スキル確認
夕食は昼食に比べて品数も多く豪勢なものであった。
室内訓練や実戦訓練によって消費したカロリーを補うように、生徒たちはガツガツとその夕食を食べた。
「あー、食べたー。お腹いっぱい!」
そう言ってお腹をさする祭理の姿を見て、七海は苦笑する。
「笑ったな? 七海だって、めっちゃ食べてんじゃん。絶対私よりデブるからね!」
口を尖らせて祭理が七海に返す。
シャワーを浴び、化粧の取れた祭理はすごく幼く見える。
ふふふ、と笑いながらテーブルに視線を落とすと、空になったお皿がいくつも重なっていた。
いつもはこんなに食べられないのに、やっぱり異世界に来たことが影響してるのかな?
そんな事を思っているうちに皆食事を終えていた。
「この後は自由時間とするので、シャワーなどの疲労回復設備を利用するもよし、部屋で寛ぐもよしじゃ。分からない事があれば衛兵もしくは使用人に聞くとよいじゃろう」
皆が食事を終えたのを確認すると、間林先生はパンパンと手を叩いてからそう伝えた。
使用人が部屋に入ってきて皿を片付けたり、部屋に戻りたい生徒を誘導したりし始める。
「おっと、そうじゃ。
桜庭と大黒。少し良いかの?」
祭理と共に部屋に戻ろうとしていたところを間林に呼び止められる。
「先生、なにー?」
祭理が応える。
「野外訓練に出ていて確認できなかったので、城に残ったメンバーのスキルについて確認したい事があってな。すまんが、少し時間をくれんなな?」
間林が二人に歩み寄る。
「私たちのスキル?」
祭理が首を傾げる。
「あぁ、そうじゃ。
大黒の【模倣】と、桜庭の【手加減】について確認したいんじゃ。
今日はもう疲れていると思うのじゃが、少しだけ訓練部屋に一緒に来てくれんかの。
ただでとは言わん。来てくれれば、訓練の後は特別に貴族のみしか入れない大浴場の使用を許可しよう」
その提案に祭理が食いつく。
「えっ、大浴場って、湯船に浸かれたりするの?」
「ああ、勿論じゃ。泳げるくらい広いぞ」
「マジで。やった。私、湯船に浸からないと疲れが取れない派なんだよねー」
チラッチラッと祭理が七海に視線を送ってくる。
一人じゃ不安だから、七海も来て欲しいなー、的な思いが込められた視線。
「分かりました」
七海は祭理の視線に苦笑しながら承諾した。
「うむ。助かる。では付いてきてくれ。こっちじゃ」
踵を返し、間林が先導する。
間林は移動する中、なぜ七海たちのスキルを確認したかったかを語る。
「まずは、桜庭の【手加減】じゃが、これが儂の想定通りのスキルであればクラス全体のレベル上げが楽になるはずじゃ。
先程の講義でも話したが、経験値は魔物にとどめを刺した者の総取りになるので、治癒師や支援師など攻撃力の乏しい者たちは経験値を得にくいのじゃ。
だが、桜庭の【手加減】で殺さず瀕死の魔物を作り出す事が出来れば、そんな不遇な者たちも救われると思ったのじゃ」
そう説明する言葉に、七海はなるほどと思う。
スキルは個人の性格や経験から発現するものである。このスキルが発現したのは空手で何度も寸止めをしてきた事が関係しているのだろうなと、七海はうっすらと感じていたが、まさかこんな有用性のあるスキルだとは思っていなかった。
「大黒の【模倣】は万能なスキルじゃな。
どんなスキルも見ただけで再現可能ってのはすごいの一言じゃ。あとは、どのスキルまで再現が可能かと、どこまで再現性を高めれるかを解析できれば、クラスでクエスト攻略の幅が広がるはずじゃ」
祭理のスキルについても間林先生が解説する。
祭理は「やっぱ雑誌に載ってたメイクをめっちゃ真似して試してたからかな」と呟いている。
