座学(前)〜種族と経験値〜
異世界についての設定説明回です。
この話のあとがきに設定を纏めていますので、本編を読み飛ばして、そちらを確認してもらうだけでも大丈夫です(^^)
訓練の後、男女に分かれて本日泊まる部屋に案内された。
流石に個人個人で一部屋と出来なかったようだが、城で数日の基礎訓練と座学の後、高級宿を用意してくれるとのことだった。
一人暮らしもしたことがない高校生を、しかも治安も通貨価値も分からない異世界の街に放り出されるよりは、王城の中で集団生活をする方が遥かに安全である。
多少不満の声は上がったが、生徒たちはそう説明され、納得し部屋に入った。
男性生徒の案内された部屋は憲兵の詰所としても使われていた所らしくベッドと訓練器具、さらには装備や魔物についての本が並ぶ本棚が置かれた部屋であった。
質素な作りであるが、ベッドやカーテンなどの素材は高級なものであるらしく、詰所というより客間という印象であった。
ちなみに後から聞いたのだが、女子の方は、住み込みの使用人が利用する部屋を充てがわれた様だった。
それから女子を優先にシャワーなど、疲れを癒す施設を利用して体力、気力を回復させた。
そうしていると、選抜組が戻ったとの知らせが入る。
その知らせとともに、春人たちは大広間(午前に装備を整えた場所)に集められた。
「さて、外に出たメンバーには休みがなくて申し訳ないが、夕食までしばし座学を行おうと思う」
間林教諭、もとい魔導士マーリンがそう言うと、生徒から落胆の声が上がった。
向こうの世界にいたら、今頃帰宅してのんびりしている時間なのに、まだ授業があると思うと気が滅入るのも仕方ない。
「そう不貞腐れるな。それにこれはこっちの世界で生きていくなら必要な知識なんじゃ」
明らかにテンションが下がっている生徒をマーリンがなだめる。
「居残り訓練組は、外の世界の事を知りたいじゃろ?」
その言葉に、居残り組であった生徒の何名かは興味を惹かれたようで、顔を上げた。
「遠征組の報告もしないといけないからの」
生徒の興味が向いたのを確認すると、マーリンはニカリと笑って話を進める。
「緋屋根。外で倒したモンスターを皆に伝えてくれんかの?」
名指しされた海斗は、一つ頷いて席を立つ。
先ほどまで外で戦っていたとは思えない綺麗な格好であった。
先ほど少し雑談したのだが、この世界には生活魔法というものがあり、それで一瞬で身体を清潔にすることができるらしい。
シャワーを浴びる時間がなかった遠征組はその魔法で身を清めていた。
「外で狩ったのは、猪の魔獣[ワーボア]が6匹。蜂の魔獣[キラーホーネット]が4匹。魔物[ゴブリン]24匹とその上位種の[ホブゴブリン]2匹です」
海斗が独特の眼鏡をあげる仕草をしつつ答える。
「ふむ、流石だな」
頷くと、マーリンは【空間収納】から出現させた黒板に海斗が告げた種族名を書き込んでいく。
いつの間にやら講義が始まったようだが、ファンタジー世界お決まりの雑魚モンスター[ゴブリン]の名前に生徒たちはどよめき、その興奮で気づいていない。
「ゴブリンってやっぱり緑色だった?」
「やっぱ、キモい感じだった?」
「一緒にいた女子は凌辱プレイとかされなかった? はぁはぁ」
など、質問が遠征組に飛んでいたが、マーリンは気にすることはなかった。
生徒のざわめきが収まった頃、マーリンも黒板への書き込みが終わり講義を続ける。
「さて、この世界の生態系についての話をしようと思うんじゃが、この種族らは[魔物]と[魔獣]に分類される。[魔物]と[魔獣]の見分けの差としては、二足歩行かそうでないかぐらいかの」
ゴブリンとホブゴブリンを丸で囲い[魔物]と、ワーボアとキラーホーネットも同じく囲い[魔獣]と書き込んだ。
「そして、この世界に仇なす者であり、君らの討伐最終目標でもある[悪魔]や[魔人]を纏めて[魔族]と呼んでおる。
この3つに分類されるものを[悪性]と呼び、我ら人類の敵と分類している」
さらに[魔族]と書き加え、さらにその三つの丸を囲んで大きく[悪性]と記する。
「味方側についても、話しておこう」
マーリンは黒板に一本線を引いて[悪性]を片側に区切ると、[魔獣]に対成す反対側に[獣]と記入した。同じく[魔物]の反対側に[亜人]、[魔族]の反対側に[人間]と書き込む。
「まずは牛や馬などの[獣]だな。これは向こうの世界と大差がないから分かりやすいじゃろう。
