! 自らの闇魔法に蝕まれて死ぬが良い!」

 最後にネタバラシをする。魔法が発動し終えれば狙いは変更不可能だ。己の無力さの理解とともに、怨恨と絶望の中、死んでいく姿を目に焼き付けようと倉戸の方へ視線を向ける。闇魔法、特に魂を直接破壊する魔法は想像を絶する苦痛を伴うのだ、汚い断末魔の声を期待していたのだが


「ひぎゃあぁぁあぁあぁぁぁあぁ……‼︎」

 絶叫が響き渡る。

 だが、それは想定していた倉戸の声ではなかった。

 その声はマーリンの腕の中に抱かれた七海の声であった。


「な、なにぃ!!?!」

 想定外の出来事に、マーリンが驚愕の声を上げる。

 ありえん。ありえない。まさか、倉戸の奴、儂ではなくて七海を対象に魔法を使ったのか⁉︎ 先ほどまで「罪を償え」と正義ヅラこいた言葉を発していたガキが、自ら級友を殺したのか。そんな。儂の理想の女をっ!


 七海は白目を剥き、全身から血の気が抜け、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。


「き、貴様、正気か! クラスメイトを手に掛けるなど正気の沙汰では無いわ!」

 怒鳴りつけるように言い放つ。


「は、はは。正気なワケないだろう。どうせ、アンタには俺たち異世界人の攻撃は効かないんだろ? だったら、アンタの野望を阻むにはこうするしかないじゃないか」

 ははは、と乾いたような笑い声を上げながら、杖を弄る。

 手に持っていた杖は仕込み杖だったようで、杖の大半部分がスライドして漆黒の刃が姿を表す。何かしら「呪術系」の付与が付いた禍々しき刃。

「チィッ、この城にそんな危険な武器が有ったとは」

 マーリンは身構える。城の武器庫にある在庫を全て把握していた訳でないので、あんな武器が異世界人に渡っていた事を知らなかったのだ。もし投擲された場合、傷などは反射されるが【呪い】に関しては反射されない可能性があるのだ。悪い効果を付与する【呪い】と、良い効果を与える【加護】は判別が難しく、運が悪いと反射されない可能性があるのだ。

 だが、その武器が投擲されることはなかった。

 倉戸はその刃をゆっくりと自らの首筋に当てがう


「異世界なんて、糞食らえ、だ」

 そう言い残し、刃を一気に引いた。


 ブシャァァァァァァ!!!


 倉戸の首から吹き出した鮮血が、ベッドの白いシーツと、信じられない行動に硬直していたマーリンの身体を赤に染めた。

読者様へお願い


運営からR18表現があると警告いだだきました。

該当と思われる箇所は全て改稿したつもりですが、

ここがまだ表現がキツいよ、こうした方がいいよ等ありましたら

感想の一言、もしくはメッセージでご指摘いただければありがたいです。

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