「さて、着いた。ここじゃ」
間林先生が足を止めたのは、二人の衛兵が扉を護る部屋の前であった。
「これから少しここを使わせてもらう。
訓練の後はこの子達に大浴場を使わせてやる予定なので、案内できる使用人の手配と、念の為に回復師と数名の兵士を集めておいてくれ」
扉を護る衛兵にそう指示すると、間林先生は二人を部屋の中へ案内する。
部屋の中はこの世界に召喚された時の部屋に似ていた。いや、正確に言うと最初に召喚された部屋と日中に訓練を行った部屋の中間というのが正しいか。
入った扉から見て奥側の床に描かれた魔法陣が印象的で、召喚部屋の様な印象を残すが、強固な壁に囲われ窓のない部屋は日中に訓練した部屋と一緒であった。天井は魔法の光で間接照明の様に仄かな光で部屋を照らしている。
「ここは実戦部屋じゃ。
その名の通り、奥に描かれた魔法陣で魔物などを召喚して、実践を行う部屋じゃな。
城の中に魔物を呼び込むので、部屋は堅牢に出来ておるし、入口は常時兵士が守っておる」
部屋に入り間林先生が説明する。
「さて、さっそく魔物を召喚しようかの。
念の為に外に兵士と回復師を待機させているが、儂がいるのじゃ。危険は万に一つもありはせんて」
言うなり、間林先生が呪文を詠唱する。
その呪文に反応して、奥の魔法陣が輝き、その上に霧に似た魔素が充満する。
「召喚[ゴブリン]!」
その言葉とともに魔素が凝縮し、魔法陣の輝きが増すと、目の前に緑の肌にボロの腰布と木の棍棒を身につけた醜い人型の魔物が現れた。
「うぇっ、何あれ! キモッ!」
祭理が声を上げる。
召喚されたゴブリンは、何が起きたのか把握できておらず辺りを見回していたが、七海達人間の姿を確認すると威嚇とばかりに雄叫びを上げた。
その声に七海は危険を感じ、すぐさま身構える。
「拘束魔法[バインド]!」
しかし、間林先生がすぐさま魔法を発動し、拘束する。
「これで奴は動けん。
どうじゃ、初めて見た魔物は?」
間林先生が生徒2人に訊く。
「緑色の肌とか、マジキモいわ」
「実物を見ると、思っていたよりも恐ろしいです」
祭理は口を押さえて最初と同じ感想を漏らし、七海は警戒態勢を解かずに身構えたまま答えた。
その間にもゴブリンは拘束を破ろうと「ギーギー」と喚き散らしていた。
「まずは、昼の特訓の成果を確認しようかのう。
桜庭。攻撃用のスキルを使用して普通に攻撃してみてくれ」
その指示に従って、七海はゴブリンに近づく。
それを見て「え、あれに触るの? 七海、大丈夫?」と祭理が心配そうな声を零した。
そんな祭理に「大丈夫」と頷いて見せてから、攻撃の間合いに入った所で七海が構える。
重心を落とし左手を前に右手を中段に構える。空手で何度ともなく繰り返していた構えだ。
七海の空手は「防御・反撃」に特化している。ふぅ、と細く息を吐き、ゴブリンが七海に対して威嚇の声をあげた瞬間に一歩踏み出した。
「ハッハッ!」
気合の声と共に七海の拳が左右とゴブリンの顎部に炸裂する。
威嚇行為で意識が散漫になった所に、異世界転移にてチート級のステータスを乗せた拳が入ったのだ。普通の人間なら脳震盪、失神は免れない。ゴブリンも例に漏れず、白目を剥いて顔を跳ねあげられていた。
空手では寸止めで終わるが、これは実践である。
七海は攻撃の手を止めずに、スキル【高速殴打】を発動させる。
「ハアアアアアアア!!」
高速で繰り出された拳がゴブリンの全身に拳型のクレーターを作り出す。
さらに【蹴撃強化(中)】を乗せた回し蹴りを叩き込んだ。
ドブォッ!!!