そして、[亜人]だが、ファンタジーに詳しい者なら知っているじゃろう[エルフ]や[ドワーフ][フェアリー]などがこれに当たる」
そう説明した瞬間、男子生徒から歓喜の声が上がった。
「来たーー! エルフ。ファンタジー世界の定番かつ、男のロマン!」
「エロフ エロフ……はぁはぁ」
いくつも重なる男子生徒の声に、女子たちはため息をついた。
春人も「エルフ!」と歓声を上げかけたが、遠くからの七海の視線に気づき、すんでのところで声を飲み込んだ。
「さて、ここからが本題じゃ。
今日の野外演習に出たメンバーが斃したのは、全て悪側の種族だ。
この悪側の種族を討伐すると、相手の身体を構成している[魔魂]を奪う事ができるのじゃ。
野外演習組はステータス画面を開いてみると良い」
言われて、海斗を始めとする野外演習組の面々はステータス画面を表示させた。
といっても、ステータス画面は他人からは見えないので、ステータス画面を開くような仕草をした、というのが正しい表現である。
「ステータス画面には、スキル【言語理解】にて翻訳され、お主らにわかりやすく[経験値]という欄が設けられているじゃろ?」
その言葉にステータス画面を確認していた野外演習組だった7名から「おおっ! 本当だ。ある」と声が上がる。
「他の者も確認してみるといい。
そこには0と表記されているはずじゃ。後で説明するが、練習用の人形相手では魔魂、つまりは[経験値]は入らないからの」
他の生徒もステータス画面を表示し、画面を確認する。
春人もステータス画面を表示させるが、そこに表示されているのは【偽ル者】の能力で作られた偽りのステータスであるため、参考にはならなかった。
「まず、知っておいてもらいたいのは、[経験値]が入るのは[悪]と分類された此方の種族からのみであるという事しゃ」
黒板に書かれた[悪]の部分を指してマーリンが言う。
「儂のやっていたVRゲームではペナルティーも付くが、同族殺しでも「経験値」が入ったが、この世界ではそれはないということじゃ。
命を奪っていいのは、[悪]と呼ばれる種族だけだということを覚えておいてほしい」
真剣な表情でマーリンが語る。
その言葉を受けて、生徒は納得したように頷いた。
そんなみんなの反応に、春人の胸に不快な何かが生まれたのを表に出さずに飲み込んだ。
魔族は別名で魔人とも呼ばれている。そう『人』であることには変わりないのだ。マーリンは人種こそ限定しているが、人殺しを是として語っているのだ。
「次は[経験値]取得について話そうと思う。
儂らはゲームで言うところのパーティーを組んで行動を取っていたわけじゃが、
東堂、お主のステータスの[経験値]欄には何と表示されている?」
「えと……
俺のステータス画面には、80/99と出ているかな」
剣壱は自分にしか見えないステータス画面を弄るとそう答える。
「では、後衛の回復役であった塔野はどうじゃ?」
続いて、回復系のユニークスキルを持った塔野 茉凛那に問いかけると
「私はぁ〜、30/99ですね〜」
クラスメイトから不思議ちゃんと呼ばるはている茉凛那が独特の間延びする声でと答えた。
「どうじゃ、これで理解したかな?
まず[経験値]はパーティーに均等に割り振られるものではないのじゃ。
ゲームでは活躍度や貢献度で経験値が割り振られたりもするが、この世界は至ってシンプル。とどめを刺したものが、[経験値]を総取りするのじゃ」
マーリンの説明に生徒は「ふむ、なるほど……」と理解する。
「そうかぁ〜、だから先生はぁ〜瀕死になったゴブリンさんを、いっぱい私に斃させたのですねぇ」
その様な場面があったのか、茉凛那が独り言のように言葉を漏らす。
「おい、待ってくれ。俺の経験値は15/99だぞ。
俺は接近パワー型だから、最前線で塔野より沢山敵を倒してたのに、俺の方が経験値が少ないっておかしくないか?」
筋肉ムキムキの大瓦 剛がいつも通りのでかい声で意見する。
「ほっほっほ。慌てるな、これから説明する。
ステータスの[経験値]の欄を見て、もう一つ気づくことがあるじゃろ?
経験値の表記右側の99は何を意味していると思う?」
その含みを持たせた問いに、何人かの生徒は気づく。
「そう、レベルアップじゃよ」
予想通りの答えに、一同から喜色の混じった声が上がった。
・魔物、魔獣、魔族を殺すと経験値を取得できる。
・同族(獣、亜人、人間)殺しでは経験値は手に入らない。
・経験値はとどめを刺した者の総取り。パーティー分配はない。
・一定数の経験値でレベルアップできる。