生肉をハンマーで叩いた様な鈍い音が響くいた。
七海はゴブリンの腹に叩き込んだ蹴りの反動で距離を取ると、再度構えて相手の状態を伺った。
先ほどまで攻撃する度に震えるような反応をしていたのだが、最後の蹴りを入れた後から反応がなくなっていた。
「どうやら斃したようじゃの」
間林の声に、七海はゆっくりと息を吐き構えの態勢を解いた。
すると、ゴブリンの体は灰になったかの様に崩れ去った。
そして、その灰もしばらくすると床に溶け込むように消え、小さな石のみが一つそこに残った。
「魔物は死ぬと核となっていた魔石を残して消滅するんじゃ。
魔石は魔力を貯め込む電池やバッテリーのような効果があるので、こちらの世界ではそれなりの金額で買い取ってもらえる。魔物を斃したら回収すると小遣い稼ぎになるぞ」
間林は床に残った魔石を拾い上げて、掌の上で転がしながら説明する。
「すごいね、七海。
初めての実戦で、あんなキモい緑の奴やっつけるなんて」
七海の攻撃を見て、祭理が感嘆の声を上げる。
「そして、ナイスパンチラ!」
さらに祭理はムフフと笑うと、七海に向けて右手でサムズアップのポーズをする。
その言葉に七海は自分の装備を確認する。
両腕には肘まで覆うガントレットと、胸元を守る胸当て、足元から膝までを覆うブーツであるが、基本は召喚時に着用していた高校の制服である。それで回し蹴りを繰り出せば自ずと結果が分かるものである。
七海はスカートの裾を押さえるが既に後の祭りである。
「ふむ。なかなかのパ……スキルだったの。
さて、次は大黒のスキル確認じゃの」
間林はそう言って祭理に話題を振る。
というか、今パンチラって言いそうになってなかったか?
親友の祭理に言われるならなんともないが、先生に言われるとなると別である。嫌悪感がぶるりと身を震わせた。
「今の一連の戦闘を見て【模倣】できるスキルは有ったかの?」
間林の問いかけに、祭理は「うーん」と唸って宙を見つめる。ステータスウィンドウと同じように、他の者には見えないスキルウィンドウを開いているようだ。
「模倣可能なのは【高速殴打】と【基本魔法[バインド]】かな…… 【魔物召喚】と【蹴撃強化(中)】は赤字で選択できないから無理っぽい」
祭理が答える。
「ふむ。それならば、もう一度【魔物召喚】を行うので、その魔物に対して【模倣】した[バインド]をかけてみてくれ」
その言葉に祭理はコクリと頷く。
間林が再度【魔物召喚】を行う。
先ほどと同じく魔法陣から光が溢れ、ゴブリンが召喚される。前と違うのはゴブリンが背を向けていること。祭理がスキル発動させやすいように、反対向きで召喚したようだ。
「大黒」
間林がスキルを使えと、目で指示を出す。
ゴブリンは突然目の前に壁が現れたと勘違いしているのか首を傾げていていたが、間林の声にて人間の気配に気づいたらしく、こちらへ振り返る。
「スキル【模倣】発動ーー
万物の根元たる魔力の光よ。我が前に立ち塞がり我に仇なすものを束縛せよ!
拘束魔法[バインド]!」
祭理が両手を前に突き出すと、淡い光がゴブリンを拘束する。
「って、恥ずっ! なんで詠唱が入るワケ⁉︎」
スキルを発動した後、祭理が顔を真っ赤にして不満を漏らす。
「ほっほっほ。さすがに儂の【詠唱破棄】までは再現出来なかったか。それに、威力も儂の魔法より落ちるようじゃな」
間林は笑いながら、ゴブリンに対して[バインド]を重ね掛けする。
すると、ギーギーと喚きながら抵抗していたゴブリンの身体が完全に封じられた。
「あっ、なんか基本魔法[バインド]を取得したって声が聞こえた」
祭理か天井を仰ぎながらそう言葉を溢す。
「ほう。【模倣】のスキルは、適正のあるスキルや魔法を模倣した場合には、それを取得できるのか。なかなか有用なスキルじゃのう。
もう一つ発動可能な【高速殴打】も模倣できるか?」
間林は顎髭を扱きながら祭理に訊く。
「ええっ! あのキモいのに触るの⁉︎ ムリムリムリ」
手をブンブン振って、祭理が拒否する。
「うむ、触るのが無理というのなら、この魔法を模倣してくれ。
……射撃魔法[バレット]!」
間林は人差し指をゴブリンに向けると魔法を発動させる。
すると、ゴブリンの右肩にピンポン球くらいの大きさの風穴が空き、ゴブリンが絶叫した。遅れてゴブリンの紫の血が叫びの声と合わせてブシュブシュと吹き出した。
それを見て、祭理は「うー」と顔を歪め、渋々とうなずいて見せた。
「スキル【模倣】発動ーー
万物の根元たる魔法の光よ。寄り集まり具現化し、敵を撃ち抜く弾丸と成れ!
射撃魔法[バレット]!」
祭理が魔法を発動させると、今度はゴブリンの左肩が小さく爆ぜた。
「お、また魔法を習得したみたい。ーーって、また詠唱ありじゃん、恥ずいよ!」
祭理が喜びの表情になりかけたが、また詠唱ありだったため、顔を真っ赤にして悶絶する。
「威力は大分落ちるみたいじゃが、見ただけで使用可能で、相性さえあれば即習得可能とは、成長系のユニークスキルに引けを取らない素晴らしいスキルじゃな……」
恥ずかしさに赤面している祭理を他所に、間林が感嘆の声を漏らしていた。
「うむ。大黒のスキルについては確認が取れた。
続いては桜庭のスキル確認じゃな。
桜庭。先程と同じ攻撃を【手加減】のスキルを発動させた状態で行ってもらえるか」
次いで間林は、七海に視線を向けて指示を出す。
その言葉に祭理が「おっ、また七海の純白パンツが見れるのかな?」と顔を覆っていた手を退けて視線を七海に向けた。
「ちょーー
先生。次は回し蹴りなしでといいですか?
【高速殴打】のスキルを発動可能な長さまで続けますので」
スカートを押さえて提案する。
「う、うむ。いいじゃろう」
歯切れの悪い返事。
偏見かもしれないが、その態度は七海のスカートの中が見たかったのだと思われても仕方ないものであった。
そして、それをそう感じ取ってしまった七海は、自分の思い違いだと自らを律し、心の中に生まれた嫌な気持ちを表に出さず、ぐっと飲み込んだ。
やっばり私、先生苦手だな……
そう思いながら、七海はゆっくりとゴブリンの前まで歩み出る。
両肩を血に染めたゴブリンは、強引な抵抗はしておらず、怨みのこもった眼で七海を睨みつけていた。
そんな視線を七海は軽く目蓋を閉じて息を吐き出す事で受け流す。
空手の試合前に挑発と威嚇をしてくる相手が居た時に、この方法で集中力を高めていた。状況は違うが、周りの情報をシャットアウトするにはうってつけのルーティンであった。
ゆっくりと息を吸い、細く吐き出す。
肺の中の空気を半分吐き出したところで息を止め、目を見開いて相手を確認すると、床を蹴って距離を詰める。
スキル【手加減】発動ーー
スキル【高速殴打】発動ーー
2つのスキルを起動し、拳を繰り出す。
「はぁあっ!」
肺に残っていた空気を気合と共に吐き出し、ゴブリンの体に拳の跡を刻む。
それは振り始めた雨粒が地面を濡らしていくかの如く数を増やしていく。
拳の嵐が次々と突き刺さり、魔法にて束縛されたゴブリンが死のダンスを踊る。
スキル【高速殴打】の右拳の連打。
スキル【高速殴打】の左拳の連打。
スキル【高速殴打】の右拳の連打。
と、スキルを連続発動し切れ間なく拳を打ち込む。
最初は悲鳴を上げていたゴブリンも、しばらくするとその声が途切れる。
先程と同じならば命尽き、その身体は灰と化すのだが、今回は違った。
「!!」
違和感に七海は飛び退り、ゴブリンから距離を取る。
拳に感じる感覚が変わったのだ。拳を打ち込むたびに、その反動が伝わっていたのだが、ある瞬間からその反動が全く無くなったのだ。
ゴブリンを見るとぐったりと脱力し、意識もないようだ。
「ふむ。やはり予測通りの結果だな。
桜庭のスキル【手加減】は、敵を殺さないスキルだ。どんなに攻撃しても、【手加減】が発動しているうちは相手が死ぬことはない。
大黒、先程修得した[バレット]でゴブリンを攻撃してみてくれ」
間林が指示すると、祭理は「えー、またあの恥ずい詠唱しなきゃいけないのぉ〜」と渋ったが、結局魔法を使うこととなった。
「ーー射撃魔法[バレット]!」
魔法の弾丸がゴブリンの胸に命中すると、ゴブリンの身体が崩れ去る。
「ほっほっほ。これで、大黒にも経験値が入ったはずじゃ。
今の大黒じゃと、魔法で敵に大ダメージを与えることは難しいが、桜庭の【手加減】があれば、攻撃力の低い者でも経験値を得ることができるのじゃ。これを使えば偏りなくクラス全体のレベルアップが望めるはずじゃ」
間林がそう説明する。
「お、おおー。本当だ経験値が入ってる。やった!」
ステータスウィンドウを開いて、祭理が飛び跳ねて喜ぶ。と、祭理がフラつき倒れかける。
「大丈夫? 祭理ちゃん」
その身体を抱きとめ七海が祭理に慌てて確認する。
「あれ、おかしいな。なんか、力が入らない」
七海の顔を不思議そうな表情だ見返して言葉を溢す。
「まさか、魔力切れか」
近くで見ていた間林も駆け寄る。
「魔力切れ? あ、本当だ。ほぼ満タンだった魔力が残り3だ」
祭理が宙で指を動かして力無く言う。
「なんと。魔力が1桁を切ってるとは。【模倣】は素晴らしいスキルだが、魔力の消費が激しいのか」
間林は祭理の状況を確認すると、外で待機している者たちを呼び入れる。
「マーリン様。どうしましたか?」
「うむ。生徒の1人が魔力切れの症状になってしまった。そこの2人。すまぬが、この娘を大浴場へ連れて行って貰えるかな。あそこの湯には魔力回復の効能があるはずじゃ」
「「はっ」」
メイド服姿の使用人2人が七海が体を支えている祭理に近づき、様子を確認する。
「応急処置となりますが、まずはこちらをお飲みください。魔力回復の効果がある飲み物です」
メイドな1人が懐から小瓶を取り出して祭理に差し出す。祭理はそれを受け取り飲み干す。
「ありがと。目眩が治まった気がする。魔力も13まで回復したみたい」
飲み干した後ステータスウィンドウを確認して、祭理は小瓶を渡してくれたメイドに礼を言う。
「では、特別大浴場にご案内します」
メイドが祭理に手を差し伸べる。
祭理はその手を取って「ふふふ、お風呂」と笑みを見せた。
「桜庭だけ、あとちょっと残ってもらっていいか?
あと一つだけスキルの確認がしたいのじゃが」
祭理と共に部屋を出ようとした七海に間林が声をかける。
七海は振り返り、しばし思案する。
「分かりました。祭理ちゃん、私はもう少しここに残ってスキル確認するね」
「うん。分かった。先にお風呂入ってるね。私は長風呂だから、七海が遅れて入るくらいが丁度いいかもね」
祭理に声をかけると、にこりと笑顔を返してきた。
「お主達ももう少し部屋の外で待機を頼むぞ」
間林が衛兵とメイドにそう声をかけると、「はっ」と返事をし、部屋を出ていく。
「さて、もう少し桜庭のスキルについて確認させてもらおうかの」
衛兵達が部屋を出て行き、扉が閉まると、間林は顎髭を扱きながら薄らと笑みを浮かべた。
それは、今までと微かに異なる笑みであった。
「……はい」
七海はそう応えるが、今の間林の笑みに不安を感じ取った。
その不安がこの後、的中することとなる。




